国土面積が世界中で61番目という小さな島国でありながら、世界第3位の自動車市場を持ち、8社の自動車メーカーがひしめく日本。メーカー同士の熾烈なシェア争いのなかで、製品を差別化すべく生まれたさまざまな機能のなかには、その奇抜さからユーザーに浸透せず、短命に終わったものも少なくない。
ただし、改めて振り返ってみると、合わなかったのはその時代性だけであって、生まれてくるタイミングさえ違えば、異なる結果になったのではと思わせる“トンガリ機能”もある。その証拠に同種の機能を欧州メーカーが採用する、なんて逆転現象もみられるのだ。
時代先取りしすぎ!? 奇抜すぎ!? 国産車の「トンガリ機能4選」
そんな、早すぎる登場が災いしてか、イマイチ普及しなかった国産車のトンガリ機能を振り返ってみた。
文/藤井順一、写真/トヨタ、ホンダ、マツダ、三菱自動車、FavCars.com
屋根があったら入りたい! 早すぎた「電動ルーフトップテント」
ボンゴフレンディのオートフリートップ。開発はドイツに本社を持つサンルーフメーカー「ベバスト」社の日本法人が担当。マツダとは世界初の電動キャンバストップの開発でも協業
いまや車中泊やキャンピングカーはSNSや動画配信の人気コンテンツとなっているが、人気アウトドアブランドの「パタゴニア」や「ザ・ノースフェイス」さえ知る人ぞ知る程度の認知度だった1995年に画期的なキャンプ仕様のクルマが登場した。「マツダ・ボンゴフレンディ」だ。
マツダのミニバンシリーズ「ボンゴ」の最新モデルとして誕生した同車には、機能的な目玉として「オートフリートップ」が設定されていた。これはルーフ部が電動で持ち上がり、生まれたスペースをテントとして活用する“ポップアップルーフ”と呼ばれる機能で、以前より一部キャンピングカーなどに見られたカスタマイズだったが、それを市販モデルに搭載したのだ。
当時、アメリカ市場を強く意識したクルマづくりを進めていたマツダは、多目的車を意味する「MPV(Multi Purpose Vehicle)」を筆頭に、ミニバン市場にも注力し始めていた時代。大人2人が横になれるスペースを確保したテントをルーフに搭載したボンゴフレンディの革新性は、日本のキャンプ場ではまだ物珍しく、電動開閉するギミックもサンダーバード世代のオヤジ心をくすぐったのか、オートキャンプ黎明期に大きなインパクトをもって迎えられた。
これを黙って見ていなかったのが、当時ミニバンメーカーを標榜しはじめていたホンダ。走りのミニバンとして1994年に誕生した初代「オデッセイ」に、FRP製のポップアップルーフを装備した「フィールドデッキ」を1996年に追加設定した。3列シートでありながら全高が低めなオデッセイは、ハイルーフ車のような全高がやや気になるボンゴフレンディよりもポップアップルーフとの相性が良かった。
さらにホンダは1998年、スクエアなデザインで5ナンバー最大クラスの室内空間を誇った「ステップワゴン」にも「ステップワゴン・フィールドデッキ」を設定。オデッセイ同様、FRP製のポップアップルーフには大人2名が就寝できるスペースと、昇降口を前と後の2カ所に設け、1人が就寝中にもう1人の昇降を可能とするなど、使い勝手も良好だった。
このように、90年代に一部メーカーから相次いで登場したポップアップルーフ搭載車だが、安全性や採算性、ユーザーニーズなどの問題なのか2005年前後には姿を消してしまった。
その後訪れたキャンプやアウトドアブーム、現在に続く「トヨタ・ランドクルーザー300」や「スズキ・ジムニー」の爆発的な人気を考えると、これらポップアップルーフ搭載車も今登場したら、90年代とは違った結果となったかもしれない。
運転中は作動してるのかわからないが、何だかスゴそうな「アクティブスポイラー」
アクティブ・エアロ・システムを搭載したGTO。フロントスポイラーは約50mm下方に張り出すことでフロントの揚力を低減、リアスポイラーは角度を14度増加させてダウンフォースを確保した
国産車が本格的なパワーウォーズへと突入した80年代後半。エンジン出力の向上とともにメーカーが注力したのはエアロパーツを始めとする空力特性だ。中でも7代目「日産・スカイライン」に搭載された「GTオートスポイラー」は、車速に連動してフロントスポイラーが可動する世界初のシステムだった。
同種の機構としては、1988年に発売された「ポルシェ・911(964型)」に搭載された電動リアスポイラー(車速80km/h以上になると、リアのエンジンフードがせり上がり走行安定性を向上させる)が存在していたが、70km/hに達するとスポイラーがバンパーからせり出し、50km/h以下になるとバンパーに自動で格納される機構は同社が世界初採用。車体前方の揚力を抑え、空気抵抗も低減させるなど、実証された空力特性とともに、自動にもマニュアルでも操作可能だった可変スポイラーは大きな話題となった。
