9月11日、静岡県の富士スピードウェイで6時間の決勝レースが行われたWEC世界耐久選手権第5戦富士6時間。LM-GTE Amクラスでは、最後尾グリッドからスタートした星野敏/藤井誠暢/チャーリー・ファグ組Dステーション・レーシングの777号車アストンマーティン・バンテージAMR GTEが大逆転。初めて迎えた母国レースで嬉しい3位表彰台を獲得した。
2021年からWECに参戦を開始したDステーション・レーシングにとって、初めてとなる富士でのWEC。チームのガレージもほど近く、まさにホームレースとも言える一戦だが、9月9日のフリープラクティスからフィーリングが良く、期待が高まっていた。
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ただ、そんな期待は予選で一度喜びに変わった後、失意に変わってしまう。星野がアタックを担った予選では、最終周にタイムを上げ今季予選最高位となる4番手につけるが、ダブルイエロー提示中に減速しなかったとして、全タイム抹消という厳しいペナルティが課され、グリッドは最後尾となっていた。
Dステーション・レーシングはブロンズドライバーがスタートを務める他のチームと異なり、プロドライバーである藤井がスタートを務め、序盤追い上げをみせることが毎戦のWECではおなじみとなっているが、今回星野がスタートすることを検討しつつも、最後尾になったことから藤井がスタートを担うことになった。
ホームコースである富士で、藤井は1周目から一気に追い上げをスタートさせる。1周目に6台をかわし、その後も次々とライバルをパス。11周目には2番手に浮上した。前方には、アストンマーティンのヤングドライバーであるデイビッド・ピタードが駆る98号車が先行していたが、プレッシャーをかけブレーキングでミスを誘い、トップに浮上してみせた。この98号車と競り合いながらペースを上げたことでマージンを築くことができた。
藤井は1時間を走り星野に交代するが、同様に富士を良く知る星野のペースが良い。プロドライバー相手にはかわされるが、ブロンズドライバー同士のバトルを冷静に制し、上位を争っていく。星野は最終的にダブルスティントをこなすことになるが、どちらも燃料の警告灯が点くまで走り切っており、定石でもあるブロンズドライバーのミニマムの走行を上回るものになった。ふだんから身体を鍛え上げている星野だが、クルマを降りた後はかなり疲れた表情をみせていた。
ただここで星野のスティントを伸ばせたことで、ファグのスティントでのピットストップをスプラッシュに切り替えることが可能になった。この戦略で3番手に浮上し、終盤ダビデ・リゴンが駆るAFコルセの54号車フェラーリが追い上げてくるも、最後のピットストップでは四輪交換、少ない燃料でフルプッシュし、3位でフィニッシュしてみせた。
■実力で掴んだ3位表彰台
「今回はいつも以上にファーストスティントでプッシュしましたし、星野選手もファグ選手もすごくペースが良かったです。すべてが良かったことで、3位表彰台に繋がったと思います」と藤井はレースを振り返った。
また今季からWECに参戦したファグも「夢が叶ったね。今年WECに出た時点で夢がひとつ叶っているんだけど、表彰台は次の夢だった。僕たちはずっと良いペースがあったんだけれど、ル・マンでもモンツァでもトラブルが起きてしまった。今週は特に星野サンも藤井サンもペースが良くて、自分にとっての初めての表彰台を、チームのホームレースで飾れて本当に嬉しいよ」と笑顔をみせている。
そして、星野にとっても藤井にとっても、ホームコースで、そしてセーフティカーもフルコースイエローもないレースで3位をもぎとったことが、喜びを倍増させた。
「昨年のモンツァはラッキーがあっての表彰台でしたが、今回はラッキーはないレース。しかも最後尾スタートですからね。5位くらいに入れれば……と思っていましたが、実力でこの順位に入れたのですごく嬉しいです」と藤井は喜んだ。
レース後、駆けつけたDステーション・レーシング応援団に胴上げされた星野も「どん底から藤井選手があっという間にトップに立ってくれて、引き継ぐ方もプレッシャーがあったのですが、『これは頑張らなければ』と気合を入れていきました。ダブルスティントをこなしたのですが、どちらもフューエルランプが点くまで走っていたので、走り切ったな……という感じですね」と実力で掴んだ表彰台に喜色満面の様子だった。
「走りとしては満足していますし、何より富士での抜き方、抜かれ方も分かっていますから。これは“地の利”ですよね」
「たくさんの応援団が来てくれて、予選の後には本当に申し訳ない気持ちや悔しさがあったのですが、まさかこんな結果が残せるとは思いませんでした。昨年のモンツァはラッキーもありましたが、今回は何もなかったので、実力で3位になれたと思っています」
星野は2018年、WEC富士にスポット参戦したときに2位表彰台を獲ったが、その後タイム加算のペナルティが課され幻となってしまっていた。今回は自チームで、そして実力でもぎとった表彰台。長年チームを支えてきたスタッフ、そして応援にきた人々とともに、喜びを分かち合っていた。
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