いまや激速SUVは珍しくないが、日本でSUVのパワーウォーズが始まったのは1990年代のこと。なかでもパジェロ エボリューションとエクストレイルGTによる280馬力対決は、スポーツカー顔負けのハイレベルなものだった。当時を知る片岡英明氏がその興奮を語る!
文/片岡英明、写真/MITSUBISHI、NISSAN
SUVが速くて何が悪い! パジェロとエクストレイルが繰り広げた280馬力の頂上決戦!
■ジープの系譜を受け継いだ三菱 パジェロ
1982年5月に発売された三菱 パジェロ。タフでありながら洗練されたデザインで大ブレイクした
前後の車輪に駆動力を与え、道なき道を踏破できるようにしたクロスカントリー(クロカン)4WD。1980年代までSUVはこう呼ばれ、山間部の建設現場などハードなステージで使われる特殊用途のためのクルマだった。
悪路や急勾配の坂道での走破性を高めるためにハイ/ローのギア比を持つ副変速機を備え、ボディも強靭なフレーム構造としている。
このクロカン4WDの世界を大きく変え、新時代の扉を開いたのが三菱のパジェロだ。ジープの流れを汲むタフなメカニズムに洗練されたデザインを組み合わせた。1982年5月に発売され、大ブレイク。パリ-ダカールラリーでも華麗な戦績を残し、知名度を高めている。
1991年1月には第2世代にバトンタッチし、パジェロは快適性と走りのポテンシャルを大幅に引き上げた。
4WDシステムは、フルタイム4WD、直結4WD、2WDを自在に選択できる先進的なスーパーセレクト4WDへと進化している。またJトップを設定するなど、バリエーションを拡大し、選択肢を増やした。見栄えや内外装の質感も世界トップレベルだ。
この時期、三菱は時代に先んじてクロスオーバーSUVも送り出している。乗用車のモノコックボディやサスペンション、パワーユニットなどを使ってオンロード性能を大幅に向上させたRVRだ。
パジェロに1カ月遅れて登場したRVRは、フルタイム4WDを中心として積極的にバリエーションを拡大していった。真打ちは、94年9月に加えられたスーパースポーツギアと電動オープントップを採用したスーパーオープンギアだ。
2Lの4G63型直列4気筒DOHCターボは4速ATとの組み合わせで230ps/29.5kg-m(スーパーオープンギアは220ps/30.5kg-m)を発生する。
が、これは序章に過ぎなかった。セダンやクーペと同じように、自主規制枠いっぱいの280psを発生するモンスターSUVが、RVRの後に出番を待っていたのである。3年後の1997年9月、刺激的なハイパフォーマンスエンジンを積んだモンスターがベールを脱いだ。それが「パジェロ・エボリューション」だ。
■パリ-ダカの公認取得のために生まれた「エボリューション」
1997年9月に登場した三菱 パジェロ・エボリューション。パリ-ダカに向けてのホモロゲーション取得のために誕生したモンスターSUVだ
パジェロはパリ-ダカールラリー参戦を通してサスペンションや4WDシステムなどの技術を磨いてきた。
その成果を誇示するため、そして98年のパリ-ダカールラリーに向けてホモロゲーション(公認)を取得するために、ショートボディのメタルトップワイドをベースにした「パジェロ・エボリューション」を発表したのだ。
エンジンはGDI(筒内直接ガソリン噴射)を採用した排気量3496ccの6G74型V型6気筒DOHC。その内部に手を入れたうえで吸・排気系もチューニングし、自主規制枠の最大値まで引き上げた。
パワースペックはターボに頼ることなく最高出力280ps/6500rpm、最大トルク35.5kg-m/3000rpmを達成、クロスオーバーSUVを含め、280psを発生するSUVはこれが日本で初めてである。トランスミッションは、副変速機付き5速MTに加え、最新設計のインベックスIIスポーツモード付き5速ATも用意された。
エクステリアもベース車のZR-Sと大きく変わっている。フォグランプを内蔵した大型バンパーと専用のフロントマスク、エアインテーク付きアルミ製ボンネット、ボリュームを増したブリスターフェンダーとアルミ製スキッドプレートなどの採用により、精悍なフォルムを誇示した。
全幅は90mm広げられ1875mmに。サスペンションや4WDの開発にはパリ-ダカマイスターの増岡 浩が関わり、驚くほどコントロールしやすくなっている。
「パジェロ・エボリューション」は1997年10月から3カ月、限定2500台だけが発売された。主役となる5速MT車は374万円のバーゲンプライスを付けていたから、発売されるやアッという間に完売した。もちろん今もコレクターやマニアが大事に乗っているクルマが多く、中古車市場でも高値で取り引きされている。
■パジェロ迎撃のために生まれたエクストレイルGT
日産 エクストレイルGTは2001年2月に日本専用のホットモデルとして追加投入された。写真はS(グレード)
乗用車ベースのクロスオーバーSUVも、90年代後半からパワー競争に明け暮れた。引き金を引いたのは、スバルのフォレスターだ。
1997年2月、インプレッサのプラットフォームやサスペンションを用い、これに1994ccのEJ20型水平対向4気筒DOHCターボを組み合わせた。250ps/31.2kgmを発生し、足もよかったので峠道でスポーツカーをカモる痛快な走りを見せている。
ちなみに駆動方式はフルタイム4WDで、5速MT車がビスカスLSD付きセンターデフ式、4速AT車はアクティブトルクスプリット式だ。
が、21世紀になると、2Lクラスにフォレスターを凌ぐパワーウォーズが勃発する。きっかけは日産のエクストレイルだ。2000年11月、「200万円の使える四駆」のキャッチフレーズで登場し、日本だけでなく海外でもヒットを飛ばした。
日本で注目を集めたのは2001年2月に追加投入された日本専用のホットモデル、「GT」だ。専用のフロントマスクも備えたGTの注目点は、エクストレイルだけに用意された珠玉のパワーユニット。
NEO VVLと名付けられた可変バルブタイミング&リフト機構を備えたSR20VET型直列4気筒DOHCインタークーラー付きターボを搭載したのである。
このエンジンの最高出力は280ps/6400rpm、最大トルクは31.5kgm/3200rpm。トランスミッションは電子制御4速ATだけの設定で、MTはなかった。パワフルだがパワーが気持ちよく盛り上がり、意外に扱いやすい点も魅力だった。
サスペンションは4輪ともストラットで、リアはパラレルリンクストラットとしている。タイヤは215/65R16を履いていた。4WDの駆動システムはオールモード4×4と呼ばれるスタンバイ4WDだ。
これはセンターデフを使わず、トランスファーに内蔵した油圧式の湿式多板クラッチで動力の断続を行う電子制御4WDシステムで、状況に応じて最適な駆動力配分を行ない、路面に関わらず優れたコントロール性を披露した。
エクストレイルGTは2004年12月のマイナーチェンジを機に17インチのアルミホイールとタイヤを履き、さらに懐の深い走りを見せるようになる。また、インテリジェントキーなどを追加し、後席にはリラックスモード付きヘッドレストを採用した。
エクストレイルは2007年8月に初めてのモデルチェンジを断行する。だが、2代目では刺激的なガソリンターボが整理され、性格も穏やかになった。燃費規制や排ガス対策などによりハイパワーSUVは少数派となっている。
そういう時代だからこそ、パワフルで走りもシャープなSUVを懐かしみ、乗りたくなってしまうのだろう。電動モーターを加えた新世代のハイパワーSUVの出現にも期待が膨らむ。
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