かつてない規模の規制 事前の準備は?
text:Masayuki Moriguchi(森口将之)
【画像】東京2020オリンピック 交通規制の様子【高速/一般道路】 全12枚
新型コロナウイルス感染症の影響で1年延期された東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会が始まった。となるとクルマに乗る人にとって気になるのが、道路の交通規制だ。
東京の道路で交通規制が行われることは、珍しいことではない。これまでも外国要人の来日や箱根駅伝、東京マラソンなどで実施してきた。しかし東京2020大会はオリンピックが7月21日から19日間、パラリンピックは8月24日から13日間と、合わせて1か月以上の開催になる。
しかも1964年に開催された前の東京大会と比べると、オリンピックの競技数は20から33と1.5倍以上になったこともあり、都内だけでも会場・施設があちこちに点在。選手をはじめとする関係者が毎日のように縦横無尽に移動することになる。
生まれたときから首都圏でずっと暮らし続けてきている筆者も、ここまで大規模かつ長期間にわたる交通規制が東京で実施された例は記憶にない。とはいえ選手が普通の人に混じって電車・バスに乗るわけにはいかない。
なので多くの交通規制はかなり前から検討され、多くは事前に発表された。筆者も1年半前に、他のメディアで似たようなテーマの記事を書いているほどだ。
そのときの記事を振り返ると、すでに東京2020大会の公式ウェブサイトには大会中の交通マネジメントの説明があり、一般道路では大会前の交通量の10%減、競技会場が集中したり通過交通が多く混雑したりする重点取組地区および首都高速道路は30%減を目指すという記述があった。
首都高速も30%減としたのは、大会関係者の移動ルートに設定したからだ。この発想には賛成だった。自動車専用道路なので安全確実に移動が行えるからだ。
こうした都市高速を持たないロンドンで2012年に開催した大会では、240kmにも及ぶ専用レーンや優先レーンを用意した。首都高速を活用したほうがはるかに効率的だ。
規制初日 問われるメディアの姿勢
2019年夏には本番を想定した実験まで行われた。
首都高速の一部の入口閉鎖や料金所ゲート制限、環状7号線内側の一般道路の通行制限などをしたうえに、企業などに混雑緩和に向けたテレワーク取り組みなどのお願いもした。
しかし当時はコロナ禍前で、多くの企業にとってテレワークなど夢のまた夢。結果は約7%減に留まった。そこで首都高速の料金1000円上乗せが決まった。ショック療法が必要だと感じたのだろう。
トラックやバス、緑ナンバーの営業用車などエッセンシャルワーカーのための車両の料金は据え置き、マイカーなどだけ1000円上乗せとする、より説得力のある内容も、翌年4月には決まっている。一般道路の交通規制も、国立競技場周辺で通行止めなどの措置を取ることは、事前に発表していた。
なので1000円上乗せが始まった初日の7月19日に、並行する一般道路が渋滞している様子をマスコミが数多く報じたことには驚いた。
交通規制の内容はかなり前から公開されている。なのに知らなかった人が多いという論調だった。数年前、大型台風の上陸に備えて首都圏の鉄道が計画運休を発表したとき、スマートフォンを手に持ちつつ「電車止まっていてびっくり」という人が紹介されて話題になったが、日本はその頃から進歩していないようだ。
しかも筆者がよく使う、首都高速4号新宿線が上を通る国道20号線を何度か走った結論を言えば、いつもより空いている日さえあった。渋滞している道路を探し出して騒ぎを大きくし、オリパラ批判につなげようという恣意的な報道であったことは、その後が続いていないことで明らかだ。
車線規制への疑問符 目立たぬステッカー
開催直前に多くの競技が無観客になったので、交通規制は必要ないという主張もある。しかし東京在住の人なら、都内のスポーツ観戦はほとんどの人が公共交通を使うことは知っているはず。
一連の交通規制は関係者の安全確実な移動のためで、もともと観客の有無は関係ない。
このように多くの交通規制には納得している筆者だが、例外もいくつかある。
まずは常磐自動車道など首都高速につながる高速道路の一部で車線規制が行われ、連日大渋滞になっていたことだ。
東名高速道路など車線規制のない高速道路もあるが、そちらで混乱は起こっていない。
渋滞を作るための規制と思えてしまうし、首都高速と違ってエッセンシャルワーカーも影響を受けている。むしろこちらを報道すべきだと思うのだが、東京以外のニュースを伝えても注目度が薄いのか、ほとんど取り上げられていない。
一般道路の中途半端な対応も目についた。専用レーンや優先レーンを示すピンクのラインは開会式前なのに一部がかすれ、塗り直した場所もあった。
関係者用車両は既存の観光バスやタクシーを起用し、識別のステッカーを貼っていたが、ステッカーが驚くほど小さく、瞬時には判断できない。
無観客となったことで、国立競技場など一部の会場はフェンスで覆われている。
そのフェンスは白と深い赤の2トーンにゴールドで「TOKYO 2020」と描かれていて、メッセージが明確だ。このデザインを車両に大きくラッピングすれば、中途半端なピンクのペイントはなくても済んだだろう。
都市交通に関わるデザイナーが担当すれば、はるかにスマートに仕立てたと思うし、実際に好ましい実例を見てきている。交通規制もアーバンデザインのひとつ。これを今の東京のデザイン力と判断されるのは残念だ。
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