雨の日の運転に欠かせないのがワイパー。自動車の長い歴史において、現在までこれを超える雨対策の装備は生まれていない。今回は大切な部品なのに軽視されがちなワイパーについてしっかり考えてみたい。
文/長谷川 敦、写真/写真AC、Adobe Stock、FavCars.com、アイキャッチ画像/Marcelo Trad Nery@ Adobe Stock
雨の日も万全に! ワイパーから聞こえるビビリ音や拭きムラ…”イライラのモト”を断つ!!
発明から120年。いまも続くワイパーの歴史
1926年に発売されたフォード T型ロードスターにはすでにワイパーが装備されている。現代のそれとは違って、ワイパーの回転軸がルーフにあるのが特徴だった
最初のワイパーが考案され、特許を取得したのが1903年。発案者はアメリカのメアリー・アンダーソンという女性実業家だった。
冬のニューヨークを訪れた彼女は、路面電車の運転手が窓ガラスに付着した氷雪によって視界が遮られるのを目撃。これを解決する手段はないものかと考えて、ゴムを取り付けたブレードで雪や雨を除去する装置を発明した。
当初は運転手がワイパーに気を取られて運転に集中できないといわれることもあったが、やがてその有効性は認められ、当初は手動だったワイパーもエンジンのキャブレターと連動して自動で動くようになり、そこから電動式へと進化した。
以降、時代に応じて形状や素材、動きの制御などは洗練されていったが、ワイパーの基本的な構造は現代でも変わっていない。
ワイパーの作動によって視界がクリアになるのは、厳密にいうと水滴がすべて除去されているからではなく、水の粒がならされて均一な膜を作るから。これで光の乱反射が抑えられ、良好な視界が得られる。
しかしこの記事では、わかりやすくするための均一な水膜を作ることを水滴の除去と表現する。
意外に多い? ワイパーのトラブル
ワイパーが正常な状態でない場合、写真のようにワイパーの痕にスジが残り、それが光を屈折させて視界を妨げる。これでは前方がよく見えずに危険きわまりない(jittawit.21@Adobe Stock)
雨の日に視界を確保するために欠かせないワイパーは、シンプルな構造ゆえにトラブルを起こしにくいと思いがち。だが、実際には細かいトラブルが起きやすい。
最大のトラブルは水をしっかり除去できないというもの。ウィンドウの表面に付着した水をワイパーゴムによって取り除くのだが、ワイパーを動かしてもクリアな視界を得られないことがある。
ワイパーにトラブルが起こっている場合、ドライバーは動作音でそれを知ることができる。
ワイパーの作動中に、断続的に何かをこする音が聞こえてくると、それはスムーズな水はけができていない証拠。この音は一般的に“ビビリ音”と呼ばれている。
水滴の除去がうまくできないトラブルに関してはいくつかの原因が考えられる。それについては後述したい。
次にあげるトラブルはワイパーがうまく動かない、またはまったく動かないというもの。これはワイパーを作動させるモーター自体が故障している、もしくは電気配線系の不具合が原因の可能性が高い。
ヒューズ交換でトラブルが解消することもあるが、そもそもヒューズが切れた原因を特定しないと同じトラブルが再び起きるかもしれない。
つまりワイパーが動かない場合は、ディーラーやカー用品店などでプロにチェックしてもらうのが賢明だ。
次項では、このような動作系のトラブルではなく、先にあげた水滴をうまく除去できない問題の原因とその直し方、そしてワイパーを長持ちさせるコツにスポットを当てて検証していこう。
どうして起きる? スムーズにいかない水滴除去
ガラス表面に付着した水滴。これが視界不良の原因になる。ワイパーを動かせばこの水滴を除くことができるが、ワイパーに不具合があると水はけが悪くなる
ここからは、ワイパーが動作してもクリアな視界にならない場合の原因とその対策を個別に見ていく。
●ワイパーゴムの劣化
ご存じのように、ワイパーがガラスと接触する部分の素材はゴムだが、このゴムは使用するに従って摩耗する。ゴムが摩耗するとうまく水滴を除去できないのは想像も容易だろう。
摩耗に加えて紫外線によるゴムの劣化も考えられる。ゴムは紫外線に弱く、屋外を走行しているときはもちろん、青空駐車をしていても太陽からの紫外線でゴムはダメージを受けてしまう。
劣化したゴムは硬くなってガラスに密着できず、ひび割れが生じると水滴の除去能力が落ちる。
ワイパーゴムが劣化した場合は速やかに新品へと交換したい。ワイパーゴムの交換は比較的容易なので、ディーラーやカー用品店にクルマを持ち込まずに自分で行える。
交換作業に自信のない人は、当然有料にはなるがカー用品店で交換作業を請け負ってくれるので、こうしたサービスを利用するのがお薦め。
●ワイパーブレードも傷んでる?
