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SLS AMGとライバルたち AMGはスーパーカーを作ったのか 回顧録

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SLS AMGとライバルたち AMGはスーパーカーを作ったのか 回顧録

もくじ

ー SLSがめざすもの
ー 各所が専用設計
ー 直接のライバルは存在するか
ー 衝撃的なルックス
ー どこにいても注目を浴びる
ー 英国車との違い
ー 凄まじい速さ
ー 慣れれば扱いやすい
ー 強烈なホットロッド
ー エモーショナルさに欠ける
ー V12ヴァンテージの勝利か

ロードテスト アストン マーティンDBSスーパーレジェーラ ★★★★★★★★★★

SLSがめざすもの

名前を聞いただけで比較的簡単にタイプ分けできてしまうクルマがある。たとえばV8エンジンをミドマウントした最新型フェラーリや次世代のVWゴルフなどで、どちらもほとんど一瞬にしてどんなクルマか予想が付くし、その予想を裏切るようなものが出てくることもまずあり得ない。その一方で、このメルセデスSLSのようなクルマもある。

メルセデスはいかにしてSLSにたどり着いたのか、さらにはSLSを携えてどこへ向かおうとしているのかを明確にするためには、ひとまず歴史をさかのぼってみる必要がある。

そうして初めて、なぜルックスがこうなったのか、全体のキャラクターが意図的に、露骨とさえ思えるほどレトロにされたのかについて、その理由を検証するスターティングブロックに着けるわけだ。

象徴的なガルウイングを始めとする1950年代調のエクステリアはともかく、反射的に先端技術を連想させるメルセデスAMGという名前にふさわしく、エンジニアリング的な見地から眺めたSLSは、驚異的なまでに現代的なクルマである。フロントにエンジンを搭載した後輪駆動のスポーツカーという基本設計の枠組こそ多少古風な発想を感じさせるかもしれないが、その正体は最先端の技術を満載したマシーンなのだ。

各所が専用設計

スペースフレーム構造のシャシーも含めて車体のほとんどすべてがアルミで作られ、しかもメルセデスによれば、その構造体の剛性はきわめて高い。ノーズに搭載されるのは6208cc(紛らわしいエンブレムからボンネット下にあるのは6.3ℓエンジンだと思われがちだが)の自然吸気V8エンジンで、最高出力は6800rpmで571psを、最大トルクは4750rpmで66.3kg-mを発生する。

パワーを路面に導くのは、洗練を頂点を極めると同時に乗ればすぐにわかるほど効率にも優れたDCTだ。前進7段のギアを持ち、重量配分向上のためにトランスアクスルレイアウトを採用したそれは多種多様なギアシフトモードを用意しており、ドライバーが自在に選択できる。

サスペンションも同様にビスポークで、前後ダブルウィッシュボーンにコイルスプリングとこれまた表面的には古典的レイアウトである。さらに、今回の試乗車ではブレーキにオプションのカーボンセラミックディスクを、それもフロント19インチ/リア20インチのホイールにぴったりの巨大なサイズ(と価格)のものを装備していた。

それで価格は? これが実におもしろいところであり、そして同時に少々面食らうところでもあって、SLSをライバルたちと比較する際に話をややこしくしているいちばんの原因になっている。

驚愕するほど多彩なオプションリストはひとまず無視すると、SLSの車両本体価格は2430万円である。この時点ですでにポルシェ911ターボ(2090万円)やアストン マーティンV12ヴァンテージ(2173.5万円)などのライバルを軽く上回り、フェラーリ458イタリアやアストン マーティンDBSの価格帯がかすかに視界に入ってきそうだ。

直接のライバルは存在するか

さらに、たとえばセラミックブレーキやインテリアトリムのアップグレード、より高級なオーディオシステムなど、ほとんどのオーナーが欲しがるであろうオプションをちょっとでも追加しようものなら、あっという間に今回の試乗車のように2900万円に到達してしまう。

その瞬間SLSは、911ターボやV12ヴァンテージとは完全に別のセグメントへと引っ越しを完了し、今回のもう1台の比較対象であるランボルギーニ・ガヤルドLP570-4スーパーレジェーラ(2913.225万円)と変わらない価格になってしまうのである。

となると、ひとつの疑問が浮かんでくる。SLSにもっとも近い、直接のライバルとなり得るクルマは、仮にあるとしたらどれになるのかである。それとも実際には既存のどれとも接点を持たない孤高の存在であり、いかなるクルマも直接的な比較対象とはならないのだろうか?

