『GSX-8S』と兄弟関係にあるフルカウルのスポーツモデル『GSX-8R』に試乗。アグレッシブな見た目とは裏腹に、そのエンジンフィーリングやハンドリングは、日常使いからツーリングまで難なくこなすオールラウンダーだった。
明確に手応えがあるというか、握り甲斐があるというか、クラッチレバーの操作力は重めで、調整機構もない。最初にネガティブなポイントとして指摘しておきたいのはそれくらいで、あとはひたすら爽快な時間をもたらしてくれたモデルが、このGSX-8Rである。
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◆スリムなボディで取り回しも気軽
試乗を行った日は、大半の場面で雨に見舞われることになったものの、それがさして苦にならない。シートに着座した時の足つきのよさ、太ももがフィットする燃料タンクまわりのスリムさ、車体を引き起こす際の身軽さといった要素のすべてが手の内にあり、ストップ&ゴーを繰り返してもストレスは皆無。205kgの車重は特別軽い部類ではないが、ひょいと跨って、すっと走り出せる気負いのなさが崩れることはなかった。
バーハンドルを備えるGSX-8Sに対し、セパレートハンドルのGSX-8Rは、そのセット位置がグリップ2本分くらい低く、やや前方にある。相対的には、前傾姿勢がより強くなるわけだが、ヒップポイントを基準にすればそれでも随分と高く、また絞りや垂れも緩やかなため、上体を伏せるような感覚はまったくない。アップライトと評しても差し支えはなく、シート/ハンドル/ステップの位置関係がもたらすライディングポジションのしっくり具合は、スズキならではのナチュラルさだ。
◆2気筒ながら振動が少なくリニア感の強いエンジン
こうした好印象をエンジンが後押しする。270度→720度→270度の不等間隔爆発を繰り返すの水冷4サイクル並列2気筒は、低回転から高回転までコロコロとよどみなく吹け上がり、レブリミッターにあたるほどの回転域でもそれが続く。一般的な2気筒なら鼓動のレベルを超え、雑味や振動に転化される領域に至ってなお、伸びやかに回っていく。
このフィーリングが、「スズキクロスバランサー」と呼ばれる2軸の独自機構によってもたらされているのは明らかながら、だからといって、高回転域の多用を強要するものでもない。
4000rpmから5000rpmあたりを行き来させた時のリニア感が素晴らしく、右手の開度に速度と車体姿勢と旋回力がきれいに追従。街中もさることながら、ワインディングを流した時の自由自在感は格別だ。
エンジンの出力特性が切り替わる「スズキドライブモードセレクター」には、A(アクティブ)/B(ベーシック)/C(コンフォート)の3パターンが用意され、名称のイメージ通りにスロットルレスポンスが変化していく。その差異は、はっきりと体感できるものではあるが、Aだからといって敏感すぎず、Cだからといってダルすぎもしない範囲にあり、80PS/8500rpmの最高出力と7.7kgf・m/6800rpmの最大トルクを、いかようにも引き出すことができる。
◆どんなシチュエーションでも失われない豊かな接地感
このあたりの各種味つけは、基本的にGSX-8Sと同等ながら、大きく差別化が図られているコンポーネントもある。それが前後サスペンションだ。GSX-8SがKYB製なのに対し、GSX-8Rは、SHOWA製(日立アステモ)を採用。とりわけ、フロントに装備されたSFF-BP(セパレートファンクションフォーク・ビッグピストン)倒立フォークの効果は大きく、倒し込みの俊敏性、バンク時の安定性、路面の追従性がそれぞれ向上するなど、上質さとスポーティさがワンランク上でバランスしている。
フレキシビリティに富むトルクフルなエンジンと、作動性に優れたしなやかなサスペンション。これらが組み合わさった時に得られる美点が、どんなシチュエーションでも失われない豊かな接地感だ。右手を捻る。回転が上昇する。リアタイヤが路面を蹴る。この一連の操作にトラクションがきれいに連動し、それが途切れることも逸脱することもない。
路面コンディションが悪くなればなるほど、たとえば今回のように雨脚が強くなればなるほど、GSX-8Rは躍動。その安心感と安定感に身を任せて、車体の鼻先を右へ左へとスイスイと泳ぐように向けることができる。
GSX-8Rのエンジンと車体は、GSX-8Sどころか、『Vストローム800』とも多くの部分を共有する。得意とするスピードレンジも走るステージも求められる機能も異なるのに、よくもまぁ、これだけ違和感がないどころか、高次元でまとめたものだと感心する。すべてがほどよく、しかしデザインとマインドは丸くなりすぎず、尖った部分を残していたい。そういうニーズに応えてくれるモデルである。
■5つ星評価
パワーソース ★★★★
ハンドリング ★★★★★
扱いやすさ ★★★★
快適性 ★★★★
オススメ度 ★★★★
伊丹孝裕|モーターサイクルジャーナリスト
1971年京都生まれ。1998年にネコ・パブリッシングへ入社。2005年、同社発刊の2輪専門誌『クラブマン』の編集長に就任し、2007年に退社。以後、フリーランスのライターとして、2輪と4輪媒体を中心に執筆を行っている。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム、鈴鹿8時間耐久ロードレースといった国内外のレースに参戦。サーキット走行会や試乗会ではインストラクターも務めている。
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