電子制御やオートマチック機構といえば負けていないのが往時の三菱自動車。1990年デビューのフラッグシップスポーツ「GTO」のホットバージョン、ツインターボモデルには、さらに進化したアクティブスポイラー機構が搭載されていた。「アクティブ・エアロ・システム」と命名された同機構は、車速が80km/hになるとフロントのスポイラーがダウンするのと同時に、リアのスポイラーの角度がアップし、走行安定性が向上。ハイパワーなエンジンやグラマラスなボディラインとあわせ、GTOを象徴する装備だった。
この他、国産車では1993年の「トヨタ・スープラ(JZA80)」も車速に応じて自動で作動、格納される「アクティブスポイラー」をオプションで設定していた。まさに国産ハイパワー競争最盛期を彩ったアクティブスポイラーはその後、空力特性の高いボディデザインの研究や、電動機構がもたらす重量アップやコスト増などとの兼ね合いから、国産車では過去の遺産となっていった。
だが、元祖である「ポルシェ・911」や「ポルシェ・ボクスター」、「アウディ・TT」、V6エンジンとモーターを搭載した新世代のハイブリッドモデル「フェラーリ296GTB」など、欧州の自動車メーカーの一部にはアクティブスポイラーはいまだ搭載され続けており、車速に併せて適切に形状を調整するエアロパーツの機構は、時代遅れとは言い切れないものがある。
2021年に惜しまれつつ絶版車となった「ホンダ・S660」には、リアに可動式のスポイラー「アクティブスポイラー」がオプションで設定されていたが、そういう意味でも同車は貴重な存在だった。
ルーフベンチレーションは競技志向か、“フル装備”未満の苦肉の策か
CR-Xのルーフベンチエーションは、ルーフのやや後方に配置。車内からレバーを引いて、通気口を作動し、風量の2段階の切り換えや風向の調節が可能だった
重量増やエンジンのパワーロスへの配慮からエアコンが取り払われ、安全面から窓を締めきって走る夏場のレースでは、車内の温度は灼熱と化す。これを軽減するため、モータースポーツ向けの競技車両には、窓以外の部分から外気を取り込んだり、車内の熱気を逃がしたりするベンチレーション(通風・換気)が搭載される場合がある。
このようなベンチレーションは、一般のクルマにはまずお目にかかれない代物だが、かつて国産車にはこのベンチレーションを装備した市販モデルがあった。ホンダのコンパクトスポーツ「CR-X」だ。
1983年にリリースされた初代「CR-X」は、通称“バラード”とも呼ばれ、車両重量わずか800kg(1.5リッター)の軽量コンパクトなボディは、切れ味鋭いハンドリングで兄弟車の「ホンダ・シビック」と共にホンダのスポーツイメージの立役者となった。
その初代CR-Xにオプション設定されていたのが「ルーフ・ラム圧ベンチレーション」で、文字通りルーフ後方に設けられた開閉式の空気穴から、車内に空気を導入するという換気システム。当時のルーフベンチレーションといえば、「世界ラリー選手権」をはじめとするレーシングカーの専用設備。それをスポーティモデルとはいえ、市販車に採用してしまうのはレース活動に積極的だった、いかにもホンダらしい選択。
当時はパワステ・エアコン・パワーウィンドウを搭載したクルマを“フル装備”と呼んだ時代。ターゲットである若年ドライバーが、高価なオプションだったエアコンがなくても、快適に車内で過ごすためなのか、あるいはサンルーフよりも手軽な喫煙者向けの換気対策なのか、いずれにしても苦肉の策として生まれたのが、ルーフからフレッシュエアを取り込むこの装備だった。
残念ながら、このエアコンの代替設備と思しきルーフベンチレーションは、CR-Xがリリース翌年マイナーチェンジを受けた際にあっさりと廃止され、その後採用されることはなかった。
ただし、モータースポーツ出自のルーフベンチレーションは、90年代にWRCを席巻したスバルにより市販車に再び登場。1994年に登場した「インプレッサWRX STi」シリーズにオプションで設定されたほか、市販車ではないがインプレッサのライバル「三菱・ランサーエボリューション」には、メーカー直系のチューニング部門である「ラリーアート」から、競技車両向けのルーフベンチレーションキットも発売。
窓が開けられ、エアコンも搭載する市販車にとっては不要とはいえ、トヨタが今年WRCに送り出す「GRヤリス・ラリー1 ハイブリッド」にも搭載されるなど、ルーフベンチレーション自体は電力消費や重量増にもつながりにくいエコな換気、空調システムであり、競技車両を思わせるそのルックスにロマンを感じるクルマ好きは少なくないだろう。
濃いめの味付けだった4輪操舵機構が、繊細な大人の味付けになって復権!?
