ベントレーの最新サルーン「フライングスパー」がデビューした。
サルーンとは本来セダンのことであるが、あえてサルーンといえば普通のセダンより豪華で上質なクルマを指すのが一般的。つまり、贅沢を知り尽くしたゲストをリアシートに招き入れても失礼にならず、むしろ積極的に喜んでもらえる優れた快適性や充実した装備を揃えているのが本物のサルーンといえるだろう。
上質な走りを楽しめるスーパーSUVとは? アストンマーティン DBX プロトタイプ試乗記
そのためにはソフトな足まわりが必要になるし、装備が増えれば重量もかさむ。いずれにしても、スポーティな走りから遠ざかる方向になるのはやむを得ないところだ。
【主要諸元】全長×全幅×全高:5316×1978×1484mm、ホイールベース3194mm、車両重量2437kg、乗車定員5名、エンジン5950ccW12気筒DOHCツインターボ(635ps/6000rpm、900Nm/1350~4500rpm)、トランスミッション8AT、駆動方式4WD、価格2667万4000円(OP含まず)。Mark Fagelson Photographyいっぽうでベントレーは長距離を高速で快適に走り続けられる“グランドツアラー(GT)”を作るのが得意なラグジュアリーブランドとして知られる。そのためエンジン出力に余裕があるのは当然としても、高速安定性を確保するためには足まわりもある程度は引き締まっていなければいけない。しかし、足まわりを引き締めれば一般に乗り心地が悪くなりかねず、かといってソフトなサスペンションのままではスポーティな走りや高速での安定性を実現しにくい。このあたりが、サルーン作りに取り組むベントレーにとって最大の難関であるのは容易に想像できる。
そうした困難をフルタイム4WDや絶妙なチューニングで乗り越えてきたのが初代と2代目のフライングスパーだった。3代目はスポーティな走りと快適性がさらに一段高い次元で両立していた。モナコでおこなわれた新型フライングスパーの国際試乗会に参加した私は、いま自信をもってそういえる。
搭載するエンジンは5950ccW12気筒DOHCツインターボ(635ps/6000rpm、900Nm/1350~4500rpm)。Richard Pardonメーターはデジタル。表示方法を複数から選べるうえ、ナビゲーションマップも表示出来る。Richard Pardon上質なメッキパーツをたっぷり使う。Richard Pardon人間の心理を絶妙に読み取った防音性最初の驚きは走り始めた直後。モナコの狭い裏通りを全長5304mm、全幅1964mmの巨体ですり抜けていくのは神経を使う作業だ。当然、私は慎重にフライングスパーを走らせたが、そのいっぽうで、路面の鋭い突起をタウンスピードで乗り越えるショックをまろやかに吸収していく様にはあっけをとられた。
それも、ショックを完全に打ち消してしまうのとは微妙に異なる。路面に段差があったことは認識出来るが、そこで発生するショックの角がきれいにまるめとられるうえに、絶妙としかいいようのない速度でボディがゆったりと上下するのだ。
前後重量比は55:45。Richard Pardonレザーとウッドをたっぷり使ったインテリア。レザーやウッドは複数の種類、カラーから自由に選べる。Mark Fagelson Photography人間がもっとも心地いいと感じる挙動を知り尽くしたかのようなサスペンションの動作は、数値解析だけを頼りにする自動車メーカーのクルマとは一線を画す温もりが感じられる気がした。
高い快適性は高速道路のオートルートに足を踏み入れても変わらない。大きなうねりを強行突破すれば、乗員に不安を与えない程度のスピードで優しくボディが持ち上がったあと、静かに元の高さへと戻っていく。ここでも読後感として残るのは圧倒的な心地よさだけ。しかも、フルタイム4WDのおかげで直進性も良好。自動車の試乗記でよく目にする「ステアリングに手を添えているだけで矢のように直進する」感動を文字どおり味わえるはずだ。
最高速度は333km/h。Richard Pardonインパネ下部のアナログ・クロックは標準。Richard Pardonインパネ上部にはアナログの方位計を含む3連メーターも。Mark Fagelson Photographyオートルートの最高速度は130km/hであるが、この速度域で巡航していてもフライングスパーのキャビンにはもの音ひとつ侵入してこない。ただし、それは外界の騒音をシャットアウトすることで得た静粛性ではない。フライングスパーでクルージングしていたときの情景を思い起こそうとすると、私の心のなかには不思議と“木漏れ日のなかで小鳥のさえずりを聞いていた”。そんなイメージが広がる。
つまり、自分が静かな森のなかにいて、小鳥の鳴き声やそよ風の音に耳をそばだてているような感覚に襲われるのだ。おそらく、キャビンへの侵入を許す音とそうでない音の切り分けが絶妙にできているのだろうが、この点でも、ベントレーは人間の心理を巧妙に読み取った防音性を実現しているように思う。
静止状態から100km/hまでに要する時間は3.8秒。Mark Fagelson Photographyリアシート上部をガラスルーフにもできる。オーディオシステムは標準が650W、10スピーカー。2200W、19スピーカーのオプションもある。Richard Pardonリアシートを、取り外し可能なタッチスクリーンで操作出来る。Mark Fagelson Photography軽快かつ正確なハンドリングひとしきりオートルートを走ってから、コートダジュールの裏手に控えたワインディングロードに分け入っていく。はじめはゆったりと、そこから徐々にスピードを高めていったが、かなりペースを上げたつもりでも、フライングスパーはドライバーの狙いどおりにコーナーをクリアするだけでなにもドラマが起きない。
