GB350シリーズを生み出したのは、どんな開発者たちなのだろうか? 伊藤真一さんがGB350の試乗後、GB350シリーズ開発者の皆さんに単刀直入にお話をうかがいました。
まとめ:宮﨑健太郎/写真:柴田直行
お話を伺った開発者のみなさん
開発者インタビューのお約束「担当したGB350を購入しましたか?」という質問には、みなさん「購入済み!」と力強く回答しました!
合い言葉は「ガンガンいこうぜ」
失敗を恐れず、一大プロジェクトに挑んだ男たち
開発チームの方針は、あの人気ゲームから拝借?
――開発責任者の山本さんも、車体設計を担当した井口さんもお若いですね。
井口:山本とエンジン設計を担当した若狭(秀智さん)と、僕は年齢がほとんど一緒です。大体みんな36~37歳で、だから気兼ねなくお互い言いたいことを言って、いい商品を作ろう! という感じでした。
山本:私と若狭は大学が一緒で、その頃から一緒にバイクやクルマで遊んでいた親友なんです。
――栁澤さんは開発責任者代行として、テスト関係のまとめ役をされたそうですが、山本さんたちよりはベテランという立場から、ジェネレーションギャップ的なものはありましたか?
栁澤:そういうことはなかったですよ(笑)。付き合っていて、なかなかいないタイプだなぁ、面白いなって思っていました。開発責任者の山本の強い想いにチームのみんなが共感して、ついて行ったって感じですね。
伊藤:テストの仕方を教えてください。設計の皆さんも、テストで乗ったりするのでしょうか?
栁澤:基本的に設計担当者はテストで乗ったりはしません。各テスト担当者が乗車します。又、設計担当者、解析の担当者と打ち合わせをして進めていきます。例えば、操安テストを実施し、安定性が低い結果であれば、剛性を上げるにはどうするのか話をして、アップデートしたものを作る…というやり方ですね。
井口:操安担当からのフィードバックの中には、「本当?」みたいな話もたくさんあります。ボルト1本緩めただけで、性能が変わることがありますので…。その検証のために乗って確認したいので、僕もテスト走行のライセンスを取らせてもらっています。
山本:操安担当の指摘を的確に仕様反映できずにやり直すことが開発では起こり得るのですが、井口はその内容をよく理解出来ていたので、手戻りは少なかったです。ただ、チームの全体方針として、同時検討を掲げていましたが結構若いチームでしたので、みんな失敗してもいいから、その分手数を増やそうぜ! って話を最初のころからしていました。1案じゃなくて3案一気に同時検討するって感じですべてを進めました。合言葉は「ガンガンいこうぜ」(※名作ゲーム「ドラゴンクエストIV」の作戦コマンド。『持てる全てを出し切って戦い切る』の意味)しかない。ただ、全ての行動はお客様のためになっているのか、常に話しあえる信頼関係を同時に築いたことで、結果チーム全員がやり切ったと言ってくれて、納得できる開発が出来たことがよかったです。
伊藤:GB350はフレームとエンジン両方、非常に個性が強い印象を受けました。自分はバイクをパッケージで評価するのですが、GBはフレームとエンジンそれぞれの存在感が強いですね。
井口:この手の単気筒車はアウターピボットで、ヘッドハンガーが付いている車体が多いですが、GBはとにかくエンジンが主役なので、それを際立たせる美しいフォルム…ということで行き着いたのがインナーピボットでした。剛性値で言うと、明らかにGBは低剛性です。我々としてはライポジとマッチングし、しなやかでゆったりとした操縦特性を目指していてあえて剛性を下げて、フレックスゾーンを取っています。
伊藤:レブル250やCB125Rなど、他のホンダ車とハンドリングの印象が違いますね。
井口:レブル250はヘッドパイプの長さが200mmありますが、GBは180mmです。GBはボトムブリッジを2点どめにして、剛性を出しています。フレームではレブルはヘッドパイプからエンジンまでツインチューブにして高剛性を確保しているのに対し、GBはインナーピボットを採用することで剛性値を低くして、相対的にフレームが路面入力をいなす構造にしています。そこが伊藤さんが感じる、印象の違いのひとつのポイントなのかな? という気がします。
栁澤:インドの路面では剛性が高いと走りにくいので、剛性調整してバランスさせています。操安の方向性としては、そんなにハンドリングに気を遣わせない、一様なロール特性みたいなところを狙って、開発しています。
山本:実は開発の途中、試作車を作ってインド現地でサーベイ(調査)をしたのですが、その結果から全てを見直すことになりました。エンジンはあまり変更がなかったのですけど、車体の方はほぼやり直ししました。5段階評価で4段階目の「いいね!」が8割くらいだったのですが、5段階目の「超いいね!」が10~20%しかなかった。報告書の紙で見ると成功にも見えますが、オールニューモデル開発としては、これでは失敗だと思ったのです…。
失敗は成功の母? 車体は一度、すべて作り直し!
