2008年のジュネーブオートサロンでデビューしたアウディTTSクーぺ。その国際試乗会が2008年春にアウディ本社のあるドイツ・インゴルシュタットで行われている。アウディがTTクーぺで実現しようとしていた理想とはどういうものだったのか。この試乗会では、TTSクーぺとともに、ディーゼルエンジンのTT2.0TDIクワトロにも試乗することができた。この時の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2008年7月号より)
快適性とハンドリングを両立させたトップモデル
アウディは10年前、コンセプトカーをそのまま具現化したような初代TTを世に送り出した。そして「技術による先進」をスローガンにするだけあって、2代目になったTTにも技術の粋を集めた新しいモデル「TTS」を追加した。
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アウディTTSは新しく開発した2L TFSIエンジンを搭載している。4気筒ガソリンエンジンで直噴テクノロジーとターボチャージャーを組み合わせたもので、272psというパワーと350Nmというトルクを発揮する。
これはすでにラインアップされているTT 2.0TFSIやゴルフGTIに搭載されるBWA型とは別のものだ。単にチューニングが違うだけでなく、シリンダーヘッド、シリンダーブロックなどのアルミ合金をさらに強度が高い材質に換えているという。
このパワーとトルクの数値からも想像できる通り、またアウディがTTシリーズのトップエンドモデルと言い放つように、TTSは非常に速く走ることができるクルマだった。
とはいっても一般道を走るときはごく普通のドライブができる。パワフルなエンジンにありがちな扱いにくさは一切なく、アクセルペダルも過剰に反応することもなく、慣れを必要としない扱いやすさだ。一般道とは言え、ドイツでは郊外なら制限スピードは100km/hだから、結構いいペースではある。ただしここからアクセルペダルを深く踏み込んでいくと、後から追いかけてくるような加速感になり、ターボの存在を感じさせる。
アクセルペダルを踏んでいきタコメーターが3000rpmに近づけば、その後は身体がシートバックに押し付けられる加速が長い時間味わえる。その加速はGが高まっていき、脳ミソを片寄らせるような感触だ。2.0TFSIがほとんどターボラグを感じさせないのに対し、TTSはアクセルペダルを深く踏み込んだときにはターボラグを感じる。だがそれは低速トルクが不足していたひと昔前のターボエンジンとは違い、普通に走るときには何の違和感もないから問題ない。
強烈なパワーを味わったとしても、トラクションには問題はなかった。それはTTSにはクワトロが標準だからだ。ただし完全に安定志向になっているかというとそうでもなく、ミューの低い路面ではフロントが少し滑る気配を感じることがある。そのときはリアへの駆動力配分を多くし、さらにESPが作動すれば収まるのだが、基本的にスポーティなセッティングである。
ESPの設定は3段階になっている。通常はエンジン制御と4輪のブレーキ制御が働くが、一回押しではエンジン制御が外れてぬかるみや深い雪からの脱出に効果がある状態になる。通常から3秒以上長押しした場合には、エンジン制御が外れるだけでなくブレーキ制御も介入が遅くなり、ドライバーの腕に任せる範囲が広くなる。今回は試せなかったが、ドリフト状態さえ許容する懐の深さがあるという。それでも完全にESPを切れるところまではさせないところがアウディらしいところで、ポルシェとは違う思想が流れている。
TTSにはアウディ・マグネティックライド・アダプティブダンピングシステムが標準装備される。TTS用に10mm車高が下げられ、専用のチューニングが施されている。これがなかなか良かった。良い乗り心地が確保されているのにハンドリング性能も高いレベルになっているのだ。路面の悪いところでも乗員には直接的な衝撃がこないし、ボディの揺れが小さく収まるのでフラットライドを実現している。ノーマルの状態でも速度やGなどの走行条件に合わせてダンピングレートが素早く変化するから、乗り心地とハンドリングを両立できるのだろう。
シフトレバーの手前にスイッチがいくつか並んでいるが、その一番左側にあるのがマグネティックライドのスイッチで、押すことによってスポーツに切り替わる。ワインディングロードを走るときは、このスイッチを押すことでダンパーの減衰力が常時硬めになり、コーナリング時のロール角が小さくなる。S字カーブでの切り返しなど軽快になるのが実感できた。またサスペンションが硬くなった割には乗り心地が極端に悪くならないのも良かった。
