日産からコンパクトSUVの新型車「キックス」が登場しました。国内で完全に新しいモデルが登場するのは、軽自動車「デイズ」が2013年に生まれて以来。登録車でいえば2010年に「リーフ」が生まれて以来、10年ぶりとなります。
キックスはグローバルモデルであり、日本向けはタイで生産されます。ラインアップは「X」だけのモノグレード構成で、2トーンインテリアが選択できるようになっているくらい。駆動方式もFFのみで、パワートレーンはe-POWERです。
すでにe-POWER採用モデルとして、コンパクトカーの「ノート」、スポーティ仕様の「ノート NISMO」、Mクラスミニバンの「セレナ」がありますが、キックスのe-POWERは専用チューニングされているのが特徴で、最高出力を約20%向上させ、中高速域の力強さを高めたことで、高速での追い越しや合流、ワインディング走行など、幅広いシーンにおいてパワフルでキビキビした走りを実現したといいます。
キックスを含む、現在ラインアップされているノート、セレナなどのe-POWERモデルは、どれも発電用の1.2L 3気筒DOHCエンジンと走行用の2つのモーターを組み合わせている点では共通です。もっといえば、エンジン型式は「HR12DE」、駆動モーター型式は「EM57」と同じものになっています。つまり、基本となるエンジン、モーターといった部分は変わっていません。
それでは、この3モデルの違いは何なのでしょうか? キックス、ノート、ノートNISMO S、セレナという「e-POWER」各車のスペックを比較してみます。
※この記事の画像を参照してみてください。
見比べるとエンジンのスペックはほとんど変わらないのがわかります。一方で、車両としてのパフォーマンスに影響する駆動モーターのスペックは車種ごとにかなり違う数値となっています。
日産がキックスのモーター出力を「20%向上」と書いているのは、おそらくノートと比較してでしょう。モーター最高出力を見るとノートが80kWで、キックスは95kWですから、ほぼ20%増となっているのは間違いありません。最高出力の数値だけでいえば、スポーティモデルのノート NISMO Sに迫るほどです。
エンジンと駆動モーターを変えなくても出力差があるのは、バッテリーやインバーターの性能や制御で変更が可能だからです。モーターを回す電流のピーク値を変えることで、それぞれの車種が求める性能を満たすパフォーマンスへと仕上げることができるのです。
ではなぜキックスの出力をノートよりパワーアップさせたのか? それは想定されるライバルが異なるからでしょう。ノートはコンパクトカーですが、キックスはBセグメントのSUVカテゴリーに分類されます。そこには、いくつものライバルが存在しています。例に上げると、1.8Lクリーンディーゼルを積んだマツダ「CX-3」のスペックは最高出力85kW、最大トルク270Nmですから、そこに対抗する必要があります。1.2Lガソリンエンジンといえど、パワーアップされた電動パワートレインを使うキックスの実力は、1.8Lディーゼル同等と捉えることができます。
しかもノートNISMO Sやセレナが320Nmの最大トルクを実現していることからもわかるように、「e-POWER」はさらにトルクアップする余地を残しているのです。現時点では4WDの設定がないなどSUVとしては不満に感じる部分もあるキックスですが、電動パワートレインについては、さらなるパフォーマンスアップが期待できるでしょう。
文:山本晋也(自動車コミュニケータ・コラムニスト)
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