体重100キロの編集部員がライトウェイトスポーツの極北を体験
AMW編集部員がリレー形式で1台のクルマを試乗する「AMWリレーインプレ」。今回は英国ライトウェイト・スポーツカーの極北と言うべきケータハム「セブン」のなかでも「史上最軽量」をうたう「170R」だ。軽自動車用3気筒エンジンを積むことで車両重量440kgという圧倒的な軽さを実現したマシンで、体重100kgの編集部・竹内がなんだか申し訳ない気持ちとともに走りこんでみた。
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クルマ界の「生きた化石」が21世紀にも進化し続ける奇跡
「セブン」の始祖であるロータス・セブンがデビューしたのは1957年のこと。「公道を走れるレーシングカー」としてシンプルきわまる構造だった。エンジンなどパワートレインを含まないキットのみでも販売されたことで、ユーザーが自分のガレージで組み立てることも可能とあってクルマ趣味人たちの間で長く愛されることとなった。そして1973年にセブンの製造販売をケータハム社が引き継ぎ、さまざまなパワートレインを搭載した数々のバリエーションを展開しながら、すでに半世紀ものロングセラーとなっているわけだ。
2014年に日本が誇る軽自動車・スズキ先代「ジムニー」用のK6A型660cc直列3気筒ターボを80psまでチューンナップしたエンジンを搭載した「セブン160」が登場。車両重量490kgすなわち約0.5tだったので、1tあたりの馬力として「160」が車名に冠された。わが国では軽自動車として登録可能な手軽さも魅力で、モアパワーよりも軽快感を楽しめるエントリーモデルとして、セブン人気に再び火をつけたのだった。
そして2021年、心臓部であるスズキ製エンジンを現行型ジムニーに積まれるR06A型直3ターボにあらため、最高出力は+5psの85ps、最大トルクは+9Nmの116Nmまで増強した「セブン170」に世代交代。ベーシックな仕様の「170S」は乾燥重量470kgだが、今回お借りしたのはよりレーシーなパッケージの「170R」でなんと440kg! 小型の直3エンジンがさらに軽くなったこともあり、ケータハム史上もっとも軽いモデルとなっている。
ロータス・セブンと同じ1957年に誕生したフィアットの2代目(ヌォーヴァ)「500」が空冷2気筒エンジンで470kgだったから、170Rはそれより軽いのだ。
スポーツドライビングは乗る前の身支度から
セブン170Rはカーボンパーツを多用し、シートもケブラーのレース仕様で軽量化を徹底しているが、やはり最大の特徴は、フロントのウインドスクリーンすら取り払ってカーボン製の小さなエアロスクリーンのみとしている点だろう。
ライトウェイト原理主義のようにスパルタンなこのクルマは、走りだすまでにもいくつかの儀式と覚悟が必要だ。まず屋外保管している場合は、トノカバーを取り外してリアのささやかなラゲッジスペースに収納する。運転席の足もとは非常に狭いので、かなり細身のドライビングシューズを用意しないと危ない。乗りこむ際には(体格によるが)両手で体を持ち上げるようにしてコクピットに押しこむカタチになり、降りるときは重力に逆らって全身を持ち上げるので、上半身の筋力もある程度あったほうがラク。
また、街中を流すだけでもたまに飛び石に見舞われる恐れはあるので、最低限でも風に飛ばされにくい帽子とサングラス、できればバイザー付きの半ヘルをかぶって大きめのマフラーで口元を守るのがベター。サーキットを走るときは当然フルフェイスのヘルメットをかぶろう。ついでに170Rはヒーターも取り払われているので防寒もお忘れなく。
市街地でも楽しめる軽さと加速! 道ばたの小学生にも人気
セブン170Rのタイトなコクピットにいったん体を押しこんでしまえば、体幹はぎっちりホールドされるので運転操作に不安はない。キーをひねり、赤いスターターボタンを押してエンジン始動。いわゆる「色気」のある音ではないけれど、走ること以外の夾雑物が極限まで削られているだけに、エンジンの鼓動と自分がただちに一体化する感覚がある。
5速MTのボール型シフトノブはショートストロークで、タッチはかなり重い。シフトチェンジのたびに「えいや!」と心の声をあげる。街中の信号からのスタートでも、すさまじいまでの加速を味わうことになる。窓もないし路面も近いから体感速度はひとしおだ。サスペンションの動きもよく伝わってくるが乗り心地は硬くはなく、しなやかな部類だろう。
