90年代パリダカマシンをイメージした「オフロードを走るドゥカティ」
ドゥカティにはムルティストラーダというアドベンチャーモデルが既にあるが、新型アドベンチャー「デザートX」を2022年モデルのラインアップに加えた。
ムルティストラーダと異なるのは、オフロード性能を重視したモデルとなっているところだ。フロントホイールを21インチとしている点もさることながら、往年のパリダカマシンを彷彿とさせるデザインからもそれは想像できるだろう。
【画像18点】「パリダカのイメージを継承!」ドゥカティ デザートXを写真で解説
日本では2022年第3四半期(7月以降)の発売が予定されているが、実際のオフロード走破性はどうなのか? ドゥカティだけにオンロード性能も捨てていないのか?
イギリス人ジャーナリストでマン島TT参戦レーサーでもあるアダム・チャイルド氏が、岩の転がるオフロードから、ワインディング、ときに大雨……と様々なシチュエーションでテスト。「オフロード好きライダーに限らず、幅広く楽しめるポテンシャルがある」とのことだが、以下、その試乗レポートをお伝えする。
ドゥカティのデザートXは、悪名高いパリ・ダカールラリー黄金時代を思わせるバイクだ。1990年代のそこは大排気量ツインを搭載した「デューンバスター」が活躍するフィールドで、それらは巨大で、冷徹で、速く、そして何よりクールだった。ドゥカティがパリダカで優勝したことはなかったが、ドゥカティの空冷Lツインを搭載したカジバ・エレファントが1990年と1994年の2度、優勝を果たしている。デザートXのエクステリアをひと目見ただけで、そのパリダカマシンからインスピレーションを得ていることが明らかだ。
ドゥカティは2019年のEICMA(ミラノショー)で、リヤショックをサイドマウントしたスクランブラースタイルの空冷1100ccモデルとして、デザートXのコンセプトモデルを発表した。それは非常に洗練されたスタイルのバイクで、多くの人々から高評価を得た。それから3年が経った今、私の目の前にあるデザートXはそのときの印象と違わず、その佇まいはドラマチックですらある。特徴的なデュアルヘッドライトを踏襲している点も良い。
ただしコンセプトモデルでは空冷だったエンジンは水冷に変更された。排気量937ccで110psを発生する、デスモドロミック11°テスタストレッタだ。リヤショックはオーソドックスな位置に移動したが、それ以外はコンセプトモデルの刺激的なスタイルとディテールがそのままで、オリジナルに忠実な市販車に仕上がっている。
これは新たなカテゴリーに進出しているドゥカティにとって大きな一歩だ。フロント21インチ、リヤ18インチのホイールを組み合わせたバイクがボローニャから生まれたのは60年ぶりだからだ。しかもエンジン以外のフレーム、サスペンション、電装系──ほぼすべてのパーツがデザートXのために新開発されたものである。
ドゥカティ曰く「オフロードはもちろんオンロードでも快適な走破性を発揮するよう、そして扱いやすさを念頭に開発した」というデザートXだけあり、私たちはそれが事実かどうかを念入りに確認しなければならない。
それらを検証すべく、イタリア・サルディーニャ島のオフロードとオンロードで、デザートXを存分に走らせてきたわけだ。
ドゥカティ デザートXの多面性「6種の走行モードがあるが、それぞれキャラが立っている」
デザートXを走らせてすぐに感じたのは、ドゥカティが燃料供給とスロットルレスポンスのアップデートに再び焦点を当ててきた、ということだ。ツーリングモードにして走行すると、スロットル操作は軽くて扱いやすく、標準装備のクイックシフターのおかげでシフトアップ/ダウンがとても簡単だ。V型2気筒エンジンを生産する各メーカーが現代に最適化したスロットルレスポンスに苦心しているが、やはりドゥカティはその点で一日の長があり、それは完成の域に達している。
デザートXは6種のライディングモードを搭載している。スポーツ、ツーリング、アーバン、ウェットの4種はオンロード用、さらにエンデューロとラリーという2種はオフロード用モードだ。各モードではエンジン出力とスロットルレスポンスが調整され、スポーツ、ツーリング、ラリーではフルパワーとなる110psを発揮する。また、アーバンとウェットでは最高出力は95ps、エンデューロは75psに制限される。
電子制御デバイスは、ABS、DTC(トラクションコントロール)、DWC(ウィリーコントロール)、EBC(エンジンブレーキコントロール)はすべて標準装備で、6軸IMUによるバンク角連動制御となっている。
それぞれのモードでは、パワーとスロットルレスポンスの違いをはっきりと体感できる。多くのオーナーは、フルパワーをスムーズなスロットルレスポンスで味わえるツーリングモードを選択するだろう。
