2023年3月に発売されたスズキのニューモデルが『GSX-8S』だ。価格もスペックも手頃なロードスポーツとして注目を集め、若々しいデザインによって、新たなユーザー層を開拓している。そんなGSX-8Sの乗り味をあらためて体感してみた。
◆なんのプレッシャーもなく、走り出すことができる
GSX-8Sの装備重量は202kgを公称し、特段軽量な部類ではない。エンジン高もそれなりにあり、スチールパイプによって構成されるフレームが、上部からそれを懸架。主要なコンポーネントは、アドベンチャーモデルの『Vストローム800』シリーズと共有するため、ヘッドパイプもやや高めなところに位置する。
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ともすれば、背が高くなりそうな構成である。少なくとも車体の引き起こしでは、車重相応の手応えを感じさせそうなものだが、ガソリン満タン状態でもスイスイと取り回すことができる。
もしかすると、現行カタナのように燃料タンク容量が少ないのかもしれない。そう思ってデータを見ると、14リットルが確保されている。その割には随分とコンパクトなのだが、それにはきちんと理由があった。燃料タンクに覆われるようにレイアウトされがちなエアクリーナーボックスがシート下に収められ、そのぶん、エンジン上部のスペース効率が向上。重量物になるはずの燃料タンクが、横方向に細身なだけでなく、縦方向にも低くなっているため、数値のイメージよりもずっと軽やかに扱えるのだ。
だからといって、足つき性が犠牲になっているわけでもない。810mmのシート高は良好な部類と言って差しつかえなく、座面のスリムさも相まって、平均的な体格の男性なら両足で楽に車体を支えることができる。見た目のトゲトゲしさとは裏腹に、シートにまたがれば車体各部や操作系パーツが即、体にフィット。なんのプレッシャーもなく、走り出すことができる。
◆滑らかながら表情豊かな2気筒エンジン
エンジンは、775ccの水冷4サイクル並列2気筒を搭載する。GSX-8Sと『Vストローム800DE』のために新規開発され、現在はそれぞれの兄弟モデルにも展開。270度→720度→270度の不等間隔で爆発し、このタイミングはV型2気筒の『SV650』や『Vストローム1050』と共通のものとなる。
エンジンには2つのバランサーが組み込まれ、それによって一次振動と二次振動が抑えられていることがメリットとして謳われる。しばしば、「スムーズな回転上昇」だったり、「滑らかな吹け上がり」といった言葉で表現されるわけだが、その語感がもたらすイメージほど味気ないものではなく、エンジンの表情はかなり豊かだ。
アイドリングから低回転域では明確なビートを乗り手の体に伝え、中回転域で軽いバイブレーション(この領域に関してはポジティブな意味ではない)に変化。それを超え、高回転域になると、持てる力を無駄なく絞り出すような濃厚さで車速を押し上げていく。
スロットルを開ける。リアタイヤが路面を蹴り出す。そのプロセスがわかりやすく、80ps/8500rpmのパワーを完全にコントロール下に置けている手の内感が心地いい。エンジンモードを最もアグレッシブなA(アクティブ)に切り替えると、最初のレスポンスこそガツンとくるものの、極端に鋭くなりすぎないように躾られている。
5000rpm以下にしばり、シフトアップとダウンを矢継ぎ早に繰り返しながら忙しく走るもよし。7000rpm以上をキープし、スロットルのオンオフに集中するもよし。選ぶ回転域によって、走らせ方のツボが移り変わるところが楽しい。
◆まるで手本のようなハンドリングとトラクション
一方で、回転数を上げても下げても、バンク角が深くても浅くても、ハンドリングのキャラクターは大きく変化しない。手応えは重くも軽くもなく、コーナーでは一定のリズムと接地感をともないながら旋回。トラクションという言葉の意味を教えてくれる、手本のような振る舞いがそこにある。
ギャップの多い路面を走らせた時、バネ下の重さというか、タイヤがドタバタするような雑味を感じる場面がある。サスペンションの仕様とライディングポジションが異なる兄弟モデル『GSX-8R』では気にならなかった動きなので、ささやかながらも指摘すべきポイントとして挙げておく。
もっとも、スポーツバイクとしての及第点は大きく超えている。日常もスポーツも高いレベルでこなすことができ、デザインもエンジンもフレッシュそのもの。それでいて、リーズナブルといえる価格(消費税込106万7000円)も実現しているのだから、トータルバランスに優れた満足度の高いモデルである。
■5つ星評価
パワーソース:★★★★
ハンドリング:★★★★
扱いやすさ:★★★★
快適性:★★★★
オススメ度:★★★★
伊丹孝裕|モーターサイクルジャーナリスト
1971年京都生まれ。1998年にネコ・パブリッシングへ入社。2005年、同社発刊の2輪専門誌『クラブマン』の編集長に就任し、2007年に退社。以後、フリーランスのライターとして、2輪と4輪媒体を中心に執筆を行っている。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム、鈴鹿8時間耐久ロードレースといった国内外のレースに参戦。サーキット走行会や試乗会ではインストラクターも務めている。
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