ご存じのとおりプレミアム御三家には、それぞれ「AMG」「M」「RS」といった、特別仕立てのハイパフォーマンスモデルが用意される。ここでは、AMGのルーツである3ボックスに高性能エンジンを搭載した「C63S」、初代M3や02ターボの伝統を引き継ぐ最もコンパクトなMモデルである「M2」、アバントから始まったRS、ということで「RS4アバント」と、ボディタイプやカテゴリーは異なれ、それぞれの歴史を紐解く代表的なモデルを俎上にあげてみた。
目指すベクトルが異なるMBAを代表する特殊部隊
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MとAMGとRS。ライバルとして語られるドイツプレミアム3ブランドのハイパフォーマンス部門だが、実際のところはいずれも目指す地平、クルマの仕立て方、用いる技術等々はすべてまったく異なっていて、まるで互いのことなど見てはいないかのようだ。
このカテゴリーの先駆者的存在がBMWのMである。1985年に投入したM3、M5こそ、量産車をベースにコンペティションで培った技術とノウハウを注ぎ込んだ高性能モデルというジャンルを打ち立てた金字塔なのである。
今やSUVにまで広がるMモデルのラインアップの中でも、M2コンペティションは古き良き時代の姿を彷彿とさせる存在だ。2シリーズクーペの車体にMモデル専用のS54型3L直列6気筒ツインターボエンジンを押し込み、極太タイヤを履かせるべくフェンダーをワイド化するという手法はまさにオールドスタイルだが、それだけにスポーツマインドを忘れないドライバーの気持ちを大いに駆り立てている。
実際、走りっぷりも期待を裏切らない。可変ダンピング機構の備わらないサスペンションはビシビシと容赦なく突き上げてくるが、代わりにハンドリングはこれぞまさしくニュートラルステア。ほとんどロールを感じさせることなく、まさに意のままにコーナーを切り取っていくことができる。
M社謹製のエンジンは剛性感、芯の出方が半端なく、まるでレーシングユニット。回転数が高まるごとに移ろう音色、めくるめくパワー感に陶酔させられてしまう。
もっとも、そんなスパルタンな仕立てだけに雨のワインディングロードでは不用意に踏み込めばすぐに姿勢が乱れ、トップエンドまで回すのは相当な勇気が要った。でも、それすらも刺激的で頬を緩ませる。プリミティブだけど、走りの歓びの基本は、やはりコレだよと実感させてくれるのだ。
今年でちょうと25周年というアウディのRS。最初のモデルがRS2アバントだったということから、すでに目指したのがMモデルとは別の地平だったと分かる。あくまでも一般道を速く、快適に移動する。しかも、高い実用性を美しいデザインに包んで……というのがアウディのRSなのである。
現代のRS4アバントも、その精神性は当時と変わっていないようだ。V型6気筒2.9Lツインターボエンジンの最高出力は450psにも達し、環境が許せば0→100km/hを4.1秒でこなすハイパフォーマーでありながら、乗り味は上質そのもの。サスペンションは路面の凹凸をしなやかに受け止め、エンジンも至極滑らかに回って豊かなトルクを供給する。
それでいてワインディングロードに入れば、走りは俊敏。これはクワトロともちろんトルクベクタリングを行うスポーツデフ、左前と右後ろ、右前と左後ろという対角線上のダンパーを連結して姿勢変化を抑制するダイナミックライドコントロールといった満載のハイテクに拠るところが大きい。正直、車重は意識させられるし、挙動の先読みがしにくいなどの弊害もあるのだが、そのある意味で人間の意思の先を行くような操縦性も、またRSモデルの個性であり、好きな人には堪らない全能感的な魅力であることは確かなのだ。
プライドを賭けた熾烈な高性能車バトル
M、RSと較べるとAMGの成り立ちは面白い。何しろ元々は独立したチューナーであったAMGが、メルセデス・ベンツとのまずはレース、続いて市販車においての密な協力関係を経て、最終的に今のかたちに至ったのだから。
最近のラインアップを見ると、AMG43シリーズの登場によって、V型8気筒4Lツインターボエンジンを積むAMG63シリーズは、究極のハイパフォーマンスを目指すモデルへとますます先鋭化を強めている感が強い。メルセデスAMG C63Sセダンは、まさしくそんな文脈にあるモデルと言える。
