190シリーズやW124型Eクラスの前、1976年から1985年にかけて生産されていたW123型メルセデスベンツを知っていますか?
190シリーズやW124型はまだ現代のクルマの香りが残っているけれど、このW123型はネオクラシックなスタイルと、質実剛健という言葉がふさわしい作りのいいボディがいいですよね。
ベンツ新型Cクラスにいち早く乗った!! プロタイプ同乗試乗でわかったニューモデルの進化度は?
室内に乗り込むとこれまたクラシカルなデザインのメーターやしっかりと作り込まれたシートなど、現代のクルマにはない魅力があります。
今回、その魅力に取りつかれてしまったW123オーナーたちに、その理由を直撃。また、W123型の中古車はいくらで売られているのでしょうか?
そこで、自身もW123オーナーである流浪のクルマバカ、池畑浩氏が解説していきます。
ちなみに池畑氏の簡単なプロフィールですが、約30年にわたりVWに勤務し、現在は自動車事故調査資格のボッシュCDRアナリストになられています。
文/池畑浩
写真/ダイムラーAG ベストカーweb編集部 池畑浩
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W123型メルセデス・ベンツの歴史を振り返る
愛車のシートに愛犬とともに収まる筆者。愛するものに囲まれる至福の時間だ
ある日、ベストカーweb編集部のOさんから「古いベンツ買ったらしいですね。ぜひベストカーwebで取り上げたいのでちょっと手伝ってもらえませんか」との連絡があった。
ボクはVW在職中に1975年式のVWビートルを手に入れて15年ほど可能な限り自分でいぢりながら楽しんでるのですが、昨年ネットの中古車サイトで見つけたチョイ古のメルセデス・ベンツを増車したこともあって、Oさんはボクに「旧車に乗りたいと思っている人の不安を解消してあげてください」とのこと。
だからといって胸を張って言えることはないのですが、これまでの体験をお伝えすることで少しでも旧車に興味のある方の背中を押し、またこれをきっかけにして旧車に興味を持ってくれる人が増えたらいいなと思い、お引き受けしました。
1970年代から1980年代にかけてドイツで一番多く走っていたのがこのライトアイボリーのW123タクシー
1977年式300TDリムジン
そんなワケで、今回取り上げるメルセデス・ベンツ「W123」について簡単に振り返っておきましょう。「W123」は1967年に登場した初代コンパクト・メルセデス・W114の後継モデルとして1976年にデビューしました。
当初はセダン(W123)だけでしたが、翌年には2ドアクーペ(C123)、1978年にはステーションワゴン(S123)が追加されています。
この他にもロングホイールベースのリムジンや救急車などの特別なモデルやシャシ―がありましたが、当時の輸入元だったヤナセが日本仕様として正規輸入したのはセダン、クーペ、ステーションワゴンの3モデルだけで、ステーションワゴンはすべてディーゼル仕様でした。
ボディサイズは全長4.7m、全幅1.78m、全高1.44mなので、ちょうど現行型のプリウス(全長4575×全幅1760×全高1470mm)とほぼ同じくらいといってよいでしょう。
W124以前のカジュアルでネオクラシックな佇まいが123の魅力
クーペ版C123はあまり見かけることが少なくなってしまった
こげ茶色のボディカラーとクラシカルな佇まい、S123がたまらない……
■W123シリーズの主要諸元:1984年式
※印は並行輸入のみ
「W123」は1980年代のメルセデスたる強烈なブランド・アイデンティティの礎を築いたモデルで、1979年に登場した最上級モデルのSクラス(W126)や1982年にデビューした5ナンバーサイズの小型セダン「W201」、すなわち190シリーズにも少なからず影響を与えたモデルです。
W123は「世界で最高の実用車」
W123といえばオシャレなボディカラー。チャイナ―ブルーやライトアイボリー、マラカイトグリーン、マニラベージュなどバリエーションが豊富で鮮やかな色が多い。またボディカラーと同色のホイールキャップもオシャレ
みなさんの記憶にも残っているであろう、こうしたヒットモデルの先行開発車だった「W123」には、必然的に当時のダイムラーAGやサプライヤーが持つ最新技術が惜しみなく注がれ、「W124」「W201」にも受け継がれています。
このようなこともあって「W123」シリーズは、「世界で最高の実用車」と賞賛されるほど頑丈かつサービス性に優れたクルマとして世界中で人気を博し、累計約270万台が生産されました。
ボクが「乗るなら今しかない」という思いで手に入れたのは、1985年式の「230E(セダン)」で、日本向けの最終生産車です(本国は1986年まで後継の「W124」と並行生産)。
一番ベーシックなグレードですが、みなさんご存じのように、とくに輸入車の最終年次はベースグレードでも豪華仕様が多く、ボクの「230E」にも上級モデルと同じウッドパネルや数々の上級装備が装着されています。
みなさんも今後、クルマを探す際には、値段や走行距離だけでなく、このように最終生産年のクルマを探してみることをお勧めします。
■W123シリーズのモデル別生産台数【出典:Daimler AG】
※印は北米&日本向けターボディーゼル ※※印は北米向けディーゼル&ターボディーゼル
■W123オーナー4人に集まっていただきました!
