ホンダが開発しているeVTOL。いわゆる”空飛ぶクルマ”である。このeVTOLのパワーユニット開発を主導しているのは、かつてホンダのF1用PU開発にも携わった津吉智明LPL(ラージ・プロジェクト・リーダー、開発責任者)である。
その津吉LPL曰く、このeVTOLの開発には、技術者という面だけでなく、実際の技術の面でもF1と強い繋がりがあるという。
■ホンダが開発中の”Honda eVTOL”とは一体何か? 元F1用PU開発者が率いるプロジェクト
世界中で多くのeVTOLが開発されているが、そのほとんどが搭載したバッテリーの電力でモーターを回す方式である。しかしホンダのeVTOLは、搭載されたガスタービンエンジンで発電した電力とバッテリーに蓄電された電力でモーターを回す方式、つまりハイブリッド・パワーユニットを採用しているのだ。こうすることで、モーターに電力を長く供給することができ、航続距離が伸びる。
このPUの随所に、F1の技術が活きているという。
F1由来の技術が入ったモーター
「発電機のモーターの部分、プロペラを回すモーターの部分、それからバッテリーに、F1の技術が活きています」
そう語る津吉LPLは、まずモーターの転用について次のように解説する。
「F1ほど高回転で回すわけではないですが、eVTOLも数万回転で回します。出力密度で言えば、世の中の自動車用モーターと比較して5倍くらい高めなければeVTOLを浮かすことはできません」
「とはいえ、F1で使っていたモノをそのまま使うわけではありません。かけられるコストが違うんですよ。F1ならば、材料や値段も自由度が高いので、小さくて軽く、性能の良いモーターを作れるんです。でもeVTOLの場合は航空法規を通して認証を取らなければいけませんから、実績のない新規の材料は使えません」
「またF1は地上を走るわけですが、eVTOLは空……つまり耐環境性も違いますから、耐久性も考えて余裕を持った作りにしなければいけません。F1では、使い終わった瞬間に壊れるくらいでなければ怒られますが、そういうわけにはいきませんからね」
そう聞いていくと、F1で使っているモノとはまるで別のようにも聞こえるが、そうではないと津吉LPLは言う。
「モーターの中に色々な部品があるんですが、磁気回路、磁石の作り方や材質、そういうモノに関しては、F1とeVTOLは共通です」
ではなぜF1とeVTOLで必要とされるモーターの技術に共通の部分があるのか? それについて津吉LPLは次のように説明する。
「高回転型にするための技術、そしてコンパクト化の技術が共通です。そして高出力高回転、コンパクトにすると、冷却の問題が出てきます。その冷却を解決する考え方や手法に関する思想も、F1と共通です」
F1のMGU-Kで使うモーターの出力は120kW。eVTOL用はそれよりも大きくなるとのことだが、その出力に関しては極秘なのだという。
「残念ながら出力についてはお答えできないんです。それを明かしてしまうと、我々のeVTOLがどういう飛び方を想定しているのか、競合相手にバレてしまいます」
「ただPUを自分たちで全て開発しているということは、全て自由にできるということですから、実現する手段を多数持っているということになります。そうすれば、最適なeVTOLを開発できると考えています」
高出力バッテリー
なおF1マシンはブレーキングで回生したエネルギー、排気ガスから回生したエネルギーをバッテリーに蓄え、それを加速の際に活かす。eVTOLでは回生はしないが、前述の通り搭載するガスタービンエンジンで発電(=回生)し、そのエネルギーを使って飛ぶわけだ。
ただホンダのeVTOLにはバッテリーも搭載されており、大きな出力が必要な時にはそのバッテリーに蓄えられた電力を使ってパワーアップさせる。このバッテリーにも、F1の技術が存分に活きている。
「F1のバッテリーに求められるのは、高出力だということです。これは、実はeVTOLで求められるバッテリーの性能によく似ているんですよ」
そう津吉LPLは言う。
「完全電動のeVTOLならば、ある程度の距離を飛ぶために、大容量のバッテリーが必要になります。しかし我々はガスタービンエンジンで発電することで、ある程度の航続距離を実現しています。ただ、必要な時にはバッテリーの電力で補うわけです」
「例えば、離陸する際などが一番出力が必要なんです。つまり容量はそれほど必要ないですが、高出力のバッテリーが必要なんです。その高出力のバッテリーを、小さく軽く作るという点でも、F1と似ています」
「もちろん、バッテリーもF1と全く同じモノを使うわけではありません。eVTOLはF1と比べて搭載するバッテリーの量が多いですから、F1に使っていたような高価なセルは使えません」
「ただ一番重要な部分の技術は流用しています。これがないと動かないというところなどは、コストがかかったとしても同じ技術を使っています。基本的に流用しているのは、我々が特許を持っている技術です。それは我々の資産として使えますからね。ただ外部から買ってくるモノは高いんです」
カーボンニュートラル燃料
なおF1では、ホンダが復帰する2026年からカーボンニュートラル燃料(CNF)を使うことが義務づけられる。これもeVTOLには活かされるはずだという。
ホンダは、自社でCNFの開発を進めている。しかも空気と水を原料に生み出される、まさに魔法のような燃料だ。しかも従来のエンジンで、基本的にそのまま使うことができる。
2021年のF1でホンダは、燃料の高性能成分にこのCNFを先行して投入した。またホンダは航空機分野でも、すでにジェットエンジンでSAF燃料(持続可能な航空燃料)を使う実験を完了。この燃料は、当然eVTOLのガスタービンエンジンにも使える。
「もちろんCNFを使うことを検討していますよ。燃焼特性は変わらないという証明は、すでにHF120というジェットエンジンで完了しています。我々が使っているエンジンも同じようなモノなので、そこは技術的に確立できています」
空力
さらに空力に関する技術に関しても、F1やモータースポーツの知見が活きているようだ。
「空力はすごく重要で、今は日本/アメリカの両拠点で機体の開発をしています。この空力のトップを務めているのが真塩という者で、彼もF1の開発に携わっていた人物なんです」
津吉LPLはそう説明する。
「F1の知見はものすごく活きると聞いています。”非定常流計算”というのをF1では昔からやっているので、その部分が強いんだと思います。これにはとにかく、コンピューターの能力が必要なので、昔からスーパーコンピュータが使われていました」
非定常流計算とは、F1マシンの複雑な縦渦やタイヤ後流をどう把握するかという点で培われてきたものだという。しかも通常の航空機とは異なり、eVTOLでは垂直方向に、しかも複数のローターで気流を発生させるため乱流だらけ……その状況の把握が必要不可欠なのだそうだ。
「固定翼の航空機ならば、進行方向に対する風向きを計算できればいいんです。でもeVTOLは、前後左右に移動するうえ、回転する複数のローターが乱流を巻き起こす……乱流だらけなんです。それを解決するには、F1で培った非定常流計算が必要なんだと思います」
そうやって開発されたホンダのeVTOLは、2025年にもフルスケールの試験機がアメリカの空を飛ぶ予定。そして2030年代に実用化することが目指されている。
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