コンマ5mmという微小な範囲内で徹底的なこだわりの追求を!
いよいよ国内での正式デビューを飾った新型カローラ、セダンとツーリング。先代カローラまでは、日本国内向けとグローバルモデルとではプラットフォームからして異なるという、いわば「別物」のクルマだったが、新型は同じひとつのクルマとして開発を実施。エクステリアデザインもグローバルモデルと同じデザインが採用されている。
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「同じコンセプトのデザインですが、じつは国内モデルは日本の使用環境に合わせて、サイズが小さくなっています。そのため、デザインの一部も日本専用に設計されているんです」
そう語るのは、グローバル・国内モデルの両方で外形デザインのリーダーを担当した藤原裕司さん。
「新型カローラでは、プリウスやC-HRでも使われているTNGAのCプラットフォームが採用されているんですが、それがデザインに非常にいい影響をもたらしています。低重心でスポーティなシルエットが作れるプラットフォームですから、表面的な意匠だけで表現するのではなく、骨格、プロポーションそのものから、しっかりとスポーティなデザインを実現することが可能だったんです。じつはここ何代かのカローラでも、『スポーティさ』はデザインの重要な要素だったのですが、今回の基本骨格のよさのおかげで、われわれデザインチームが今までやりたくてもできなかったスポーティさの表現を、しっかり実現できたと思います」
新しいプラットフォームと、3ナンバーサイズ化によって、「伸びやかさ」や「抑揚のある面」といった、質感の高いデザインに必須とも言える要素を、より豊かに表現できるようになった新型カローラ。その一方で、先述したとおり、国内モデルはグローバルモデルよりもサイズが小さくなっている。
セダンの場合、全幅で35mm、全長では135mmも違う。近年のカーデザインでは、抑揚の表現などもミリ単位で突き詰められていることが多く、このサイズの違いはグローバルモデルと同じデザインコンセプトを実現するうえでは、致命的な違いと言っても過言ではない。だが実車を見ると、グローバルモデルと変わらない抑揚感やワイド感が実現されているのがわかるだろう。
とくに注目してほしいのは、リヤタイヤ上部にあるキャラクターラインが張り出した部分。上方からの光を受けて、ハイライトを醸すこの部分は、全幅の差がもっともハッキリ出る場所だが、むしろグローバルモデルよりも豊かに表現されていると言ってもいい。国内モデルのエクステリアデザインを担当した坂上元章さんは、次のように振り返る。
「デザイン開発の順番としては、まずグローバル全体としての方向性を決め、それがある程度固まった初期段階から国内モデルのサイズなどについても検討を開始しています。パッケージングがほぼ決まった段階ですし、グローバルモデルと共通の内装デザインに大きな影響を及ぼさないことや、衝突時の安全や歩行者保護などの要件に干渉しないなど、さまざま要件を守りながら検討する必要がありました」
「そんな制約も考えると、サイズを小さくして同じコンセプトのデザインを実現するというのは、たしかに途方にくれてしまうような話です。単純に縮めただけでは、華奢に見えてしまいますからね。そこで私たちがたどり着いたのは、『縮小』ではなく『凝縮』させるという考え方。単純に小さくするのではなく、魅力的な要素を凝縮し、それをさらに際立たせるためのプラスアルファの見せ方をデザインに盛り込むという考え方です」
先述したリヤタイヤまわりの抑揚感は、その表現の代表格と言える部分。ドア断面の張り出しは縮められているが、下部のロッカー周囲の張り出し寸法はほとんど縮められていない。加えて、ドアに連なるホイールのフレア部断面は、「回転」をかけることで、抑揚の曲線自体はほぼそのままの形で維持されている。
デザインチームの「コンマミリ単位」への挑戦は、このほか、さまざまな箇所で行われている。とりわけ、サイドドアからリヤ末端に抜けていくキャラクターラインの模索は、国内仕様モデルの質感の向上という、エクステリアデザインにとどまらない大きな恩恵をもたらした部分だ。
「開発当初は、ワゴンとセダンでリヤドアは別デザインになる予定だったんです。それはセダンとワゴンで、フロントからリヤに抜けていくキャラクターラインを別のデザインにしたかったからです。ワゴンはベントして、リヤまわりにつながるテーマに、セダンなら水平に抜けていくラインにしたいものです。リヤドアを共有にしてしまうと、ドア以降の限られた部分でその違いを表現せねばならず、そうなると曲線の変化も急激にならざるをえません」
