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【試乗】パサートR36とパサートCC、プレミアムを目指すフォルクスワーゲンの秘密兵器だった【10年ひと昔の新車】

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【試乗】パサートR36とパサートCC、プレミアムを目指すフォルクスワーゲンの秘密兵器だった【10年ひと昔の新車】

2008年秋、「R」の称号を戴いたパサートヴァリアントR36と、「CC=コンフォートクーぺ」と名付けられたパサートCCが相次いで日本に上陸した。フォルクスワーゲンのフラッグシップとして、異なる個性を持って登場したが、この2台にはどんな狙いが込められていたのか。Motor Magazine誌ではこの2台を同時に連れ出して比較しながら試乗テストを行っている。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2009年1月号より)

誕生の経緯は異なるがメカニズムは似ている
パサートヴァリアントR36とパサートCCは、フォルクスワーゲンの頂点に位置するモデルとして登場した。この2台の誕生の経緯は大きく異なるが、よく見ると共通点も見えてくる。フォルクスワーゲンにとってこの2台の登場はどんな意味を持つのか、フォルクスワーゲンが目指すトップレンジのクルマ造りの狙いはどこにあるのだろうか。

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まず、なぜこの2モデルが登場したのか。それを考えると、フォルクスワーゲンにとって、ラインアップの空白をどう埋めるかという社内事情が見えてくる。

フォルクスワーゲンには、パサートの上のモデルというものが存在しなかった。超高級車のフェートンとパサートの間には大きな空間があり、それを埋めるモデルが欲しいと考えるのは当然のことだろう。これまではアウディが担当していたということだろうが、ブランドが異なるのでユーザーがそのまま移行してくれるとは限らない。

また、ホットハッチとして新しいスタイルを築いたゴルフGTIは、軽快な走りを楽しむドライバーを世界中で増やしたが、スポーツカーとしてさらに上の性能を求めようとすると、フォルクスワーゲンには受け皿がなかった。そのためにゴルフR32などスペシャルなモデルが開発されたが、さらにその上が欲しいというのも納得できる。残念ながらここでもフォルクスワーゲンでスポーツドライビングの楽しさを経験したのち、他ブランドに向かってしまうという現象があったのだ。

それらを解決するために登場したのが、Rの称号が与えられたパサートヴァリアントR36であり、華やかな高級感を身にまとったパサートCCというわけである。

パサートR36は時代の要求に即したスポーツモデル
御存知の通り、パサートヴァリアントR36は通常のラインアップモデルではなくVWインディビデュアル社製の特別なモデルである。

エンジンは通常のパサートにはない3.6L V6エンジン(トゥアレグに採用されているものと同タイプ)が搭載されているが、吸気系、排気系も含めて全面的にチューニングし直され、その最高出力は299psまで高められている。駆動方式は当然ながら4モーションとなり、トランスミッションは6速DSGが組み合わされている。また、そのエンジンパワーに負けないボディ補強、サスペンション強化、ブレーキ強化なども行われているのは言うまでもない。Rとはレーシングを意味すると言われているが、その名に負けないモデルである。

インテリアも特別に仕立てられていて、エクステリアもデザインし直されているが、これらの企画や開発を行ったのが100%子会社のVWインディビデュアル社というわけである。特別受注生産を担当するVWインディビデュアル社だけあって、こだわりのある凝ったモデルだ。BMWのMモデル、メルセデス・ベンツのAMGモデル、アウディのRSモデルなどにあたると考えていいだろう。

R36に乗ると、このモデルがスポーツモデルとして時代の要求に即した存在だということがわかる。日本でスポーツモデルというと、2シーターとか2ドアクーペというイメージが強いが、最近のヨーロッパではどうも違ってきているようだ。その意図するところは、単にガンガン走るだけでなく、日常の使用から長距離ドライブも快適にこなすクルマということだ。日本市場へのR36の導入はヴァリアントだけだが、ヴァリアントのほうがその性格をよく表しているということ、そして4ドアセダンとしてはパサートCCを投入する予定があったということがその理由として考えられる。

