■連載/金子浩久のEクルマ、Aクルマ
ジャガーが初めて作ったEV(電気自動車)「I-PACE」。“シビレるジャガー”という宣伝文句通りに、その走りっぷりにはシビレてしまった。まず、音もなく速いのに驚かされた。正確には、タイヤが路面に擦れるノイズや風切り音などが含まれるから、“音がない”わけではない。でも、エンジンからの排気音が発生しないから、圧倒的に静かだ。パワートレインからの音だけでなく、振動も皆無だから、加速はこれまで体験したどのエンジン車とも違う。
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今までのエンジン車の場合だと、加速するためにはアクセルペダルを踏み込むと、エンジンが回転を上げていくのに伴って、馬力やトルクといったパワーも盛り上がっていく。当然、その感覚は前述の排気音の高まりや、アクセルペダルから伝わってくる振動のようなものなど、さまざまな刺激が複雑に組み合わされたものだ。
しかし、この「I-PACE」をはじめとするEV(電気自動車)にはそれがない。刺激が発生するプロセスをすべてスッ飛ばして、最初から一気に加速する。古今東西の優れたエンジンを搭載していたクルマはそれぞれ固有のプロセスを持っていて、それが魅力のひとつになっていたが、「I-PACE」はそれをパスして高性能を実現してしまった。これを革新と呼ばずになんと呼べばよいのだろうか?
機械として優れているか?★★★★★5.0(★5つが満点)
「I-PACE」は前後に2個のモーターを搭載し、合計した最高出力は400馬力、最大トルクは696Nm。4輪を駆動し、0-100km/h加速は4.8秒という俊足だ。ちなみに、同じジャガーの「F-PACE」や「E-PACE」などのSUVでI-PACEに勝るものはなく、4ドアサルーンの「XE」の最もスポーティーなモデル「XE S」(380馬力3.0L、V6スーパーチャージドエンジン搭載)の5.0秒をもしのぐ速さなのだ。
しかし、上には上がいて、テスラの「モデルS」と「モデルX」にはこれよりも1秒以上速いグレードがある。たしかに、テスラの猛烈な加速は蠱惑的なほどだ。ただ、テスラを思い出しながら「I-PACE」を運転すると、ハンドリングでは「I-PACE」に分がある。微細なハンドル操作にも忠実に反応してくる。その辺りは、さすがはジャガーだと頷かざるを得ない。
また、試してはいないが、オプションのエアサスペンションを選ぶとオフロード走破性の目安として水深50cmのところも走り切ることができるのも大きな長所となっている。最低地上高が3段階に調整することが可能で、オフロード走行時には最大5cm上がり、乗降時には4cm下がる。つまり、オンロードでの速さだけでなく、オフロードでの悪路走破性にも優れたポテンシャルを持っているのだ。EVが街中だけのクルマではないことを「I-PACE」は示そうとしている。
商品として魅力的か?★★★★★ 5.0(★5つが満点)
EVで最も気になる航続距離は、WLTCモードで438km(国土交通省届出値)。438kmも走れれば、クルマの前に人間の方が音を上げてくる。実際に、以前にこの連載でもBMWのEV「i3」をテストした時に、東京から東名と新東名高速を西に向かって走り続けた時には、バッテリーに電気は十分に残っているのに、ドライバーは休憩を、同乗者はトイレ休憩を求め、途中のサービスエリアに駆け込んだくらいだった。
エアサスペンション版と金属サスペンション版をそれぞれ90分ずつ試乗したが、走行パフォーマンスについては文句の付けようのない仕上がりだった。エアサスペンション版の方が乗り心地が滑らかで、柔らかいので、断然、こちらを勧めたい。モーターによる静かで滑らか、かつ強力な加速と併せるかのように、エアサスペンションの乗り心地がとても良くマッチしている。
「I-PACE」の発表時から気になっていたのが「スマートセッティング」だ。リモートキーとスマートフォンのBluetoothを介してドライバーを認識し、ドライバーの好みに応じたインフォテインメントやシート位置などを自動的に調整するものだ。類似した「スマートエアコン」も装備していて、そちらは乗員の位置を自動的に把握し、最適な温度にエアコンを自動的に設定するものだ。どちらもAI(人工知能)アルゴリズムを用いている。
スマートセッティングもスマートエアコンも、技術的には難しくなくなった数年ぐらい前から、「こういうものができたら便利なのに」と夢想していたものだ。それが、ようやく実現した。短い試乗時間の中では試すことはできなかったが、どんどん多機能&高機能化していく現代のクルマにとって、このようなインターフェイスの革新は欠かせない。購入したオーナーは、こうした新しい機能を使えば使うほどカーライフが便利で安全になっていく。
慣れが必要ではあるけれども、喰わず嫌いすることなく使ってもらうように、セールスパーソンのフォローが必要になるだろう。「I-PACE」のインターフェイスは、「F-PACE」や「E-PACE」など最近のジャガーのSUVに範を取りながら、独自に進化しているところもある。特に、ソフトウェアのワイヤレスでの常時アップデイトなどは実効性がとても高いだろう。
繰り返すが「I-PACE」の第一印象は期待通りだった。試乗時間内ですべての機能や使用感などを試せなかったのも事実で、多機能&高機能化する現代のクルマの評価の難しさを表していた。ただ、持てる機能と性能のすべてを発揮させることができた時に初めてこのEVの真価を知ることになるのだろう。当たり前のことを述べているようだが、「I-PACE」からはそれだけのポテンシャルを感じさせられたことも、また事実だった。
■関連情報
https://www.jaguar.co.jp/jaguar-range/i-pace/index.html
文/金子浩久(モータージャーナリスト)
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