プレミアムサルーンの頂点に君臨するメルセデス・ベンツSクラス。オーナーが実際にどこまで燃費を気にしているかはともかく、ちょっと興味があるというクルマ好きは少なくないはずだ。そんなわけで東京を出発し、京都府の日本海側───丹後半島を目指した。わざとらしい省燃費走行は一切なし! REPORT◎小泉建治(KOIZUMI Kenji)PHOTO◎平野 陽(HIRANO Akio)
【試乗記】フツーに走ってもわかる新型ジープ・コンパスの本気度
好き嫌いは別にしても、メルセデス・ベンツSクラスが高級車の代名詞であることに今さら異論をはさむ人はいないだろう。世にはロールスロイスとかベントレーといった「超」ハイエンドサルーンもあるけれど、フツーの人───たとえば近所のおばあちゃんや女子高生も含めれば、「ベンツ」の知名度に勝るものはない。
で、そんな高級車の横綱の燃費を計ってみようと思ったのである。実際にSクラスのオーナーになれるような富裕層のみなさんが燃費など気にしているのかどうかはよくわからないが、給油するのが面倒くさいからなるべく長い距離を走ってほしい、くらいには思っているだろう。一方、我々のように縁のない人間にとっては興味本位ながらおおいに知りたいところであったりする。少なくとも筆者はそうだ。
今回のテストに供されたのは、S560の4マティック・ロングである。最も燃費の良さそうなV6を搭載するS400ではなく、ラインナップの中心となるV8を搭載し、さらには駆動方式はAWDでボディはロング仕様という、けっして燃費に有利ではないグレードだ。カタログに載っているJC08モード燃費は9.0km/L。さてどこまでカタログ燃費が本当なのか、じっくり検証してやろうじゃないか。
東京を出発し、東名高速と新東名を経てひたすら西を目指す。高速道路でのSクラスは、今さら言うのもなんだがとにかく乗り心地がいい。数日前にパッケージオプションのAMGライン装着車、すなわち19インチ仕様に試乗しており、その圧倒的に高いボディ剛性とタップリと採られたサスペンションストロークがもたらすフラットなライドフィールに感心させられたのだが、今回の18インチ仕様にはそこに加えてフランス車的なまろやかさまで加わっている! S560はエアサスペンションが標準装備されるのだが、タイヤと車体の間に空気の層があるというより、そもそもタイヤが地面から浮いていて、不快な突き上げをシャットアウトしているような感覚である。そして18インチ仕様のほうがその傾向が強い。かといって接地感が希薄だとか、フワフワした乗り心地というわけではなく、ルーフの上から巨人の手かなんかでググッと下に押しつけられ、タイヤと路面の間の空気の層がギュッと圧縮されているようなイメージだ。だから路面の状況は雑味が濾過された状態でドライバーに伝わってくる。Sクラスだからといって崇め奉りたくはないが、こういう乗り味を見せつけられると、さすがメルセデスとひれ伏しそうになってしまう……。
そんなこんなでクルマに慣れてきたところで、アクティブディスタンスアシスト・ディストロニックを起動させる。メルセデス・ベンツのディストロニックの制御に非の打ちどころがないのは今に始まったことではないが、ディストロニックと連動して起動するアクティブステアリングアシストの秀逸な制御には誰もが舌を巻くだろう。
これは車線、ガードレール、前走車などを車両が認識し、カーブに合わせてステアリング操作をアシストしてくれるもので、ウインカーを出せば車線変更もアシストするアクティブレーンチェンジアシストを付随する。そのアシストっぷりが実に滑らかで、他ブランドの同様のシステムのほとんどが白線でバウンドするピンボールのようにカクッカクッとアシストするところを、Sクラスのそれは白線に沿って綺麗な曲線を描くようにアシストをしてくれる。手はステアリングに軽く添えていればいい。
個人的に、このアクティブステアリングアシストが最も効果を発揮すると感じられた場面は、中央分離帯がなく、センターラインにポールが立てられているだけの二車線区間(片側一車線)である。大型トラックとすれ違うときや暗いトンネルの中など、圧迫感や不安感が最小限に抑えられ、緊張がほぐれることで疲労の抑制にもつながる。ロングドライブにはとても有用なシステムだ。
与謝天橋立インターチェンジからは綾部宮津道路、京都縦貫道を経て、そこから事故渋滞を避けるために京滋バイパスを経由して、新名神からは往路の完全な折り返しで東京を目指した。
全行程のうち、高速道路が占める割合は8割ほどで、その高速道路区間の5割ほどはディストロニックを使用し、残りの5割ほどの区間と一般道ではとくに燃費を意識した運転はせず、流れをリードするペースで走り続けた。そしてワインディングロードで前走車両がいない場面では、比較的ハイペースでSクラスのアジリティを堪能もした。そして前述の通り、撮影時には燃費に厳しい走り方、使い方を繰り返した。ツーリングとはいえ、必ずしも燃費に優しい状況ではなかったわけだ。
ではいよいよ結果である。まず、与謝天橋立インターチェンジから東京インターチェンジまでの559kmの高速区間では、平均速度が92km/hで、12.8km/Lというここまでで最高の燃費を叩き出した。そして総合結果は、走行距離1295kmで平均速度74km/h、燃費は12.0km/Lとなった。JC08モード燃費は9.0km/Lだから、達成率は実に133%(!)で、大人2名乗車&荷物満載ということを考えれば称賛に値する結果と言えるだろう。
参考までに100km/h巡航時のエンジン回転数は8速で1400rpmで、トップギヤの9速にはなかなかシフトアップされないためにマニュアル操作したところ1200rpmとなった。また、S560の燃料タンクは80Lだから、単純計算で航続距離は960km、燃費に優しい運転をすれば1000km以上はカタい。
「結局は10km/Lになんて届く気配すらない」はずのハイエンドサルーンが10km/Lを大きく上回ったのも驚きだが、これだけ贅沢三昧しながら1000kmも給油しなくてイイなんて、いったいなにがどうなっているのやら。
「Sクラスなんてガソリン垂れ流しの贅沢品」と糾弾したかった人、残念! 「欲しいけれど、やっぱり環境に負担が……」と購入に後ろめたさを抱いていた人、おめでとう!
Specifications
メルセデス・ベンツ S560 4マティック・ロング
全長×全幅×全高:5255×1900×1495mm 車両重量:2220kg エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ 排気量:3982cc 最高出力:345kW(469ps)/5250-5500rpm 最大トルク:700Nm(71.4kgm)/2000-4000rpm トランスミッション:9速AT 駆動方式:F・AWD 価格:1681万円
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