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インタビュー|ベッテル、フェルスタッペン、角田裕毅らを育てたアルファタウリのトスト代表が振り返る“仕事一筋”の18年間

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インタビュー|ベッテル、フェルスタッペン、角田裕毅らを育てたアルファタウリのトスト代表が振り返る“仕事一筋”の18年間

 亡きレッドブル総帥ディートリッヒ・マテシッツから若手ドライバーの育成を任されたアルファタウリのフランツ・トスト代表。18年という歳月の中で、5人のグランプリウィナーと2人の世界チャンピオンを輩出した彼にとって、2023年シーズン最終戦アブダビGPがF1チーム代表としてのラストレースということになる。

 イタリア・ファエンツァのチームファクトリーに誰よりも早く出勤し、誰よりも遅くに帰る仕事人間のトスト代表が唯一好まないタスクがあるとすれば、それは自分のことを話すことだ。

■F1特集|アルファタウリの”総本山”へ潜入。成長を続けるファクトリーをフランツ・トスト代表と巡る

 バラ色のお別れインタビュー? トスト代表は期待するようなリップサービスなどしてくれはしない。レッドブルの育成チームを率いた18年間、若い才能をグランプリウィナーや世界チャンピオンに育てる重要な役割、自身のレースキャリアの思い出をセンチメンタルに振り返るということに、彼は応じてくれはしないのだ。

 F1から姿を消して、オーストリアのアルプスで静かな引退生活を送る前に、彼にはあと1戦残っている。

「彼は自分自身について話すのを拒絶するでしょうね」

 そう語るのはアルファタウリのコミュニケーションディレクターを務めるファビアナ・ヴァレンティだ。

 彼女はミナルディ時代からチームに在籍しており、トスト代表の性格をよく分かっている。「私たちは友達だから、例外を認めてくれるかもしれない」とヴァレンティは言うが、それも“チーム代表”としての仕事に付随することだ。

 というわけで、トスト代表のアレコレを掘り下げるという我々のリクエストは修正され、承認された。この日の我々は少しばかり運任せとなったが、F1に多大な貢献をした人物を見過ごすのは不徳の致すところだ……。

GPR(GP Racing):「今年でチーム在籍18年目。2005年11月8日という日は覚えている?」

FT(フランツ・トスト):「美しい秋の日だった。その日、私はイタリアのファエンツァへ行った。当時のスクーデリア・トロロッソで働き始めた日だ。良い日だったし、楽しかった」

「妻と話していて彼女が『いつまでイタリアにいると思う?』と言ったのを覚えている。私は『3年かな。最長でも4年だ』と答えたが、今年で18年目だ」

「素晴らしい時を過ごしたと言える。素晴らしい人々にも出会った。エミリア・ロマーニャは住むのにとても良い地域だ。温暖で気候は美しく、ぶどう畑があって景観は素晴らしい。不味いレストランは見つからない。それに、人々はとてもフレンドリーだ」

F1キャリアの始まりは2005年

GPR:以前あなたは「2005年にミナルディで、情熱はあっても資金もインフラもない85人を見つけた」と言っていた。当時28歳のローラン・メキーズもそこにいたひとりだが、彼がフェラーリでの数年間を経て来季から後任としてチーム代表を引き継ぐことに満足している?

FT:「ローランは若いエンジニアとして我々に加わり、とても良い仕事をしてくれた。彼はとても賢い男だ。それで彼は出世してチーフレースエンジニアになった」

「私は当時、彼と冗談を言いながら『今すぐ他のチームへ行って、何か新しいことを学んでもっと経験を積んでから、また我々のところへ戻ってくるべきだ』と言ったのを覚えている。でも、今まさにそうなっている。彼はチームのことをよく知っているし、一緒に働いていた何人かはまだ在籍している」