しかしスポーツモードも捨てがたい。スロットルレスポンスはよりダイレクトになるため操作に繊細さが要求されるが、扱いにくさはない。むしろユーザーフレンドリーですらあるし、スムーズな操作感はツーリングモードと共通している。
ドゥカティはスポーツモードのスロットルレスポンスを「ダイナミック」と表現しているが、荒々しさや鋭さはない。むしろ使い勝手が良くて乗りやすいから、私はオンロードではほとんどをスポーツモードにセットして走っていた。
試乗中は大雨にも見舞われた。ここぞとばかりにモードをウェットに切り替えると、その効果をはっきりと感じることができた。これは単なるギミックではなく、経験の浅いビギナーにとっては悪条件での走行をより安心して楽しむことができ、安全に走破できるはずだ。
オフロード用となるエンデューロとラリーも、それぞれに明確な違いがある。パワーとスロットルレスポンスだけでなく、ABSやトラクションコントロールの介入レベルを調整すれば、オフロード経験豊富なベテランライダーならブレーキやスロットル操作でリヤを自在にスライドさせて走ることも可能だ。
エンジンブレーキコントロールは3段階にカスタマイズでき、数値が高いほどエンジンブレーキが弱くなる。最弱にすると、2ストロークエンジンを思い出させる効き具合となる。
ライディングモードの切り替えに使うスイッチの使いやすさはもちろん、現在のモードを表示する5インチ縦型フルカラー液晶ディスプレイの見やすさも特筆モノだ。路面状況やそのときの気分に合わせて瞬時にモードを切り替えることができ、デザートXを自由に操れる。
一日の走行でこれほど頻繁にライディングモードを切り替えて走ったのは今回が初めてではないだろうか。試乗ルートがトリッキーなオフロードからハイペースな舗装路、ときに激しい雨が降る中での危険すら感じるヘアピンカーブを含む約240kmの長距離だったこともあるだろう。
しかし、ドゥカティがムルティストラーダでそのコンセプトを「4バイクス in 1」と示したように、デザートXの6種のライディングモードがそれぞれの特徴が明確で、状況に合わせてバイクの性能をしっかりと高めていることが大きな理由だ。
アグレッシブなスタンスで楽しむツーリング。刻々と状況が変化するオフロード。そしてハイスピードで駆け抜けるワインディング。それぞれに適したモードで走るのだが、どの場面でもパワー不足を感じない。937ccテスタストレッタ11°エンジンは、デザートXにふさわしい見事なバランスを備えているのだ。
低速域では期待どおりのトルクを生み出して駆動力となるし、高速域ではさらに力強く、ドゥカティらしい勢いでクランクシャフトが回転する。ムルティストラーダV2やモンスターなどに搭載されてきた実績のあるLツインエンジンは、やはりドゥカティの主力たる理由を持っているのだ。
ドゥカティ デザートXのハンドリング「意外にもオンロードでは軽快」
ドゥカティはデザートXにオフロードにおける優れた走破性を持たせるため、ホイール径はフロント21インチ、リヤは18インチとし、それぞれ230mm、220mmのサスペンションストロークを確保した。さらにいえば、最低地上高は250mmで、装着するタイヤはピレリ・スコーピオンラリー、シート高は875mmだ(純正アクセサリーとしてローシートやローサスペンションが用意されている)。
舗装路ではこの足まわりがネガとなる場面もあるかと思ったのだが、実際にはそうした挙動はほとんど感じられない。
新開発のトレリスフレームにはフルアジャスタブルのKYB製フロントフォークとリヤショックが装着されているが、このシャシーの剛性感バランスがいいのだ。
数あるエンデューロやアドベンチャーバイクの中には、オフロードでの走破性を重視するあまりサスペンションが柔らかすぎて腰がなく、舗装路をハイペースで走るには頼りなさを感じるものもある。
しかしデザートXは違う。ドゥカティならではのオンロード性能も兼ね備えているのだ。パニガーレほどではないものの、デザートXに備わる電子制御デバイスは、サルディーニャ島のワインディングでその威力を存分に発揮し、まるで水を得た魚のように走ってくれる。フロントホイールが21インチと大径であることを意識しながら走っていても、まるで19インチのような軽快感を保ちながらコーナリングできるし、リラックスしてワインディングを走れる。
サスペンションストロークが長いKYB製フロントフォークだが、接地感はしっかりとあり、安定した走行状態を保ってくれる。アグレッシブに攻めた走りをしても破綻することはない。確かに一般的なオンロードモデルよりもストローク量は多いが、きっちりと制御された上質な動作をする。これにはサスペンションだけでなく、ピレリのタイヤ性能によるところも大きく、従来のオールラウンドタイヤのようにロードインフォメーションを伝えてくるし、安定した走りをもたらしてくれる。
