5ナンバーの呪縛に囚われない本当の価値をお客さまへ
1966年に初代が発売されたトヨタ・カローラ。当時は、自動車がそれまでの高嶺の花という存在から、多くの人々の手に届く存在になり始めた時代。その立役者となった車種のひとつがトヨタ・パブリカだった。未曾有の高度経済成長期が幕を開けようとしていたこの時代、人々はより質感の高いクルマを求めたいと考えた。その期待に応えるべく登場したのがトヨタ・カローラだ。12代目にあたる今回の新型カローラの開発で、責任者を務めた上田泰史さんは次のように語る。
プラスアルファの価値を実現! 新型トヨタ・カローラ セダン&ツーリング デザイナーインタビュー
「53年というカローラブランドの長い歴史は、日本国内はもとより、世界を見渡しても誇れるものだと思いますし、それゆえにブランドの重みもしっかり感じています。われわれ、開発チームは、新型カローラを作り上げるにあたって、改めてカローラの歴史を振り返りました。初代の開発責任者だった長谷川龍雄(故人)が目指したのは、ゆとりのある、ひけ目を感じない、いつまでも乗り続けたいと思えるクルマでした」
「より多くのお客さまが手に入れられる価格で提供することで、世のなかに貢献したい。そして、お客さまの期待を上まわるプラスアルファの価値を提供したいと考えていたんです。その考え方は、カローラのDNAとして、53年もの長きにわたり、歴代のカローラに脈々と受け継がれており、そして私たちもその考え方を守り続けるという信念で、今回の新型開発に取り組んできました」
変わることなく守り続けるDNA。そして、つねに期待を超えるために変わり続けること。いわば「変わらぬ存在であるために、時代のニーズに合わせて変わり続けていく」ことが、カローラのこだわりであると語る上田さん。その言葉どおり、新型でもさまざまな大変革が見られるが、なかでも歴代初となる3ナンバーサイズ化は、従来のカローラファンならずとも気になるポイントのひとつではないだろうか。
「5ナンバーという記号性だけにとらわれるのではなく、お客さまが5ナンバーサイズのどんな点にメリットを感じていらっしゃるかをしっかり押さえ、そこを実現させようと考えました。日本市場モデルでは、最小回転半径などの取りまわしのよさや、狭いスペースでも駐車や乗り降りがしやすいなどの特徴を備えた、日本専用の設計を行っています。と同時に、TNGAプラットフォームの活用によって、低重心のスタイリングや走りのよさ、車内空間の余裕など、グローバルモデルと変わらない魅力をも兼ね備えています」(上田さん)
開発の初期段階から携わってきた梅村伸一郎さんにもうかがった。
「5ナンバーへのこだわりは、じつは当初、社内にもすごく強くありました。けれど、もしも5ナンバーサイズを維持するとなると、新型で採用されているTNGAプラットフォームでいくのは難しい。このプラットフォームは、新型プリウスやC-HRと共通のもので、走りやパッケージなど、非常に多くの進化をもたらしてくれる優秀なプラットフォームです。このメリットを新型カローラのお客さまにも味わってほしい」
「そう考えて私たちがたどり着いた結論は、3ナンバーサイズだからこその走りやパッケージのよさを実現しつつ、取りまわしについては従来の5ナンバーサイズと変わらぬよさを備えることだったんです。その実現のためのひとつの手段が、グローバルモデルとは別に、国内専用のパッケージングとすることでした。開発初期段階で日本に最適な寸法を決め、その寸法を最後の最後まで1mmたりとも妥協しませんでした」
実際に、新型カローラでは、15インチタイヤ装着モデルは先代と同等レベルの最小回転半径5mを実現。さらには17インチタイヤ装着のグレードでは、先代の16インチ装着車よりも小さな最小回転半径5.3mまでも達成している。このほか、日本の道路事情特有の狭い駐車場でも、隣のクルマや壁を気にせず乗り降りできるよう、ドアの開く角度や開口位置の最適化や、ドアミラーの取り付け位置やドア形状の工夫などと合わせ、先代モデルと比べて遜色のない使い勝手を実現している。
繰り返された激しい議論はチームの情熱の証です
開発チームのひとりである七里文子さんは、開発中のことを、こんなふうに振り返ってくれた。
「取りまわしのよさは、新しい技術の開発といった飛び道具的な大技ではなく、地道な改善や工夫をひたすら積み重ねていって実現したものです。最小回転半径で言えば、テストコースの広い敷地で、新型と旧型のカローラに乗って、延々と円を描いて走らせていたことが思い出されます。最小回転半径の10cmの違い、20cmの違いが、本当にどんな違いになるのか、それを自分たちの肌で徹底的に実感しようと考えたんです」
