目に見えるわかりやすい違いはエクステリアに
750Sはマクラーレンのラインナップにおいて、最速の使命を背負ったモデルだ。
【画像】マクラーレン750S試乗と公式フォトの数々をみる 全152枚
それすなわち、スポーツカーブランドとしての背骨を担う存在ということになる。アルトゥーラが先進性を、GTが多様性を趣旨とする中、看板を背負って最前線を突っ走るのが務め……と、その任は重い。
マクラーレンは750Sを720Sのアップデート的な位置づけとし、部品単位で見れば30%程度が更新されているという。彼らのエンジニアリングの要であるキャビン部のカーボンタブにも変更はない。でも、変更数なんて数えようによって盛りようがあるのも確かだ。
そこを正直に申告してしまうのがマクラーレンのクルマづくりの生真面目さということになるのだろう。そう擁護したくなるほどに、750Sは全てがマイナーチェンジという尺度では説明できないほどに変わっていた。筆者にいわせれば、これはフルモデルチェンジに等しいと思う。
共通するのは空力特性の改善に伴うディテールの変更だ。特徴的なフロントマスクは前面形状が抵抗を減らすべくより滑らかになり、フロントダクトやサイドインテーク周りの形状も最新の解析成果が盛り込まれたものとなっている。
そこからリア側に向かうと、有効面積を20%拡張したカーボン製のアクティブリアウイングや、ボトムのエアフローデザインに寄与するハイマウントのエキゾーストシステムなど、750S独自の要素が見て取れるが、これらは765LTの知見が活かされたものだ。これらによってダウンフォースの総量は720Sに対して5%増強されているという。
さまざまな軽量化
750S進化の大きなポイントは前述の空力に加えて目に見えにくいところにもある。それは軽量化だ。
そもそも720Sは同級のライバルに対して100kg以上は異なる、その軽さを瞬発力や旋回性に置き換えて独自のダイナミクスを築いていた。750Sでは更にシート/エキゾーストシステム/ホイール/ガラス/インパネ周り/サスシステムに至るまで細かな削減を試み、仕様によっては最大30kgの軽量化を果たしたという。ちなみにクーペの乾燥重量1277kgは、GT3やGT4カテゴリーのレース車両にも比肩する。
前述の通り、750SのシャシーのコアとなるカーボンタブのモノケージIIは720Sと同じ。サスペンションはオールアルミのダブル・ウイッシュボーンと変わりはない。
一方でマクラーレンがMP4−12Cの代からモンローと共同開発する独自のサスペンションシステム「プロアクティブシャシーコントロール」は第3世代へとスイッチし、ダンパーコントロールを担うアキュムレーターの内圧チューニングとスプリング構造の変更、レートの最適化など、パフォーマンスに合わせた変更が加えられている。
内装はアルトゥーラで提案された新たな意匠がこの750Sでも継承されている。ドライブモードに応じて電動で可変していたメータークラスターはステアリングコラム固定式となり、ドライビングポジションに関わらず視認性がしっかり確保されると共に軽量化にも寄与するよう改められた。
従来、センターコンソールに配されていたドライブモードのセレクターはクラスターの左右に移され、走行中やグローブ着用時の操作もしやすいノブ型にデザインされている。
キャビンデザインやインターフェースは720Sと変わらない。断面形状まで考え尽くされた細身のステアリングやその奥に据えられるパドル/ウインカーレバーなどの操作性、前方のみならず後側方にまで気遣われた視界……と、世界一と太鼓判を捺せる運転環境はしっかり引き継がれている。
試乗ケース1 公道でスパイダー
スパイダーのルーフ開閉システムは720Sと同じで、開閉に要する時間は約11秒と、信号待ちのひと時でもボタンひとつで姿を変える。
その屋根を開けて走ると気づくのは、音色が整えられたと共にハイトーンとなったエキゾーストノートだ。720Sでは音色に混じっていたガ行の濁音系の音が影を潜め、回転上昇とともにクォーンと高音質が響き渡るようになった。
ハイマウントのステンレス製エキゾーストシステムはサウンドにも気遣って設計されたと聞くが、その変化は小さからぬものといえるだろう。4LのV8ツインターボM840Tユニットもハード的な変化はなくも、吹け上がりのシャープネスが一段と高まったように感じられるのは、ECU的な変化もさることながら、やはりエキゾーストから受け取れる印象によるところも大きそうだ。
同様に、普段乗りのレベルでもその変化がしっかりと感じられるのは足回りの動きだろう。低負荷域でもGの変化が車体の動きにしっかり現れ、自らの操舵や制動といった操作がより色濃く姿勢に反映されるようになった。
情報が濃くなったぶん、クルマとドライバーとの接点も密になったと感じられる。そして乗り心地はこういうクルマとして著しく洗練されたものになった。バネ下の動きの精緻さや足回りからの音振の小ささは、ポルシェ911を引き合いに出さねばというほどのレベルに達している。身の軽さから推すれば物量で音振を封じ込めたわけではないだろうから、アコースティック的には不利なカーボンタブでこの快適性は素直に素晴らしいと思う。
試乗ケース2 クローズドコースでクーペ
クローズドコースではカーボンフルバケットや軽量鍛造ホイール&カップタイヤ、強化ブレーキやロールケージ等が組み込まれたトラックパッケージを装着したクーペに試乗したが、公道試乗で感じた饒舌な動きはサーキットドライブでも健在だった。
さりとて不安になるほどの大きな動きではなく、ロール量はしっかり抑えながらダイアゴナル状態では対角的接地をしっかりとドライバーに伝えてくる。柔らかくはないタイヤをムニュッと潰しながら後輪でねっちりと蹴っていく感触は、720Sより明らかに艶めかしい。
絶対的に軽いのに軽薄な動きではないというのは、まさにプロアクティブシャシーだからこそのフィーリングだろう。
ブレーキは絶対的な制動力だけでなく、踏力に応じたリニアリティも酷使によるストローク変化の小さいロバストネスもしっかり備わっている。750SのブレーキシステムはAPレーシングとの共同開発だが、その仕上がりはライバルに対してもまったく負けていない。というより、このブレーキがなければサーキットを攻めるのは難しいとさえ思わせる。
コース的には様々なクルマで体験している場所ながら、それらの経験と比べてもコーナーの迫り方が尋常ではない。これは軽さに加えてギア比をファン・トゥ・ドライブのためにローギアード化した成果といえるだろう。
750Sはその性能向上を、より一般的なシチュエーションで享受できるように企てられた一方で、コーナリングマシンとしての適性も際のキワまで高められている。内燃機のみで走る、そして電子制御の依存度が低い、バンカラなピュアスポーツとして自信をもって推せる1台に仕上がっていた。
試乗車のスペック
マクラーレン750S
価格:3930万円(税込 オプションなし)
全長×全幅×全高:4569×1930×1196mm
最高速度:332km/h
0-100km/h加速:2.8秒
燃料消費率:12.2L/100km
CO2排出量:276g/km
車両重量:1277kg
パワートレイン:V型8気筒3994cc
使用燃料:ガソリン
最高出力:750ps/7500rpm
最大トルク:81.58kg-m/5500rpm
ギアボックス:7速オートマティック
タイヤサイズ:245/35R19(フロント)305/30R20(リア)
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