■「走り」好きの英国ではラリーカーは超人気
英国には、物好きが多いのかもしれない。クルマの世界でいえば、少量生産の自動車メーカーが英国で数多く生き残っていることも、無関係ではないさえ思える。
これトヨタ製!? 「MR2フェラーリ」爆誕! 二度見するほどの再現度を誇る1台だ!
そういった物好き系クルマ好きにとって、ラリー車というのは心に刺さるものだ。本国である日本に「スバリスト」がいるのは当たり前だが、英国にも日本に負けないスバリストが多く存在している。そのことを示しているのが、今回紹介する、シルバーストーンオークションで落札された、2台の「インプレッサ」のハンマープライスだ。
●1999 スバル「22B-STi Type UK」
まず1台目は、1999年式スバル「インプレッサ22B-STiバージョン」。GC8型のインプレッサをベースとした「WRX」も人気だが、2ドアボディをベースに、フェンダーをワイド化し、エンジンは技術者がハンドメイドした2.2リッター水平対向4気筒を搭載する400台のみの限定車は、日本でもあっという間に完売したモデルだ。
当初、英国では正規で販売されなかったのだが、数奇者は日本からの個人輸入というルートで英国にクルマを持ち込んでいたようで、その数は50台ほどといわれている。
そのことを知った英国スバルは、正規輸入を決定。といっても、一般販売は12台のみ。この正規輸入車は日本国内仕様車とは違い、ファイナルギアを3.9から4.44へと変更。また、国内仕様車ではプレートが装備されている部分に、ドライビングランプ装備され、リアには「type UK」と「Prodrive」のステッカーが貼られている、という違いもある。当時の販売価格は3万9950ポンド(邦貨換算約616万円)だった。
そんな正規輸入された22Bの1台を購入したオーナーは、2001年まで所有した後、2番目のオーナーへとクルマを手放している。2番目のオーナーは所有していた4年間の間に4回、点検整備をディーラーでおこなっている。そして2004年に業者の手に渡ったあと、シンクロギアの交換や特注エキゾーストシステムへの交換などがおこなわれている。サスペンションは2018年にビルシュタインによってオーバーホールされているため、現在も好調だ。
こうした履歴を持つ出品車の22B-STi Type UKは、17万1000ポンド(邦貨換算約2640万円)で落札された。まず第一に限定車であることと、12台しか一般販売されていないタイプUKであることが高額な落札価格になったポイントである。こうしたマニアなクルマを大切にするということに関しては、英国人にかなう者はいないのかもしれない。
■本物のラリー参戦インプレッサの驚愕の落札価格は?
もう1台のインプレッサは、2004年式のWRXである。
このクルマは2004年にプロドライブが、ラリー参戦をするために製作した8台目のシャシとなるS10型『PRO-WRC 04008』。同年9月に開催されたラリー・ジャパンで、ペター・ソルベルグ選手が優勝したクルマが、まさにこれだ。
●2004 スバル「インプレッサWRC(ペター・ソルベルグ)」
優勝後、このクルマはベッテガ・メモリアル・ラリー・スプリントに出場するコリン・マクレー選手のためにカスタマイズを受けていたのだが、その後はプライベートチームへと売却され、数々のラリーに参戦していた。
そのクルマを、2019年になって個人オーナーが入手し、プロドライブのレジェンド部門へと車両を持ち込んで、ラリージャパン当時の状態を再現するためのレストアを依頼している。
その作業内容は、以下のようなものとなる。
●ボディ
ボディからエンジンや駆動系などをすべて下ろしてホワイト状態にし、ボディにショットブラストを掛けて塗装を剥がしたのち、シャシは全体を計測・検査し、2004年当時のオリジナルカーに忠実であることを確認。ダメージがあったパネルを交換し、一部パーツはプロドライブ社内で再加工。
●サブアッセンブリー
各サブアッセンブリーを分解・検査・サスペンションはクラックテストをおこない、ベアリングとシールを交換。ブレーキキャリパーはリビルトし、ブレーキローターを交換。
●カラーリング
ラリージャパン当時にカラーリングを施した担当者が、細部までオリジナルと同じになるよう再塗装。
さらに、シートはオリジナルメーカーであるスパルコに送って再調整しているほか、当時使われていたノキア製の電話機も装備。さらには、ラリージャパンでSTIがチーム全員に配ったラッキーチャームも、同じものをプロドライブが調達して装備している。
ここまでこだわりをもって作られた2004ラリージャパン仕様のS10型スバル・インプレッサWRCの落札価格は、なんと36万9000ポンド(邦貨換算約5690万円)というものだった。もちろん、その価格にふさわしい価値があるのは間違いがない。そして、その価値を正しく判断できる人たちが多くいるという英国の車趣味の深さにも、敬意を表したい。
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