バブル景気が始まろうとしていた1985年8月、ダイハツから軽のターボモデル、ミラTR-XXが登場した。赤黒のツートンカラー、エアロパーツを身にまとったミラTR-XXは若者の心を鷲掴みにした。
対するスズキは、1987年2月、3気筒4バルブDOHCインタークーラーターボを積んだアルトワークスを発売した。
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この2車種をきっかけに設定されたのが、現在まで33年間も続けられている「軽自動車64馬力自主規制」である。
さて、この軽パワーウォーズの主役となったのが、ダイハツミラTR-XXとスズキアルトワークスだ。
50代以上のクルマ好きは、この2車種の写真を見て青春の甘酸っぱい時代を思い出しているに違いない。
はたして、このミラTR-XX、アルトワークスの歴代モデルは今買えるのだろうか? モータージャーナリストの萩原文博氏が解説する。
文/萩原文博
写真/ダイハツ
【画像ギャラリー】青春時代が蘇る! ミラTR-XXとアルトワークスの歴代モデルの写真をチェック!
軽64馬力自主規制の引き金を引いた
普通車の280ps自主規制は消滅したが、このアルトワークスが発端となった軽の64馬力自主規制はまだ残っている
テンロクの4AGエンジンを搭載したAE86型スプリンタートレノが、FD3S型RX-7やR32型スカイラインGT-Rといったハイパワーエンジンを搭載したクルマに勝利を重ねていく漫画「頭文字(イニシャル)D」。
今年で50歳となった筆者にとって、価格の安いローパワーのクルマでハイパワー車をカモルという昭和のチューニングカーシーンを思い出して非常に懐かしさを感じる。
昭和が終わるまだ高校生だった頃、おニャン子クラブの話題でもちきりだった学校の教室で、中古車雑誌とチューニング雑誌を教科書として読んでいた筆者にとって、夢を与えてくれたのが当時軽ボーイズレーサーと呼ばれたクルマだった。
軽ボーイズレーサーと呼ばれたモデルは自主規制ギリギリの最高出力64psを発生するターボエンジンを搭載し、高い走行性能を発揮するように専用チューニングを施されたサスペンション。そしてテンションを挙げてくれるインテリアパーツを装着したクルマだ。
ここで、軽自動車の64馬力自主規制について説明しておかなければならないだろう。
現在の軽自動車規格は1998年10月から適用されているもので、全長3400mm以下、全幅1480mm以下、全高2000mm以下、排気量は660cc以下と決められている。もちろん、軽規格には64馬力の軽自動車自主規制は含まれていない。
この64馬力自主規制の引き金を引いたのは、1987年2月に発売されたアルトワークスである。550ccながら64psのDOHCターボエンジンを搭載。衝撃的なパフォーマンスを発揮したのがきっかけだ。
このアルトワークスに搭載されていたF5A型550cc直3ターボエンジンは、当初は78psと言われている。しかし、衝突安全性が現状では確保できていないと”お上”に指摘され、結局は64psで発売となった。
今も昔も軽自動車市場はライバルの動向に敏感だから、競合各社ともこのスズキの動きに敏感に反応。
宿敵ダイハツはミラTR-XXで対抗し、まだ元気だった三菱はミニカダンガンZZで気筒あたり5バルブDOHCエンジンを開発。パワー競争に一気に火がついてしまったわけだ。
軽規格が660ccとなってからも留まることをしらず、64psに収まるものの、ミラTR-XXアバンツァートやミニカダンガンZZが登場し、スバルからも9000rpmまでシュンシュン回るスーパーチャージャー付きのヴィヴィオRX-Rが誕生している。
このなかで、1985年8月に登場したダイハツミラTR-XX、1987年2月登場のスズキアルトワークス。そして、1989年8月に登場した三菱ミニカダンガンは「山椒は小粒でピリリと辛い」ということわざをリアルに表現したモデルで、若者の憧れでもあった。
そんな軽ボーイズレーサーの中古車は今でも手に入るのかを見ていきたい。
のっけから申し訳ないが、残念ながら市販車初の5バルブターボエンジンを搭載したミニカダンガンはすでに全く中古車が流通していないため、ダイハツミラTR-XXとスズキアルトワークスの2台に絞って話を進めていきたい。
歴史解説1/ミラTR-XX
1985年8月に登場した2代目ミラターボTR-XX。スポイラー一体式の大型樹脂製フロントパンパーやサイドスカート、エアロタイプのアルミホイールに赤黒ツートンのボディカラーがカッコよかった。搭載されたエンジンは52ps/7.1kgmを発生する550cc、直3SOHCインタークーラー付きターボ
ミラTR-XXは1985年8月に発売した2代目ミラに設定された。1987年8月にAT車が追加され、同年10月に電子燃料噴射装置のEFIを採用したターボ車を追加し、1988年10月にEFIターボ車の最高出力が64psへとアップ。
