この記事をまとめると
■ホンダが「2050年交通事故死者ゼロに向けた、先進の将来安全技術」を世界初公開
他社の二番煎じゃない機械の副操縦士! マツダの新技術「コ・パイロット」が安心と気遣いの塊だった
■事故死者ゼロ目標に四輪だけでなく二輪も含めているのがホンダらしさ
■「操作アシスト」「認知アシスト」「覚醒アシスト」が「知能化運転支援技術」の中心
2050年に交通事故死者数ゼロ実現のためにホンダが考えていること
ホンダの安全に対する野心的ヴィジョン
先だって栃木の本田技術研究所テストコースにて、ホンダが将来に向けた先進安全テクノロジーを構成する具体的な要素技術の数々を、プレス向けに公開・体験させる発表試乗会を行った。ひとつひとつ解説しながら、ホンダの先進安全テクノロジーの方向性と提案を、吟味していこう。
まず、ホンダは2050年に全世界で同社の四輪・二輪が関与する交通事故死者をゼロを目指すことを明らかにした。これはWHO(世界保健機関)が掲げる、2021~30年の10年間で交通事故死者と負傷者数を最低でも半減させようという指針に対する、ホンダ独自のヴィジョンだ。
WHOの指針自体が、国連が提唱するSDGs(持続可能な発展目標)に定められる17の目標のひとつ、「良好な健康とウェル・ビーイング」に相当するもので、当然それは「(地球上の)誰ひとり取り残さない」というSDGsの原則が下地にある。厳密なゼロ目標というより、その達成を目指していくためのヴィジョンと捉えるべきもので、「エンゲージメント・マーケティング」の先例として自動車ではすでに北欧のボルボが、2020年までに新世代にボルボ車に乗っての事故死者や重傷者をゼロにするという「ヴィジョン2020」を掲げていた。
だが、交通事情としてリスク多大な東南アジアで伸び続ける二輪をも対象に含めた点が、2輪メーカーでもあるホンダの矜持と独自性といえる。乗り物に限らず歩行者含め、すべての交通参加者の誰もが安全でいられ、事故に遭うことなく移動の喜びを享受できる社会づくり、そこにホンダの将来的なコミットメントがある。
2030年までに半減というWHO指針にも、ホンダは中間目標的に積極対応するが、同社の施策はあくまでリアリスト視線だ。インフラや交通安全教育、車両法規や道交法の実施、救急医療の体制など、世界各地の市場ごとに大きな隔たりがあり、事故要因および行動という帰結も一様ではない。
そのため、先進国では「ホンダ・センシング」など先進安全技術を普及させ、新興国ではインフラ整備や制度改革など交通安全の土壌づくりを進めるという、両極端をカバーして実効性を高めていく。先進的な予測技術で事故の発生件数を予防的に抑え込むと同時に、乗員および歩行者保護や衝突安全性の強化、さらには事故自動通報システムの導入などで、事後の致死・重傷化率を下げるというのだ。
要は、単に自動運転レベルを3より先に上げていくことで、事故死者・負傷者ゼロを目指すという単純な考え方ではない。リスクから解放された交通社会とは、人がもつ本来の力が活かされ、他の交通参加者との共存、つまりひとりひとりの安心と他者への思いやりによって担保されるべきもの、そんな人間中心の思想の表明でもある。
ヒューマンエラーは原因ではない
よってホンダはひとりひとりに合わせた安全・安心を確保するため、ヒューマンエラーを原因ではなく結果と捉える。事故という誰も望まなかったエラーが起きた要因を明らかにするのに、運転中に活発になる脳領域をfMRIで観察し、ドライバーの視線の動きと、リスクとなる運転行動の因果を解析している。
エラーを検知して修正制御するのではなく、その前段階で予測することで、「安全運転能力を拡張」させるというのだ。しかもひとりひとりのドライバーに合わせるカタチで。
たとえば傾向として、若い初心者ドライバーは前を見るのに精いっぱいで周囲を見渡す余裕がなかったりする。すると視線は前方の狭い範囲に長く偏ってしまい、急な飛び出しのような潜在的な周辺リスクに対応しづらい。
また、高齢のドライバーなら、車線内でフラついたり前走車がブレーキをかけた時に反応が遅れるなど、運転操作の反応自体が遅れがちだ。見落としや目測の誤りだけでなく、だろう運転のような見えてはいるが慣れによる独断的予測もある。
ドライバーの目線などを検知して必要なアシストを行う
AIは安全にどう貢献するか
今回発表されたホンダの「知能化運転支援技術」は、ADASやドライバーの運転入力操作、視線の動きを統合データ化する。早い話が、センシングによって得られた情報からAIが潜在的リスクを検出し、ドライバーの認知状況と交通シーンに合わせて、最適な運転行動をリアルタイムで予測判断する、そんな次世代HMI(ヒューマン・マシン・インターフェイス)なのだ。
今のところ具体的な支援機能としては3点。フラつきを抑える「操作アシスト」、ドライバーの見落としや予知予測ミスを防ぐ「認知アシスト」、さらには漫然と集中力が途切れることで起きるミスを防ぐ「覚醒アシスト」が挙げられる。
