サバンナRX-3が登場してマツダのロータリー軍団が勢いづいた
ハコスカGT-Rと激戦を繰り広げたマツダのロータリー軍団ですが、その最終兵器はサバンナRX-3でした。ひとクラス上となるカペラのハイパワー・エンジンを、ひとクラス下となるサバンナの軽量コンパクトなボディに搭載した、まさにスポーツカーの公式通りのパッケージで大活躍したサバンナRX-3を振り返ります。
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世界で唯一、マツダが完成させたREは世界の至宝
フェリックス・ハインリッヒ・ヴァンケル博士が発明したヴァンケル・エンジンは、共同開発したNSU社が基本特許を保有していて、それを各国のメーカーにライセンス供与していました。ただし、自動車用エンジンとしては、わが国のマツダ……当時はまだ前身だった東洋工業のみが製品化できただけで、他社は商品化/量販化することなく開発プロジェクトを中止しています。
ならば東洋工業に敬意を表して、彼らが名付けたロータリー・エンジン(RE)と呼んでもよさそうなものですが、ヨーロッパではREではなくヴァンケル・エンジンと呼ぶ方が通りがいいみたいです。それはともかく、マツダは1967年に国内初、そして量販のマルチローターは世界的にも初となる2ローターの10Aエンジンを搭載したコスモスポーツを発売しています。
量販モデルとはいえ、148万円の価格は庶民にとって高根の花でしたが、同社の主力モデルとなった2代目ファミリアの2ドアクーペに10Aエンジンを搭載したファミリア・ロータリークーペが1968年に登場。70万円の価格はレシプロ・エンジン(1169ccの直4OHV)を搭載したファミリア1200の2ドアセダンに比べて19.5万円高価でしたが、それでも庶民に手が届くところまで近づいてきた、スーパースポーツな1台となっていました。
マツダでは、REのパフォーマンスをアピールするには、やはりモータースポーツに参加するのがベストとの判断から、まずはコスモで1968年のニュルブルクリンク84時間“マラソン・ド・ラ・ルート”に参戦しています。
そして翌1969年にはファミリア・ロータリークーペで2度目の“マラソン・ド・ラ・ルート”やスパ フランコルシャン24時間に参戦し、スパでは5~6位入賞を果たしています。さらに1970年にもニュルブルクリンク6時間とスパ フランコルシャン24時間に参戦し、ニュルブルクリンクでは4~5位入賞を果たしています。
また1972年にはサバンナでキャラミ9時間、ケープ3時間に出場し、それぞれ総合6位、総合8位となり、ともにクラス優勝を果たしています。その一方で国内でも1970年代に入ってからプライベートでの参加に加えて、ワークスチーム/ドライバーの参加も目立つようになっていきました。
コスモスポーツもファミリア・ロータリークーペも、搭載しているのは10Aエンジンで排気量は491cc×2ローター×2(RE係数)=1964ccに換算。最高出力はコスモスポーツのカタログデータでは110ps、ファミリア・ロータリークーペは100 psとなっていますが、ワークスカーのレース仕様では約200psだったと伝えられています。
国内レースでも主戦マシンとなったファミリア・ロータリークーペは、コンパクトなボディに巨大なオーバーフェンダーを装着。エキゾーストノートも大きかったのですが、それらに対してクレームがつけられるケースも少なくありませんでした。
サバンナからカペラへと進化を続け、最終兵器のサバンナRX-3で王座に
ファミリア・ロータリーは1971年に後継モデル……正確にはひとクラス上の上級モデルのサバンナが登場した結果、サーキットでもサバンナ・クーペに交代が進んでいきました。搭載されていたのはファミリア・ロータリークーペと同じ10Aエンジンで、ボディ重量がベースモデル同士の比較で50kg、公認重量で40kgほど増加しています。
前後のサスペンションはストラット式/リーフリジッドと基本形式は同じでしたがホイールベースが50mm伸び、前後トレッドがともに100mm拡幅されるなどシャシー性能は高められ、フロントのディスクブレーキにはサーボのアシストが追加されていました。
