ヤマハ MT-10が2022年モデルでフルモデルチェンジ
パワーとトルクを向上させつつヨーロッパの最新環境規制ユーロ5に適合したエンジン、6軸IMU(慣性制御装置)の情報を反映するライダーエイド=運転補助機能、さらにドラマチックに変化したスタイリング。YZF-R1から派生したネイキッド・MT-10が、これほど魅力的に見えたことは今までになかった──。
【画像18点】日本では秋に発売予定!ヤマハ新型MT-10の全車体色、装備を写真で解説
イギリス人ジャーナリストでマン島TT参戦レーサーでもあるアダム・チャイルド氏は、フルモデルチェンジが行われたMT-10の印象をまずそう語っている。
日本では2022年秋に発売が予定されている新型MT-10の試乗レポートを早速紹介したい。
ヤマハ新型MT-10の試乗会はスペインのバレンシアで開催された。走行前のブリーフィングで、ヤマハはトピックとして2点を説明した。ひとつは125ccのMT-125から1000ccのMT-10まで揃うMTシリーズは、ヤマハにとって大きな成功であるということだ。2013年以降に生産されたMTシリーズは合計42万台にも上るのだという。一体、MTシリーズ発売前のヤマハはどんなバイクを売っていたのかと思わされるほどである。
もうひとつは、私が年をとったということだ。「トルク」を重要なテーマに掲げ、MTシリーズ初代となるMT-01が南アフリカのケープタウンで登場したのは2005年のことだが、それがまるで昨日のことのように思えるからだ。
それはさておき、ヤマハは2016年にMTシリーズ(それは「MT帝国」といってもいい)の最高峰となるMT-10を発表し、続いてMT-10SPを発表した。
しかし、MTシリーズを展開し始めてからMT-10を登場させるまで、なぜそんなに時間がかかったのか、と疑問を抱かざるをえない。スーパースポーツ・YZF-R1をベースとしたトルクフルなスポーツネイキッドを作る──MTシリーズの性格を考えれば、当然とも言うべき手法ではないか。
とはいえ、蓋を開けてみれば、2017年に登場したMT-10はすぐに成功を収めた。操る楽しさに満ちており、筋肉質なスタイルもカッコよく、しかも乗りやすい。他の日本製ハイパーネイキッドにはない個性にあふれていたし、価格も手頃だった。
だが、ここ数年の電子制御デバイスの進化は速く、すでにその点で遅れを取りはじめていたし、ブレーキ性能が不足しているのも事実だ。
だからこそ、2022年モデルとして登場した新型MT-10の発表には期待していたし、試乗するのが楽しみで仕方なかった。
ヤマハ新型MT-10のエンジン「従来型をベースに改良、最高出力は165.9馬力」
MT-10のモデルチェンジにあたり、ヤマハはユーザーやメディアの意見に耳を傾け、競合他社のマシン作りに目を向けた。そうすることで改善点を洗い出して改良を加えた。「だから、基本的な設計は従来のままだ」という。
たとえばドゥカティのストリートファイターV4、MVアグスタのブルターレに対抗するため、エンジン出力を200馬力級にすることもできた、とヤマハは認めた。しかし、それは開発陣にとっての目標ではなかったという。クロスプレーンエンジンCP4=YZF-R1譲りの998cc並列4気筒をより扱いやすくし、パワーとトルク、そして燃費の向上に彼らは注力した。
背景としてはCP4の個性をさらに生かすセッティングを目指すとともに、開発コストが車両価格を跳ね上げることを避けるためでもあった。
