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ローソン昇格で浮かび上がる”リカルド実験”の失敗。容赦がないはずのレッドブルの優柔不断と惰性

掲載 更新 4
ローソン昇格で浮かび上がる”リカルド実験”の失敗。容赦がないはずのレッドブルの優柔不断と惰性

 レッドブルはセルジオ・ペレスに代わってリアム・ローソンを起用することを発表。長引いていた来季ラインアップの問題がようやく整理できた。

 そこでマックス・フェルスタッペンのチームメイトとなる、レッドブルのセカンドシートにまつわる”すったもんだ”を振り返ってみよう。ドライバー市場に対して”普通”のアプローチをとるチームであれば、簡単に予想できるような決着で終わった、この長い物語を。

■レッドブルF1代表、ローソンと角田裕毅の二者択一は“難しい判断”「しかしポテンシャルを考慮するとリアムはより強くなる」

 今季の開幕前に、ルイス・ハミルトンのフェラーリ移籍によってシートを失うことが決まったカルロス・サインツJr.は、明らかに候補のひとりだった。しかしフェルスタッペン親子は、それを拒否した。トロロッソ時代にチームメイトだったふたりの間で不愉快な出来事が再燃しないように配慮したのだ。

 そしてシーズン序盤、ペレスがナンバー2としての仕事をこなしていたことから、クリスチャン・ホーナー代表は2023年に経験したようなパフォーマンス低下を食い止めるために早期の契約延長を決断した。

 しかしそれは裏目に出た。ペレスの後退はさらに激しくなったのだ。

 レッドブルはペレスが再び調子を落とした場合の代役としてダニエル・リカルドをF1に呼び戻したが、リカルド自身の調子は芳しくなく、RBでチームメイトだった角田裕毅に完敗した。

 ペレスの調子は落ち続け、レッドブルは夏休みを前に代役を考えたほどだった。ローソンがレッドブルのテストに招かれたが、彼が求められていたペースを掴みきれなかったという噂もある。

 結局、ペレスは2024年の残りの期間もレッドブルに残留することになったが、アゼルバイジャンGP以外はひどい状態が続いた。リカルドはシンガポールを最後に解雇され、ローソンがその座に就いた。角田はポイントでも予選でもニュージーランドの”セミルーキー”に勝ったが、ホーナーは角田を候補だとは考えなかったようだ。

 そのためレッドブルは、ペレスとメキシコからの多額のスポンサー料を維持し事実上のペイドライバーとするか、ペレスを退場させ、ローソンを迎え入れるかの2択を迫られ、後者の選択肢が選ばれた。

 ローソンがレッドブルに移籍することに賛成かどうかは別として、彼が新しい雇用主に示すべき資質は非常にはっきりしている。マシンが良く、コンディションさえ整えば彼はレースに勝つこともできるだろうが、最終的には2025年のフェルスタッペンのタイトル防衛をバックアップするための存在だ。成功の尺度は、フェルスタッペンとペレスが一緒に過ごした期間の終盤にあったギャップを縮めることだけだろう。

 しかし、レッドブルがローソンの起用を決めたことで、重大な疑問が浮かび上がってきた。もしローソンがシニアチームに昇格するのに十分な実力を持っているのなら、なぜ1年前はRBのシートを獲得するのに十分な実力をもっていると見なされていなかったのだろうか?

 アルファタウリがRBへのリブランドを決定し、2024年のドライバーを指名したのは、リカルドがオランダGPのFP2でのクラッシュによる手の骨折で離脱していた時期だった。また、ローソンがアルファタウリのマシンに乗り込み、特にシンガポールGPで9位入賞を果たしたことでコストパフォーマンスの高さを印象づけた時期でもあった。

 アルファタウリで5戦を戦ったローソンは、当初からリカルドよりも「調子がいい」ように見えた。リカルドと角田が2024年のドライバーに選出されたのはまったく驚くべきことではなかったが、ローソンがフルシーズンを戦うにふさわしいと感じた人は多かった。

 つまり、”リカルドの実験”に何の意味があったのか、ということだ。

 レッドブルがこの実験をしたのは、フェルスタッペンと互角の争いを繰り広げたチームメイトはリカルドだけだったという考えに基づいたものだった。もしレッドブルがリカルドをマクラーレン以前のピーク状態に戻すことができれば、シーズンを通して調子が乱高下するペレスに対処する必要がなくなるという理論だった。