ドゥカティ デザートXの高いオフロード走破性「電子制御もあるので心強い」
オンロードでの走行性能が良かったこともあってか、最初のオフロードセクションに入ったとき、私はやや不安になった。
しかし、ゴムカバーを外しホールド力をアップしたステップに踏ん張って立ち上がると、スタンディングフォームにすんなりと馴染むことができた。人間工学に基づき、スタンディングフォームを取りやすい車体設計になっているというだけのことがある。ライディングしやすいのはもちろんで、その姿勢でも縦型5インチ液晶ディスプレイは非常に見やすいし、タンク、シート、フェアリングなどその他の車体部分に妨げられることなく、自由に前後へ荷重移動できる。
ダートでの乗り心地もオンロードと同じくらい印象的で、それなりに荒れた路面でもデザートXは難なく走破していく。しかも202kgという乾燥重量を感じさせないほど、車体は軽く思えた。
大きな岩を避けたり、走行ラインを轍から外すときでも不安なくコントロールできる。ハンドルバーが大きく振れたり、サスペンションが底づきすることもない。ハードな路面をハイスピードで駆け抜ける場面でもリヤサスペンションがしっかりと機能していて常に安定したトラクションをもたらしてくれる。とはいえ、広大なオープンエリアを走るのであれば、それに適したタイヤに換装したほうがいいだろう。
フロント21インチホイールを備えているとはいっても、デザートXはオフロード専用バイクではない。110psを発生するエンジンを搭載するアドベンチャーバイクだし、オンロードでの優れた走行性能を考えれば、オフロード走破性に不満も問題もない。ドゥカティはオフロードのためにオンロードを犠牲にすることなく、その逆もまた然りという絶妙なバランスをデザートXに与えた。特にオフロードでは、電子制御デバイスが存分に威力を発揮している。
エンデューロモードで走ると、まるで鬼教官が運転するバイクに乗せられてダート走行をしている気分だ。オフロード用ABSは前後ともに優れていて、調整可能なリヤブレーキペダルの位置もちょうどいい。ABSの介入が邪魔と感じたのはたったの一度、緩い下り坂の砂利道で強めにブレーキをかけたときだけだ。トラクションコントロールを有効にしていても、ある一定の範囲まではリヤタイヤをスライドさせることができる。
エンデューロモードでは最高出力が75psまで下がるが、ピレリ・スコーピオンラリーがトラクションを得るには十分なパワーだし、バンク角連動式のトラクションコントロールは私が経験した中でも最高のセッティングだ。電子制御デバイスのサポートによって、私は安心してデザートXでダート走行を楽しめた。何しろ気持ちに余裕が生まれるから、ダートを走行中であってもサルディーニャ島の美しい景色を眺めたり、より素敵なルートを探索したりできるのだ。
ラリーモードはフルパワーで、トラクションコントロールの介入度が下がり、ABSはフロントのみに機能する。だからといって荒々しい野獣のようなバイクに変身するわけではなく、優れたパワーデリバリーによって110psを容易に扱うことができる。オフロードをハイペースで走れる上級者なら、デザートXの真価を引き出し、Lツインエンジンのパワーと完成度の高いシャシーの性能を存分に味わえるはずだ。
ブレーキ性能についても申し分ない。フロントにはディアベル1260のラジアルマウントキャリパーと同等の巨大なブレンボ製M50が装着されている(マスターシリンダーとディスクは別物)。レバー位置とブレーキペダルの高さは調節可能で、オンロードでもオフロードでもタッチ、コントロール性、ともに良好な制動力を持っている。
コーナリングABSは標準装備で、オンロードでは3モードから選択できる。オフロードでは前後両方が作動する2モードのほかに、リヤが無効になるモードが用意される。また、ABSはボタンひとつで前後ともに完全カットすることもできる。ABSの性能は非常に優秀なので、私にはABSを完全カットする意味がいまひとつ理解できないのだが、オフロードでは路面状況が刻々と変化することも事実だ。ABSは不要というライダーもいるのだろう。
長距離ツアラーとしての資質も高いドゥカティ デザートX
私たちはおよそ250kmを走った。オフロードではほとんどスタンディングだったが、実に快適で楽しい一日だった。21Lの燃料タンクを備えるデザートXはドゥカティによれば航続距離は約400kmで、さらにオプションの8L予備タンクを追加すれば走行可能距離は40%延びるという。燃費重視で走れば、航続距離は600kmに迫るはずだ。