試乗したTTSはオプションで用意される6速ツインクラッチのSトロニックだった。Sトロニックは電子油圧制御されているが、油圧のプレッシャーリザーバーが見直された結果、作動速度がさらに速くなったという。パドルシフトによるアップ、ダウンも素早く反応しストレスがない。TTSのSトロニックがいかに高性能なのかは燃費や加速データに表れている。
燃費はTTSクーペの6速MTの場合8.0L/100kmなのに対し、Sトロニックでは7.9Lになる。ちなみに0→100km/h加速はTTSクーペの6速MTが5.4秒に対し、Sトロニックは0.2秒短縮し5.2秒に向上。こうなると、ドライバーが手足を動かすという楽しみということしかMTを選ぶ理由がなくなってしまいそうだ。
TTSにはクーペとロードスターが用意されている。ロードスターは少しボディが重い程度で、乗った感触ではほとんど同じパフォーマンスを味わえた。クーペのボディ剛性は高いが、ロードスターのボディ剛性も相当高い。一般道を走行しているときに時折不整路面が現われたが、そこを通過したときにフロアが振動することはなかったし、Aピラーがブルブルすることもない。床下を覗くとリアデファレンシャルギアケースの辺りから前方のサイドシルに向かっV字型に補強板が入っているなど、オープンボディ用の補強が効率よくできているようだ。
TTSは快適性とハンドリングの両立と、さらに速さの面白さを味わえるクルマに仕上がっている。ポルシェほどスパルタンでないのも特徴で広いユーザーに支持されそうだ。
ディーゼルながらスポーツモデルらしい2.0TDI
もう一台の目玉として試乗したのはTTクーペ2.0TDIクワトロだ。こちらは新しい4気筒2Lディーゼルエンジンを搭載している。最高速度226km/h、0→100km/hは7.5秒、燃費は5.3L/100kmをマークしている。
タコメーターではゼブラゾーンが4600rpmから始まり5000rpmがレッドゾーンになっている。実際に運転するとタコメーターの針は元気よくゼブラゾーンに飛び込んでいく。実車での加速感は2500rpmを越えたくらいから本格的になっていく。そして5000rpmの燃料カットでサーチュレイトするまで気持ちの良い加速感を味わうことができる。
この回転域で加速中はスポーツカーのエキゾーストノート、エンジンサウンドが聞こえている所も感心した。
確かにアイドリング時はガソリン車とは違うエンジン音が聞こえるが、それでも日本人の多くがイメージするディーゼルエンジンの音ではない。もっとまろやかで不快感のない音である。
TDIでワインディングロードを走ると、TTSに比べるとフロントヘビーな感触が伝わってくる。ディーゼルエンジンの重さがフロントに載っているデメリットかもしれない。それでもダンパーコントロールスイッチを押してスポーツにすると違和感なくハンドリングが軽快になり、フロントが軽くなったような機敏な動きになる。
TTSは日本へのデリバリーは今秋を予定しているそうだが、2.0TDIモデルは導入するかどうかも含めて未定だという。どうせならV12ディーゼルエンジンを搭載したR8も一緒に日本に入れたら、日本市場に新たな1ページを切り開くことになり、アウディの技術による先進をブランドとして定着させることができるのではないかと思う。
アウディはグループの中で、ポルシェやフォルクスワーゲンとも違う異色の存在でいてもらいたいと思っている。今回のTTSやTT 2.0TDIはそうなり得るニューモデルだ。(文:こもだきよし/Motor Magazine 2008年7月号より)
アウディ TTSクーペ 主要諸元
●全長×全幅×全高:4198×1842×1345mm
●ホイールベース:2468mm
●車両重量:1395kg
●エンジン:直4DOHCターボ
●排気量:1984cc
●最高出力:272ps/6000rpm
●最大トルク:350Nm/2500-5000rpm
●駆動方式:4WD
●トランスミッション:6速DCT(Sトロニック)
●最高速:250km/h(リミッター)
●0→100km/h加速:5.2秒
※欧州仕様
アウディ TTクーペ2.0TDIクワトロ 主要諸元
●全長×全幅×全高:4178×1842×1352mm
●ホイールベース:2468mm
●車両重量:1370kg
●エンジン:直4DOHCディーゼルターボ
●排気量:1968cc
●最高出力:170ps/4200rpm
●最大トルク:350Nm/1750-2500rpm
●駆動方式:4WD
●トランスミッション:6速MT
●最高速:226km/h
●0→100km/h加速:7.5秒
※欧州仕様
[ アルバム : アウディ TTSクーペ、TTクーペ2.0TDIクワトロ はオリジナルサイトでご覧ください ]
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やっぱ初代
カッコいいなあ