いま国内のディーラーで購入できるのはハイラックスのみ
海外では大きな人気を誇りラインアップも豊富だが、日本で今ひとつマイナーな車種のひとつがピックアップトラック。輸入車を除き、国内のディーラーで現在購入できるのはトヨタ・ハイラックスのみだ。
「日本最強」いや「世界最強」の呼び声も高い「ランクル」と「ジムニー」の悪路走破性が凄すぎた!
だが、一般的な商用トラックなどと比べると、かなりスタイリッシュでワイルドなフォルムを持ち、いわゆる働くクルマとしてだけでなく、とくに最近人気のアウトドアで遊ぶにはもってこいのメリットもたくさんある。ここでは、長年ハイラックスを乗り継いだ経験を持つ筆者が考える、ピックアップトラックを日本で乗ることのメリット・デメリットを紹介する。
ピックアップトラックとは
ピックアップトラックは、キャビンから後ろの部分が荷台になっている小型貨物自動車の一種だ。おもに、北米や東南アジア、アフリカや南米、中東などで人気が高く、海外では商用だけでなく、自家用車として乗っているユーザーも多い。
かつては、国産車でも、日産のダットサントラックやサニートラック、マツダ・プロシード、三菱トライトンなど、数多くのモデルが各メーカーから国内販売されていた。だが、前述のとおり、今では唯一ハイラックスだけが販売されている。ちなみに、筆者は、1997年に発売された6代目の前期型1台、後期型2台を乗り継いだ。現行のハイラックスが2017年に13年振りに国内販売される以前、2004年まで日本で売られた最後のモデルだ。
現行モデルは、4ドア5人乗りのダブルキャブというタイプのみが販売されているが、当時は2ドア2人乗りのシングルキャブや、筆者が所有していたロングボディのエクストラキャブという2ドア5人乗り仕様もあった。エクストラキャブは、ラインアップ中で荷台がもっとも長いため購入した。筆者は、当時モトクロス(オフロードをバイクで走る競技)が趣味で、全長が2m以上あるオフロード用バイクでも十分に積めて、荷台のゲートを閉じられるサイズだったためだ(ダブルキャブやシングルキャブの荷台サイズでは、バイクを積んだ際にゲートを閉められなかった)。ともあれ、かつては日本でも、さまざまなボディタイプがあるほど人気もそこそこあったのだが、ミニバンなどの人気に押されたことなどで、一旦は消滅した存在だった。
一方、たとえば、北米ではフォードやダッジなどの現地メーカーが販売するほか、日本メーカーでもトヨタがタンドラやタコマ、日産がタイタン、ホンダがリッジラインなどをラインアップしている。いずれも、ハイラックスより大型で、全長が6mを超えるモデルもあるフルサイズピックアップと呼ばれるタイプだ。北米をはじめ、海外では各メーカーの主力ラインアップのひとつとなっており、普段の足はもちろん、レジャーなどの用途に使うユーザーも多い。また、NASCAR(ナスカー)などの北米メジャーレースで競技車両として使われるなど、いわゆる「荷物を運ぶトラック」という概念を超えた幅広い用途に用いられている。
日本の道路事情
そんなピックアップトラックを、もし日本で乗るとしたら? まずは、日常の使い勝手について検証しよう。現行のハイラックスを例にすると、ボディサイズは全長5340mm×全幅1855mm×全高1800mmだ。全幅は一般的なクルマとあまり変わりなく、全高も2m以下なのでショッピングセンターなどの立体駐車場にも入れられる。問題は全長だ。
たとえば、大型SUVのトヨタ・ランドクルーザーは、ボディサイズが全長4950mm×全幅1980mm×全高1970~1880mmだから、全長はハイラックスのほうが390mmほど長い。全長が長い車両は、市街地に多い細い路地を曲がるときに、何度も切り返す必要があり、通り抜けるのにかなり苦労する。また、都心部では駐車場にも困る。ボディサイズ、とくに5mを超える全長が収まるスペースがある駐車場が少なく、あっても高いからだ。実際、筆者の場合も、東京都内の世田谷区に引っ越しをした際、ハイラックスがきちんと収まり、月々の料金が比較的安い駐車場が見つからず、維持を断念した1人だ。
修理代があまりかからないのも魅力のひとつ!
