さまざまな革新的事業を展開する現代のお騒がせ男、イーロン・マスク氏。彼はEV車、バッテリー事業、宇宙開発などなど、あらゆる事業に着手して拡大させているが、なかにはその実態が知られていないビジネスも多い。そうしたマスク氏の革新的な事業をご紹介しよう。彼がビジネスに求めるテーマは、「IT」と「クリーンエネルギー」、そして「宇宙」の3つである。
文/鈴木喜生、写真/ザ・ボーリング・カンパニー、ニューラリンク、スペースX
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オートパイロットで地下を爆走する「ループ」
地下に掘られたトンネル道を、クルマがオートパイロット(完全自律運転)によって、時速200km以上(時速172マイル)で走行するという近未来的な交通システムが、マスク氏が考案した「ループ」(Loop)だ。
ベガス・ループを走行するテスラ車のイメージ(写真/ザ・ボーリング・カンパニー)
その最初の運用区間となる「ベガス・ループ」が、米ネヴァダ州にある「ラスベガス・コンベンション・センター(LVCC)」の地下に完成している。その総距離は約1.3kmで、車両にはテスラのモデル3、モデルXが使用される。今後、そのルートは延長される計画であり、ロサンゼルスでの建設も予定されている。
アメリカの都市部の渋滞はひどく、老朽化したフリーウェイも多い。そうした問題を解消すべく、マスク氏は2016年に「ザ・ボーリング・カンパニー」(TBC)を設立した。EV車による渋滞フリーなこの交通システムは、「クリーンエネルギー」の精神から発案されたものといえる。
しかし、その運用直前になって、さまざまな問題が発生している。本来であれば2021年1月に開催予定だった世界最大の電子機器見本市「CES」に合わせて運用が開始されるはずだったが、新型コロナウイルスのためにCESがバーチャル開催となり、その初走行が遅延しているのだ。
また、走行車両台数や最高速度に関して地元行政から制限が設けられたため、当初予定していた輸送能力が実現できそうにない。このベガス・ループの建設にはLVCCが出資しており、当初予定した人員が輸送できない場合、マスク氏のザ・ボーリング・カンパニーはLVCCに違約金を迫られることになるという。
ベガス・ループの構想図。地図中央のグリーンのラインが完成済みの区間(写真/ザ・ボーリング・カンパニー)
脳波をアウトプットして直接操作する「ニューラリンク」
2019年7月、マスク氏は、脳とコンピュータを繋ぐ技術「ニューラリンク」(Neuralink)に取り組んでいることを公表した。これは脳に電極をつないで脳波を信号化する「ブレイン・マシン・インターフェイス」という技術だ。
電極が付いた極細の針を脳に差し込み、その電極をセンサーチップ「ザ・リンク」につないで脳に埋め込む。「ザ・リンク」には256chのチップが12枚並んでいて、計3072chの脳波を同時に読み取り、記録し、データをBluetoothでアウトプットする。その電波をコンピュータで受け、専用アプリで脳の信号を解析してデータ化し、それによってソフトやツールを動かすのだ。マスク氏はこの研究開発のために、2016年に「ニューラリンク」社を設立した。
そして今年4月8日、このセンサー「ザ・リンク」を脳に埋め込んだサルが、脳からの信号だけでゲームに興じる映像が公開され、世界に衝撃を与えた。その映像は以下のような内容だ。
9歳のサルにジョイスティックの操作を教え、テレビゲーム(「Pong」という初期のピンポンゲーム)がプレイできるようにトレーニングする。そのサルの脳にチップを埋め込み、その信号をテレビゲームにつなぎ、サルにゲームをさせる。サルはジョイスティックを操作しながらゲームをしているが、ジョイスティックはゲーム機に接続されていない。ゲーム機に接続しているのは、サルの脳からの信号を拾ったコンピュータだけである。
マスク氏はツイッターで、「麻痺のある人がザ・リンクを活用すれば、普通のヒトが指を使うよりも速くスマホを操作できるだろう」と、語っている。また、この技術が医療の領域を超えて使用される時代が来れば、クルマや宇宙船は「思うだけ」ですべてをコントロールすることが可能になるだろう。
脳内に埋め込まれるセンサーチップ「ザ・リンク」(写真/ニューラリンク)
通信速度「210Mbps以上⁉」の「スターリンク」
マスク氏が民間宇宙開発企業「スペースX」を立ち上げたのは2002年であり、その設立は「テスラ・モーターズ」よりも2年早い。
当時のロケットは、ペイロード(人工衛星や宇宙船のこと)を切り離したあと、そのまま投棄されることが多かった。しかしそれはマスク氏のモットーである「クリーンエネルギー」に反する行為だ。そのため氏は、自律的に着陸地点に帰還し、垂直に着陸するロケットシステムを完成させた。それがファルコン9であり、ファルコン・ヘビーだ。
ファルコン9は現在、単体のモデルとしては世界でもっとも打ち上げ回数が多いロケットだが、その再使用型の第一段ロケットは、多いもので計8回、再使用されている。これによって、過去には平均120億円ほどかかっていたロケット打ち上げコストを、50億円まで低減することにスペースX社は成功しているのだ。
しかし、宇宙開発には莫大なコストがかかる。そのためスペースXはさほど儲かっておらず(非上場のため正確な数字は未定)、常に資金調達に追われている。そんな同社にとってはじめてのドル箱ビジネスが、高速通信サービス「スターリンク」なのだ。
スターリンクとは、計1万2000機の小型通信衛星を軌道上に打ち上げ、地球上のあらゆる地域に高速通信回線を提供するサービスであり、2021年5月までに計1565機の通信衛星が軌道上に配置されていて、今も月1回(60機)のペースで打ち上げられている。
2020年10月にはアメリカ北部とカナダ南部、イギリスでのサービスが開始され、今年2月にはオーストラリア、ニュージーランド、メキシコでの予約受付もはじまった。米国での予約料金は99ドルで、それは後日支払う受信機キット600ドルに充当される。2月時点での契約者は1万人程度だが、その数は急増しているという。スペースX は、50Mbpsから150Mbpsのダウンロード速度を約束しているが、ウェブ上では「210Mbps以上!」と報告するユーザーもいるようだ。
同様の計画は、アマゾンのジェフ・ベゾス氏が主宰するブルー・オリジン社や、ワンウェブ社、イリジウム社などでも進められているが、衛星の数と通信速度の速さ、契約料金の低さでスターリンクは他を圧倒し、ほぼ独壇場。ロケット、EV車に続いて、通信業界の構造をイッキに塗り替えるビジネスになるだろう。マスク氏は今、このスターリンクをスペースXから切り離し、独立企業として上場することを計画している。
スターリンク計画では1万2000機の小型通信衛星が軌道上に投入される予定。それらの衛星の光は地上から肉眼で観察することもできる(写真/スペースX)
常に時代の先を行くイーロン・マスク氏。氏の取り組む技術はテクノロジーの世界を激変させることは間違いないだろう
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みんなのコメント
EVのVってVehicle、つまり車の事だろ
恥ずかしい奴だな