ポルシェの世界を構築した偉大なる処女作
ポルシェの原点であり、現在も新鮮な魅力を放つ356の最終モデルが、1963年8月に1964年モデルとして登場した356Cである。356Cは、軽快な走りに加え、最新ポルシェにも通じる硬質さが味わえる名車だ。中でもハイパフォーマンス仕様のSCモデルは、マニア垂涎の356である。
【20世紀名車ギャラリー】ポルシェの原点にして完成形。1964年式356SCクーペの肖像
356Cは、基本的に356Bと共通のT-6ボディを踏襲し、外観上の識別ポイントはホイールキャップなどの細部のみ。Cの特徴はブレーキとエンジンにある。356Bまで4輪ドラム式だったブレーキはATE製の4輪ディスクにグレードアップ。その高性能にふさわしい制動力を手に入れた(SCの最高速度は185km/h)。通常グレードのエンジンは616/6型と616/5型の2種の水平対向4気筒をラインアップし、SC用が6型、通常のC型は5型を搭載する。ともに排気量は1582ccで、SC用は95ps/12.6kgmをマークした。SC用616型フラットフォーは前年までのスーパー90用の流れをくむ特殊なフェラル加工シリンダーを用いたエンジンだが、メインベアリングの改良と吸気バルブ径の拡大で最高出力が5ps、最大トルクは0.3kgmパワーアップ。吹き上がりはシャープに変身し、現在の水準でも一級品といえる。
今回取材した356SCは、剛性が高いクーペボディで各部は新車同様の味わい。フレームナンバーとエンジンナンバーが工場出荷時と同じ、希少なナンバーマッチング車だ。新車時の保証書なども完備している。新車時のオーナーはロサンゼルスのビバリーヒルズ在住で、納車日は1964年4月2日だった。日本には1964年に輸入されている。
95psを発揮する616/6型エンジンは、クランクシャフトメタル交換などの徹底したオーバーホール後、走行わずか3000km。4速MTもオーバーホールしたばかり。この356を幸運にもガレージに収める新オーナーは、“慣らし運転”の楽しみまで堪能できる。
内外装も極上で、塗装状態はパーフェクトに近い。曲面が美しいボディは周囲の景色を綺麗に映し込む。前後のウェザーストリップは交換済みで、フロントウィンドウも新品。高速走行時でも風切り音は少なく、視界がクリアな点はうれしい。そのうえ、上品なグレーカラーの内装に汚れやヘタリはまったくない。体を優しく包み込み、しっかりとホールドするシートは絶品だ。この356SCなら、500kmを一気に走るグランドツーリングも余裕でこなせる。しかも想像以上に速い。ヒストリックカーならではの新鮮な発見があり、ポルシェ本来の魅力が味わえる名車である。
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