サーキットでなく公道での体験を追求した「RS」
世界中の殆どのクルマ好きにとって、新しい718スパイダー RSは、手に入れることができない特別なポルシェの1台だ。魔法がかけられたような極上の体験を、直接味わうことは叶わない。
【画像】「史上最高」のロード・ポルシェ 718スパイダー RS 極上のオープン・ミドシップ 911 GT3 RSも 全133枚
他方、その対極にある極少数の人にとっては、自慢のコレクションを構成する1台に過ぎないかもしれない。自身を満足させる特別なポルシェだとしても、空調の効いた広いガレージに保管され、日光を浴びせることは殆どないはず。
9000rpmまで吹け上がる、4.0L水平対向6気筒エンジンの素晴らしさを考えると、許しがたい行為に思える。だが、それが現実だ。
レンシュポルト(レーシング・スポーツ)のイニシャル、RSを冠する718スパイダーは、これまでのポルシェを知っていると異端的な存在に感じられる。サーキット志向だった歴代とは異なり、ひたすらに公道での体験を追求したモデルだからだ。
ニュルブルクリンク・ノルドシュライフェのラップタイムではなく、ロードカーとして突き詰められている。これまでの同社のRSとは、対極的な1台だともいっていい。
ボディと一体のルーフはなく、18kgと軽いカンバス製ソフトトップを背負う。これにより、オープンエア・ドライブを楽しめても、ボディシェルの剛性は低下する。サスペンションとステアリングの精度には、陰りが出てしまう。
911 GT3 カップカーのエンジンを軽いミドシップへ
技術者のアンドレアス・ブロイニンガー氏率いるポルシェのGT部門は、これまでにもオープンボディを提供してきた。しかし、モデル名にRSが与えられることはなかった。恐らく、的を得ていない2文字だからだ。
718スパイダー RSのサスペンションは、718ケイマン GT4 RSよりソフトにチューニングされている。レンシュポルトには反するアプローチだといっていい。では、なぜ従来の枠を逸脱したRSを提供しようと決めたのだろうか。
「911 GT3 カップカーのエンジンを、できるだけ軽いオープントップのミドシップ・プラットフォームへ搭載することが狙いでした。それを達成したのが、これです」。2023年のドイツで開かれた発表会で、ブロイニンガーは力強く述べていた。
彼が目指したのは、最速のRSではない。最も楽しいRSだったとも付け加えた。
718スパイダー RSの開発へ携わった技術者チームは、911 GT3 RSの開発も同時並行で進めたという。それはスポーツカーの911を、ジャーマンメタルのように激しくシリアスに突き詰めたモデルだ。
結果的に718スパイダー RSは、その緊張感を逃がす、バラードのような存在になったのかもしれない。コーナーリングスピードをキリキリに追い求めるのではなく、心の底から楽しめるポルシェとして。
加えて、高回転型の自然吸気エンジンは、時代の変化で今後は量産が難しくなる。思い切ったRSをリリースするのは、今しかなかったのだろう。
718ボクスター GTSと911 GT3の魅力を融合
前置きが長くなったが、2023年のアルプス山脈で、718スパイダー RSは胸が打たれるほど素晴らしい走りを披露した。アスファルトの傷んだグレートブリテン島で、同じくらい楽しめるのか疑問を抱いたが、完全に杞憂だった。
718ケイマン GT4 RSよりサスペンションは優しくても、通常の718ボクスターより車高は30mmも低い。トレッドは拡幅され、ネガティブキャンバーは強い。沢山のボールジョイントで結ばれてもいる。間違いなく、活き活きとしている。
この島国の道を、完璧に受け入れられるわけではない。それでも、GT4 RSとは比較にならないほど寛容。乗り心地がしなやかだとは表現できないものの、ガツンというノイズは聞こえてこない。
マナーはアグレッシブだが、手を焼くほどではない。速度域が上昇するほど、身のこなしには落ち着きが出てくる。タイヤは路面へ追従し、確実に掴み続ける。
718ボクスター GTS級のしなやかさに、911 GT3級の痛快なステアリングとパワー感を融合させつつ、世界最高水準のエンジンをシャシー中央に搭載したポルシェ。それが718スパイダー RSだと表現できる。
連続するカーブへ意欲的に侵入すると、GT4 RSより身のこなしはエレガント。ドライバーには一層のフィードバックが伝わり、楽しさも比ではない。
ダンパーには2段階の設定がある。デフォルトはソフト側だが、滑らかさと姿勢制御のバランスは秀抜。ハード側へ切り替える必要性は、まったくない。
RSを冠した史上最高のロードカーの1台
もちろん、レーシングカー由来の4.0Lフラット6は、フェラーリ製ユニットにも劣らぬ魅力で満ちている。レッドラインが迫るほど、張り詰めた吸気音が、胸が苦しくなるような勢いで高まる。
7速デュアルクラッチATが鋭くシフトアップすると、その音響で再びドライバーは包み込まれる。今購入できるポルシェの中で、最もドラマチックでスリリングなモデルだといっていいだろう。
最速ラップタイムを狙っていなくても、コミュニケーション力とレスポンスは確かに「RS」級。つまり、RSを冠した史上最高のロードカーの1台だ。
ポルシェ718スパイダー RS(英国仕様)のスペック
英国価格:12万3000ポンド(約2460万円)
全長:4417mm
全幅:1994mm
全高:1252mm
最高速度:307km/h
0-100km/h加速:3.4秒
燃費:7.7km/L
CO2排出量:294g/km
車両重量:1410kg
パワートレイン:水平対向6気筒3996cc 自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:500ps/8400rpm
最大トルク:45.8kg-m/6750rpm
ギアボックス:7速デュアルクラッチ・オートマティック(後輪駆動)
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みんなのコメント
ただ走行性能やバランスはやはり911が最高。
911を超える車は作らないポルシェだからしょうがない。
ただし唯一、GTエンジンを積んで唯一、屋根が開く車はこれだけ✌️
ガツンと走る車では無い
オープンにしてたまにはちょいちょい走りに気合いを入れるくらいで良い車です