心拍センサー付きのリストバンドを巻いて、試験車両のシャトルの運転席に座ると、通常のタッチスクリーンには自分の心拍グラフが、メーターパネル上にはリスクインジケーター、さらにダッシュボード中央付近にはドライバーをモニターするカメラが見える。心拍センサーでドライバーの意識を運転集中へと誘導するよう、心拍を上げるパルス振動がシート背面に埋め込まれたバイブレーターから伝わってくる。これがスタート前の「覚醒アシスト」だ。視線がトロンとして瞼が重くなった時にも、パルス振動は送られてくるだろう。
走り出して直進しながら道路左側、路駐した2台を見やると、シートベルトがモーターでキュッと締まって注意喚起が促される。走行中には見えない2台の間に歩行者がいて、ルーフ上のカメラからは見えていたというのだ。センシングによるリアル状況と運転者の状況認知、両者の間で起きる「時空間のズレ」を、AIが見守り続けるというのが「認知アシスト」の基本的な考え方といえる。
続いては右折直後、横断歩道の手前で停止した後、歩行者が横断を終えかけて進もうとした瞬間、シートベルトが引っ張られた。すると死角から自転車が飛び出してきた。意識が歩行者に向いて、もう来ないだろうと予知しがちなことによる「状況不認知」を、認知アシストが援けてくれるという例だ。
ちなみに試験車両のシャトルは四隅にカメラを載せたルーフボックス状のケースを屋根に積んでいたが、これは実験用モジュールを頻繁に入れ替える都合ゆえで、実際には前方2隅のカメラはルームミラー一体化型カメラで同じ機能が果たせるという。
課題は警告インターフェイス
認知アシストのデモ例はもう1パターン。左側走行車線を直進中、駐停車中のクルマがあって車線変更しようとしたところ、追越車線ではバイクが自車を死角から、優速で追い越している最中だった。この時はシート肩口のスピーカーから立体音響で警告音が鳴った。
かくして今現在、認知アシストがこなせるパターンを3つ体験してみたのだが、リスクを伝える視覚・聴覚・触覚の各チャンネルが効果的でなく、インターフェイスの練り込みが足りないと感じた。
まず視覚上、メーター上のグラフ式インジケーターはいかにも旧態然としているし、ウインドウスクリーンかヘッドアップディスプレイ上に、AR技術で現実の視界にオーバーレイする方が直観的でわかりやすいだろう。肩口スピーカーの立体音響はリアルな音が出せるが、警告としてはドアミラーのブラインドスポットモニターと被るところではある。さらに触覚チャンネルついては、シートベルト巻き取りや背中のパルス振動だけではリスクの方向性・指向性が表せない。シート座面からも左右の振動や強弱で分けたり、視覚チャンネルと組み合わせるなど、工夫が要るだろう。
テストコース上では試せなかった「操作アシスト」については、まず一の橋から浜川崎までの首都高C1をシミュレータで体験した。平日朝を思わせる路上のささくれた空気感が見事に再現されていて、フラフラ走るワンボックスやミニバン、割り込みをするセダン、アオって来るSUVなど、リスク選好型の他車をN-BOXでかき分けていくイメージだ。
最初は操作アシスト無しで走ると、車線はみ出しや急ブレーキ、後ろをツメてくる他車を相手に、少なからぬヒヤリハットが起きる。同じ状況を操作アシストONで行くと、ドライバーの視線の動きや他車リスクの認識度に応じて、リスク蓋然性をAIが先読み予測し、フラつきや操作遅れ、減速ブレーキを援けてくれる。突然に介入するというより、ヒヤッとする前にスっと自分とは別の意識が働いてくれる感覚で、ステアリング修正舵以外はほぼ違和感がない。
この傾向はみゆき通り直進という市街地シミュレーションでも顕著で、向かい合って進んでくる自転車がフラついたり、目の前を別のクルマが飛び出したりする状況でも、操作アシストは知っていたかのように自然に介入する。センサーがキューとなって発動される現状のADAS機能とは、明らかな差がある。
ここでもカギとなるのは他車・他者という外在的リスク、つまり歩行者や自転車だが、今やモーションキャプチャーなどを使うことなく、カメラに映った通行人の手足関節や耳の位置を認識できるという。そこから顔の正面や骨盤の向きを判別し、進んでくる方向や数秒後の位置を予測しているのだとか。
ただし、こちらシミュレータのリスク表示はヘッドアップディスプレイだったが、映し出される幅が狭く、10時方向にあるリスクが11時方向にしか出てこないので、結局のところ、どれがリスクで、どの程度認知済みのリスクなのかわかりづらいことがあった。
もうひとつの難点は、度付きサングラス着用で臨んだところ、目の動きをモニターするカメラが認識してくれなかった。サングラスをかけての日中運転以外にも、トンネルに入ったり夜間走ることは当然ありうるので、赤外線カメラなどにするべきだろう。
いずれも表示インターフェイスに課題ありだが、予測技術として認識の精度には舌を巻いた。
ホンダの「2050年交通事故死者ゼロに向けた、先進の将来安全技術」の体験会にはまだまだ驚かされたのだが、つづきは次回に。(その2につづく)
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脱炭素がどうのとか騒ぐ前に、車メーカーがやるべき事車メーカーしかできない事の頂点を目指している。
二輪と四輪の両方できる会社は世界でもホンダだけだ。