2月15日、栃木県のツインリンクもてぎ(3月1日からモビリティリゾートもてぎに変更)で、2022年からスーパーGT GT300クラスに参戦するapr GR86 GTがシェイクダウンされた。市販車でも多くの話題となっているGR86のボディを使用し、muta Racing INGING、SHADE RACINGの2台を含め3台がデビューする注目の車両だが、これまで30号車として参戦してきたプリウスPHV apr GTとの違いや、どんな車両なのかをシェイクダウンを担った永井宏明と織戸学に聞いた。
1月の東京オートサロンでお披露目されたapr GR86 GTは、世界的にも脚光を浴びた新型GT300車両。当初、2月10日に富士スピードウェイで予定されていたGT300車両のスポーツ走行でシェイクダウン予定だったが、降雪のため延期に。チームにとって、そして永井と織戸にとっても待ちに待ったシェイクダウンがもてぎで行われた。
GT300のニューウェポン、apr GR86 GTがツインリンクもてぎでシェイクダウン。初走行から好感触
心配された雪もコースサイドにわずかに残るほどで、ドライで迎えたこの日は10時55分からの枠を使い、30分×3本の走行枠で、他の参加車に混じってシェイクダウンされた。スリックを履き、永井がステアリングを握りコースインしたapr GR86 GTは、順調にアウト~インをこなすと距離を伸ばしていき、2UR-Gの太いエキゾーストノートを響かせた(サウンドは同じエンジンのプリウス、GRスープラと同様)。途中シェイクダウンならではと言える小さなトラブルがあったものの、ドライバーたちも、チームもその好感触に笑顔がこぼれるテストとなった。
もちろんまだまだ作り込まなければならない部分もあるが、「プリウスPHVとの違いとしては、全長、ホイールベースが短くなった分、小さいコーナーの曲がりやすさがアップしたと思います」と永井はファーストインプレッションを語った。プリウスPHVは全長4,650mm、ホイールベースは2,750mmだったが、GR86は全長4,550mm、ホイールベース2,650mmとコンパクトになっている。
「操作についてもこれまでと大きく変わるわけではありませんし、足回りも同じなので違和感もなく、クルマのディメンションの違いで、よりレーシングスピードで走るときに軽快感を感じています」
この印象については、織戸もまったく同意見だ。「想像以上に順調です。何度かトラブルもありましたが、原因もすぐ特定できるものでしたし、クルマは想像していたとおりの動きをします。もちろん細かい面はまだまだありますが、最初のシェイクダウンでこのくらい走るのであれば、ポテンシャルの高さはあると思います」とテストを振り返った。
「クルマはコンパクトになったので、よく曲がる方向になっています。曲がろうとしているので、リヤをどうバランスさせるかですね。プリウスの場合は前(のグリップ)がなくなる、うしろがなくなるといういたちごっこが最後まで消えませんでしたが、このGR86はすごく素性の良さを感じます。曲がりやすいということは、決勝での“落ち込み”が少なくなるということ。乗りやすいクルマです」
永井はスーパーGTをはじめ、ポルシェやフェラーリなど他のGT3カーの経験も多い。もちろんGT300規定の車両だけに「もちろんジェントルマンドライバーにとってはシビアなところはあります」というものの、「プリウスPHVで苦労していたところが乗りやすくなり、タイムを上げていくために詰めていけそうなところを多く感じることができました」とシェイクダウンながら好印象を受けた様子だった。
■GR86らしさを随所に詰め込んだデザイン
東京オートサロンの発表時にも、金曽裕人代表は「市販のGR86の空力の良さ」を語っていたが、今回シェイクダウンされたapr GT86 GTは、GR86らしさも随所に盛り込まれている。非常に特徴的なのは、コクピットのディスプレイ。これまでのものよりも大型化され、ドライバーふたりもお気に入りだ。
「シンプルに、ディスプレイは見やすいです。確認もしやすいですし、ドライビングにも集中できるのではないでしょうか。GT3カーも大型化してきていますし、正しい流れではないでしょうか」というのは永井。
さらに織戸も「それは僕たちにとって最高のアイテムですよ。GR86のノーマルのメーターのようになっていて最高ですし、いろんなものが大きいのはありがたいですよ。なんせ老眼なもんで(笑)。そうでなくても、いろいろな情報をたくさん入れることができるので、良いと思います」という。
このコスワース製ディスプレイには、ラップタイムやタイム差、内圧、水温、油温やさまざまなスイッチ類の数値、コース図などが表示され、非常に機能的。さらに特徴的なのは、中央にアナログ風のタコメーターが表示される。もちろん内容はレース用でまったく異なるが、このデザインは市販のGR86のデザインを採り入れた。
このあたりは、金曽代表が「GR86らしさにこだわった」ところ。またaprが手がけてきたFRマシンは3台目だが、作り込みの精度も非常に美しく、「どんどんクオリティが上がっている」という。
シェイクダウンから確実な手ごたえを得たGR86に、ドライバーふたりは躍進を果たした昨年を上回る結果を期待する。永井は「昨年のプリウスPHVも仕上がりが良く、クルマとしての限界が上がっていた印象はありました。もう一年乗りたかったところはありますが、当然新車の方が良いですからね(笑)。開幕が楽しみです。それくらい好印象でした」と手ごたえを語った。
また織戸も「当たり前ですが、昨年よりもたくさんポイントを獲って、あわよくば表彰台を狙いたいです。53歳コンビで頑張りますよ」と笑顔をみせた。他のGT300車両使用チームにとっても、もちろんGT300のライバル全体にとっても脅威となる一台なのかもしれない。また異なるタイヤを履く他の2チームがどんなパフォーマンスをみせるのかも、今季のGT300の注目ポイントのひとつになるだろう。
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