小さくても侮れないクルマの「脳」
text:Jesse Crosse(ジェシ・クロス)
【画像】着実に進化する自動運転車【高度な運転支援システムを積んだ国産車3選】 全145枚
translator:Takuya Hayashi(林 汰久也)
見た目はありふれたコンピュータの回路基板だが、長さ24cm、幅14cm、高さ5cmのこの電子機器の塊は、見た目以上に賢い。1秒間に60京の演算処理(人間の脳と同程度)を行うことができ、レベル2からレベル5の自動運転車に知能を提供する。
トランスミッションで知られる巨大サプライヤー、ZFフリードリヒスハーフェン社は、先月開催された上海モーターショーで、2024年に生産を開始する予定の次世代「Pro AI」を公開した。世界で最もパワフルな自動車用スーパーコンピューターと称されるPro AIは、従来のシステムから自動運転に必要な能力まで、あらゆるクルマにおいてさまざまな役割を果たすことができる。
現代のクルマでは、急速に増加する機能をすべて制御する必要があるが、これまでは複数のECU(電子制御ユニット)を車内に配置し、新しい機能が追加されるたびにその数を増やしてきた。
新しいアプローチでは、クルマをドメインとゾーンに分割し、ゾーンはセンサーや機器に電源とデータの接続を提供して、ドメイン・コントローラーとゾーン・コントローラーの間はシンプルに接続する。現在、クルマの先進アーキテクチャーの開発を行っているサプライヤーのアプティブ社は、これにより車内の配線重量を20%削減できると考えている。
Pro AIは、ドメイン・コントローラーやゾーン・コントローラーとしてだけでなく、セントラル・コントローラーとしても使用できる新しいタイプのオンボード・スーパーコンピュータだ。従来のものより処理速度は66%速く、消費電力は70%削減できるという。
また、ZFのソフトウェアやサードパーティ製のソフトウェアを実行することもできる。レーダー、LiDAR、カメラ、オーディオからのすべてのセンサーデータを「融合」して、周辺環境の画像を作成し、ある種の状況認識を構築することが可能だ。
さらに、高度な安全機能や自動運転を実現するための構成要素である深層学習(ディープラーニング)のプロセスにも最適化されている。例えば、センサーデータをストレージシステムに転送することで、人工知能をより簡単に学習させることができる。
処理が早くても万能ではない
では、人間の脳のように賢くなるのだろうか?おそらく、まだまだだろう。
計算速度は近いかもしれないが(成人の人間の脳が達成できる推定値はあくまでも推定値に過ぎない)、自分自身を構築することも、自分自身をゼロからプログラムすることもできない。また、人間の脳は、傷ついても別の場所に機能を移すことができる「神経可塑性」によって、自分で配線を変えたり、再構成したりすること可能だ。
さらに、人間の脳は、学習によって神経細胞を再結合させ、その構造を物理的に変化させる能力を持っている。IBMをはじめとするコンピュータ科学者たちは、この脳の可塑性をコンピュータAIで再現しようと努力しているが、現実の世界でコンピュータがどこまで人間の手を借りずに適応・再編成できるかは、まだ明らかではない。
経験豊富な人間と同じように公道でクルマを運転するためには、コンピュータが経験を積まずに技術を身につける必要があるが、その難しさは想像に難くないだろう。
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