旧車メルセデスが大集合! こんなに気持ちの良い日曜の朝はない
さて、いざ旧車に乗ろうとした場合、一度は聞いてみたいのがオーナーの本音ではないでしょうか。さっそくW123のオーナーに声をかけ、ある日曜日の早朝に集まってもらいました。
まず最初にチャイナブルーの「280TE」でやってきたのは、「仕事に行く前に来ました!」と見るからにサーファーな鈴木さん。複数台数所有しているとのことですが、「この280TEは趣味のサーフィンのため」とのこと。
なんともいえない味のあるチャイナブルーの280TEとオーナーの鈴木孝宜さん
ボクの古い記憶でも、湘南などのシーショアには空冷VW、S123、ボルボ240ワゴンなど絵になるクルマをよく見かけました。鈴木さんは、今でもそのカッコいい憧れのサーフィンライフを楽しみ続けています。羨ましいですね。
続いてアンスラサイト(グレー)メタリックの「280TE」で駆けつけてくれたのは、今回、所有歴が19年と一番長い伊藤さんだ。
「キャンプやアウトドアを楽しむためにステーションワゴンを探してました」。さらに「280TEは子供が生まれた記念に購入しました」と、はちきれんばかりの笑顔。思わず心がほっこりしました。
所有歴19年という280TEオーナーの伊藤和徳さん
本当はTDT(ターボディーゼル)を探していたらしいですが、都内在住の伊藤さんにとっては、今となってみれば、首都圏のディーゼル車乗り入れ規制があるため、このガソリン仕様の「280TE」にして大正解だったのではないでしょうか。
続いてこの年代らしい鮮やかなイエローの「300TD」。「この色が好きで塗り替えちゃいました」とオーナーの石島さん。後でわかるのですが、実はこの個体、とんでもないサプライズがあったのでした(後述します)。
最後に到着したのは、お揃いの革ジャンでバッチリ決めた丸山さん親子。丸山さんは、これぞ旧車の醍醐味と言えるストーリーを持つ「300TDT」を今年の1月に譲り受けたばかりとのこと。
ここまで4台、すべてステーションワゴン! この他にもキャンピングトレーラーを曳く「230E(セダン)」や「280CE(クーペ)」のオーナーも参加したいとのことだったのですが、あいにく日程が合わず、今回はボクの「230E」と4台の「S123」の合計5台の「123オフ会」が始まりました。
W123オーナーに聞く S123の魅力とは?
サーファーでもある鈴木さんはベンツにボードを積み込んで海へと向かう
ここまでステーションワゴンが集まったので、「ズバリお聞きします。みなさんにとってS123の魅力とは何ですか?」と尋ねると、「サーフィンが趣味です」「アウトドアが好きだから」と、全員アクティブなライフスタイルの実行者で、これに「S123」は欠かせない、という答えが返ってきました。
実際、鈴木さんも丸山さんも現役のサーファー。キャンプが大好きな伊藤さんは「S123はデザインも使い勝手も最高にイイんですよ」と語ってくれた。
丸山さんも「ボクもアウトドアが大好きで、コイツが来る前はボルボ240ワゴンに乗ってました」。これを聞いた石島さんは「ボクはボルボ850だったんですが、S123とボルボ240ワゴンって、つい比較しちゃいますよね」と、スゴくわかりやすい!
この感覚が旧車ステーションワゴン乗りなんだよねと皆で納得しながら、「S123って自分の趣味を楽しむうえで欠かせないアイテム」、「最高の道具なんですよね」ということで意見が一致した。
かく言うボクも、実は大きなワンコが居るので「S123」を探したのですが、残念ながら多くの「S123」は古いディーゼルなので大都市圏では所有することができず、残念ながらあきらめました。
え、トヨタ製直6に載せ換え?