「そしてもちろん、信頼があるからこその出発点なのだ」

 BMWモータースポーツのトラックオペレーションマネージャーやラルフ・シューマッハーの個人マネージャーを務めていたトスト代表がF1チームを率いるに至ったキッカケは、同じオーストリア人のマテシッツの声掛けにあった。トスト代表はチーム運営や若く才能のあるドライバーの扱い方を熟知していたのだ。

 マテシッツはジャガーを買収してレッドブル・レーシングを立ち上げた後、不振にあえいでいたミナルディも買収し、若手ドライバーを育成するためのチームを結成した。

GPR:「ディートリッヒ・マテシッツという実業家に実際に会った時の印象は?」

FT:「ディートリッヒ・マテシッツに初めて出会ったのは、1993年のニュルブルクリンクだったと思う。すぐにとても良い印象を得たよ」

「そして2005年、彼は私に『フランツ、君は今すぐイタリアへ行ってチームを作り、レッドブル・テクノロジーとのシナジーを活かして若いドライバーを育ててくれ』と言ったのだ」

「そして我々はその通り実行した。彼とはとても働きやすかった。契約書はなく、握手だけで済んだ。彼は言った約束なら何でも守った。何か必要なことがあると、彼に電話すればイエスかノーと言ってくれた。決断は5秒で下された。彼には先見の明があったが、それはひとつのことに過ぎない。彼は抱えていたプロジェクトを全て成功させたのだ。ディートリッヒ・マテシッツのような人物は、他にいないだろう」

トスト代表「レッドブル総帥を”一度だけ”怒らせた」

GPR:「チームの目標を、若手ドライバーの育成からグランプリ勝利やタイトル獲得に変えようとしたことはありますか?」

FT:「いや、それはない。目標はとても明確だった。彼からは『チームのフィロソフィーは、第一にレッドブル・テクノロジーとの相乗効果を利用すること、第二に若いドライバーを育てること。それが君の目標だ』と言われた」

「それは明確に定義されていたし、私はそれを変えようとはしなかった。明確なビジョンだと思うからね」

「そして、それが上手くいった。いや、モンツァで勝ったから、上手く行き過ぎてしまった」

 当時のレギュレーションでは、他チームが製造したカスタマーシャシーを使うことができる”抜け穴”が残されていた。そのため、トロロッソはレッドブルが使っていたマシンに”よく似た”マシンを走らせ、当時参戦していたスーパーアグリも、前年のホンダが使っていたマシンに”よく似た”マシンを走らせた。

 しかし2008年にセバスチャン・ベッテルがモンツァでチーム初優勝を届けた後、トロロッソは自らの首を絞めることになった。カスタマーシャシーを使うことがレギュレーションで厳格に禁止……もとい、自社でシャシーを設計・製造することが強制されることとなったわけだ。マテシッツの“1シャシー・2チーム”という構想はもはや成り立たなくなった。

 そしてトスト代表は突然、ファエンツァに新しいファクトリーを建設することになった。

「メダルには裏と表がある。ひとつの面は我々が勝ったということで、もう一面はレギュレーションが変更されてしまったということだ。インフラを持っていないのに、突然モノコックやノーズ、フロントウイング、フロア、ディフューザー、リヤウイング、ボディワークを自分たちでデザインして生産しなければいけなくなったのだから、大きな影響があった」

「まず、スタッフのための作業スペースを見つける必要があった。エンジニアを受け入れるためのコンテナをレッドブルから調達したのを覚えている。それからデザイングループを立ち上げ、生産部門と空力部門の人材を見つける必要がった。全て同時にね」

「厳しい時期だったと言わざるを得ない。みんな何時間も働く必要があった。そうしないとグリッドにマシンを揃えることができなかったからね……大変だった。でも今思えば楽しかった! チームはより良く、強力になった」

