プレーオフに向け大詰めに突入しつつある2023年NASCARカップシリーズ第19戦『クエーカーステート400 アヴェイラブル・アット・ウォルマート』は、降雨により短縮となったアトランタでの1.54マイル・スーパースピードウェイ決戦で、嵐が近づくのを読み切り見事な戦略勝ちを収めたウイリアム・バイロン(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)が、今季シリーズ初の4勝目を獲得したドライバーとなった。
歴史上初の試みとして、シカゴ市街地でのストリート戦となった前戦では、初参戦の豪州大陸王者“SVG”ことシェーン-ヴァン・ギズバーゲンが、カップシリーズ60年ぶりのデビューウインを達成し世界に衝撃を与える週末となったが、カップシリーズのレギュラー陣営にとっては、ここからが別の意味での正念場に。
ハットリ・モータースポーツがGRスープラGT4エボで初出場・初優勝の快挙。BMWに“Wペナルティ”で/IMSA
シーズン残り少ないイベントのうちで勝利を挙げ、続くプレーオフへの進出権を確保できるか。さらにポイントスタンディングの当落線上に位置するドライバーにとっても、いかに大量ポイントを積み上げられるかが勝負に。その意味で、このジョージア州ハンプトンに位置する古典的高速オーバルでの一戦は、自らのカップドライバーとしての存在をアピールする重要な週末となる。
そのスーパースピードウェイ戦を前に、NASCARはターン3からピットレーン・エントリーとなるアトランタのコース設計も考慮し、コーション中こそ全ボックスエリアのスピードリミットを統一したままとしたものの、アンダーグリーンの場合にのみボックスのセクションによって上限速度を引き上げることで、ラップダウンの危険性を回避する対応を採った。
こうして始まった週末は、予選こそアリック・アルミローラ(スチュワート・ハース・レーシング/フォード・マスタング)が最速をマークして今季初、キャリア通算5回目のポールポジションを獲得。フロントロウにもライアン・ブレイニー(チーム・ペンスキー/フォード・マスタング)が並び、背後の2列目にもチェイス・ブリスコ(スチュワート・ハース・レーシング/フォード・マスタング)やジョーイ・ロガーノ(チーム・ペンスキー/フォード・マスタング)が続くなど、フォード陣営が反撃の狼煙を上げるかに見えた。
しかし日曜の決勝はステージ1こそブレイニーが制したものの、背後にはカイル・ラーソン(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)、マーティン・トゥルーエクスJr.(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリ)と、ライバル陣営がヒタヒタと迫る展開に。
そんななか、トップ5圏内を伺いながらステージ2序盤の80周目にスピンを喫していたバイロンは、ピットロードへ入る前にラップダウンへと転落し、この時点で詰め掛けたファンの誰もが「今日の優勝候補からは外れた」と思われていた。
しかし92周目に僚友ラーソンを起点としたコーションで同一周回に復帰したバイロンは、続く125周目にタイラー・レディック(23XIレーシング/トヨタ・カムリ)らトヨタ陣営の3台と、ロス・チャスティン(トラックハウス・レーシングチーム/シボレー・カマロ)らを含むターン2での“マルチタングル”の発生を受け、すかさずコーションのもと「ピットロードへ飛び込むよう」24号車に指示が飛ぶ。
これによりバイロンは、隊列の半分以上がピットを引き延ばしていた状況も逆手に取り、アレックス・ボウマン(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)とデニー・ハムリン(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリ)が絡んでイエローコーションでのステージ2フィニッシュとなった後、165周目からのファイナルステージに向け、なんと4番手のリスタートポジションを手にいれる。
■レースは降雨により赤旗終了。バイロンが今季4勝目を飾る
その2周後となる167周目には、ハイラインからA.J.アルメンディンガー(カウリグ・レーシング/シボレー・カマロ)を抜き去り首位浮上に成功すると、178周目にライアン・プリース(スチュワート・ハース・レーシング/フォード・マスタング)やダレル“バッバ”ウォレスJr.(23XIレーシング/トヨタ・カムリ)、リッキー・ステンハウスJr.(JTGドアティ・レーシング/シボレー・カマロ)らが絡んだ、この日7回目のコーションでもステイアウトを決め首位をキープする。
そのまま隊列の先頭を走り続けたバイロンだったが、ここで雨雲が上空に差し掛かり、降雨が強まるなかで185周を終えた現地21時47分にレースは赤旗中断に。そのままピットレーンで待機したカップカーの車列はふたたびオーバルに出ることはなく、そのままNASCARはレース終了を宣言。この時点で首位にいたバイロンをウイナーに認定し、今季初の4勝ドライバーになるとともに、自身アトランタ2勝目、カップ通算8勝目を手にする結末となった。
「なんてクールな展開だ!」と、自身も驚きを隠せない様子のバイロン。「インフィールドでスピンしてクルマのフロアを破損したり、リードラップを維持しようとしてエプロンの周りを引き摺ったり。僕らはこの一晩でたくさんのことを経験した」と笑ったバイロン。
「その時点ではグリップが足りていないので、トラフィックに戻ったときは本当にイライラした。でも適切なタイミングでピットに呼び戻してくれ、その後はステイアウトする判断を下した。前に出てしまえば大丈夫で、正しい判断でAJをブロックできたよ」
そんな序盤の苦戦にも関わらず、バイロンは直近に再舗装されたオーバルの路面と、導入2年目になるNext-Gen車両とのマッチングが後半戦のハンドリング改善と躍進に繋がったと明かした。
「最高だった。スーパースピードウェイに求められるのはそれだけさ」と続けた25歳のバイロン。
「実は最初のステージは本当に楽しかったし、ボトムラインでもある程度、自由に動くことができた。今はあらゆるコーナーで(スロットルを)リフトするから、パワーが550PSあった昔ながらのレースとは異なっているからね」
「より密集しているけど、それでも問題を処理してドライバーたちは攻撃的な動きをすることができる。今日はラップダウンしていて、終わっていたかもしれないレースを救ってくれたチームに心から感謝している」
併催されたNASCARエクスフィニティ・シリーズ第17戦『アルスコ・ユニフォーム250』は、度重なる延長リスタートの末に初のリードを奪ったジョン-ハンター・ネメチェク(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタGRスープラ)がシーズン3勝目を獲得。
一方、同じ週末にミドオハイオのスポーツカーコースで開催されたNASCARクラフツマン・トラック・シリーズ第14戦『オライリー・オート・パーツ150』は、こちらも大洪水から一転して強い日差しを受けたフィニッシュラインで、コーリー・ハイム(トリコン・ガレージ/トヨタ・タンドラTRDプロ)が結果的にポール・トゥ・ウインで今季2勝目を飾る展開に。
服部茂章率いるハットリ・レーシング・エンタープライズ(HRE)の16号車タイラー・アンクラム(トヨタ・タンドラTRDプロ)は、最後の勝負で弾き出されたものの奮闘のトップ10フィニッシュ。自身NASCAR2戦目で初のトラックシリーズ参戦で注目を集めたマルコ・アンドレッティ(スパイア・モータースポーツ/シボレー・シルバラードRST)は19位に終わっている。
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