理論的には、同じフロントエンジン後輪駆動のレイアウトを持つV12ヴァンテージが、おそらくコンセプトとしてはもっとも近いと言えるだろう。

しかし、メルセデスが本当の意味で成功したと主張するには、まず340万円安い911を完全に圧倒していると証明することが必須であり、それに加えてランボルギーニが持っている走りそのもののスリルに拮抗するだけのものを備えていなければなるまい。それを見極めるためにわれわれが選んだのが、ノースヨークシャーの荒地であった。

衝撃的なルックス

SLSを実車で初めて見たときの衝撃を否定する理由はどこにも存在しないし、近くでノーズを真正面から見た姿は特に強烈である。スーパーカーとして典型的な低い構えで、いかにもミドシップらしいガヤルドや、初代からほとんど変わっていないお馴染みのバスタブ形状をした911などに比べると、奇妙にしてユニークなルックスなのは確かだ。ある種の異様さすら感じられる。

SLSのスタイリングには、モダーンさと伝統とが実に興味深い形で取り込まれている。ノーズはあり得ないと感じられるほど長く、それでいて魅力的な造形で、たとえ横に並ぶのがアストンでも見劣りはしない。

テールのほうはそれほど意欲的とは言えないが、それはフロントに比べると実用車然としたルックスのためで、ほかのクルマ以上のインパクトを与えるところまではいたっていないからだ。それでも全体としては強烈に劇的な演出である。

事実、これらの4台に乗ってどこに行ってもどこに駐車しても、周囲の呆然とした視線の先にあるのは4台のうち間違いなくSLSであった。その眼差しは明らかに「『何か』が派手な色のランボルギーニをしたがえて走っている」といった驚きに満ちていた。

どこにいても注目を浴びる

そういう意味では、SLSはすでに成功を約束されていると言ってもいい。SL65だったら間違いなくほかのクルマたちに埋もれて無視されていただろうが、SLSは常にステージの真ん中に居続けた。

これは実に決定的な成功である。正直なところ、ほとんどの見物人の目からしても、V12ヴァンテージほど古典的な均整の取れたプロポーションを備えているわけでもエレガントでもないだろうが、それでも成功は成功である。

SLSの運転席ドアを上に向かって開き、シートに座ってみると、ドライビングポジションは申し分なく、キャビンの基本的なアーキテクチャも同様に素晴らしい出来なのにもかかわらず、どことなく目の前に漂っている拍子抜け感に気づくはずだ。

乗り込むときにドアの内張りに頭をぶつけて嫌悪感を抱いてでもいない限り、少なくとも2度目に乗り込むときには、ほとんど勝手知ったるお馴染み感覚で接することができるだろう。

このキャビンで唯一の現実的な問題は、たとえ今回の試乗車のようにたっぷりとオプション装備を盛り込んだ個体であっても、2430万円のクルマにしてはちょっと普通すぎる基本的なデザインだけだ。率直に言ってSLSの車内はほかの普通のメルセデスとあまり変わらず、ランボルギーニあたりから乗り換えるとあまりにも無味乾燥に感じられてしまう。

英国車との違い

その部分について、SLSが進むべき道を誤ったことをほかのどのクルマよりも明瞭に示しているのは、V12ヴァンテージだ。エルゴノミクスの点でSLSと比べればお笑い草だろうが、しかしその車内には何かとてつもなく特別な雰囲気が漂い、そこにいること自体をイベントとして楽しめる。室内の香気にさえも、高級感が感じられる。

もしかするとこの違いは、単純に英国製スポーツカーのキャビンとドイツ製のそれとの違いに過ぎないのかもしれない。それに、いずれにしても、結局のところどちらを選択するかは純粋に個人的な好みに帰着する問題ではあるのだが。

トランスミッションはDレンジでもマニュアルモードでもかまわない。スターターモーターを回してどちらかを選択し、ノースヨークシャー一帯に広がる黒いリボンのような、静かで空いた道を走らせれば、SLSの動力性能がどれほどの高みにあるかはすぐさま察知できるはずだ。

SLSは乗るやいなや驚くべき感動を得られるクルマだが、それはスロットルの反応だけにもたらされたものではなく、素晴らしくレスポンスのいいステアリングとサスペンションによるところも大きい。

凄まじい速さ

ガルウイングドアと大排気量のV8エンジンというスペックから、おそらく読者の半数はスムーズな乗り味のGTを想像しただろう。なめらかな乗り心地と、リファインの行き届いた、場合によってはパワーの伝達に緊張感を欠くような走りだと思っていたら、SLSが見せる紛れもなく機敏な身のこなしに、最初のうちは驚きっぱなしになるかもしれない。しかし、これは真実だ。

低速では乗り心地は硬いが、不快に感じる限界のぎりぎり近くに踏みとどまっている。ステアリングのダイレクト感と即座に返ってくるフィードバックは、最初のうちは能天気にすら感じられるだろう。そしてエンジンは3500rpmを超えたら怪物としか形容のしようがない。

このうちどれがいちばんショッキングか(もしくは感動的か)を断定するのはむずかしい。とにかくスロットルペダルを思いっ切り踏み込んだ途端にSLSは身を沈め、地平線に向かって一気に加速していく。さらにその際には素晴らしいサウンドを一面にまき散らす。

確実に言えるのは、SLSは凄まじく速く、驚くほどダイレクト感のあるスポーツカーだということだ。究極に仕上げのいいTVRがあったとしたら、こういうフィールになるのかもしれない。

慣れれば扱いやすい

SLSにはTVRと同等の鋭利で痛烈な動力性能が備わっている。2速から3速を経て4速までフル加速を続けていくと、思わずバックミラーに目をやって、リアタイヤが舗装を剥がしていないかどうか確認したくなる人も半数近くはいるであろう。

