英国のディーラーは2025年までに100か所へ
中国の新興ブランド、大胆なBYDが英国市場へ参入した。だが、アット3は少し控えめ。同社が掲げる野心は非常に大きなものだが、実際のクルマは堅実的。ごく自然に走る、バッテリーEV(BEV)のファミリー・クロスオーバーだといえる。
【画像】今後の確実な礎になる BYDアット3 欧州の競合クラスのBEVと写真で比較 全113枚
BYDは1995年に創業した中国の技術メーカーで、バッテリーの製造で急拡大した。世界中で使われているスマートフォンやノートパソコンを動かすバッテリーは、BYD製であることが少なくない。コロナ渦で活躍したマスクも生産している。
得意とするバッテリー技術を応用し、自動車産業へ進出したのは20年前。2022年には190万台のクルマを製造するに至った。これにはBEVだけでなく、プラグイン・ハイブリッド(PHEV)も含まれる。驚くほどの勢いで成長し、確実に成功を掴んでいる。
中国市場に留まらず、世界市場への進出にも意欲的。気が付けば英国にも上陸し、2023年末に30店舗のディーラーを展開する予定を立てている。2025年までに、100か所へ増やすことが目標だという。
英国や日本では既にBYDの電動バスが走っているが、われわれに身近な量産車として先鋒を担うのが、今回試乗したアット3だ。中国市場では多様なモデルを販売する同社にあって、これは主力車種の1つに数えられる。日本での発売もスタートしている。
VW ID.4よりひと回り小さいサイズ 航続420km
クルマの基礎骨格をなすのは、BYDが独自に開発したBEV専用のアーキテクチャ、e-プラットフォーム3.0。駆動用バッテリーがフロア部分に敷き詰められた、いわゆるスケートボード構造を持つ。
英国に導入されるトリムグレードは3段階だが、パワートレインの仕様は1種類のみ。203psの駆動用モーターが1基載り、航続距離は420km、電費効率は6.4km/kWhがうたわれる。
駆動用バッテリーは実容量で60.5kWhとなる、自社製のリン酸鉄リチウムイオンで、薄型のセルで構成されエネルギー密度が高い。技術企業として多元的に展開するだけあって、モーターや半導体なども自社でまかなえる強みを持つ。
今回の試乗では、5.1km/kWhという電費が示された。肌寒い天気で。充電能力はACで7kW。ミドルグレード以上では11kWへ上昇する。DC急速充電器には、最大88kWまで対応する。
ボディの見た目は従来的。サイズは全長が4455mm、全幅が1875mm、全高は1615mmで、フォルクスワーゲンID.4よりひと回り小さい。スタイリングは曲線的で、目立った個性は感じられないものの、景色には溶け込めると思う。
標準装備は充実している。ベースグレードのアクティブでも、シートヒーターにパノラミックサンルーフ、外部給電機能などが備わる。エネルギー効率を高めるため、エアコンにはヒートポンプ式が採用されている。
ポップな車内 至って普通な走りの印象
インテリアは、外観から想像する以上にモダンでポップ。最上級のデザイン・グレードを選ぶと、ダッシュボード中央に回転できる15.6インチのタッチモニターが据えられる。
インフォテインメント・システムのインターフェイスは理解しやすい。サブメニューへ入ることなく、主要な機能に辿り着ける点は好印象。タッチモニターとは別に、実際に押せるハードボタンによるショートカットキーも付く。音声認識システムも実装する。
メーターパネルも小ぶりなモニター式となり、鮮明で見やすい。主要な操作系のレイアウトに、不自然さはない。
エアコンの送風口は、例えが古いが、ジュークボックスのレコードが並んだ部分のよう。ドアパネル側のスピーカーには、ギターの弦のようなワイヤーが張られている。ドライブに飽きた子どもが、弾いて遊ぶ姿が思い浮かぶ。
リアシート側の空間は広い。荷室はクラスとしては小さめで、容量は440Lだ。
発進させてみると、BEVのファミリー・クロスオーバーらしく印象は至って普通。加速は充分に力強いが、息を呑むほどではない。ステアリングも、運転へドライバーを引き込むことはないものの、正確といえる。
回生ブレーキは、ドライブモードに応じて強さが変化する。アクセルペダルだけで発進から停止までまかなえる、ワンペダルドライブには対応していない。ブレーキペダルの踏み心地は淡白だ。
乗り心地は、傷んだ英国の路面でも良好。舗装の凹凸や剥がれた穴などの衝撃を、上手に均してくれていた。
目立った訴求力は備わらなくても確実な礎
アット3の英国価格は、トップグレードのデザインでも3万8990ポンド(約627万円)から。過剰に安くは設定されていないものの、価格競争力は低くないといえる。
少なくない中国の新興メーカーが、大きな野心を抱いて欧州市場に参入し始めている。そのなかでもBYDは、最も競争の激しいセグメントに属するモデルで、真っ向勝負に挑むことになる。
確かにソツのない内容でまとまっている。目立った弱点はないようだ。かといって、既存メーカーのユーザーを引っ張ってこれるほどの訴求力を、アット3は備えていないように思う。
それでも、BEVのクロスオーバーとしての完成度に不足はない。控えめな主張が、BYDの将来に向けた確実な礎になるように感じた。
BYDアット3 デザイン(英国仕様)のスペック
英国価格:3万8990ポンド(約627万円)
全長:4455mm
全幅:1875mm
全高:1615mm
最高速度:160km/h
0-100km/h加速:7.3秒
航続距離:420km
電費:6.4km/kWh
CO2排出量:−g/km
車両重量:1680kg
パワートレイン:AC永久磁石同期モーター
駆動用バッテリー:64.5kWh
急速充電能力:88kW(DC)
最高出力:203ps
最大トルク:31.6kg-m
ギアボックス:−
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みんなのコメント
日本の全固体電池はまだかいな。