まさに昭和の終わりに軽ボーイズレーサーバトルは激化したのだ。1990年の軽自動車の規格変更に合わせてミラはフルモデルチェンジを行い、3代目が登場。ホットモデルのTR-XXも進化した。
ターボエンジンを搭載したTR-XXは5ナンバー車と4ナンバー車と分かれ、エンジンの仕様も異なっていた。1991年2月、TR-XXのATが4速化されると同時に名称はTR-XXアバンツァートへ変更された。
3代目ミラTR-XXアバンツァート。64ps/9.4kgmの660cc、直3SOHC、インタークーラー付きターボを搭載していた
1991年2月に追加されたミラX4-RはクロスミッションとIHI製RHB3Bボールベアリング式ターボチャージャーを搭載し、内外装を簡素化したモータースポーツのベース車両。1991年の全日本ラリーではCP21SアルトワークスRS/Rと大激闘を演じたが9戦5勝、さらに1992年も8戦5勝と圧勝
1994年9月にフルモデルチェンジを行いミラは4代目にスイッチ。この世代でもホットモデルのTR-XXは健在で、3代目に設定されていたラリー仕様車の4WDモデルTR-XXアバンツァートR4を設定していた。
しかし、この世代を最後にTR-XXは廃止となり1998年10月に登場した5代目には設定されなかった。
4代目ミラTR-XXは、アバンツァート、LSDやリアディスクブレーキなど専用足回りを装着したTR-XXアバンツァートR、フルタイム4WDとなるTR-XXアバンツァートR4の3種類を用意。アバンツァートR、R4には64ps/10.2kgmの4気筒DOHC16バルブターボを搭載
歴史解説2/アルトワークス
1987年2月にデビューした初代アルトワークスは、64馬力自主規制が生まれるきっかけになったクルマだ。F5A型550ccの直3、インタークーラー付きDOHC12Vターボは64ps/7.3kgmを発生、軽く1万回転まで回るエンジンだった
一方、現行モデルでも設定されているスズキアルトワークス。初代モデルは1987年2月に登場。搭載された直3DOHC4バルブターボエンジンはパワフルで、エッジの利いた鋭い走りを実現。
これにより、現在も継続されている軽自動車の最高出力64ps自主規制が設けられる発端となった。駆動方式も2WDに加えて4WDも設定するなどまさに軽ボーイズレーサーの主役となったのだ。
1988年9月、フルモデルチェンジを行い、このモデルからアルトワークスはアルトの冠名はあるものの、独立したモデルとなった。
そのため、アルトワークスの特徴となる丸型ヘッドライトとエアロパーツを装着した戦闘力の高い外観デザインを採用した。
1990年3月のマイナーチェンジで、搭載するエンジンの排気量を550ccから660ccに拡大。さらに前後バンパーを大型化などで新規格に適合された。ワークスも乗用5ナンバーモデルへと進化し、4輪ABSがオプション設定された。
1991年9月のマイナーチェンジで、アルトワークスの一部グレードのリアブレーキがディスクに変更された。
丸目2灯ヘッドライトの2代目アルトワークス。550cc時代末期にデビューし、1990年3月にはボディはそのまま、前後バンパーの拡大と660ccエンジンへの換装で新規格に対応、4ナンバーだったワークスも5ナンバーへ移行した
3代目アルトワークスのデザインは2代目からのキープコンセプト。新開発のオールアルミ製DOHC12バルブターボを搭載する「RS/Z」系とスポーティな雰囲気を持ちながらも扱いやすいSOHCターボを搭載する「ie/s」系に大きく分けられた(SOHCターボは2代目途中から追加)
1994年11月にフルモデルチェンジを行い、3代目となったアルトにもワークスを設定。最上級モデルのRS/Zにはオールアルミ製の直3DOHCターボエンジンを搭載した。
さらに、1995年5月には鍛造ピストンや専用ターボを搭載した競技車両のワークスRを追加した。
1997年4月にマイナーチェンジを行い、アルトワークスは内外装の変更はバックドアの変更に留められる一方で、アルミホイールが14インチと大径か、タイヤはアドバンネオバを装着するなど戦闘力をアップさせた。
1998年10月に軽自動車の企画改正と同時にフルモデルチェンジを行い5代目へと進化。同じタイミングで発売されたミラにはTR-XXシリーズが設定されなかったが、アルトワークスは健在。
エンジンに可変バルブ機構やドライブ・バイ・ワイヤを採用するなど、さらに戦闘力をアップさせている。
しかし、2000年12月に行われたマイナーチェンジの際に、アルトワークスが廃止となり幕を閉じた。
そして15年後の2015年12月にアルトワークスは復活し、当時の軽ボーイズレーサーに乗った当時の若者と現在の若者から熱い視線を集めたのである。
1998年10月、4代目アルトにも設定されたワークス。先代同様に廉価グレードのie、上級モデルのRS/Zの2本立て。可変バルブタイミング機構や電子制御スロットルを採用。競技ベースのワークスRは設定されず、3代目モデルまでとはやや方向性が変わった。なおアルトワークスは2000年12月のマイナーチェンジで消滅
ミラTR-XXの中古車相場は?