数kmほど走って身体が慣れてくると、ステアリングもそれほど極端な切れ味とは感じられなくなってくる。ある程度以上のスピードになれば、乗り心地もスムーズだ。

こうなってきてようやくSLSは、フロントエンドの切れ味が鋭く、リアタイヤからはたっぷりとしたフィールが伝わり、右足首をほんの少し動かすだけで571psの出力が得られるのにトラクションは最高のひと言に尽きる、真の意味で実力を備えたクルマであるという実感が湧いてきた。

とにかく一度、SLSに襟首をつかまれて振り回されてみるといい。そうすれば自然に、ほれぼれするほど流麗で粘り強い走りこそがこのクルマの真の能力であると理解できるはずだ。

SLSについて、なかには「乗り心地が硬すぎるし走りは神経質すぎるし、本来楽しむべき公道上でのスムーズネスに欠ける」と、頑として納得しない人もいるかもしれない。そういう偏屈には、いったいSLSを理解しようというつもりがあるのか、このクルマが披露する走りを正当に評価する気はないのかと問いただしたい。

強烈なホットロッド

乗り比べたアストン マーティンV12ヴァンテージの走りが異様なほどたるんでいるように感じられ、それなりに腕の立つ乗り手が操る911ターボと並んで荒地の空いた道を走っても決して離されず、そしてガヤルド・スーパーレジェーラと同じく凶暴な走りを見事に手なずけた、SLSはそういうクルマなのだ。

反面、ハードな動力性能が購入した人に不要な緊張をもたらす結果を生みはしないかについては、わたしにも自信がない。街中を流す以上の走りをほとんど求めていない人なら、確かにSLSに失望するだろう。だが、それは何よりもこのクルマの本質が、買い手が予想する以上にはるかに強烈なホットロッドであるからだ。

実はわたしはいくつかの理由から、このクルマは現代版のBMW Z8だと思い込んでいた。だが、Z8ならそんな失望は絶対に起こりえない。SLSをもっとも明確に定義づけているのはその動力性能であり、史上最速のランボルギーニとほとんど互角の速度でワインディングを走り抜けられる基礎体力である。これには読者諸氏も、ちょっと想像がつかなかっただろう。

基本的な実力に関して言えば、当初われわれが予想して揃えた3台よりも、むしろフェラーリ599がライバルとしてはふさわしい。そう考えれば2430万円の価格もそれほど法外なものではなくなってくる。しかし、ひとつだけただし書きがある。それは以下のとおりだ。

エモーショナルさに欠ける

確かにSLSは凄まじく速いクルマであり、さらに視覚的にも、少なくともわれわれの期待以上の強烈な印象を与えてくれた。だが、エモーショナルな点に関してはやはりメルセデスであり、非情なほどに冷たいクルマなのである。繰り返すが、SLSは卓越した性能を誇示するクルマであり、実際にその実力を備えている点では記録的と言っていいほどのレベルに達している。

そうではあるけれど、結局のところ心の琴線に触れるようなクルマではないのだ。その点がランボルギーニやアストン マーティンとはまるで違っている。確かにスーパーレジェーラもV12ヴァンテージもSLSほど完成度の高い走りではないが、乗っていて心が躍るクルマだ。そしてそういう経験は、SLSではまったくあり得ない。

それでは911ターボはどうか。この手のテストの常連である911は、ご存じのように独特なクセを持った個性的なクルマながら、ある意味ではSLSと同じ問題、つまり非常なほどの冷たさを抱えている。

ただ、今回のテスト車は911でも例外的なターボなので、クルマとの一体感が得られてそこに惚れ込むか、もしくはクルマだけが速くて自分は部外者のような疎外感を受けるかのふたつに分かれるはずだ。

V12ヴァンテージの勝利か

いずれにせよ、これまで911が高く評価されてきたのは、ライバルたちと比べると格段に寸法が小さく、そのぶん走っていてひときわ高いアジリティ感が得られるところにある。特に公道上では体感でも端的に小さく感じられ、使い勝手がよく、時代にも合っている。

さらに今回の文脈で考えるなら、今世紀最大のバーゲンと評していい価格も忘れてはならない。そうした現実的な価値を重視する人たちは、911の強烈な速さに夢中になり、契約書に調印することになるのだろう。

残るガヤルドは? これは本当にクルマに夢中になっている人だけが、しかも特別な機会にのみ乗るべき一台だ。その意味では、本当にドライビングを堪能したいなら、今回の4台中で唯一の選択肢となるかもしれない。

わたしはと言えば、個人的にはV12ヴァンテージを選びたい。SLSや911を相手にしても遜色ない動力性能を備えつつ、スタイルやキャラクターや立ち居振る舞いにかけては軽く3倍は優れているのだから、この選択はごく自然な判断ではなかろうか。スーパーレジェーラが真価を発揮する1年のうちの数日以外は、V12ヴァンテージがおそらく最高のパートナーだ。

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