何しろ、その駆動方式はあえてFRのままとされている。さらに、ESPの介入の度合いなどを選択できるAMGダイナミクス。そしてESPオフの際に効きを9段階に調整できるAMGトラクションコントロールなど、AMG GT譲りの電子制御デバイスの搭載で、ストイックに走りにこだわる姿勢を鮮明にしているのだ。
それだけにこのC63S、以前に試したサーキットではその速さ、そしてフェイスリフトで激変して素晴らしくコントローラブルになった操縦性に大いに感心させられたものだが、雨の一般道では非常に手ごわかった。何しろサスペンションはハードで常にビシビシ突き上げてくるし、トルクが分厚くしかも出方が急激だから、不用意にアクセルを踏み込むとすぐにスキッドして大いに冷や汗、脂汗をかかされたのである。
しかし開発陣にとっては、それも織り込み済みというところに違いない。C63Sはそうした部分をある程度犠牲にしてでも、ドライのサーキットでの速さとコントロール性を究め、ライバル達と戦い、そして撃破することに注力したモデルなのだ。
最初に書いた通りこの3ブランド、ドイツ生まれで目指すのはハイパフォーマンスという点こそ共通しているが、そのための流儀は各々まったく異なる。それなのに結果として同じような所に行き着き、ライバルとして火花を散らしているから面白いのだが、実際のところこの三者、本当は互いのことを見ていないわけではなく、強烈に意識しているからこそ、あえて違う道を行っているに違いない。
戦っているのは速さ、あるいは走りの充足感だけではない。そこには各々のプライドも賭けられている。選ぶ側としてもスペックや価格だけでなく、そうした部分までしっかり吟味することが、これらのモデルと対峙する時のあるべき態度というものだろう。
【Specification】MERCEDES-AMG C63S
■全長×全幅×全高=4755×1840×1430mm
■ホイールベース=2840mm
■車両重量=1790kg
■エンジン種類/排気量=V8DOHC32V+ツインターボ/3982cc
■最高出力=510ps(375kW)/5500-6250rpm
■最大トルク=700Nm(71.4kg-m)/2000-4500rpm
■トランスミッション=9速AT
■サスペンション=前4リンク、後マルチリンク
■ブレーキ=前後Vディスク
■タイヤサイズ=前245/35R19、後265/35R19
■車両本体価格(税込)=14,330,000円
【Specification】BMW M2 COMPETITION
■全長×全幅×全高=4475×1855×1410mm
■ホイールベース=2695mm
■車両重量=1630kg
■エンジン種類/排気量=直6DOHC24V+ツインターボ/2979cc
■最高出力=410ps(302kW)/6250rpm
■最大トルク=550Nm(56.1kg-m)/2350-5230rpm
■トランスミッション=7速DCT
■サスペンション=前ストラット、後5リンク
■ブレーキ=前後Vディスク
■タイヤサイズ=前245/35R19、後265/35R19
■車両本体価格(税込)=9,180,000円
【Specification】AUDI RS4 AVANT
■全長×全幅×全高=4780×1865×1435mm
■ホイールベース=2825mm
■車両重量=1840kg
■エンジン種類/排気量=V6DOHC24V+ツインターボ/2893cc
■最高出力=450ps(331kW)/5700-6700rpm
■最大トルク=600Nm(61.2kg-m)/1900-5000rpm
■トランスミッション=8速AT
■サスペンション=前後ウイッシュボーン
■ブレーキ=前後Vディスク
■タイヤサイズ=前後275/30R20
■車両本体価格(税込)=12,180,000円
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みんなのコメント
AMGのこの特性はキツいな。
日常も含めて使用するなら、こんな車には乗りたくない。
Mはバンパーとボディの隙間が空き過ぎで、しかも左右でその隙間の幅が違ったりするから興醒めだ。
この比較なら、RS一択かな。
誤植です。