しかし200psを少し超えた程度のパワーでは220psとも230psとも言われるハコスカGT-Rとは勝負になりません。そこでまずは大パワーを絞り出す12Aエンジン(573cc×2ローター×2(RE係数)=2229cc。レース仕様の最高出力は230ps)を搭載したカペラ・ロータリークーペを実戦に投入。
その熟成を進めたあとに、12Aエンジンをサバンナに移植する作戦で、最終的な主戦マシンとなったのがサバンナRX-3でした。これは元々輸出用のサバンナ(搭載エンジンは12A)の車名(グレード名?)となっていましたが、国内向けの市販に際してはサバンナGTのネーミングにあらためられたのです。
同じエンジンを搭載していて公認重量で70kgの違いがあることから、サバンナRX-3が登場すると同時にカペラ・ロータリークーペは姿を消しそうなものですが……。ワークスチームで最後まで、RX-3に加えてカペラも使用されていた理由はシャシー性能の高さでした。
フロントはストラットタイプで変わりはなかったのですが、リヤサスペンションが同じリジッド式ながら、RX-3がリーフスプリングでアクスルを吊ったリーフリジットだったのに対して、カペラでは4リンクとラテラルロッドでアクスルの位置決め。それをコイルスプリングで吊るタイプに進化していたのです。いずれにしてもロータリー軍団は、ハコスカGT-Rを着実に追い詰めていきました。
ロータリー軍団とハコスカGT-R勢との“対決の図式”が鮮明になったのは1971年シーズンも後半になってから。それまでロータリー軍団が優勝したこともありましたが、それは日産ワークスが不出場だったレースでの勝利で、日産ワークスのハコスカGT-Rが、初めてロータリー軍団に敗れたのは1971年の富士TTレースでした。このレースで優勝したのはワークスのサバンナ。
ただしこの日はアクシデントが続出し、ワークス激突、という前評判に反して、両者が雌雄を決する1戦とはなりませんでした。もちろん、ワークス・サバンナがレースを制し、ハコスカGT-Rの50勝目(この数字には諸説あり)がお預けとなったのは動かしようのない事実でしたが……。翌1972年にはロータリー軍団は、RX-3のデビューによって一層強化されることになりました。
左回りのショートコースで行われた5月の日本グランプリ、ツーリングカーレース(T-b)では片山義美選手が駆るサバンナRX-3が優勝。高橋国光選手がドライブするスカイラインHT GT-Rは4位という結果に。
それでも右回りの6kmフルコースではハコスカGT-Rのアドバンテージが保たれていました。30度バンクを駆け降りるコースに完璧にセットアップできているハコスカGT-Rに対して、ロータリー軍団はどうしても後れを取ってしまっていたのです。
それでも、その差は着実に縮まっていきました。フルコースを舞台とする富士GCシリーズのサポートレースであるスーパーツーリングレースでは、ハコスカGT-Rが何とか優位を保っていたのです。ですが、迫りくるロータリー軍団の足音は、日増しに高まっていきました。
開幕戦とシリーズ第2戦は高橋国光選手が、第3戦は北野 元選手が、王者の意地を見せて優勝を飾っていましたが、第3戦で優勝した北野選手はレース後に「従野はこれからもっともっと速くなっていくだろう。それにRX-3の足まわりが良くなったのは、後ろを走っていてよく分かった」とコメント。このレースでトップ争いを展開しながらも、トラブルで遅れた従野孝司選手と彼がドライブしたサバンナRX-3のポテンシャルを十二分に感じ取っていたようです。
そして北野選手の予想通り、第4戦では増田建基選手のカペラが勝ち、最終戦では従野選手のサバンナRX-3が優勝を飾っています。そしてそれ以降、ワークスのハコスカGT-Rはサーキットから姿を消し、スーパーツーリングでの栄冠はロータリー軍団が独占することになりました。
ハコスカGT-Rの優勝記録(連勝記録)には諸説があり、その連勝記録を止めたのが、はたしてサバンナRX-3だったのかにも論が分かれるところですが、例えその連勝記録をストップさせたのがカペラであろうとサバンナであろうと、サバンナRX-3が登場してマツダのロータリー軍団が勢いづき、マシンの開発も一層進んだことが、大きな要因となっているのは間違いないところです。そして1971年から1972年の2年間、ハコスカGT-Rとロータリー軍団が繰り広げたバトルは、これからも語り継がれていくことでしょう。
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