この予備タンクはスタイルも格好良いが(1026ポンド=約17万円もするのだから当然か)、ノーマルタンクだけでも十分な航続距離といえる。とはいえ、無給油でおよそ600kmも走れるメリットも捨てがたい。
また、ピリオンシートの出来具合も良好で、ゆったりとしたシートポジションと頑丈なグラブバーを備えているから、タンデムライディングも快適に楽しめるだろう。
クルーズコントロールも標準装備されている。スタンディングせず、シートに座っている状態であればスクリーンは有効に働き、ライダーに当たる走行風を和らげてくれる。ただしスクリーンは固定式のため調整できない(オプションで大型スクリーンは用意されている)。
5インチフルカラー液晶ディスプレイは、縦型にしたことで視認性に優れ、魅力的なパーツのひとつだ。メーターデザインは「標準」と「ラリー」の2種類が用意されており、「標準」はエンジン回転数と速度、ギヤポジションが大きくデジタル表示される。「ラリー」ではトリップメーターと燃料計が大きく表示される。メーターにはBluetoothによる通信機能も備わり、ドゥカティが開発中のアプリを使えば、メーターにターンバイターン式ナビゲーションを表示できるようになる。
ドゥカティ デザートX総合評価
ドゥカティは21インチホイールのデザートXで新たなマーケットに参入し、素晴らしい結果を残したといえるだろう。クラシカルでありながらモダンも感じるルックスには上質な魅力が漂う。
エンジンはオンロードでも十分なパワーを発揮し、オフロードでは低回転域でのレスポンスも良く、ライディングをピュアに楽しめる。フレームやサスペンションも同様で、オン/オフを問わず安定した走りを生み出している。ビッグオフに慣れ親しんだ上級者にはデザートXの限界を感じるかもしれないが、それは主にタイヤに起因する問題だろう。さらにオフロード向けのブロックタイヤに換装すれば、デザートXはさらなる走破性を発揮するはずだし、その限界がどこにあるのかは興味深い。
オンロードでもオフロードでも、モードを切り替えることでデザートXは走行性能をガラリと変える。オフロードでは小さな岩を越えたり、軽くジャンプしてみたり、オンロードではワインディングで他のライダーが操るデザートXをワイドスロットルで追いかけながら、小さなカーブでは車体を深く寝かせても余裕あるコーナリングを楽しめた。
電子制御デバイスは使いやすく、とくにオフロードではライダーのスキルや好みに合わせてカスタマイズできるため、ライディングの幅をよりいっそう拡げてくれる。
純正アクセサリーには前述した予備タンクやグリップヒーターのほかにもケース類、エンジンを保護するガードパイプやスキッドプレートなどが揃っている。唯一の問題点を挙げるとすれば、1万4095ポンド(約233万6500円)という車両価格がやや高価なことくらい……か。
ドゥカティ デザートX主要諸元
[エンジン・性能]
種類:水冷4ストロークL型2気筒DOHC 4バルブ ボア・ストローク:94mm×67.5mm 総排気量:937cc 最高出力:81kW(110ps)/9250pm 最大トルク:92Nm(9.4kgm)/6500rpm
[寸法・重量]
全長:2390 全幅:960 全高:1425 ホイールベース:1608 シート高875(各mm) タイヤサイズ:F90/90-21 R150/70R18 車両重量:223kg 燃料タンク容量:21L
[価格]
193万9000円
興味深い純正アクセサリー「予備タンク」
デザートXには魅力的なアクセサリーが用意されている。アクセサリーはパッケージとしてセットにもなっており、「ツーリング」、「オフロード」、「スポーツ」、「アーバン」の4種がある。また、アルミ製のトップボックス(41L)とパニアボックス(41L+35L)を装着した場合の積載容量は117Lとまずまずで、最大積載可能重量は240kgとなる。
最も興味深いアクセサリーは、リヤのサイドカバー部に装着できる8L容量の予備タンクだ。ドレスアップパーツとしても魅力があるうえ、8Lもの予備燃料を携行できるメリットは大きい。しかもメインの燃料タンクが少なくなったらスイッチを押すだけで供給されるシステムとなっているから、手間も面倒もない。
もちろん走行中でも使うことができ、液晶ディスプレイに表示された燃料計が見る見るうち増えていく。デメリットは車体右側にアルミ製パニアケースを装着できなくなることだが、ソフトバッグなどを装着することは可能だ。
レポート●アダム・チャイルド 写真●アレックスフォト/ドゥカティ 編集●上野茂岐
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