メルセデス・ベンツの新型「E200ステーションワゴン アヴァンギャルド」の実力を、今尾直樹がチェックした!
隔世の感がある
2月下旬、メルセデス・ベンツ日本が開いた千葉県富津市の某ゴルフ場をベースにしてのプレス向け新型Eクラス試乗会に参加し、E220dセダンとE200ステーションワゴンに、それぞれ1時間ほど試乗した。まずはE200ステーションワゴン・アヴァンギャルドから報告したい。
大枠から述べると、新型Eクラス、W214にはこれまで同様、セダンとステーションワゴン、ふたつのボディがある。日本仕様ではそれぞれに3種類のパワーユニットが設定されている。上から2.0リッター直4ガソリンターボと電気モーターからなるPHEVのE350e、E350eからPHEVシステムを取り除いて2.0リッター直4ガソリン・ターボのみとしたE200、そして2.0リッター直4ディーゼルターボのE220dがそれらだ。このうち、E200とE220dにはマイルド・ハイブリッド・システムのISG(Integrated Starter Generator)が装備され、全モデル電動化を実現している。
ボディは若干大きくなった。先代のW213比、新型のW214は20mm長く、30mm幅広く、そして15mmだけ高くなっている。ホイールベースは20mm伸びて2960mmに。長いボンネットに、「キャブバックワード」という「メルセデスの伝統的なセダンのデザイン」を踏まえつつ、室内にはゆとりがあるのは、ロングホイールベースの恩恵だ。
それにしても、初めてEクラスを名乗った1980年代のW124のホイールベースが2715mmだったことを思うと、隔世の感がある。
いわゆるプラットフォームは「Sクラス」、「Cクラス」と共通の「モジュラーリヤアーキテクチャー(MRA)」の発展型で、サスペンション形式はフロントが4リンク、すなわちダブルウィッシュボーン、リヤが5リンクとなる。PHEVのE350eにはエアサスペンションが奢られるけれど、それ以外は可変ダンパーに頼ることなく、シンプルなメカニカル・サスペンションに徹している。
E200ステーションワゴン アヴァンギャルドは新型Eクラスのワゴンのエントリーモデルである。といっても、928万円もする。これはセダンのE200の34万円高である。例によって試乗車にはAMGラインパッケージ(50万4000円)に始まる各種オプションが装着されている。アドバンスドパッケージ (59万円)にレザーエクスクルーシブパッケージ (85万7000円)、デジタルインテリアパッケージ(40万4000円)、さらにパノラミックスライディングルーフ(28万8000円)。清潔な雰囲気のボディ色、オパリスホワイト(メタリック)は16万1000円のオプションで、これらを足すと1284万円になる。いいものは高い。円安だし……。
AMGラインパッケージを選ぶと、外観ではAMG風の開口部の大きなフロントバンパーになり、ホイールが18インチから19インチに昇格。最低地上高は5mm低まる。レザーエクスクルーシブパッケージはシート生地がソフトなナッパレザーとなるほか、シートヒーター等、快適装備が充実する。試乗車のトンカブラウンというインテリアカラーはスポーティ&ラグジュアリーのひとつの典型という感じで、おとなっぽい香りが漂う。シガーとかウイスキーとかを連想するからでしょうか。
助手席のダッシュボードに広がるMBUXスーパースクリーンは、新型Eクラスとメルセデス・ベンツのデジタルテクノロジーを象徴する存在でもある。セルフィー&ビデオカメラ、なんてのもこのオプションに含まれている。室内で自撮りして、なんに使うんぢゃ? と、筆者なんぞは思うけれど、蛇の道は蛇、いろいろあるのでしょうね。
ともかく、EQを名乗らないメルセデスの助手席のダッシュボードにまで液晶スクリーンが広がってきた、という感慨のみを記し、スマホのように外部からアプリをダウンロードできるようになった云々というのもMBUXの新たな自慢のひとつだけれど、どんなことができるのか、についてはデジタルネイティブの方々にお任せしたい。
なお、デジタルテクノロジーを象徴するMBUXスーパースクリーンは、前述したデジタルインテリアパッケージに含まれている。このオプションはレザーエクスクルーシブパッケージとの同時装着で、つまり助手席のダッシュボードにもスクリーンをつけるには126万1000円が必要になる。