見かけ上の数値ではなく、ユーザーが求める本当の価値とはなにか。それを徹底的に模索したエピソードと言えるだろう。
ちなみに国内モデルのサイズは、グローバルモデルと比べ全長で135mm、全幅で35mm小さい(セダンの場合)。サイズの違いは、取りまわし以外にもさまざまな影響を及ぼす。デザインもそのひとつだ。サイズが小さくなれば、当然ボディの「意匠自由度」も減るため、抑揚のあるエクステリアデザインを作り上げるうえでは不利になる。だが、実車を見た印象はグローバルモデルと変わらない。むしろ陰影の豊かさなど、サイズの大きなグローバルモデルよりも国内モデルのほうが上なのではと感じさせるほどの仕上がりとなっている。
「サイズを小さくしながら、グローバルモデルと同じデザインコンセプトを実現すること。われわれのその提案に、当初は不可能だという声もありましたし、実際にデザインチームとも侃々諤々の議論が幾度となく行われました。今から思うと本当に熱い議論だったんですが、それはチーム全員の本気度の高さゆえだったんですね。その熱意が不可能を可能にしたのだと思います」(梅村さん)
海外の開発拠点に在籍しながら全体の開発に初期から関わった寛永敏生さんにもうかがった。
「わたしは2018年までトヨタモーターヨーロッパに在籍していたんですが、そこで今回の新型カローラツーリングのベースモデルになっている欧州モデルの開発責任者として、上田と連携を取りながら開発を進めてきました。新型カローラが属するCセグメントは、欧州では強豪ぞろいの激戦区です。さらに、Dセグメントのステーションワゴン『アベンシス』の生産終了が決まっていたため、新型カローラではそのクラスを求めるお客さまにもお応えできる価値が必要でした。操縦安定性、乗り心地、動力性能、パッケージと、すべての面において高い性能が必要だったんです」
「先代のカローラでは、国内とグローバルとではまったく別のクルマでしたが、今回は、共通のTNGAプラットフォームを使い、国内専用のサイズに収めながら、欧州モデルと同様の性能を両立させることができました。ぜひひとりでも多くの日本のお客さまに、新型カローラのよさを体感していただきたいですね」
革新的な進化と変化はカローラだからできるのです
新型カローラの目をひくポイントは、ほかにもたくさんある。クルマ好きにとっての注目ポイントのひとつは走りの進化だろう。
「目指したのは、ずっと乗っていたくなる走りの楽しさです。基本的にはカローラスポーツと変わらない方向性ですが、サーキット走行も楽しめるカローラスポーツに対して、国内モデルのセダンとワゴンでは、100km/hまで。とくに使用頻度の高い60km/hまでの乗り味を磨き上げることに徹底してこだわりました。帰り道に少し遠まわりをしたくなる、そんなように日常を楽しくさせてくれる乗り味を目指したんです」(梅村さん)
新型カローラでは、プラットフォーム部品の全面刷新をはじめ、新開発のショックアブソーバーも採用。さらには、ドライバーの視線のブレを極力抑える「視覚情報を考慮した性能設計」なども実施。車両の挙動を人間が予測しやすい動きとすることで、より自然な運転感覚を得られる乗り味を目指した。目線を安定させることで、いわば数値以上の進化が体感できることを狙ったこの味付けは、これまでのトヨタにはなかったコンセプト。そんな先進的な方向性が、多くの人々の手が届きやすいカローラというクルマで実現されたことには、いささか意外性を感じるが、そんな疑問を上田さんはあっさりと否定する。
「革新的な進化は、カローラなのに、ではなく、カローラだからできる。われわれはそう考えています。繰り返しになってしまいますが、初代誕生から53年、それぞれの時代に合わせ、お客さまの求める一歩先を行く進化を実現してきたのが、カローラのDNAなんです」
ワンランク上の性能や質感、走りをはじめ、5ナンバーサイズというイメージに対する変革。それらのことも、カローラというクルマが先駆けになることで、やがて世のなかのスタンダードになるだろう。そうなればクルマ社会全体が豊かになっていく。その牽引役になるのもカローラの使命であり、カローラの歴史でもあったと語る上田さん。
53年前の初代開発時、開発責任者の故・長谷川龍雄さんが、「地球人の福祉と幸福のためにカローラを」というコンセプトを掲げていたのをご存じの方もいらっしゃるだろう。その想いは今もカローラの開発チームに受け継がれている。
初代誕生から半世紀。新型カローラは、これからの新しい半世紀に向けたトップバッターと言えそうだ。
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