ドライビングを楽しむためにサーキットへ走りに行く。あるいは休日は夫婦、家族で小旅行に出かける。普段は奥さまが買い物に使うこともある。友人たちと一緒にゴルフに行くこともある。普通ならこれをすべてできるようにすると、そのどれもが中途半端になりがちだが、それらを高いレベルで実現している。そのキーポイントとなっているのが、VWインディビデュアル社ならではの高い品質であり、DCCアダプティブシャシコントロール、ACCアダプティブクルーズコントロールといった先進技術だ。

パサートCCは高性能エンジンを搭載した大人のプレミアムカー
ではパサートCCはどのような作り込みがなされているのだろうか。

パサートCCにはV6 4モーション(3.6FSI)と2.0TFSI(FF)がラインアップされるが、今回試乗したV6 4モーションにはパサートヴァリアントR36と同じ220kW(299ps)/6600rpm、350Nm/2400-5300rpmを発揮するエンジンがさりげなく搭載されている。あえてこの凄いエンジンを隠すようにしているが、この何気ないところが逆にパサートCCのプレミアム感を増すことになっている。

スポーツモデルという爪を隠したことによって、パサートCC V6 4モーションに乗っている人への見方、別の言い方をすると記号性も変わるだろう。フォルクスワーゲンはプレミアムカーにはあくまでもそれに相応しい立ち振る舞いをするように徹底しているようだ。

スピードメーターはR36が300km/hまで表示しているのに対し、パサートCCは280km/hに留まる。どちらにしてもリミッターによって250km/hで頭打ちになるのだが、ドライバーとして超高性能車に乗っているのだと意識させられるのは300km/hのメーターである。またパサートCCのギア比はより高められ、6速100km/hでのエンジン回転数はR36が2400rpmなのに対し、パサートCCはたった1800rpmに収まる点にも注目したい。これは高速走行時の静粛性、低燃費化に貢献する。

駆動方式は4モーションとなり、トランスミッションに6速DSGが組み合わされているところも、パサートヴァリアントR36と同じ。つまり同じパワートレーン使っているのだ。このあたり、R36の開発がVWインディビデュアル社で進められる一方で、フォルクスワーゲン本社でパサートのメカニズムを使った上級モデルの企画が立ち上がったのではと推測させるところである。

大人のプレミアムカーとして高性能エンジンを搭載する一方で、2.0TSIエンジン(200ps)を搭載するFFモデルをラインアップするところも心憎い。FFモデルを走らせてみると、2.8Lエンジンなみの大きなトルクで余裕すら感じさせるのはさすが。これで十分というか、こちらの方がダウンサイジングの時代にはふさわしいのではとさえ思えてくる。

先進テクノロジーを満載するという共通点、明確に異なる走り味
パサートヴァリアントR36とパサートCCを検証していると、先進的なドライバー支援システムという共通点も見えてくる。

ACCアダプティブクルーズコントロールは通常のスピードを維持するだけのクルーズコントロールとは異なり、安全な車間距離を保ちながら完全停止状態までスピードをコントロールするものだ。さらに急激に先行車と接近した場合にはフロントモニタリングシステムが作動し、衝突の危険が迫っていることをドライバーに音と表示と振動で報せてくれる。これはACCのレーダーを使った先進のプリクラッシュシステムである。

エレクトリックパーキングブレーキとオートホールドシステムは安全性向上だけでなく便利な機構だ。オートホールドには、ブレーキペダルを使わず、DレンジかRレンジで停止している時に運転席のドアを開けると、自動的にパーキングブレーキが掛かるというプログラムも組み込まれている。Dレンジに入れてそのままアクセルペダルを踏み込むと、自動的にパーキングブレーキがリリースされるなど、操作の手間が掛からないのも便利だ。

ダンパーの減衰力を3段階に切り替えられるDCCアダプティブシャシコントロールも共通装備だ。

また、パサートCCのみの装備となるが、安全性向上のためのモビリティタイヤの採用も目新しい。これはコンチシールと呼ばれる特殊シールが貼られたコンチスポーツコンタクト3CSだ。直径5mm以下の釘などがトレッドに刺さった場合、タイヤ内部にあるシーラント剤が空気漏れを防いでくれる。刺さった釘が抜けても、シーラント剤が速やかにその穴を塞いでくれるから、そのまま走行が可能なのだ。コンチネンタルタイヤの調べによると、タイヤ損傷の約85%はトレッド部のパンクによるものだという。この自己修復機能を持ったタイヤにより、特殊なケースをのぞき、ほとんどパンクの心配がなくなったということだ。

