2022年、多くのファンを熱狂させたグループCカー「ポルシェ956」は40周年を迎える。これを記念したイベントが、8月9日にドイツで開催され、輝かしい戦績を収めた数々のマシンとレジェンドドライバー、名エンジニアが集結した。ここではその模様をレポートする。(Motor Magazine 2022年10月号より)
栄光の歴戦の雄、ポルシェ956&962が勢ぞろい
1982年、FIAはグループ6に代わり、排気量無制限、エンジン形式自由ながら、総使用燃料量を定めたグループC規定を施行。それらのマシンを対象にル・マン24時間と各国での1000kmレースからなるWEC(世界耐久選手権)がスタートする。
●【くるま問答】ガソリンの給油口は、なぜクルマによって右だったり左だったりするのか
その牽引役となったポルシェ956の誕生周年を祝い、ドイツ ライプツィヒのポルシェエクスペリエンスセンターで、ポルシェミュージアム主催のワークショップが催された。
会場にはミュージアムが所蔵する82年のル・マン優勝車956-001、年のニュル1000kmなどで優勝しシリーズチャンピオンに輝いた956-005、北米IMSAの規定に合わせて改良され、後の962Cのもとになった962-001、87年のル・マンで優勝した962-006、PDKを搭載しドイツ国内選手権のタイトルを獲得した962-009、そしてヨーストの手で90年のル・マンに挑戦した962-015と、由緒ある6台のマシンが持ち込まれた。
さらにすごいのが、956&962でル・マン3勝、デイトナ24時間3勝、WEC王座2回獲得を誇るレジェンド、デレック・ベル氏を筆頭に、ワークスを支えたヨッヘン・マス氏、ハンス・ヨアヒム・シュトゥック氏、90年代初頭にクレマーなどで962Cをドライブしたベルント・シュナイダー氏、そして17年のル・マン・ウィナーのティモ・ベルンハルト氏が来場。それぞれマシンに乗り込みデモランを披露した。
さらにポルシェレース部門のチーフエンジニアで956の生みの親でもあるノルベルト・ジンガー氏、長年エンジン部門を担当してきたヘルムート・シュミッド氏が加わったトークセッションも設けられるなど、実に充実したプログラムとなっていた。
当時の関係者だからこそ語れる秘話に興味津々
これまでさまざまな媒体でその誕生、開発過程は語りつくされてきたと思っていたが、興味深かったのは2.65L空水冷フラット6ツインターボ(空冷エンジンをベースにヘッドのみ水冷としたため、こう呼ばれている)の開発秘話だ。
シュミッド氏は決して燃費的に有利とは言えないフラット6のカギは、早くからボッシュの電子制御システムを導入したことだと語る。当初は国ごとに異なるガソリンへの対応に苦慮し、944ターボに入れて走らせたデータを反映したこともあったそうだが、マクラーレンTAGターボで使用されたモトロニックMP1.7を投入することで、フレキシブルなセットアップができ、安定した強さを発揮するようになったという。
そうした努力の結果、82年と85年のスパ1000km決勝におけるデータを比較すると、7%の出力向上と23%の燃費向上を実現できたとジンガー氏も胸を張る。
PDKの話も興味深かった。テスト、レースを積極的に担当したシュトゥック氏によると、当初は通常のシフトレバーだったが、すぐにハンドル上にアップとダウンのボタンが付き、F1のセミオートマよりも素早く手を離さずにクラッチレスでシフトできるようになったという。
一方でベル氏は15kgの重量増と、それに伴うトラブルがお気に召さなかったようで、彼らの「今だからこそ話せる」生の声を聞けたのは新鮮だった。
そんな956や962がグループCで成功を収めた理由についてベル氏は「常に進化していたことだ。一度として同じマシンだったことはなかった」と振り返る。
そしてもうひとつ大事なことがあるとジンガー氏は付け加える。「今はテレメトリーのデータがすべてだが、当時はドライバーからの情報しかなかった。彼らは常に適切な印象を語ってくれたから正しい方向に進めたんだ。我々の成功はドライバーのおかげだ」
2023年、ポルシェは963でル・マンに帰ってくる。彼らが再びグループCやLMP1の時のような黄金時代を築けるのか?今回の話を聞いて、ますますその動向が気になるようになってきた。(文:藤原よしお/写真:藤原よしお、ポルシェジャパン)
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みんなのコメント
レーシングポルシェの伝統を受け継ぎ、ドライバーに優しく世界中のあらゆるサーキットあらゆるレースで勝利してきた。
スプリントも耐久も最速でなおかつ美しい956シリーズのようなレースカーは二度と現れないだろう。
ジャガーの判官贔屓的な人気の影で、速さはグンバツだった。