井口:その時、開発責任者に「2カ月時間が欲しい」と話し、山本はインドに残りましたが僕は途中で帰国して、すぐに検討を開始しました。
山本:当然車体を大きく変えるとなると事業的な領域も関わってきますので、インド現地を含めたスタッフ全員で話をして、仕切り直すことにしました。
井口:通常なら2カ月で基本骨格まで全部変えるのは異例ですが、開発責任者と変更の話をしている間に納得しましたね。自分がやっていたことが間違っていて、こう変えなければいけないというものがわかっていましたし…。
—―インドのサーベイで使った試作車は、現状のGBより硬い感じだったのですか?
井口:量産仕様より剛性は高かったです。やっぱりフレームのところで、しっかりしならせてあげるのが良いのでは? というところに、一度失敗を経てたどり着きました。
山本:肌感覚みたいな、インド現地で感じた「このままじゃいけない」という気持ちをあのサーベイで井口も共有していたので、わずか2カ月で作業してくれたことには感謝しています。
伊藤:本当に「バイクって楽しいよね」って感じの乗り味に仕上がっていますね。自分は大きいシングルは、ホンダXR600系くらいしか乗ったことないですが、GB350はシングルでもこういう風になるんだ…と驚きましたね。フリクション感がなくて、トルクが溢れてくる感じで…。
山本:採用した軸構成…ミッション・メインシャフト同軸のほか、1軸だけのバランサーも実は作って、両方ちゃんと検討しています。かかるコストに対して、低回転型の単気筒に新機構のバランサーを入れる価値があるのか、その時点では誰もわからなかったので両案を転がせるようにしていました。試作が完成して、コストみたいなところだけ見てしまうと没になりそうな時もありましたが、テストのメンバーが乗って、めちゃめちゃ良い‼ という風に言ってくれたので、採用することができました。
――2軸ではなく同軸というのは、コストがかかるというイメージを、持たせたくないための呼称なのですか?
山本:専用で2軸かというとそうではないですし、機能を統合させたことをうまく表現したかったのが、同軸という呼称を使う一番の理由です。
伊藤:GBの空冷単気筒エンジンは非常にスムーズですが、そのタフネスさはどれくらいあるのですか? 燃料タンクが空になるくらい、アイドリングをさせ続けても大丈夫なものなのでしょうか…?
「期待に応える」ではなく「期待を超える!」を目指す
栁澤:結構フィンが大きいので、冷却性能的にはそんなに困っていないです。逆に高回転まで回して耐久性を確認するテストは当然ながら実施しています。
伊藤:あとGB350は、非常に燃費がいいですね。
栁澤:インドでは燃費を意識して、すぐにギアをトップに入れて走る人が多いです。それを考慮して、エンジンはトップスローでちゃんと走れるように、合わせ込んでいます。
山本:インドと日本の物価は6倍くらい違う中でガソリン価格はほぼ同じです。日本の感覚だとリッターあたり、800~900円のガソリンを入れているイメージです。コミューターに乗っている人は満タンにせず、常に1リッターくらいしか給油しなかったり。ただ開発の中で、実は燃費は目標には特に上げてないです。インドの街中で、トップスローでちゃんと走れることを目標にして、それを最優先して開発したら結果的に燃費も良くなった、というのが正直なところです。
栁澤:ギアレシオ配分も結構ワイドに振っているので、それも相まって燃費は良くなっていると思います。インドで使えれば、世界のどこでも使えるという考え方です。
山本:先ほど言った、インドの街中でトップスローで走れる…この辺の解釈が難しくて。そこに「楽しさ」を盛り込む感覚が、インドのサーベイの時はまだなかった。その失敗を経て、ゆっくり走っても「楽しい」にリンクさせることが、車体のディメンジョンを変えたことでできました。エンジンの捉え方も、当初はコミューター寄りに考えすぎていたと思います。コミューター寄りというのは、インドのお客様からすると当たり前のものなので…。
――期待に応えるではなくて、期待を超えるのが大事と?