“デートカー”として人気を博したプレリュードは、四輪ダブルウィッシュボーンのサスペンションに、四輪アンチロックブレーキをオプション設定、さらに4WS機構を搭載していた
私事で恐縮だが、かれこれ30年近く前の学生時代、友人が乗る「ホンダ・プレリュード」を運転させてもらったことがあった。その際、車庫入れでやけに小回りの利く回頭性の良さに驚き、そのことを告げると、友人は「このクルマは4WSだから」と得意げに教えてくれた。運転経験の浅い当時の筆者でも体感できるほど、4WSの効果は絶大だった。
4WSとは、ハンドル操作に対して通常の前輪だけでなく後輪にも舵角がつく4輪操舵(4WS=4 Wheel Steering)を意味する言葉だ。
1985年に日産の7代目「スカイライン(R31)」に世界で初めて採用された「ハイキャス(HICAS=High Capacity Actively Controlled Suspension)」が、そのルーツとなる日本メーカー発祥の技術だ。同車が採用したハイキャスは、ステアリングの操舵に対し、前輪だけでなく後輪が同じ方向に向く(=同位相)ことで走行安定性を高めたものだった。
その後、後継モデルの「スカイライン(R32)GT-R」では、ステアリング操舵に対し、後輪を前輪の向きとは逆側に一瞬向け(=逆位相)、すぐに同相とすることで回頭性を高めた「スーパーHICAS」へと進化。
以降、「ホンダ」、「マツダ」、「三菱」とメーカー各社が同種の4WS機構を搭載していった。中でも冒頭で触れた1987年に発売された3代目「プレリュード」は、高速域では同相、低速では逆相となる、車速に連動した機械式の4WS機構「舵角応動型4輪操舵システム」を採用し、低速でのステアリング操作に対して後輪が逆相に動く操舵感は、FFらしからぬ小回りの良さをもたらした。
三菱自動車も、R32スカイラインと同時代に生まれた旗艦スポーツカー「GTO」で、フルタイム4WDとともに4WS機構を搭載。車速50km/h以上では操舵が同相となるなど、4輪のトラクションを最適に制御することで曲がる4WDスポーツの新時代を切り開く礎となった。
と、一時代を築いた4WSだったが、リアサスペンションの進化やESC(電子制御の横滑り防止機構)の搭載、後輪操舵の機構に伴う重量増やコストとの兼ね合いなどから採用が見送られて衰退。だが近年、大型セダンやスポーツモデルを中心に4WSは復権の兆しがある。
現行「レクサス・LS」が発表された際に搭載した「DRS(ダイナミック・リア・ステアリング)」は、低速域で逆相となることでロングホイールベースながら、先代モデルと変わらない小回り性を実現したことが話題となった。実はレクサスは「LDH(レクサス・ダイナミック・ハンドリングシステム)」と呼ぶ4輪のタイヤ切れ角制御を「LS」や「LC」、「RC」などの車種にも搭載。アンダーステアでは後輪を逆位相にしてより曲がるように、オーバーステアでは同位相にして安定させる進化した4WSを導入してきた実績がある。
また、同種の機構は「BMW・7」シリーズや「メルセデスベンツ・S」クラス、「アウディ・A8」シリーズなどにも搭載されており、現行「ポルシェ・911」にも走行状態などのデータを元に、後輪の舵角をコンピューターが最適に制御してくれるシステムが搭載されているのだ。
かつて、運転歴の浅い筆者にも体感できるある意味大味な機構だった4WSは、ドライバーにその存在を悟らせない程の隠し味的なものとなり、違和感を与えることなく効果だけをもたらす新たな4WSへと進化しているのだ。
日本車ってやっぱり凄いかも
平成生まれの国産車はここ数年、世界中のクルマ好きから日本国内市場向けモデルを意味する「JDM(Japanese domestic market)」として人気を博している。日本製品全般が“ガラパゴス”と呼ばれ、他との影響を受けない独自の進化を揶揄する声がある一方、存在や価値が見直されている技術も少なくない。そんな世界が羨むクルマを選択できる我々は、その幸せをもっと実感すべきなのかもしれない。
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みんなのコメント
逆!
先に「バラード」という車種があり、その中でバラード「スポーツCR-X」という派生形のクーペボディがあった。
例えるなら皆さんご存知のAE86だけど、基本はカローラ、スプリンター(FFの81、82型)。その中でFRの2ドアクーペ、3ドアハッチバック(リフトバック?)を派生形としてカローラ「レビン」、スプリンター「トレノ」(85、86)売っていた。因みにカローラにはハッチバックの「FX」というのもあった。
当時自分たちは「CR-X」と呼ばずに単に縮めて「バラスポ」と呼んでいたね。そのうち元車の「バラード」自体が無くなって「CR-X」だけ残っちゃった。
名称と説明内容が違うな…と書いてて思わなかったか?
これは小さい舵角では同位相に切れ、そこから舵角を増すにつれて逆位相に切れていく、という単純な舵角連動式だぞ。高速域では舵角が小さいから結果同位相の部分しか使わないというだけで、速度になんかこれっぽっちも連動していないから。