昔は当たり前だった装備が、今ではすっかり見かけなくなっている、ということは多くあります。たとえば、105km/hを越えると「キンコン」と鳴る速度超過警告ブザー(速度警告音)。クルマの性能が向上し簡単にスピードが出せるようになったことで、交通事故が増え、その対策として取り入れられた装備ですが、「(キンコン音が)単調なリズムで眠気を誘う」という理由や、輸入車メーカーからの反対の声が多くあがったことで、1986年には廃止となりました。
この速度超過警告ブザーは技術の進化で消えたわけではないですが、装備のなかには、近年の目覚ましい技術の進化によって必要なくなったものも多くあります。技術の進化で消えていった装備たちを振り返ります。
文:吉川賢一
写真:MITSUBISHI、NISSAN、HONDA、TOYOTA、SUBARU、Mercedes-BENZ
クロカン御用達のファッションアイテム「背面タイヤ」
ランドクルーザーやランドクルーザープラド、パジェロ、サファリ、FJクルーザー、CR-Vなどなど、80年代~90年代のクロカン車には必須装備だった「背面タイヤ」。
クロカン用のタイヤが非常に大きく、フロア下に格納することができなかったため、背面に装備されていたのですが、当時は実用性よりも、ファッションアイテムとして装着しているユーザーの方が多かったと思います。若者向けとして登場した、コンパクトSUVのRAV4でさえ、初代モデルから3代目(国内は2007年で販売終了)まで、背面タイヤを装着しており、後継車のヴァンガードにも、メーカーオプションでバックドアへのスペアタイヤ装着を用意していました。
背面タイヤは、いまでもランクルプラド、ジムニー/ジムニーシエラ、ラングラー、Gクラス、ディフェンダーなど、一部のクルマには残っています。もちろん、パンク修理キットにしたほうが軽量化(つまりは燃費向上)もできますし、廃棄タイヤも減りますが、もはや背面タイヤ(ハードカバー)があることが、こうしたクルマの「トレードマーク」になっているのでしょう。将来的にも、絶滅することはないと思われます。
結局は使われなかった「回転対座シート」
2列目を回転して3列目と対面になる「回転対座シート」。サンルーフと並んで、ミニバンで人気の装備でした。筆者も子供のころ、家にあった初代エスティマの2列目シートを回転させ、車内でトランプなどをして遊びながら行楽地へ向かった記憶があります。クルマなのに、まるで家の中のような居心地でとても楽しいものでした。初代アルファード(2002-2008)や2代目エルグランド(2002-2010)、エリシオン(2004-2012)に採用されていましたが、ある時から見なくなりました。
その理由は、色々と試してみるものの、最終的に落ち着くのは、「通常のシートレイアウト」だったこと。サンルーフも同じですが、需要の少ないものにコストをかけるよりも、より需要の高いアイテムに費やしたほうが、クルマとしての魅力が上がる、ということなのでしょう。1世帯当たりの人数が減少しているのも、理由かもしれません。
ちなみに、メルセデスのVクラスには、今でも2列目の回転シートが採用されており、さらにV 220dアバンギャルドロングには、3列目シートの頭上まで開く、パノラミックスライディングルーフがパッケージオプション設定されています。「2列目シートが回転できる、サンルーフ付きのミニバン」は、現状ギリギリ絶滅を免れている状況です。
2001年発売のステップワゴン(2代目)の回転対座シート。楽しそうではあるが、毎日これをやるわけではない、と考えると、なくなっていったのもうなずける
シミュレーション技術の向上で必要なくなった「ボンネットのエアスクープ」
かつてはほとんどのターボ車に装備されていた、ボンネットの「エアスクープ(エアインテーク)」。ターボ車のエンジン廃熱のための空気の取り込み口として装備されていたものですが、「エアスクープがある=高性能車」であったことから、クルマ好きの間でもてはやされた装備です。
減った理由は様々ですが、空気の流れを緻密にシミュレーションすることができるようになったことで、エアスクープがなくとも、エンジンルームの廃熱を、ある程度コントロールできるようになったことが影響しています。
ボンネットのエアスクープといえば「スバル車」というほど、エアスクープにこだわり続けてきたスバルは、現在もWRX S4とレヴォーグにエアスクープを採用しています。先日発表となったGRカローラにも、エアスクープが取り付けられていますが、スバルの場合は、デザインのアイコンとしても受け入れられており、もはや外すことができなくなっているのでしょう。
電動化で出番のなくなった「スーパーチャージャー」
1980年代から1990年代前半にかけて、多くのモデルで採用されていたスーパーチャージャー。しかし現在は、国産車において、スーパーチャージャーを採用しているモデルはありません(2012年に日産ノートに採用されましたが2020年に生産終了しています)。マツダ3やCX-30に搭載のSKYACTIV-Xは、スーパーチャージャーに近い構造ですが、いわゆるスーパーチャージャーの使い方とはちょっと違います。
スーパーチャージャーの最大の課題は、エンジンの動力をもとにコンプレッサーを駆動するため、駆動損失が発生し、高速回転領域の出力低下と、燃費の悪化が起こること。一部の欧州車では、ターボチャージャーのコンプレッサーをモーターで回す、電動スーパーチャージャーも登場していますが、電力消費が大きく、仕様領域は低速域のみと狭く、ごく一部の高級車に留まっています。
電動化全盛の現在は、最もパワーが欲しい発進時にはモーターで駆動力を補うことが容易です。あえてスーパーチャージャーに拘る理由は皆無。この先、スーパーチャージャーが復活することはないものと思われます。
◆ ◆ ◆
今回取り上げた装備を残しているクルマは、もはやそのアイテムが、クルマのアイデンティティになっているため、外すことができないのでしょう。現在当たり前に装備されている、マフラーやワイパー、サイドミラー、ドアハンドルなども、10年後にはすでに消えているかもしれません。技術の進歩は楽しみでもありますが、寂しい面もありますね。
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