エンジンの最高出力は165.9ps(122kW)/1万1500rpmで、従来型より5.9ps増加している。わずかではあるが最大トルクも111Nm(11.3kgm)から112Nm(11.4kgm)にアップした。インテークとエアボックス形状のほか、エキゾーストの一部を改良することで燃焼効率を15%アップ。ユーロ5に適合しつつ、燃費も15%向上したそうで、カタログ数値では14.6km/Lとなっている。
YZF-R1由来のアルミデルタボックスフレームは、つまり2021年のスーパーバイク世界選手権で大成功を収めたものと同様であり、基本的に欠点がないため変更されていない。KYB製フルアジャスタブルのリヤサスペンションはセッティングを小変更し、ショック長が3mm延長されている
ブレーキではブレンボ製ラジアルポンプマスターシリンダーを採用することで、従来型の弱点であった制動力を改善。タイヤにはブリヂストンのハイグリップスポーツ・S22を装着する。
従来型のMT-10に備わっていたライダーエイド=電子制御デバイスはすでに旧世代となっていたが、新型MT-10では6軸IMU(慣性計測装置)の導入によって、すべての機能がバンク角連動式となった。スライドコントロール、トラクションコントロール、コーナリングABS、ウイリーコントロール、エンジンブレーキコントロール──YZF-R1同様、これらはすべて6軸IMUにリンクしたものだ。
さらにアップダウン対応のクイックシフター、クルーズコントロール、スピードリミッター、4種のライディングモードも標準装備されている。これらはライダーの好みや路面コンディションに合わせて調整が可能で、ウイリーコントロールの解除もできる。電子制御デバイスの状態は4.2インチの液晶ディスプレイに表示され、確認もしやすい。
車体デザインチームの努力も相当なもので、細部までこだわった作り込みがなされている。
斬新な形のヘッドライト、スリムなサブフレーム、高級感のある仕上げが際立つテールライトセクション、「シアンストーム」の新鮮なボディカラーなど、いずれもヤマハのバイクであること、紛れもなくMT-10であることを主張している。
リヤホイールの赤い帯に描かれるMT-10のロゴもいい。私はこの外観、とくにシアンストームのカラーが気に入った。
ただ、このことをイタリアのジャーナリストに話したのだが、彼の同意は得られなかった……。
一方、MT-10のエキゾーストノートの良さについて意見が分かれることはないはずだ。
CP4はもともと独特のカリスマ的な咆哮を聴かせてくれるが、新しい吸排気システムの採用に加え、吸気音がライダーに聞こえるよう、燃料タンク両側にアコースティックサウンドグリルを設けたことで魅力に磨きをかけたのだ。
ついつい何度もスロットルをあおってしまったが、本当にいいサウンドを奏でる。
だからといってMT-10のエンジンは扱いにくいものではない。ライディングモードをソフトなモードDに設定すれば、165.9psの出力は予想以上に扱いやすい。威嚇的ではあるが、子猫が怒っているようなものだ。
低速域での唯一の欠点は、サスペンションのストロークが延長されたことでシート高が上がってしまったことだ。従来型より10mm高い835mmで、シート自体もやや硬くなったように思える。
今回の試乗は220kmにおよぶものだったが、バレンシアを出発したとき、私はあることに気づいた。最もソフトなモードDのまま走り出したのだが、走行中にモードを切り替えることができないのだ!