山本:伊藤さんは先ほど「エンジンの個性が強い」という話をされていましたが、最高出力は20馬力しかないですが、トルクはきっちり出して性能を追求しようという話はエンジン担当の若狭としていました。僕も若狭も趣味で昔のバイクやクルマが好きなのですが、旧い乗り物ってエンジンに乗っている…大きい慣性がゴロンゴロン回っていて、自分の手でそれを操作している感覚があります。味を濃くしよう、と2人でよく言っていたのですが、今の技術で言えばそれはクランクの角速度に関係しているだろうと想像しました。トルクを上げることを追求すれば、低回転での蹴り出し感をきっちり出せるだろうと…。そこを徹底的に追求したので、やりたかったことは完全に表現できたな、と思ってます。
伊藤:GB350に乗ると、昔のバイクっぽさを感じましたが、それは意識しての作り込みなんですか?
山本:いや、旧車は作らない、現代のバイクを作るのがテーマです。でも最終的にできあがったGB350のディメンションやシルエットは、1969年のCB750FOURに近いものになっています。
井口:ベストなプロポーションを求め何度も評価を繰り返したら、あれ? K0と一緒だ…って感じです。
山本:GB350が結局、発売して60年以上経った今でも大事に乗ってくださっているお客さまがいるCB750FOURに近しい諸元になったのは、温故知新というか、私たちにとって、『変わらぬバイクの美しさ』を考える、大きな学びとなりました。
燃焼室内のオイル経路はエンジン“外観”へのこだわりから生まれた?
GB350の空冷エンジンは、美しい外観へのこだわりがハンパない! シリンダーヘッド外側にカムシャフト支持部の加工穴が残ることを嫌い、シリンダーヘッド内にカムホルダーを設ける…という方式を採用しているのだ!
その結果、カムシャフトと燃焼室上部の間には大きめの空間が生じることになったが、その空間を冷却のために活用するという発想から、燃焼室上部全体を覆うラビリンス状のオイル通路が与えられることになったのだ。
クランクケースの構造は、モトクロッサーCRF譲り!?
外観の美しさにこだわった空冷エンジンを見せるため、背の高いロングストロークの単気筒をいかに車体に収めるか…を、GB350はトコトン追求! インドの悪路を走破するのに必要な、最低地上高を確保するためコンパクトな密閉式クランクケースを採用。この構造はそもそも、戦闘力最優先のモトクロッサー、CRFシリーズ用に考案されたものだが、その設計をベースにし、コスト的にも公道用量産車に採用できるようにデザインされている。
ブロックパターンのタイヤも装着可能!? ワイドなスイングアーム
150サイズのリヤタイヤを採用するCB350Sを想定して、角断面鋼管のスイングアームは幅広に設計。GB350は部品交換によりスタンダード仕様にも、S仕様にもできる「コンパチ」になっているが、太いタイヤを履けることなどを含め、ユーザーが楽しめる「カスタム性」が高いものにもなっている。なおインド市場には、120/80-18サイズのブロックタイヤも販売しているとか…。GB350のスクランブラー仕様を作るのも、面白いかも?
[ アルバム : 【写真8枚】ホンダ「GB350」開発者インタビュー はオリジナルサイトでご覧ください ]
まとめ:宮﨑健太郎/写真:柴田直行
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みんなのコメント
予約すらできません
エンフィールドの対抗馬を日本で?笑える!
350ccで20PSじゃ、高速なんて走れないわ。
なめてるんですかね?
いくら有名ライダーにしゃべらせても
45年以上生産されたSRのようにはならないだろうな。
10年後にあるかな?