青じゃないポールスター ボルボとの関係
text:Kazuhiro Nanyo(南陽一浩)
【画像】ボルボS60のT8ポールスター・エンジニアード、V60のT8【実車で比べる】 全55枚
photo:Keisuke Maeda(前田恵介)
日本への初期入荷ロットの30台は瞬く間に蒸発して売り切れ。夏以降、2021年モデルになってから再入荷もあるらしい。
いずれ打ち止め御礼にも関わらず、2020年式S60 T8ポールスター・エンジニアードの試乗が叶ったことはラッキーだった。
記憶力のいい方は先代S60/V60ポールスターの、あの鮮やかなブルーのボディを覚えていて、なぜポールスターなのに青じゃないのか? そんな疑問を抱くだろう。現在の「ポールスター」ブランドの復習を兼ねてその経緯を説明しておく。
先代モデルの市販当時、ポールスター・レーシングは市販車のチューンを受け持つパフォーマンス部門と同レーシング部門で構成され、ボルボ社外にあった。
その後の2015年、ボルボは、パフォーマンス部門とポールスター・ブランドを管轄するポールスター・ホールディング社を100%子会社化し、レーシング部門はシアン・レーシングと名を変えた。つまりあの青(=シアン)は、今はレース・チームが使用するため使われていないのだ。
ちなみにポールスターの現在のイメージカラーは白で、MスポーツやメルセデスAMG、アウディ・スポーツらと独立子会社でハイパフォーマンス専科という点では立場も使命も似ているが、エレクトリファイド、つまり「電動化されたハイパフォーマンス」に特化している点が異なる。
という前提で今次のS60 T8ポールスター・エンジニアード(以下PE)を見ていくと、やはりハイブリッド・システムにも違いがあった。
「スペック厨お断り」の内面オーラとは
今回は通常モデル、オプション装備の違いこそあるが価格差は70万円しかないエステートのV60 T8ツインエンジンAWDインスクリプションも同時に試乗に連れ出した。
前後の電気モーターの最大出力&トルクは、(前)46ps&16.3kg-m(後)87ps&24.5kg-mで、V60 T8とS60 T8 PEでじつは変わらない。
だがリチウムイオンバッテリーの電力消費率、そしてフル充電時の予備容量は数%の差がある。
物理的な違いよりプログラム上の設定違いで、エネルギーの放出と回生という「出し入れ」が太くとられているか、駆動系などにプリチャージされる電力がやや大きいのだろう。
フル充電からEVモードで走れる最大航続距離がPEはスペック値で42kmと、通常モデルの48.2kmに対して少し狭まったが、実用上の差はないと見ていい。
むしろ差があるのは内燃機関。2Lターボ&スーパーチャージドのDrive-Eは333ps/6000rpm、43.8kg-m/4500rpmにまで磨かれたハイチューンだ。
結果としてPEのシステム全体の総出力はV60 T8の「318ps+87ps=405ps」より15ps増しとなる420psだが、増えた分がすべて内燃機関から来ていることは注目に値する。「スペック厨」的には不満かもしれないが、PEは電気で分かりやすい数値を追っていない。とどのつまり電気は絶対的パワーでなく、使い方の問題だからだ。
だがPEがボンネット下のアピールを忘れているかといえば、そうではない。
ボンネット下でシャシーの特長を誇るタイプ
ボンネットを開けて鑑賞すべきは、美しい仕上げのストラットタワーバーだ。これでフロント剛性を固めた先に、オーリンズ製の22段階式可変ダンパーが見える。
後者は当然、フロントとリアに備わり、工場出荷時はそれぞれ6/9クリック戻しとなっているが、今回の試乗では12/15クリック戻しと、日本の道路の速度域を考慮したか、やや柔らかめに設定されていた。
スポーツシートはRデザインでおなじみの既視感あるカタチだが、滑りにくいスウェード調の起毛素材コンビである点が異なる。またシートベルトは鮮やかなイエローで、先ほどの可変ダンパーのダイヤルと色合わせしてある点も、さりげなく憎い。
どっしりと握りの太いステアリングを操って緩やかにアクセルを踏み込むと、ホイールが転がり出しての刹那は、通常のT8に輪をかけて滑らかにしたような、しかし大きな違いはない。
低速域の乗り心地に不快な突き上げがない点も似ている。
トッピングでない 縁の下の力持ちとしての電気
握りの太さのみならず、中立に戻ろうとするセンタリング傾向と反力強めのステアリングフィールは、ノーマルとかなり異なるが、旦那仕様めいたイージーさにきっぱり背を向け、市街地走行でも背筋を伸ばさせるところは、スポーツサルーンとして好感がもてる。
そして走行モードを「ポールスター・エンジニアード」に切り替え、アクセルを深く踏み込むと、音響的に増幅されてはいるが野太いエグゾーストノートを響かせつつ、PEは猛然と地面を蹴って加速し始めた。
