インディカー・シリーズで2005年からの7シーズンを戦い、2008年にツインリンクもてぎで女性として初めてのインディカー優勝を記録したダニカ・パトリック。彼女は2012年からストックカーに転向していたが、昨年の最終戦で引退を発表。
ファンに感謝の気持ちを伝えるためにNASCARデイトナ500とインディ500、両シリーズ最大のレースに出場してヘルメットを脱ぐことを決定した。
誰が名付けたか、彼女の引退興行2レースは“ダニカ・ダブル”と呼ばれるようになった。2月に行われたデイトナ500に彼女は昨年まで所属していた強豪チームからではなく、新興チームから出場。予選28位/決勝35位と少々悔しい内容とリザルトでストックカーに別れを告げた。
あれから2カ月半、ついにダニカにとってキャリア最後のレース、インディ500を走る時がやってきた。一昨年は第100回目の開催、2017年はF1チャンピオンのフェルナンド・アロンソが参戦、そして今年はダニカがエントリー。
インディアナポリス・モータースピードウェイはチケットやグッズが売れるだろうと大歓迎だが、「6年間もインディーカーに乗っていない彼女が、シリーズでも最速の部類に入るレース=インディー500に出てまともに走れるのか?」という疑問は当然湧く。彼女自身にも不安はあったに違いない。
しかし、ダニカには「やれる!」と自信を持っていいだけの実績がある。デビューイヤーが予選、決勝とも4位。女性初のリードラップを記録して一躍スターダムへ躍り出た。
あの年はどのサーキットに行ってもダニカフィーバーが凄かった。インディ2年目は10番手/8位。3年目は8番手/8位。4年目が5番手/アクシデントで22位。
5年目は10番手スタートから自己ベストとなる3位。その後も23番手/6位、25番手/10位と7回の出場でトップ3が1回、トップ5が2回、トップ10は6回。予選もトップ5が2回、シングル3回で、トップ10入りが5回もあった。
オーバルレースで活躍するには、いいマシンに乗るのが早道。ダニカはチーム選定の的確さで成功を掴んで来た。今回もその能力は見事発揮された。チップ・ガナッシ・レーシングにも話を持ちかけた彼女だったが、最終的にはエド・カーペンター・レーシング(ECR)に受け入れられた。
「私が自分でエドに電話して、どれだけ走りたいかを訴えた。それを彼は理解してくれた。私は良いクルマが欲しかった」と彼女はECR入りについて話した。
そしてプラクティスがスタート。今年のインディ500ではカーペンターたちの使うシボレーエンジンがホンダエンジンに対してパワーのアドバンテージを持っていると判明した。
インディ500制覇だけを目標にインディカーのキャリアを続けてきていると言っていいカーペンターは、新型エアロをまとうこととなった今年のマシンでもセッティングを見事にチューニングし、ポールポジションを獲得。ダニカも予選7番手という素晴らしいリザルトを手に入れた。
緊張していたと語る予選アテンプト
ECRは彼女のために佐藤琢磨のロングビーチ優勝を支えたベテラン・エンジニアのドン・ハリデイを雇い入れた。ダニカは徐々にだか確実にマシンに慣れ、インディのコースを走る感覚を取り戻していった。
そして迎えた予選、ダニカは3度のインディ500優勝を誇るエリオ・カストロネベス(チーム・ペンスキー)よりひとつ、4度のシリーズ・タイトル獲得とインディ500での1勝を記録しているスコット・ディクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)よりふたつ前のスターティングポジションを掴んだ。
ガナッシで走ることになっていたら、ディクソンのチームメイトのエド・ジョーンズのように苦戦を強いられていたかもしれない。彼は昨年3位フィニッシュしたドライバーだが、今年の予選順位は29位と後方だった。
「予選アタックは230m以上のスピードを出して走るものだけれど、退屈なものになればいい。そう言ってきて、実際にそうなった。ありがたいことと思う」
「スピードが上がれば上がるほど、ダウンフォースをどれぐらいつけるかなど、マシンのバランスを取るのが難しくなる。繊細なセッティングが必要。それをエンジニアのドンがキッチリやってくれた。おかげでマシンは本当に安定していた」
「彼も私もパイロットだから、飛ぶ時はいつも緊急事態に備える。レーシングカーの中でも同じことをやっている。アンダーステアやオーバーステアに常に備えている。幸運なことに、アタックはとても良いものにできた。そして今、予選が終わってホッとしている。実は結構緊張していたから」とダニカは語った。
残すのはレースだけになった。彼女のキャリア最後のレースだ。ダニカはどんな意気込みでスタートに臨むのだろうか。
「まだ自分の考えはまとまっていない。あと1週間したらすべて終了。そういう考えが私の頭をよぎったこともあったけれど、まだ深く考えることはしていない。でも、引退後にまたレースがしたくなることはないと思う」
「期待に応えられない時に覚える不快感が本当に苦手だから。もちろん、プレッシャーを乗り越えていい仕事ができたとき、忘れられない感激を味わうことができるわけだけれど……。確かに、レースをやめても、懐かしく感じること、また体験したいと思うことはあると思う。でも、あの不快感だけは、もう私の人生には必要ない」と予選を終えた直後のダニカは語った。
月曜日のレース・モードでのプラクティス、ダニカは69周を走り込み、222.926mphのベストで19番手だった。トップはセージ・カラム(ドレイヤー&レインボールド・レーシング/シボレー)の226.461mph。
彼女の2人のチームメイトたちは、エド・カーペンターが223.573mphで14番手で、スペンサー・ピゴットが222.076mphで27番手。ドラフティングをどれだけ利用したかがスピードに大きく影響するため、ベストラップだけで仕上がり具合を判断することはできない。トラフィックの中でどれだけマシンが安定し、スリップストリームを使って前を走るマシンをパスできたか、そこが重要だ。
今年のエアロパッケージでは去年よりオーバーテイクが難しくなっていると言われる。去年を知らないダニカには、それが有利に働く……かもしれない。
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