出力特性や電子制御デバイスの個別設定は変更できるのだが、モードDから万能かつスポーティなモードBへの変更ができない。私は街を出る最後の信号で止まったとき、素早くモードBに切り替えた。ようやくMT-10の本領発揮だ。
新しい車両デザインや電子制御デバイス、サスペンションセッティングについて説明してきたが、MT-10の「切り札」はヤマハがほとんど手を付けなかった部分……すなわちエンジンだ。パワーとトルクはやや向上しているが、正直なところそれは大勢に影響は無いといっていいだろう。ネイキッドならば165.9psもあれば十分だし、まるで巨大なVツインのように豊かなトルクを発生する。
私はこのエンジンフィーリングがとても気に入った。4気筒だからと高回転域を使う必要がなく、4000~8000rpmの中回転域で走っているだけで無敵の感覚になれる。まるで踊るように気軽に走れるのだ。CP4がもたらすトラクションとドライブフィーリングは、このクラスのエンジンでもっとも魅力的で病みつきになる。
1速から3速では、スロットルをあおるだけでフロントが浮き上がるほどのパワフルさもある。クロスプレーンならではの独特なエンジン音とスムーズに作動するクイックシフターのフィーリングは、完璧なスポーツバイクのそれだ。
ネイキッドバイクが200馬力である必要はないことを思い知らせてくれる。
6軸IMUによる電子制御デバイスは「不快感なく、安全に楽しさだけを提供してくれる」
ライディングモードには明らかな差があり、私にはモードBが最適な設定だった。「最もスポーツライディングに向き」とされるモードAは従来型よりも過激さが抑えられているものの、私にはシャープすぎ、試乗している間のほとんどをモードBにしたままだった。モードCとモードDは、市街地や滑りやすい路面状況、または経験の浅いライダー向けだ。
その気になれば簡単にフロントを浮かせられるMT-10だけに、大幅に改善された電子制御デバイスについてもう少し説明しよう。6軸IMUの導入によって、電子制御される部分は増えたが、それは決して楽しさを妨げるものではないし、好みに応じて設定を組み合わせることができる。
たとえばウイリーコントロールをオフにしていても、スライドとトラクションコントロールを有効にしたままにできる。つまり、リヤタイヤのグリップ力はしっかりと確保しておきながら、ウイリーすることが可能だ。また、ウイリーコントロールの設定値を最小にしておけば、フロントを浮き上がらせることはできても、ギヤやスピード、スロットル開度によって変化し、もちろん唐突な挙動はない。
素晴らしいシステムだ。
電子制御デバイスの介入、そして解放も従来型よりもスムーズだ。スペインのホコリっぽい路面では、介入度を弱く設定しておくとリヤをわずかに滑らせながら走ることもできた。それらの作動はファンライドを削がないし、むしろMT-10らしい走りの楽しさを際立たせる。
コーナリングABSもそうだ。新型MT-10の真価を安心して味わうための必須装備ともいえる。ブレーキ面でいえばブレンボ製マスターシリンダーが標準装備となった。2022年後半に導入される上級グレード・MT-10SPではさらにメッシュホースも採用されるそうが、MT-10には備わっていない。
キャリパーもヤマハの4ピストンのままでブレンボ製ではない。制動力は向上し、ブレーキはよりシャープになりはしたが、限界が近づくとやや物足りないのは否めない。このクラスのハイエンドバイクに装備されているブレンボ製最新ブレーキシステムにあるようなダイレクト感に欠けるのだ。
MT-10では前後サスペンションを改良してはいるし、ブリヂストン・S22の標準装備も大きな変化だ。高速道路でのライディングフィールはすばらしく、市街地の荒れた路面でもサスペンションがしなやかに衝撃を吸収してくれる。
ワインディングでは深くバンクさせるコーナーでも安心して駆け抜けることもできた。足まわりの確かさはコーナリングでのグリップ力と安定性をもたらし、電子制御デバイスがそれをサポートする。
初めて走る道路であっても不安を感じることがなく、車重212kgと決して軽くはない車体ゆえのバランスの良さがある。だからこそコーナーの立ち上がりでスロットルをひねり、強大なトルクをかけることもできる。試乗中、9割の場面で不満を感じることはなかった。
だが、すばやく車体を向きを変えて曲がるコーナーや高速域で向きを変えようとするとき、たとえばBMW S1000R(上級グレードのMパッケージは車重194kg)のような俊敏さはない。MT-10の特徴は、優れた走行安定性がもたらす安心感にある。これはホイールベースによるところが大きいのではないか。従来型の1400mmに対して、新型は1405mmとわずかに長くなっている。
