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大型SUVらしからぬ加速力 テスラ・モデルXロングレンジに試乗

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大型SUVらしからぬ加速力 テスラ・モデルXロングレンジに試乗

大型SUVらしからぬ加速力

translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)テスラは大型SUVのモデルXへ僅かなアップデートを加えた。変更点は野心的なボディデザインの内側に隠されているから、一見すると変化はわかりにくい。

【画像】テスラ・モデルXとモデルS 全82枚

最も大きな変更点はドライブトレイン。永久磁石同期モーターの冷却系や潤滑系、ギアの設計を見直すことで効率を高めたとしている。モーターのエネルギー効率は93%へ改善し、とても優れた数値だといえるだろう。航続距離も伸びて、WLTPテストで506kmの走行が可能。最高出力は420ps、最大トルクも67.2kg-mへと強化されている。

エアサスペンションもアップデートを受けている。アダプティブダンパーを装備し、ソフトウエアも書き換えられた。路面からの入力や走行スピード、ドライバーの操作などに対するダンパーの動きを正確に予見し、対応できるという。

またテスラだけあって、新しいソフトウェアの配信準備が整えば、ワイヤレスでダウンロードしインストール可能となっている。賢い方法だ。充電スピードも高速化され、テスラ社のスーパーチャージャー(急速充電器)につなげは、以前よりも50%ほど充電時間を短縮できるとのこと。

大型SUVのテスラ・モデルXは期待以上に速い。テスラが生み出すクルマは往々にして速いが、アクセルペダルを踏みつけると、少し子供じみた満足感が得られるほど。沿道の人からすると、少し気味悪く感じられるかもしれない。相撲取りなのに100mダッシュで優勝するほど足が速いようなものだ。

少し大げさとはいえ、それくらいの鮮烈さはある。0-96km/h加速は4.4秒だが、モデルXの「ロングレンジ」は最速グレードではない。更に上の「パフォーマンス」なら、2.7秒で同じ速度に達する。

ぎこちないサスペンション

加えてこのパワートレインは、朝飯前のように極めて滑らかに加速する。走り出しは落ち着いたもので、回生ブレーキの特有の扱い方さえ身につければ、緩やかに減速し停止するというドライビングスタイルにもすぐに慣れる。

回生ブレーキの効きの強さには2段階の設定があるが、非常に強力に減速するモードと、ほとんどコースティング状態のモードとの間に、中間程度の強さの設定があるとなお良いだろう。

パワートレインからの感動が落ち着くと、モデルXのラグジュアリーSUVとしての素性も見えてくる。サスペンションに調整を受けてはいるものの、依然として8万6550ポンド(1168万円)もするクルマの挙動ではないと思う。

サスペンションの仕事ぶりはぎこちなく、路面の起伏やザラつきを粗野に車内に伝えてしまう。ガラスのように滑らかな路面でない限り、ヘッドレストに接する頭部は揺れ続け、落ち着くことがない。モデルXのライバルとなるメルセデス・ベンツEQCやジャガーIペース、アウディEトロンなら、遥かに優れた乗り心地を味わえる。

同じことが高速走行時にも当てはまる。高速道路だから路面は平滑になり揺れは減るものの、車内と外界との隔離感という点では、ライバルと明確な差がある。風切り音は静かだが、タイヤの転がり音にはがっかりしてしまった。ただしエンジンが備わらないから、静かなクルージング時の感覚は、どんなハイエンドSUVも備えていないものではある。

実用性は高いがダイナミクス性能で及ばず

モデルXのダイナミクス性能は際立ったものではないが、車重が2439kgもあるから、物理的に仕方ないだろう。重心が低くサスペンションも引き締まっており、コーナリング時のボディ制御は称賛に値する。一方でステアリングフィールは極めて希薄で、人工的な操舵感は実際的ではない。

結果、コーナーを速めのスピードで侵入する自信が生まれにくい。かさむ車重は慣性も大きく、ステアリングを素早く切りすぎるとボディは慣性のままに引っ張られそうになる。アンダーステアはそれほど酷くなく簡単に修正も可能だとはいえ、コーナリングスピードは間違えない方が良いだろう。

エンジン音や排気音がしないぶん、タイヤのグリップ限界が近づくと、スキール音は聞き取ることができる。その点でのコミュニケーション性は良いともいえるが、カーブへの進入時はしっかり減速し、直線が見えてからスロットルを踏み込む、という運転が適している。

SUVとしての実用性は高い。インテリアは充分に広く、3列目に大人2人を乗せても短距離なら快適にドライブも可能。素材の質感で不満な部分も見受けられるが、17インチの大画面タッチモニターは視覚的にもスマート。操作性も良い。ステアリングホイールでエアコンの温度や風量の調節ができる点は、賢い解決策だといえる。

オートパイロットは、完全な自律運転システムではないようだ。自動的に車線変更を実行するアダプティブ・クルーズコントロールも、英国の道路環境では適切に機能できなかった。走行車両が多い状態は得意ではないらしく、最終的には通常のクルーズコントロールを使用することになった。

恐らくカリフォルニアの広々とした高速道路なら有効なのだろう。英国の道路環境では、まだ実用レベルではないと感じた。

テスラの急速充電器が側にあるのなら

テスラ・モデルXはEVのSUVとして、その価格に見合った優れたダイナミクス性能や快適性を備えているとはいいにくい。クルマとして完成度は、ジャガーIペイスやメルセデス・ベンツEQC、アウディEQCトロンの方に分がある。

最大の魅力は、テスラ社のスーパーチャージャーが利用できる点にある。クルマの仕上がり以上に、英国の場合は急速充電ネットワークが素晴らしい。一度アカウントを設定すれば、コネクターをつなぐだけという抜群の使いやすさで、モデルXの100kWhバッテリーも短時間で充電できる。1時間の充電で482km分の電気を蓄えられる。

ナビゲーション・システムも良い。バッテリーの残量が少なくなると、自動的にスーパーチャージャーへと案内してくれる。充電時間や到着予定時間、バッテリーの残存量も予測する。それにモデルXには、他の充電器にも接続できるアダプターも付いてくる。

もしスーパーチャージャーが自宅のそばにあるのなら、モデルXはとても便利な長距離移動手段となるだろう。しかもその数は英国では増え続けているのだ。

テスラ・モデルXロングレンジのスペック

価格:8万6550ポンド(1168万円)/英国では3500ポンド(47万円)の補助金あり
全長:5037mm
全幅:2070mm
全高:1626mm
最高速度:249km/h
0-100km/h加速:4.4秒
航続距離:506km(WLTP)
CO2排出量:0g/km
乾燥重量:1320kg
パワートレイン:永久磁石同期モーター(フロント)/インダクションモーター(リア)
バッテリー:100kWh
最高出力:420ps
最大トルク:67.2kg-m
ギアボックス:シングルスピード・リダクションギア

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