今回の日本仕様には間に合わなかったが、フォルクスワーゲン初のアクティブレーンキーピングシステム(車線維持支援システム)も注目すべきものだ。この他、誌面では伝えきれないほどの、たくさんの先進技術を投入したシステムや装備を満載している。プレミアムにしてもスポーツにしても、フォルクスワーゲンの頂点に位置するモデルだけのことはある。

パサートCC V6 4モーションとパサートヴァリアントR36はメカニズム的には近いが、走り味はかなり異なる。あえて明確に違いを出していると表現していいかもしれない。

パサートヴァリアントR36はスポーツモデルの頂点を目指しているだけあって、動き始めるところからドライバーと一体感がある。そもそもフォルクスワーゲン車はどれもガッチリしているが、このクルマではそれを強く感じる。ここにスピードを出さなくてもスポーツモデルを感じさせる秘密があるが、もうひとつ、それはシートにも感じられる。クッション部もバックレストもサイドサポートがしっかりしたバケットタイプで、さらに肩から背中、腰、お尻、大腿部まできちんとフィットしてくれる。硬すぎないシートは長距離ドライブでも疲れないだろう。

アクセルペダルを踏み込んでいくと6800rpmのレッドゾーンに飛び込む勢いで鋭い加速をしていく。この時のエキゾーストノートもうまく作り出している。大きすぎず、下品でなく、でも走りを愉しめる音だ。

フロントヘビーのはずだが、ワインディングロードのタイトターンでもアンダーステアで困ることはない。ハンドルを切った分だけソリッドなフィールを保ったままノーズをインに向けてくれる。これならサーキットも十分楽しめそうな気がした。これは235/40R18というファットなタイヤが貢献しているのだろうが、乗り心地を犠牲にしていないのが良い。

パサートCCは運転席に座ると、ダッシュボードの上面とボンネットの高さがひとつのラインの中に収まって、すっきりした視界の中で運転できる。盛り上がっているボンネットの中央がちょっとだけ見える程度だ。クルマの先端は判りにくいが、PDCパークディスタンスコントロールの支援によって徐々に感覚を養うこともできる。

同じエンジンなのにパサートCCのタコメーターは6100rpmからラインが赤くなっている。スピードメーターと同じように、ここでもパサートヴァリアントR36と違いを出している。

パサートCCはしっかりしたボディにより、揺すられる感じが少ない快適なクルマだ。走りもしっかりしているが、この快適性はプレミアムモデルとして相応しい。

この2台の検証によってわかったことは、フォルクスワーゲンは他にはないプレミアムとスポーツの頂点を目指しているということだ。質実剛健でありながら艶やか、スポーツモデルでありながら上品、しかもそれを正当な価格で提供する。こんなモデルこそ、今の市場には必要なのだ。(文:こもだきよし/写真:原田 淳)

フォルクスワーゲン パサートヴァリアントR36 主要諸元
●全長×全幅×全高:4820×1820×1490mm
●ホイールベース:2710mm
●車両重量:1770kg
●エンジン:V6DOHC
●排気量:3598cc
●最高出力:220kW(299ps)/6600rpm
●最大トルク:350Nm/2400-5300rpm
●トランスミッション:6速DCT
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム・68L
●10・15モード燃費:8.8km/L
●タイヤサイズ:235/40R18
●車両価格(税込):590万円(2008年当時)

フォルクスワーゲン パサートCC V6 4MOTION 主要諸元
●全長×全幅×全高:4815×1855×1425mm
●ホイールベース:2710mm
●車両重量:1700kg
●エンジン:V6DOHC
●排気量:3598cc
●最高出力:220kW(299ps)/6600rpm
●最大トルク:350Nm/2400-5300rpm
●トランスミッション:6速DCT
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム・68L
●10・15モード燃費:8.8km/L
●タイヤサイズ:235/45R17
●車両価格(税込):602万円(2008年当時)

[ アルバム : パサートヴァリアントR36とパサートCC はオリジナルサイトでご覧ください ]

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