積載性
ピックアップトラックは、筆者がバイクを積載していたことからもわかるとおり、大きな荷物が積めるのも魅力だ。ほかにも、たとえばホームセンターで購入したDIY用の木材など、長尺物でもガンガン積むことができる。
ただし、荷台に屋根がないため、あまり背が高い荷物やダンボールをたくさん積む場合には、ロープなどで固定しない限り積み荷が安定しない。ハイラックスに乗っている時代に、一度、知人に引っ越しの手伝いを頼まれたことがあるが、現場に行って愕然とした。「トラックだから荷物がたくさん積める」と思い込んでいた知人の荷物はかなり大量で、大型冷蔵庫など長尺物もあった。ロープで荷物を固定しない限り、まず積載は無理だった。結局、トヨタの商用バン、ハイエースを持つ別の知人に頼み込み、急遽出撃をお願いし、なんとか荷物を運ぶことができた。
筆者は、ハイラックスにバイクを積む時はタイダウン(長さが調整できるロープ)で固定していたが、さすがに大量の引っ越し荷物を積むことはできない。単純に、量では積載スペースに「屋根がある」ハイエースに軍配が上がるのだ。
荷台に屋根がないことで起こる問題はほかにもある。雨が降ると荷物が濡れるのだ。とくに、雨が多い日本では、濡れたら困る荷物を積みにくい現実がある。現行ハイラックスの場合、ディーラーオプションで荷台上面を覆うソフトタイプのトノカバーが用意されていて、それを装着すれば、ある程度は積み荷が濡れることが防げる。ただし、その場合、荷台より高さがある荷物は積めない。
また、基本は幌なので、カッターなどで簡単に切ることができ、防犯性もあまり高くない。トノカバーには、車外品などで樹脂製のハードタイプもあり、そちらのほうが防水性も高く、ロック付きなら荷物もある程度は安心して積むことができるだろう。一体成形でダンパーで開閉するタイプから、折りたたみ式で簡単に脱着できるものまでさまざまなタイプが販売されているので、もし高い荷物を積むのでなければ、ハードタイプがおすすめだ。
悪路走破性
日本で普段乗るには、不便なことも多いピックアップトラックだが、こと遊びに関しては使い勝手はいい。まず、4WD性能が抜群で、悪路走破性が極上なことだ。
筆者は、モトクロスのほかに、冬期はよくスノーボードに行ったが、冬タイヤとハイラックスの高い4WD性能との組み合わせは、深い雪道でも高い走行安定性を発揮し無敵だった。しかも、ハイラックスは、昔からパートタイム4WD機構を採用しており、普段は2WD(FR)で走行することも可能。また、4WDには、滑りやすい路面で使うがある程度の高い速度にも対応する「H4」というモードと、速度は遅くなるがより強力な駆動力を発揮する「L4」というモードも設定している。しかも、切り替えがダイヤルスイッチで簡単にできる。
さらに、現行モデルには、「アクティブトラクションコントロール」も装備する。これは、H4かL4のときに、タイヤのスリップを検知すると、空転した車輪にブレーキをかけて残りの車輪に駆動力を配分する機構だ。最新の技術により、雪道や岩場など、悪路での走行安定性はさらに向上している。
アウトドアで使うもので、濡れても平気な荷物であれば、ピックアップトラックは気軽に積めることも魅力だ。筆者のようにオフロードバイクを積めるのはもちろん、たとえば、カヌーやマウンテンバイク、ジェットスキーや釣り竿などのフィッシング用品、テントをはじめとするキャンプ用品などがガンガン積み込める。
積む荷物によっては、荷台が傷付くこともあるが、これもハイラックスにはオプションで、荷台やゲート内側を保護する「ベッドライナー」が設定されている(ベッドは荷台のこと)。これを装着すれば、荷台に傷が付かず、濡れたり泥が付いたものを積載しても、汚れが目立たず、簡単に洗い落とせるので便利だ。
ちなみに、旅行やレジャーなどで遠方に行く際は高速道路もよく使うが、ハイラックスの場合は料金が普通車より高くなる。1ナンバー登録で中型車に該当するためだ。燃料代は、2.4リッターのディーゼルターボを搭載するため、ガソリン車よりは安い。だが、最近は軽油の価格もかなり上がっており、長距離を走ればメリットは出るが、近距離移動が多い場合はメリットは少ないだろう。
車検・維持費
ほかにも、ハイラックスの場合は、1ナンバー登録になるため、たとえば毎年支払う自動車税環境割が1万6000円/年と、排気量が同じ2リッター超~2.5リッター以下の範囲に入る普通車の4万5000円/年と比べるとかなり安い。だが、車検は、普通車が新規登録から初回が3年なのに対し1ナンバー車は2年、以後は普通車が2年毎なのに対し1ナンバー車は1年毎となる。また、任意保険も、保険会社の商品によっても違いはあるが、1ナンバー車は比較的高い傾向だ。
ただし、基本的に商用車であることもあり、頑丈さはピカイチで、故障しにくい。そのため、修理代があまりかからないのは魅力だ。筆者が最後に乗った6代目ハイラックスは2.7リッターガソリン車だったが、定期的にエンジンオイルさえ変えていれば、10年乗っても大きな故障で修理した記憶がない。
もちろん、乗り方や走行距離、使用状況や駐車場などの保管場所によっても変わるため、一概には言えないのは確かだ。だが、たとえばハイエースが10万km乗っても大きな故障がないと言われることと同様、同じトヨタの商用車であるハイラックスも、高い耐久性を誇っていることは間違いないだろう。
市街地などの細い路地で走りづらかったり、雨の日の積載性や1年車検など、日本では日常の使い勝手にデメリットも多いピックアップトラック。だが、ひとたび郊外などのアウトドアに出かければ、高い悪路走破性や濡れた荷物でも気兼ねなく積める気軽さなど、魅力も多い。なにより、スタイリッシュなSUVが全盛の今、無骨な本格的クロスカントリー車的スタイルが逆に新鮮だったりする。「遊びがメイン」と割り切れば、ピックアップトラックは日本でも十分に魅力があるクルマなのだ。
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