残念ながら2代目ミラTR-XXの中古車は1台も流通していなかった……
ミラTR-XXの中古車情報はここをクリック!
それでは、ミラTR-XXとアルトワークスの中古車事情を見ていこう。まずはミラTR-XXから。
現在、ミラTR-XXシリーズの中古車の流通台数は約25台と非常に少ない。1990 年に登場した3代目モデルが約5台。4代目モデルが約20台。
最も人気だった、2代目モデルのTR-XXは流通していないのは寂しいかぎりだ。
3代目のミラTR-XXシリーズはEFIリミテッドとアバンツァートが流通していて、価格帯は約44万~約69万円と約30年前の軽自動車としては破格の価格となっている。
4代目のミラTR-XXは流通台数同様にグレード豊富で、アバンツァート、アバンツァートRそしてアバンツァートR4の3グレードが流通していて、最も多いのがアバンツァートRだ。
価格帯は約21万~約95万円となっており、50万円を超える価格の中古車の比率が非常に高いのが特徴だ。
アルトワークスの中古車相場は?
初代アルトワークスももはや中古車市場には流通していなかった。もし見つかれば希少価値があるのでゲットしたいところ
アルトワークスの中古車情報はここをクリック!
一方、アルトワークスの中古車は、現行型も含まれているので、流通台数は約200台と豊富。
ちなみに2015年に復活した現行型アルトワークスの中古車の流通台数は約41台で、価格帯は約84.9万~約162.8万円となっている。
そのほかの世代ではさすがに1987年2月に登場した初代の中古車は流通していないが、2代目~4代目は健在だ。
1988年9月に登場した2代目モデルの中古車は流通台数が12台で、価格帯は約23万~約89万円となっている。グレードでは、最上級グレードのRS/Xが大半を占めている。
1994年11月に登場した3代目モデルは中古車の流通台数が91台と非常に豊富だ。
3代目アルトワークスの中古車流通台数は91台と最も豊富
価格帯は約3万~約139万円と幅広く、価格の安い中古車はワークスターボie/sが中心だ。グレード構成は最上級グレードのRS/Zが最も多く、続いてはターボie/s。そしてRS/Z 4WDとなっている。
ターボを搭載したスポーツモデルとはいえ、約25年落ちの軽自動車に100万円以上のプライスが付いているのは驚きと同時にアルトワークスの根強い人気を感じさせる。
そして、1998年~2000年とわずか2年間しか販売されなかった5代目アルトワークスは、中古車の流通台数は約54台と4代目に比べると非常に少ない。
価格帯は約8.6万~約106万円と3代目アルトワークスとかなりクロスオーバーしている。グレード構成はRS/Zが最も多く、RS/Z 4WDが続きこちらはieが非常に少ないのが特徴だ。
価格帯はクロスオーバーしているが、平均価格を見てみると、流通台数の多い3代目は約39万円、4代目は約34万円。そして2代目は約47万円と中古車相場は年式の古いモデルほど高くなっている。
※ ※ ※ ※ ※
約30年前に起こった軽パワーウォーズの主役となったダイハツミラTR-XXとアルトワークスの両モデル。
いずれも初代モデルは中古車市場には流通していなかったのは残念だが、それ以降のモデルは手に入ることがわかった。
すでにネオクラシックとしてプレミアム価格化しつつあるので、欲しい人は早く手に入れることをお薦めする。
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