イエローのボディが眩しい300TDと石島康裕さん。表情から豊かな300TDライフを送っていることがわかる
トヨタ製の直6エンジンに載せ換えてある石島さんのS123。安心のトヨタ製だけに、大きなトラブルもなく調子がいいそうだ
そんな話をしていたら、「ボクのはガソリンエンジンに乗せ換えているんですよ」と石島さん。
「あれ? リアゲートに300TDのバッチが付いてますけど?」と尋ねると、「実は1991年式のトヨタ1JZ-GTE、直列6気筒、2.5Lのツインターボエンジンとトランスミッションに乗せ換えてます。邪道ですが……」と謙遜気味。
早速エンジンルームを拝見すると、そこには本来あるべきメルセデス製5気筒ターボディーゼルエンジンの代わりに、トヨタの6気筒ガソリンエンジンが、それこそ言われなければまったく気が付かないほどスッキリ収まっていて、いたるところに安心の「TOYOTA」マークが。
「すでに買った時に換装されてた」そうだが、実際にこのようなケースは他にもあるようで、ネットで見つけたある「S123」も「エンジン換装済」と書いてありました。
たぶん280用のガソリンエンジンに載せ替えていると思うのですが、石島さんは「いままで致命的な故障はないですね。エンジン&ミッションともに調子いいんです」と胸を張る。
確かに北米では空冷VWバスにスバルの水平対向エンジンとトランスミッションを換装する人が多く、専用ハーネスキットまで用意されている。旧車を長く乗ろうとした時やイザという時のパーツ供給などを考えれば、このように比較的容易に入手可能な信頼できる日本製部品に交換しておくのはアリだ。
ジャーマン製ガソリンエンジンを搭載する「280TE」乗りの伊藤さんは「ボクはエアコンが壊れた時、コンプレッサーを日本のサンデン製に換えました。オルタネーターも日本電装製に換えてます。エアコンもよく効くし、まったく問題ないですよ」と話してくれました。
旧車に乗っていて常々思うのは、ネジ1本まで純正にコダワリたいという気持ちと実用的で快適な旧車ライフを送りたいというジレンマ。 でも実際にこうして同じクルマに乗る仲間からリアルな体験談や有益な情報をもらえると、本当に目の前が明るく開け、旧車ライフが一層楽しくなっていきます。
さて、大人気のステーションワゴン「S123」。 日本仕様は古いディーゼルですが、まだ乗れる地域はあります。
たくさんの走行距離表彰バッチがフロントグリルを誇らしげに飾る
今回唯一、日本仕様の「300TDT(ターボディーゼル)」で駆けつけてくれた丸山さんは、この貴重な個体をそのまま乗れるだけでなく、旧車の世界では誇り高い「ナンバーリレーバトン」を今年1月に受けたばかりのラッキーガイだ。
「ナンバーリレーバトン」とは、例えば「品5」とか「品川33」などの古いナンバーを引き継いで譲り受けることを指しますが、これを行うには、同じナンバー管轄区域内の居住者だけに限られてしまいます。
丸山さんの「300TDT」には初度登録した40年前に交付された「〇〇 33 に 873」のナンバープレートが付いていました。「最初は女性がオーナーで『おはなさん』と呼ばれてたらしく、なのでナンバーが『873』なんです。その後、うちの町会長が受け継ぎました」。
フロントグリルにはたくさんの走行距離表彰の記念バッチが誇らしく付いている。「エンジンは一度、ヤナセでオーバーホールしましたが42万km走ってます」。さらに丸山さんは、「5年前から譲渡したいという話があったんですが、ついに今年の1月、自分にバトンが回ってきました」。
実車を拝見すると内外装ともに多少のヤレはあるものの、そこはさすがのメルセデス・クオリティ。むしろほど良いヤレ感が40年という長い時間の味わいを醸し出していてとても良い感じだった。
キレイに乗ってもヤレた感じで乗っても絵になるのは、まさに旧車ならではの醍醐味であり、それが許される特権と言えます。
W123の中古車価格は今いくら?