MBUXの音声認識システムはドライバーがひとりで乗っているときには、これまでのように「ハイ、メルセデス」と、呼びかけなくても、いきなり「暑い」とか「寒い」と“ジャストトーク”するだけで、エアコンの温度を調節してくれたりする。「まぶしい」と呟いたらルーフのカーテンを自動的に閉めてくれた。以前は滑舌が悪いらしい筆者のことばはぜんぜん認識してくれなかったけれど、それも改善が進んでいる。ついでながら、ひとり乗車か否か、なぜわかるのか? 各シートの重さを計るシートベルト装着の警告システムと連動しているのだそうだ。なるほどなぁ。
一方、アドバンスドパッケージには熱反射・ノイズ軽減ガラスや4Dサラウンドサウンドシステム等が含まれる。ノイズ軽減ガラスは静粛性に貢献し、4Dサラウンドサウンドシステムは、合計17個のスピーカーと前席シートに仕込んだタクタイル・トランスデューサー(触覚的振動機)でもって音楽を振動とともに楽しむことができる個室ディスコ、もしくはクラブ的なエンタテインメントである。こちらはAMGラインパッケージとの同時装着が必須で、最近のメルセデスはこのようなセット販売がお気に入りなのである。
現代的なキャラクターE200のエンジンは、先代譲りの排気量1997ccの直列4気筒DOHCで、これにツインスクロールターボチャージャーを装着して、最高出力204ps/5800rpmと 最大トルク320Nm/1600~4000rpmを発揮する。発進と加速時には、フライホイールと9速オートマチックトランスミッションの間に挟み込まれたISGが17kW(23ps)/1500~2500rpmと205Nm/0~750rpmを発揮して、エンジンの助太刀をする。E200の場合、車重は先代比でおよそ70kg増えている。試乗車はAMGラインパッケージにパノラミックスライディンルーフを備えているため、1910kgもある。
運転してみると、その重さを感じさせない。ぜんぜん重ったるくない。老成を感じさせたW124なんかと較べると(較べる必要はないけど)、ものすごく若々しい。現行の「Cクラスに」も通じる爽快さ、軽快さがある。1997ccの直4ターボは軽やかでスムーズ。基本的に静かでもある。9ATが1500rpm近辺をつねに維持しようとしていることもある。たまさグッと踏み込むと、ぐわっとターボが炸裂する。
低速での乗り心地はタイヤの硬さが若干気になるところではある。AMGラインパッケージを選ぶと前245/45R19、 後ろ275/40R19という高性能スポーツカーのようなタイヤサイズになるから、致し方ない。というか、スポーツカーっぽい乗り心地を期待するひとにとって期待通りの仕立てになっている。とりわけ内房の、もうちょっと具体的には富津館山自動車道を鋸南保田ICで降り、鴨川へと向かう一般道の長狭街道は、路面の一部が凸凹しており、その凸凹路面を40km/h 程度で走っていると、けっこう揺すられる。東京都内だとこういう路面は珍しいから例外だと考えるべき、であるにしても。
高速走行ではしなやかさと滑らかさが心地よい。このダンパー、中途半端な入力に対しては冷たい塩対応でツンツンしている。けれど、本当に必要な、大きな入力に対しては優しいのだ。いわゆるツンデレ、ツンツンとデレデレの二面性を持っている。少女マンガとかラブコメに出てきそうな、その意味できわめて現代的なキャラクターといえる……かもしれない。
もうひとつ、ステーションワゴンとしての改良点は、荷物の出し入れがより楽ちんなように、開口部が8cm広がっていることだ。トランク容量は615リッター、後席の背もたれを倒せば、最大1830リッターのカーゴ・ルームが生まれる。ひとつ下のCクラスのステーションワゴンは490~1510リッターで、筆者的にはこれで十分だと思うけれど、それはあくまで個人の感想に過ぎない。
個人的に不思議なのはステアリングのロックトゥロックが2回転ちょっと、ということはステアリングのギヤ比はきわめてクイックなはずなのに、ゆったり感、安心感をドライバーの私は感じたことだ。技術上の謎は未解明ながら、これだけはいえる。こういう安心感こそメルセデス・ベンツならではの、それこそW124にも共通する、よき伝統である、と。
W124のような伝統派の方には、AMGラインパッケージを選ばない選択もあるはずで、少なくとも、選ばなければタイヤサイズが前後225/55R18になって、中低速の乗り心地のツンツンも優しくなることが期待できる。ただし、その場合、AMGラインパッケージが持っている若々しさが失われる……かもしれない。現在のメルセデス・ベンツが成熟を拒否しているようにみえる理由がそこにある。
文・今尾直樹 写真・田村翔 編集・稲垣邦康(GQ)
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