モータースポーツ [2023.10.09 UP]
F1日本GPで体験した最高峰の世界【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】
文と写真●石井昌道
アルピーヌ「A110Sエンストン」F1最先端カーボン素材を採用した限定車
久しぶりにF1日本GPの観戦に行ってきた。決勝日の9月24日は本田技研工業の75周年にあたり、その日にレッドブルレーシング・ホンダRBPTがコンストラクターズチャンピオンを決めたり、平川亮選手のマクラーレンF1リザーブ就任など日本のファンにとっても嬉しい日となったが、F1やモータースポーツに関して専門家ではないので、そういった話題は他に譲ることにしよう。
今回は日曜日の決勝だけで基本はグランドスタンドでの観戦だったが、午前中はBWTアルピーヌF1チームの招待でパドックに足を踏み入れることができた。決勝は14時からで、自分が到着した午前9時半頃のパドックはまだ和やかな雰囲気。ドライバーを始め、中継でよく目にするチーム代表やエンジニア、TVレポーターなどがホスピタリティテントで談笑している。昼過ぎからはドライバーのパレードなど決勝に向けてのプログラムがスタートするが、午前中はパドッククラブのお客さん向けのコンテンツがあり、今回はその一部も体験させてもらった。
アルピーヌのホスピタリティテント
ホスピタリティテント内でドライバーとの記念撮影やガレージツアーなどの他、目玉となるのがピレリ・ホットラップだ。2018年から行っている同コンテンツはレーシングドライバーが操るスポーツカーでグランプリが行われるサーキットを同乗体験できるもので、いわゆるサーキットタクシー。日本GPではアルピーヌ、アストンマーチン、メルセデスAMGが用意され、自分はアルピーヌA110Sに同乗した。
ドライバーはアルピーヌの開発テストドライバーのデビット・プラッシュさん。試乗会で何度か取材させていただいたことはあるが、同乗するのは初めてだ。「鈴鹿サーキットは最高に楽しいよ!」と言いながら全開で走り始めると、1~2コーナーからS字、デグナーなどの前半セクションは最速タイムを叩き出すようなスムーズで無駄のない攻めた走りをみせた。というのも、自分もミラーで確認できたのだが、後方からアストンマーチンDBX707がすごい勢いで迫っているからだ。いくらSUVで大きく重いといってもさすがは707PSのハイパワー。直線区間では300PSのアルピーヌをグイグイと追い上げてくる。こちらは軽量で俊敏なハンドリングをいかしてコーナー区間で引き離すのだ。デグナー2個目からヘアピンにかけてでピタリと背後に付かれ、ブレーキングでは粘ったものの、その後のスプーンに向かう区間で譲ったが、けっこう本気のバトルモードで想像以上にホットなラップだった。
こういったサーキットタクシーの経験はあるし、自分でもサーキットを走るので、とんでもなく新鮮な体験というほどではないのだが、数時間後にF1の決勝が始まるコースを走るのは気分が違う。タイトルスポンサーのレノボを始め、普段とはまったく違う装いになっているうえに、10万人を超える大観衆のなかを突っ走っていくからだ。こちらにカメラを向けている人なんかもいたりして、テンションがあがる。自分がたまに出るレースは観客席にまばらに人がいるだけだが、こういったなかだとモチベーションも爆上がりしそうだ。
ホットラップではスマフォやカメラを含めて車内への荷物の持ち込みは禁止だが、備え付けのGoProでインカー撮影されており、翌日にはデータが送られてきた。
その後はBWTアルピーヌF1チームのタイヤ交換の見学をしてからスタッフによるガレージツアー。レース中は、どこにどういった役割の人物が配置されるかなど詳細な説明がなされる。ピットウォールに設けたスタンドにはストラテジスト、チームマネージャー、スポーティングダイレクター、チーフエンジニアなどおもに技術担当者。ピット内ではピエール・ガスリー車、エステバン・オコン車それぞれにパフォーマンス・エンジニア、レース・エンジニア、200を超えるセンサーからの情報やステアリングシステムの電気システムの担当者、パワーユニットのエンジニアなどが陣取る。フリー走行、予選、決勝で場所がかわることもあるそうだ。
25名のスタッフによるタイヤ交換は、木曜日から日曜日まで毎日10分程度の練習を行っていて、さきほどの見学では5回行っていて最速が1.7秒、遅くても1.9秒だったとのこと。練習を終えたスタッフはピット内で今日のタイヤ交換のタイミングなどの打ち合わせを念入りに行っていた。タイヤは6セット用意されてすべてウォーマーに包まれた状態。決勝スタート用は手前に置かれてスタンバイしてあった。
ステアリングの各スイッチの詳細など技術的に興味深く、まだまだ聞きたいことは山のようにあったが、決勝セレモニーの時間がせまり、そこまで深掘りはできなかったが、モータースポーツの最高峰の舞台裏を見せてもらうというのは貴重な体験だった。
予選は14番グリッドからスタートしたエステバン・オコン選手が9位、12番グリッドからスタートしたピエール・ガスリー選手が10位でフィニッシュしてBWTアルピーヌF1チームはダブル入賞。自分でA110を乗っていることもあってアルピーヌが活躍してくれたことは嬉しいのだが、予選で頑張って9番グリッドを獲得した角田裕毅選手がタイヤ戦略の違いなどもあってアルピーヌ勢に抜かれてしまったのが残念。角田選手も熱烈に応援しているので複雑な気分になったのだった。
とはいえ、久しぶりの生観戦はやはり格別。これからのTV観戦にもより熱が入りそうだ。
角田裕毅選手のピット前で記念撮影する自動車ジャーナリストの石井昌道氏
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