数年前に乗った「セブン160」よりもターボの低回転域からの立ち上がりが素早くなってさらにキビキビ走れる印象で、ブローオフバルブの「シュカッ」という音とともに、リズミカルに市街地を流すだけでも楽しい。最先端の直3ターボを存分に楽しむ点では、軽オープンスポーツという点でも同じカテゴリーのホンダ「S660」が近いだろうか。ただしセブンのほうが五感へのあらゆるインフォメーションが「生」だ。
高速道路では……飛び石リスクを避けるべく左側の車線で前車との車間距離を思いっきり開け、左右のクルマにも注意しながら、ひたすら安全運転。それに追い越し車線に行こうものなら、どんなウェアを身に付けていようが、顔面エアブレーキ状態となってしまうのだから。
ワインディングこそ快楽の極致! 走った後の缶コーヒーが美味いこと
高速移動は修行のようなものだったので、セブン170Rの楽しさを満喫すべく、近所のワインディングコースへ夜明け前から出かけてみた。標高が上がるにつれて顔に叩きつけられる風も冷たくなっていく。それでも、無人の山にセブンのエンジン音だけがこだまる状況になり、道も曲がりくねっていくと、寒さとバーターでドライブの楽しさが増すジレンマに悩んだ。が、どんどん頭のネジはゆるんでいった。
直3ターボエンジンは街中や渋滞では若干ムズつくところもある一方、3000rpmからの加速の気持ちよさは格別だし、先代にあたるセブン160よりフロアが25mmロワードされているだけあって、さらに低重心で地面を這うように曲がっていける。別に限界まで攻めようとか、今まで同じコースで試乗してきたクルマたちとコーナリング速度の絶対値を比べようとかも思わない。無念無想、がむしゃらにただ走る。
筆者のように特別なドラテクがなくても、FR車の操作の基本どおり、コーナー手前でしっかり減速してフロントに荷重をのせてロール姿勢をつくり、アクセルで微調整しながら曲がっていくだけで気持ちいい。クルマの基本中の基本しか存在しないセブンだから、しばらく乗っているうちに、乗り方をドライバーに教えてくれるのだ。徐々に明るくなって色づいてくるパノラマの広がりを、窓枠もなくダイレクトに眺めながら駆け抜けるのは至福の体験となった。
ひと通り走り終えて、休憩所にセブンを停めて自販機で缶コーヒーを買った。いつもは健康を気にしてブラックだけど、こんなときは甘くて熱いやつ。冷えてクタクタになった体にしみわたった。
ドライブすること自体が非日常で、実際に肉体も相応に疲れるあたりは、文字どおりピュア・スポーツカー。それでも走るときに得られるアドレナリンや幸福物質の総量は、他のどんなクルマでも得られないものだ。
とはいえ、もし自分でセブンを買うなら……長距離移動で体に優しい170Sだろうか。走って楽しいコースの近くに置き場があるラッキーな人なら、さらに濃度の高い170Rを選んでも後悔しないはずだ。
試乗車の諸元
●CATERHAM SEVEN 170R ケータハム・セブン170R ・車両価格(消費税込):698万5000万円 ・全長:3100mm ・全幅:1470mm ・全高:1090mm ・ホイールベース:2225mm ・車両重量:440kg ・エンジン形式:直列3気筒DOHCターボ ・排気量:658cc ・エンジン配置:フロントエンジン ・駆動方式:リア駆動 ・変速機:5速MT ・最高出力:85ps/6500rpm ・最大トルク:116Nm/4000-4500rpm ・0-100km/h:6.9秒 ・最高速度:168km/h ・燃料タンク容量:36L ・サスペンション:(前)ダブルウィッシュボーン式、(後)マルチリンクライブアクスル ・ブレーキ:(前)ソリッドディスク、(後)ドラム ・タイヤ:(前&後)155/65R14 ・ホイール:(前&後)4.5J x 14
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みんなのコメント
夏は暑いし、冬は寒い。フロントウィンドウが無いから、一般的なオープンより辛い。
しかし、走るととにかく楽しい。
辛さvs楽しさ。それを天秤にかけて、どちらに傾くか?
楽しさが勝る人が乗ればいい。
ソレだけのためには高けぇ!(698万5000万円)