5月16日にアメリカ・オハイオ州のミド・オハイオ・スポーツカーコースで行なわれたIMSAウェザーテック・スポーツカー選手権第3戦。レースは後半に導入されたフルコース・イエローのおかげで終盤は燃費戦となり、ウェイン・テイラー・レーシング(WTR)の10号車アキュラARX-05が最終ラップまで続いた接戦を制した。
フィリペ・アルバカーキとともに10号車をドライブし、フィニッシュラインに0.3秒差で逃げ切ったリッキー・テイラーが米・スポーツカーニュースサイトSporstcar365に寄せたコラムでは、戦いの裏側を知ることができる。以下、リッキーの筆によりレースを振り返る。
マツダ快勝の流れを変えたコーション。燃費モードで追いつくのは「不可能だった」とジャービス
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■ヨーロッパとアメリカ、予選の“違い”
ミド・オハイオでは、僕たちは55号車マツダRT24-Pと5号車キャデラックDPi-V.Rとの間の、ごくわずかなマージンにしがみついている状態だった。今年はDPi車両の数こそ限られているが、その争いのレベルは信じられないほど高い。
すべてのクルマに、勝つチャンスがある。だから、ミド・オハイオは歴史的にアキュラが有利なラウンドとはいえ、非常に難しいレースになることは分かっていた。
今回は今年最初のスプリントレースであり(※決勝は2時間40分)、今年のシーズンの多くの部分でどのように仕事を進めていくかについて、フィリペ、WTR、そして僕の調子を整える良い機会でもあった。
今回の週末のプラクティスは、予選前の2回の短いセッションに限られていた。
チーム全体が一体となって素晴らしい仕事をし、セッションを通して大きな進歩を遂げた。また、僕らの新しいフロントタイヤ交換担当であるグラハムにとっても、その練習をするための良い機会となった。
スプリントレースでの優勝と、耐久レースでの優勝は、とても異なる領域といえる。
短いレースでは結局のところ予選が重要になり、レースではトラックポジション、および細部を正しく把握することに主眼が置かれる。
予選が重要であるとすると、フィリペこそがフロントロウにクルマをつけるためにポテンシャルを最大限に引き出してくれるであろうことを、僕らは分かっていた。
ミド・オハイオの路面はとてもグリップが低く、適切なタイミングでマシンのポテンシャルを引き出すという点において、非常にトリッキーな場合がある。
フィリペはこう言っていた。「ヨーロッパにおける予選は、ひとつのノックアウト・パンチのようなものだ。だが、アメリカでのそれは複数のビッグ・ヒットとなる」。
つまり、ヨーロッパのレースにおける予選では1周の速いラップがあればいいが、アメリカではタイヤのピークはもう少し長く1ラップ以上にわたって続くため、ピークとなる表面温度と内圧をコントロールして最大限のポテンシャルを引き出すためには複数の速いラップが必要になる、ということだ。
フィリペは予選で素晴らしい仕事をし、チャンピオンシップにおけるメインのライバルである55号車マツダに次ぐ2番手につけた。マージンはコンマ1秒以下で、レースが激しいものになることを予感させた。
マツダは全体的なペースにおいて最強に見え、31号車キャデラックDPi-V.Rはロングランが良さそうで、僕らはその中間のどこかに位置していた。そして、非常に激しい戦いに突入していった。
■リヤ2輪交換でマツダの前へ
フィリペは、(決勝日)朝のウォームアップでのスタート練習の成果をいかんなく発揮した。彼はスタートでの課題を克服し、ターン1で2番手を守った。
マツダは早い段階で抜け出していったが、2番手から5番手までは大変な戦いとなった。フィリペは最初のスティントにおいてニュータイヤでいくつかのライバルを押さえ込み、第2スティントでは少しギャップを作った。
だが、31号車がトラック上のクリアな場所を求めて早めのピットストップを選択し、前に出た。僕らが最後のピットストップで彼らを逆転するためには、彼らから10秒以内にいることが必要だった。
トップは55号車マツダ、続く31号車キャデラックから、僕らは約11秒遅れていた。
フィリペから車を引き継いで5~6周というところで、最終コーナーの立ち上がりでGTDカーがトラフィックでの争いからコースアウトし、スタックした。
31号車キャデラックはイエローが出る直前でピットへと滑り込んだが、僕らが入ろうする前にピットクローズドになってしまった。このタイミングですべてのクルマがピットインする必要があったが、31号車は(イエロー中に)もう一度スプラッシュするだけで良かったこともあって、トップへと浮上した。
残り1時間を切ったこのイエロー中のピットでは、12秒程度で燃料が満タンとなるため、僕らはリヤタイヤのみの交換を選択した。
クルーは僕らをマツダの前、2番手でコースに戻すという素晴らしい仕事をしてくれた。新しいタイヤ交換担当であったグラハムは、練習していなかった外側リヤタイヤの交換もしなくてはならなかった。
■燃費走行中に迫り来るライバル
リスタート後、31号車の(フェリペ)ナッセのタイヤはピックアップにかなり苦労していて、バックストレートエンドからの攻防でリードを奪うことができた。
だが、そこが“仕事”の始まりだった。フィニッシュまで燃料をもたせるため、すべての車両が即座に燃料節約モードに入っていった。
トップを走りながら燃費を稼いでいるときに難しいのは、いつ攻撃を仕掛け、いつ燃料をセーブするのかは背後のライバルたちが決定できることであり、トップにいる者は背後の彼らの“慈悲”に少し頼ることになる。
これはかなりストレスの多い状況だった。とくに、トラフィックに突入していく前にあまり大きなギャップを作ることができない場合は。いったんトラフィックに入ると、彼(31号車)は常に“フルアタック”状態に入り、かなりのドッグファイトとなった。
チェッカーに近づくにあたり、エキストララップに突入することになるどうかが、主な問題となった。つまり、さらに燃料を節約して1ラップ走るか、タイムを6秒以上落としながらも31号車の前でチェッカーを受けるか、だ。
結局、あと5秒というところでエキストララップに突入してしまい、多くのマシンが燃料の問題を抱えることになった。
残り3周というところで、ナッセはビッグ・アタックを仕掛けてきた。彼がチャージをかけてきたとき、僕はまだ燃料に余裕を作ろうと燃費走行中だった。燃料警告灯が、残り3周で点灯したんだ!
最終ラップでは、僕ら2台がLMP3のクラスリーダーとGTDのマシンに追いつき、そこでナッセは最後のアタックをしかけてきたが、なんとか持ちこたえることができた。
チームにとっては、素晴らしい勝利だった。すべてのチームメンバーが見事に任務を遂行し、すべての正しい決断を下した。
フィリペと僕はともに素晴らしい仕事をすることができたし、残りのシーズンに向けていい雰囲気を築くことができた。
次はベル・アイル(デトロイト)戦だ。とてもタフでバンピーな市街地コースが待っている。
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