それでもMT-09の1430mmよりは短いのだが、これはリヤスプロケットを小さくしたことに起因する。つまりエンジンのパワーフィールを穏やかにし、巡航時のエンジン回転数を抑えるための改良だ。
フロントフォークは、フルボトムまでの残り20%あたりでのソフトさがもう少しあるといいと感じた。そうすればフィードバックがより高くなり、さらに安心感を得られたのではないか。おそらくハンドリングの応答性を上げるためだろう、ヤマハはMT-10のリヤエンドをわずかに高くしたのだろう。それによる荷重変動を補正すべく、フロントフォークのボトム付近をハードなセッティングとなっているのではないか。
一部のライダーは私のように、フロントフォークをソフトなセッティングにしたいと思うかもしれない。
エキゾーストシステムとエアボックスの改良、そして燃料タンク両側にアコースティックサウンドグリルを設けたが、タンク容量は17Lと変更はない。
従来型と同時に乗り比べないとエンジン音がどのくらい変わったかを判断するのは難しいが、ユーロ5適合エンジンとしてはグッドサウンドだし、燃費も改善されたようだ。カタログスペックでは14.7km/Lだが、私の「気合を入れた走り」では13.2km/Lだった。
ヤマハ MT-10(2022年モデル)総合評価
ヤマハは無駄な改良や不要なエンジンパワーの追求をせず、その代わりに弱点を克服してMT-10を大きく進化させた。ブレーキは強力になっているし、とくに6軸IMU採用によって電子制御デバイスは従来型から大幅に進化した結果、MT-10の長所をさらに引き出してくれている。
クロスプレーンエンジン「CP4」は、パワーとトルク、燃費が向上しただけでなく、サウンドも良質になった。バイクを走らせてるときに自然と笑みがこぼれ、それがバイクの評価軸となるならば、MT-10のことを非常に高く評価しなければならない。競合他社と比べても、車両価格はヨーロッパ製のライバルモデルよりも安く、ホンダ CB1000Rと同じくらいだ。だが、CBではヤマハのパフォーマンスには敵わない。
私はMT-10の新しいカラーリングがとても気に入っている。液晶ディスプレイは比較的小さいサイズだが、仕上がりは高品質だ。サスペンションフィーリングはいまひとつではあるが、調整が可能なので何とかなるだろう。従来型同様、新型MT-10も成功することは間違いない。
レポート●アダム・チャイルド 写真●アントプロダクションズ/ヤマハ
まとめ●山下 剛/上野茂岐
■ヤマハ MT-10主要諸元(2022年モデル・ヨーロッパ仕様)
[エンジン・性能]
種類:水冷4ストローク並列4気筒DOHC4バルブ ボア・ストローク:79.0mm×50.9mm 総排気量:998cc 最高出力:122kW<165.9ps>/11500pm 最大トルク:112Nm<11.42kgm>/9500rpm
[寸法・重量]
全長:2100 全幅:800 全高:1165 ホイールベース:1405 シート高:835(各mm) タイヤサイズ:F120/70ZR17 R190/55ZR17 車両重量:212kg 燃料タンク容量:17L
[イギリス仕様価格]
1万3300ポンド(約213万円、2022年3月時点の為替で計算)
■ヤマハ新型MT-10「エンジンの改良ポイント」
新型MT-10では軽量化を追求したアルミ鍛造ピストン、オフセットコンロッド、ダイレクトメッキシリンダーなどを採用し、パフォーマンスを向上。一方、YZF-R1はチタンコンロッドなのに対し、MT-10ではクランクマスを重くするためスチール製コンロッドに。これはMT-10が公道メインのネイキッドモデルであり、中回転域でのトルク感を重視したための変更である。
新型にも上級グレード「MT-10SP」は用意される
これまでのMT-10販売台数のうち、約33%は上級グレードとなるSPモデルだったそうだ。もちろんヤマハは新型MT-10SPを発売予定だ。今回試乗したスタンダードモデルとSPの明確な違いは、6軸IMUとリンクするオーリンズ製電子制御サスペンションだ。3種のセミアクティブモードと3種のマニュアルモードを選択できるという。
そのほかのスタンダードと異なる点としては、ブレーキのコントロール性を高めるメッシュホース、3ピース構造のアンダーカウル、YZF-R1Mをイメージさせるエクステリアだ。ゴールドに輝くオーリンズのフロントフォーク、イエロースプリングのリヤショックが、ヤマハブルーのホイールと組み合わせられ、SP独自のカラーリングとなる。
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みんなのコメント
重さの方が、よっぽど気になると思うけど