GPR:「当初と運営コンセプトが異なったことで、出資する側のマテシッツの反応は?」

FT:「彼は理解していた。バーニー(エクレストン/元F1支配人)が彼に説明したからね」

「マックス・モズレー(当時FIA会長)もそれについて彼に話をした。もちろん、彼が考えていたフィロソフィーとは違っていたから、満足はしていなかったよ」

「幸い、レッドブルは缶の販売本数を年々劇的に増やしていた。つまり、キャッシュフローがあったということだ」

「我々には資金があった。否定的な意見はなかった。彼といるといつも楽だった。彼が私に腹を立てたことは、一度しか覚えていない」

GPR:「彼が怒ったその1回とは?」

FT:「私が木を切り倒す決定をしたからだよ。公園があって、そこには大きな木が生えていた。私にはもっと作業スペースが必要だったから、切り倒したのだ」

「ただ、彼は木が大好きだった。それで『なぜだ、フランツ。なぜこの素晴らしい木を切り倒した?』と彼に言われた。私が『木ではなく作業スペースが必要だった』と答えると、彼は怒ったが、彼が私に怒ったのはその時だけだった」

トスト代表「チームは今、新しいリーダーシップを必要としている」

GPR:「ではF1の1シーズン24戦というのは……」

FT:「ジョークだね。今のサーキットでは休日があるとは言えない」

「ただカーフューはある。メカニックは21時か22時にはホテルへ迎えるのだ。昔、たとえばBMWでは毎日エンジンを交換していた。金曜日は金曜日用エンジン、予選用エンジン、決勝用エンジンとね。そして1時か2時になる前にホテルへ戻ることはなかった」

「それが普通だった。朝の6時か7時に起きてサーキットへ行かなければいけなかったが、誰も文句は言わなかった」

GPR:「燃え尽き症候群はなかったと」

FT:「みんなそれが何なのかを知らなかった。本当なら、みんなそれが何なのかを知らないはずだ。燃え尽き症候群は怠け者の言い訳だ。働くのが好きな本当の人にはないモノだ」

「でも今は23~24レースが限界だと思う。今のスケジュールを見ると、オースティンからメキシコ、メキシコからサンパウロとチームは4週間も移動していることになる」

「私にとっては問題ない。しかし他の人にとっては違う。メカニックには週末のレースが終わると休みがあるが、エンジニアはレースが終わってから戻ってきて、全てを分析し、次のレースの準備をする。家に家族がいれば、話は別だ」

GPR:「来季、なぜコンサルタントとしてチームにとどまらないのか?」

FT:「まだ決まっていない。まだ話し合っているところだ。コンサルタントになって今以上に仕事を増やしたくはない。様子を見るよ」

「全レースには絶対行かない。ピーター(バイエル/アルファタウリCEO)やローランにあれこれ指図するようなこともしない。彼らは十分に賢いし、経験もある」

「彼ら自身でやっていかなければ、全て同じように続いてしまう。そうなってはいけない。彼らは新しいアイデアを出すべきだ」

GPR:「以前、この仕事を引き受けた時、退任の日を認識することを忘れないと誓ったと言っていた。退き際を見極めるのは簡単なことではないが、どうすれば正しい時と確信できる?」

FT:「私は2~3年前。ディートリッヒ・マテシッツに『70歳でピットウォールに立つつもりはないから、私の後継者を見つけなければならない』と伝えたのだ」

「彼からは『あと2~3年は一緒にいてくれ』と言われたが、その時期はもう終わったのだ。君の言う通り、以前私は自分の役職に執着するつもりはないし、役職と一緒に連れ出されたり、窓から放り投げられたりするのを待つつもりはないと言っていた。チームは今、新しいリーダーシップを必要としていると思う」

「2026年には新しいレギュレーションがやってくる。この変化のための作業はすでに始まっている。ギリギリまでチーム代表を務めて、新しいレギュレーションが施行される5分前に『よし、あとは誰かが引き継ぐべきだ』と言うことはできない。そうではなく、事前に十分な準備が必要なのだ」

「だから私は2年前にやめると決めたのだ。今がその時だ」

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