電気モーターゆえの鋭いレスポンスを、トッピング程度に効かせる点はT8も同じだが、PEは通常モデルより2.5割増しほど滑らかさと力強さに優る感覚だ。
電気モーターはプラスアルファのブーストというより、パワフルな内燃機関のほとんどないレスポンスの切れ目を、さらに埋め合わせて底上げするかのよう。
平たくいえば縁の下の力持ちとして効いている、そんな印象だ。
ワゴンと比較 V60 T8ツインエンジンAWD試乗
逆にいえばノーマルのV60 T8ツインエンジンが、エステートボディゆえに上モノがやや重い分、ロールや収束時のボディの動きがワインディングで大きく感じるが、パワートレインを含む基本的なフィールがむしろ地続きだったことに驚かされた。
そこがSPAプラットフォームの出来映えの確かであり、チューンの違いが素直に、しかしはっきりと反映されているのだ。
通常モデルと決定的、かつ大きな差を生んでいたのは、ダブルフローバルブのオーリンズ製ダンパーの初期減衰の速さ、そして収束の速さによるボディの動きの抑制だ。
19インチの専用ホイールによるバネ下重量の軽減も効いているだろうが、荒れた路面を舐めるようにいなす動きの質の高さには、シビれるものがある。
電気モーターの滑らかさに下支えされたまま、トルクのピークが盛り上がるようなドラマチックな加速フィールと併せて、官能的ですらある。
ブレンボ製6ピストン 踏み側も緩め側も好感触
ポールスター・エンジニアード・モード走行時はフルタイムAWD制御なので、ハンドリングは徹頭徹尾、安定志向とはいえ、身のこなしの鮮やかさ、コントロール性の高さは保証されている。
ちなみにブレンボの371mm径ローターと6ピストンが奢られたブレーキのタッチが、これまた絶品だ。
効き始めはソフトだが、ペダルをある程度踏みつけた先の、ごく浅いストローク範囲で制動力が加減しやすく、いかにも広い面積でパッドとディスクが当たっている感触。
絶対的な減速キャパの頼もしさだけでなく、前荷重を緩めながら操舵してヨーを作るコントロールを、積極的に楽めるタイプだ。
それでいてシフトをBモードで回生ブレーキを強めると、俄然EVっぽいリニアなグリップ感とスムーズさへ、動的質感が少し変わる。
先代のS60/V60ポールスターのみならず、ポールスター1や2への橋渡しも兼ねているのではないか? そう思うと欲張りな1台だ。
超・理性的なスポーツサルーン
確かに2トン強の重量があるので、アンダーステアを誘発するような速度でコーナーに突っ込むのはためらわれる。
直接のライバルとなる1台にBMWの330eが挙がるだろうが、あちらが三徳包丁のようなしなやかな切れ味とすれば、PEはよく研いだ出刃包丁のような分厚く鋭い切れ味といえる。
ここまできて可変ダンパーのダイヤルと、シートベルトが同色イエローであることを突然、思い出した。
スポーツとそのギアは包丁と同じく、感覚的に操るものだが、最初から怪我やアクシデントを避けて理性的に使うのが当たり前なのだ。
試乗車 価格/スペック
S60 T8ポールスター・エンジニアード
価格:919万円
全長:4760mm
全幅:1850mm
全高:1435mm
最高速度:-
0-100km/h加速:-
燃費:13.6km/L(WLTCモード)
CO2排出量:-
車両重量:2030kg
ドライブトレイン:直列4気1968ccターボ+スーパーチャージャー+前後モーター
使用燃料:ガソリン
最高出力(エンジン):333ps/6000rpm
最大トルク(エンジン):43.8kg-m/4500rpm
最高出力(前モーター):46ps/2500rpm
最大トルク(前モーター):16.3kg-m/0-2500rpm
最高出力(後モーター):87ps/7000rpm
最大トルク(後モーター):24.5kg-m/0-3000rpm
ギアボックス:8速オートマティック
V60 T8ツインエンジンAWDインスクリプション
価格:849万円
全長:4760mm
全幅:1850mm
全高:1435mm
最高速度:-
0-100km/h加速:-
燃費:13.7km/L(WLTCモード)
CO2排出量:-
車両重量:2050kg
ドライブトレイン:直列4気1968ccターボ+スーパーチャージャー+前後モーター
使用燃料:ガソリン
最高出力(エンジン):318ps/6000rpm
最大トルク(エンジン):40.8kg-m/2200-5400rpm
最高出力(前モーター):46ps/2500rpm
最大トルク(前モーター):16.3kg-m/0-2500rpm
最高出力(後モーター):87ps/7000rpm
最大トルク(後モーター):24.5kg-m/0-3000rpm
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