メルセデスらしい作りのよさがエクステリアから感じることができ、そのレトロな風情がたまらなくいい。写真は280E
W123のコクピット。質実剛健な作りでなんとも味わい深い
★メルセデスベンツW123中古車情報(リンク先)
みなさんどうですか? W123を欲しくなってきませんか? さっそくW123の中古車価格を調べてみました。ネット等で確認して欲しいのですが、ここ最近、金額表示が「ASK」になり始めています。
半年前まではセダンで100万円前後から、人気のステーションワゴンでも200万円前後から、それぞれ上は300万円代という感じで、個体数もそこそこありました。 しかしながら、貴重な個体の減少に加え、人気の再燃も助長して、ついに「W123」も売り手市場になってしまったという感じがします。
主治医にW123の心配事を聞いてみた
気になるW123のパーツ供給状況はどうなのだろうか?
整備や部品についてはどうでしょうか? ボクの主治医曰く、「(当時のメルセデスベンツは)頑丈に作られているので定期整備、修理さえすればキチンと蘇って、その後も安心して乗れるし、お金もかからない」と言っていました。
「280TE」乗りの小林さんは、「基本的に購入してからずっと(19年間)プロに診てもらってます」「費用的なことも含めて相談しながら治せるのでとても安心です」と専門店と理想的な信頼関係を築いている。
他のオーナーさんも「日常点検やオイル交換は自分でしますが、車検や修理などはプロにお願いしています」と口を揃える。部品についても「W123」は空冷VW同様、純正、非純正を含めて世界中で流通しており、消耗部品も比較的お安いのは心強い。
また左ハンドル車であれば、部品取りのジャンク車もあるので、もうしばらくは普段通りに乗っていられるでしょう。
* * *
さて、今回はちょっと古いクルマの代表として人気の「S123」のオーナーさんにお集まりいただき、いろいろお話しを聞いてきましたが、如何でしたでしょうか。
いつかは旧車に乗りたいな、と思ってる方の不安を解消することはできましたでしょうか。 そんなことを言っている間にも、どんどん貴重は個体が買われていき、価格は高騰しています。
今のご時世、この「世界的な無いモノねだり」は、今後も減ることはなくても、増え続けることは間違いないでしょうから、なおさらみなさんには、「旧車に乗るなら今しかない」とお伝えしてレポートを締めくくりたいと思います。まずは妄想でも良いですから、自分好みの旧車選びを始めてみませんか。
* * *
鈴木孝宜さんと280TE。息子さんが大きくなったら乗り継ぐのかな?
【オーナープロファイル】
■氏名:鈴木孝宜さん
■年齢:52歳
■車歴:18年(自分では8万km)
■車名:280TE
■年式:1983
■今までかかった大きな修理代:
クーラー 約30万円
マフラー 1部加工で約40万生産中止のため
フロントガラス交換と数カ所錆で板金約40万円
オールペン 約30万円(友達価格)
それ以外は車検毎に2万~30万円
オイル交換は自分でやっています
伊藤和徳さんと280TE。大きな故障もなく快調のようだ
【オーナープロファイル】
■氏名:伊藤和徳さん
■車歴:19年(14万Km)
■車名:280TE
■年式:1985
■今までかかった大きな修理代:
購入以来、専門店にお任せしていますが、そんなに大きな出費はありませんでした
石島康裕さんと300TD。エンジンは前オーナーがトヨタ製に換装していたそうだ
【オーナープロファイル】
■氏名:石島康裕さん
■年齢:53歳
■車歴:10年(総走行距離26万km、自分では10万kmほど走行)
■車名:メルセデス・ベンツ300TD
(エンジン+トランスミッションを1991年式トヨタ1JZ-GTE/直6、2.5L、ツインターボに換装)
■年式:1983年式
■今までかかった大きな修理代:
車検や基本的な消耗品以外で約50万円程度
主にボディのサビ補修、マフラー交換(ワンオフ)
電装系のリビルト、ラジエター交換(中古)など
致命的な大きな故障は発生しておりません
エンジン、トランスミッションも調子も良好です
丸山兼治さんと300TDT。総走行距離42万kmを誇る
【オーナープロファイル】
■氏名:丸山兼治さんと息子さん
■年齢:内緒/16歳(息子さん)
■車歴:1年(総走行距離42万km、2021年1月譲り受けたばかり)
■車名:メルセデス・ベンツ 300TDT
■年式:1980年式
■今までかかった大きな修理代
前のオーナーがヤナセでエンジンをオーバーホールしているのでとても快調です
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