実は、ワイパーゴムだけでなくそれを支えるワイパーブレードも使用に伴った劣化が進行していく。
ワイパーブレードはワイパーゴムに均一な圧力をかけ、水滴をキレイにならす役割を持っている。つまり、ワイパーブレードが劣化するとワイパー本来の能力は発揮されない。
ブレード劣化の原因は経年による変形や素材の変性、走行中に当たった石粒や砂など。ブレードが変形してしまうと、ワイパーゴムが新品であってもクリアな視界にはならない。
ワイパーゴムを交換しても水滴除去がスムーズにいかないときは、ワイパーブレードの交換が必要な場合もある。
実際にメーカーでは、ワイパーゴムのみの交換ではなくブレードの同時交換も推奨しているケースが多い。
ワイパーゴム&ブレードの交換目安とワイパーを長持ちさせるポイント
ワイパーブレードの交換作業も比較的簡単だが、自信のない人は販売店に依頼しよう(Михаил Решетников@Adobe Stock)
最後にワイパーゴムとワイパーブレードはどのぐらいの頻度で交換すればよいのか、そしてワイパーを劣化しにくくするためのコツを紹介する。
●ゴムは半年ごと、ブレードは年に1回が交換目安
クルマの保管状況や走行時間によって変化はあるものの、ワイパーゴムは半年に1回、ワイパーブレードは1年に1回の交換が目安となる。
これらの劣化は徐々に進行するし、毎日雨が降るわけではないので、ゴムやブレードの変化には気づきにくいが、思い切って新品すると視界が一気にクリアになって驚くことも多い。
だからこそ、定期的な交換を心がけることにより、常に良好な視界が確保されてそれが安全運転にもつながる。
もちろん、使用していて明らかに水はけが悪いと感じたら、できるだけ早めにワイパーゴム、あるいはゴムとブレードの両方を新品に交換する。
●ワイパーを長持ちさせる3つの気配り
■気配り1.ワイパーゴムはこまめにクリーニング
屋外で使用するクルマでは、ボディや下回りだけでなくワイパーにもホコリやゴミが付着しやすい。ホコリが付いたままのワイパーを使用すると、そのホコリがワイパーゴムを傷付けて劣化させてしまう。
こうしたトラブルを防止するため、時々はワイパーゴムをウエスで拭くなど、クリーングしておくとよい。
■気配り2.乾いたガラスにワイパーをこすらない
ワイパーはウィンドウの表面が塗れているときに効果を発揮するもので、ガラスが乾いた状態で使用すると表面のホコリやワイパー自体の抵抗で傷付くケースもある。なんらかの理由でワイパーを動かしたい場合は、ウィンドウウォッシャー液を吹きかけてから動かすのがお薦め。
■気配り3.撥水ガラスには対応のワイパーを
ウィンドウに撥水加工を施すと、それによって水分がガラス面に張り付きにくくなる。標準のワイパーの場合、水分の少なさゆえにガラス面との抵抗が大きくなり、それで水はけが悪くなるとともにワイパーゴムの劣化も進行する。
こうしたトラブルを防ぐには、ワイパーゴムも撥水加工対応(専用)品にするとよい。撥水ワイパーは抵抗が低く、スムーズな動作が得られるうえに長持ちする。
今回はワイパーについて考えてきた。シンプルなワイパーだが、安全運転のためには重要な役割を担っている。常日頃からワイパーのケアを行うことが、アナタの身を守ることにもつながるのは間違いない。
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