ベントレー初の後輪操舵機構を搭載。低速走行時は、後輪は前輪と逆方向に動き、回転半径を小さくする。高速走行時は前輪とおなじ方向に後輪が動き、追い越しや車線変更時の安定性を高めるという。Mark Fagelson Photographyハンドリングは、ステアリングの操作量と実際にクルマが曲がろうとする回転半径が正確な比例関係をなしているため、安心感が強く、クルマの動きを読みやすい。しかも、フロントの接地感がしっかりとしているうえにリアのグリップ感もきわめて高く、かなりのペースで走っているつもりでもまったく不安を覚えない。その、軽快かつ正確なハンドリングは、往年のライトウェイトスポーツカーを思い出させるほど爽快なものだった。
フロントに搭載された6.0リッターW型12気筒ツインターボエンジンは、このようなワインディングロードでもドライバーの期待にレスポンスよく応えて持て余すことがない。このエンジンは基本的に最新の「コンチネンタルGT」に搭載されているものと同じであるが、車重が重いにもかかわらず、フライングスパーのほうが軽やかに吹き上がるように感じられたのは意外だった。その軽快さは、まるで入念にチューニングされた排気量1.6リッターあたりの4気筒エンジンを彷彿とさせるものだった。
トランスミッションはデュアルクラッチタイプの8AT。Richard Pardonつまり新型フライングスパーは、市街地や高速道路では傑出した快適性を生み出し、ワインディングロードではスポーツカー並みのレスポンスを披露したわけだが、彼らはこうした相反する要件をいかにして両立させたのだろうか?
ドライバーとリアパッセンジャーの両方を楽しませる実力理由のひとつは、駆動系やサスペンションに採り入れられた電子制御技術にあるだろう。新型フライングスパーは、ベントレー初の4WSシステムや、ベンテイガでデビューした48V系アクティブ・ロールバー、空気の量がこれまでより60%も多い3チャンバー式エアサスペンションなどを装備する。これらが、走る状況にあわせて絶妙に設定を変化させるため、ジェントルにもスポーティーにも走ることができるのだろう。
Mark Fagelson Photographyドライブトレイン系も同様で、フルタイム4WDのトルク分割機能には新型コンチネンタルとおなじ電子制御油圧多板クラッチ式を採用、通常時は後輪により多くトルクを分配して軽快なハンドリングを実現するいっぽう、後輪がスリップしそうになるとフロントに分配するトルクを増やして安定した姿勢を取り戻そうとする。
また、エンジンの燃料噴射には間接噴射と直接噴射の両方を用い、必要なパワーに応じて最適な燃料噴射をおこなうほか、エンジン負荷が小さい場合は12気筒のうちの6気筒を休止させてCO2排出量を削減したり省燃費を実現したりする気筒休止機能が盛り込まれている。フライングスパーのキャラクターがシチュエーションに応じて刻々と変化していくのは、こうしたテクノロジーの恩恵なのである。
Richard Pardon内外装のデザインも力強さと優雅さの両方を表現しているように思う。フロントグリルはこれまでよりも垂直に近く、また幅も広いためにある種の威厳を感じさせるが、ボディサイドのキャラクター・ラインは流れるような造形でスピード感が伝わってくる。
いっぽうのインテリアは、ベントレー伝統のオーセンティックな空気感を漂わせつつ、センターコンソールのエアコン吹き出し口やダッシュボード中央の回転機構付きインフォテインメント・ディスプレイなどには現代的なテイストも認められる。
サルーンに求められる優れた快適性とスポーツカーのようなスポーツ・ドライビングが両立した3代目フライングスパーは、ドライバーとリアパッセンジャーの両方を楽しませることのできるグランドツーリング・サルーンというべきだろう。
文・大谷達也
複数社の査定額を比較して愛車の最高額を調べよう!
愛車を賢く売却して、購入資金にしませんか?
複数社の査定額を比較して愛車の最高額を調べよう!
愛車を賢く売却して、購入資金にしませんか?
愛車管理はマイカーページで!
登録してお得なクーポンを獲得しよう
「お金なさすぎて家賃払えなくて…」大阪出身“売れっ子芸人”が高級SUV「Gクラス」を納車! 東京で“人生初”の車購入「盛山さんがベンツ購入って感慨深い」「夢あるなー」と反響
史上最恐の盗難ツールとして話題の[ゲームボーイ]だが……ほぼ100%盗まれない方法は果たしてあるのか!?
アンダー150万円!? スズキ「軽バン」が凄い! 完全「爆睡仕様」に驚きの声…!? どんな人が買う? 見た目はド派手グリル採用の「スペーシア」とは
「30万円」の大幅値下げ!? 鮮烈レッドの「新型セダン」発表! 爆速の「超高性能モデル」も新設定! 今あえて「値上げラッシュ」に逆行した理由とは
ホンダが“赤い”新型「プレリュード」初公開! “22年ぶり復活”の「2ドアクーペ」が鮮烈レッドに変化!? 2024年にも登場期待の「新モデル」米に登場
みんなのコメント
この記事にはまだコメントがありません。
この記事に対するあなたの意見や感想を投稿しませんか?