「ですが、セダンとワゴンの作り分けのためのデザインデータを解析しているうち、ひょっとしたら同じリヤドアでも、セダンらしさとワゴンらしさをしっかり表現できるラインが描けるんじゃないかと考えるようになりました」(坂上さん)
カローラツーリングについては、グローバルモデルとのサイズ違い以外にも、バックドアやリヤコンビランプは共有するという制約もあり、ディテールとの整合性をとることも必要だ。そんな厳しい条件のもとで検証を繰り返した結果、条件をすべて満たしながらセダンとワゴンで共有できるキャラクターラインが、プランビューでコンマ5mmという極小な範囲のなかでのみ実現できそうなことがわかった。坂上さんらは、このコンマ5mmの範囲で、さらに3種類のキャラクターラインを試作し、ついに最適解を見つけ出した。
このキャラクターラインによって実現した、セダン&ワゴンでのリヤドアの共有化は、生産コストにも莫大なメリットをもたらした。そして新型カローラのインテリアを見ると、歴代モデルと比べて飛躍的に質感がアップしていることを確認できるが、その実現には、リヤドアの共有化が大きく寄与しているのは言うまでもない。
プラスアルファの価値の創出はカローラの守るべきDNA
インテリアデザインを担当した梶田正道さんにもうかがった。
「恩恵の大きさはインテリアでも実感しています。歴代のカローラが守ってきた価値には、多くのお客さまが求めやすい価格で提供するということがあります。と同時に、プラスアルファの価値を提供したいということも守ってきたことなのですが、インテリアの質感はプラスアルファの価値を実現するうえで非常に重要な要素です」
「たとえば新型カローラのドアトリム。ゆったりとした曲線を描いた大型のドアトリムは、機能だけで言えば、この大きさは必要ないと言えます。部品が大きくなれば成形や保管など、手間やコストも大きくなりますから、コストだけを考えたら真っ先に削られる部分でしょう。けれど、感性に訴える品質を実現させるには絶対に必要なんです。デザインチームが大切にしたその考えを、より高いレベルで実現できたのは、チーム全体で一丸となった結果だと思います」
言われなければわからないような細部にも徹底的にこだわったインテリアデザイン。たとえば前席左右にあるエアコンの吹き出し口もそのひとつ。窓ガラスに映り込みやすい位置にあるこの部品は、素材の光沢の具合をはじめ、反射の仕方に影響を及ぼす断面形状なども考慮し、30以上もの形状を検討して決定されたもの。こうしたこだわりの数々が随所に発見できるのも、新型カローラのデザインの特徴のひとつだ。
質感の高さは、カラーデザインでも追求されている。新開発されたスカーレットメタリックは、中塗り層に赤を入れ、その上に少しオレンジが入ったカラー層が重ねられている。光の当たり方によって、深みの濃い赤や、少し黄味に寄った華やかな赤など、さまざまな表情の変化を豊かに見せてくれる質感の高い新色だ。カラーデザインを担当したのは山口麻夢さん。
「インテリアの素材についても、質感の高さを大切にしています。ベースグレードで使うシートのファブリックも、従来はやわらかいものでしたが、新型ではしっかりと地厚感のある表皮を開発しました。糸の色一本一本にもこだわった織物で、見た目にも上質さを感じていただけます。今回は、アームレストやコンソールにもこの素材を使い、インテリアの統一感のある美しさにもこだわりました」
「たとえばアームレストでは、性能上、シートと同じファブリックを使用することが困難な場合が多くあります。シートの素材は人が頻繁に乗り降りするので、しっかりとしたものを使いますから、しっかりしている分、アームレストに巻きづらいんです。今回は生産サイドとも早い段階から協力することで、巻きやすい形状処理の考案など、さまざまな工夫によって実現させました」
各部署が早い段階から協力してデザイン開発に挑めるのは、トヨタが2016年から導入している「カンパニー制」の効果も大きい。従来のように開発や生産などの「機能」で区分されていた組織を、車種ごとにまとめ直すという改革は、トヨタが掲げる「もっといいクルマづくり」の実現のためのもの。問題の早期発見や開発、新たな技術やデザイン表現などの実現のための、全部署一丸となった取り組みがしやすいなど、さまざまなメリットをもたらすことが期待されている。新型カローラのデザインも、その成果を大きく感じさせるものと言えるだろう。
こうして誕生した新型カローラのデザイン。最部にまで徹底的にこだわって質感を高めた内外装は、見て楽しむというよりも、見て味わうというのがふさわしいデザインと言えそうだ。
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