 しかしその実験はうまくいかず、事実上1年を無駄にすることになった。

 高度にテクニカルで複雑化しているF1において、レッドブルはリカルドの起用を純粋な好意に基づいて決定したように見えた。そのビジョンは、派手なバラ色に染まっていた。

 実際のところ、リカルドはおそらくF1とは決別していたのだろう--少なくとも6カ月間ではなく、2023年いっぱいは再調整のために時間を費やす必要があったはずだ。

 2023年ハンガリーGPでニック・デ・フリーズの後任としてテストもなしにアルファタウリのマシンに乗ることになったことで、彼はマクラーレンで逃れた状況に逆戻りしたのだ。

もちろんはリカルドは自分にできることをした。彼は困難な状況に直面すると、笑顔を浮かべながら耐えるタイプだが、これは理想的な準備ではなかった。レッドブル復帰の魅力が大きすぎたのかもしれないが、棒の先にある魅力的なニンジンは常に手の届かないところにあるように見えた。

 レッドブルの支援のもと、リカルドはチームのサードドライバーとして、2023年のシルバーストンテストでRB19をドライブした。8度のグランプリウイナーであるリカルドは、その年のイギリスGPでフロントロウに並ぶのに十分なラップを刻んだと主張され、NetflixのF1ドキュメンタリー『Drive to Survive』のエピソードでセンセーショナルなストーリーが展開された。

 しかし、チャンピオンチームであるレッドブルが、コースコンディションやタイヤの違いを故意に無視するほど迷信的なのだろうか? もしかしたら、本当にデ・フリースを排除したかったのかもしれないし、リカルドを 「更生」させられると信じていたのかもしれない。レッドブルがリカルドの過去の姿にとらわれていた側面もあるだろう。

 2016年と2017年、リカルドのほうがフェルスタッペンより優れたドライバーだったのは完全に事実だ。フェルスタッペンはまだ若く、熟達したドライブと大胆なオーバーテイクの間に妙なミスを散りばめる傾向があった。

 ところが2018年にはフェルスタッペンがトップドライバーに。当時はリカルドが信頼性の問題で苦しんでいるとの見方が強かったが、実際にはフェルスタッペンが予選で15勝6敗とリードしており、シーズンが進むにつれて経験豊富なチームメイトに対するアドバンテージがますます大きくなっていった。

 リカルドはその年の中国GPで素晴らしい走りを見せ、モナコGPではレッドブルのピットレーンでの不手際で前年を棒に振ったリカルドの雪辱を果たした。しかし、この2戦が彼の最後の素晴らしいドライブだった。2019年にルノーに移籍するという彼の決断はレッドブルからまったく好意的に受け止められていなかったが、ストップウォッチのかすかに光る液晶画面の中で、彼はフェルスタッペンから離され続けていた。

 こうした事態は、レッドブルのドライバー管理体制の二面性を露呈している。十分なドライビングができないと判断されたドライバーは、優れたドライビングの経歴がない限り、すぐに蹴り出される。

 リカルドとペレスは一度高い評価を得たために、両ドライバーをチームに残し、長い間色あせていたパフォーマンスの鉱脈を再発見しようとした。

 2度にわたって井戸は枯渇したが、クリスチャン・ホーナーとヘルムート・マルコは再び水が湧き出ることを信じて井戸を見つめていた。レッドブルは感傷的ではないことで有名なチームだが、情に流されてしまった。そして自分たちの先を見通すことができず、ドライバー市場で出遅れてしまったのだ。

 ローソンはチームにふさわしいドライバーかもしれないし、そうでないかもしれない。チームは偏見を捨てて角田を昇格させたほうがよかったかもしれないが、リカルドやペレスに固執しすぎたのと同じように、日本人ドライバーを軽視してしまった。

 いずれにせよ、リカルドを起用した以前の試みは、オーストラリア人ドライバーのF1キャリアを救おうとして、完全に消滅させてしまった。また、ローソンを角田と比較することで、見劣りしてしまうという弊害も生じている。

 フェルスタッペンとの距離を縮めるという大きな課題が待ち受けているローソンにとって、シーズン途中にF1に復帰したことで走行時間不足が影響しないことをレッドブルは願っているだろう。

 レッドブルは、何が起ころうともマックス・フェルスタッペンがいるのだから気にしないのかもしれない。しかし、いつかはそうでなくなる日が来る。ドライバーのパイプラインが今後も優柔不断と惰性によって傷つけられ続ければ、チームは後継者プランを策定する上で自ら首を締めることになる。

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みんなのコメント

4件
  • and********
    良い記事でした。
  • ham********
    俯瞰的に物事を見ていて、誰にもどこにも忖度すること無く、とてもうなずける内容は、最近のF1記事では珍しい。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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