フェラーリのラインナップの中でとりわけエレガントなモデルが登場した。その名はローマ。同社曰く“イブニングガウンをまとったF1マシン”と称されるそのデザインとドライブフィール、快適性は、これまでのモデルとは一線を画すものだ。果たして、我々をどんな“甘い生活”に導いてくれるのか。
エレガントで美しく乗り味はフレンドリー
「フェラーリ・ローマ」が主役の特別動画、「日本の新しい甘い生活」とは?
フェラーリの新たな2+2クーペはイタリアの都市名ローマを冠した。その意味するところは、1950~1960年代に花開いたドルチェ・ヴィータの再現。ローマを舞台にした同名の映画の邦題が「甘い生活」とされたことからもわかるように、ドルチェ・ヴィータには人生を気ままに楽しむ自由があることを意味する。フェラーリ・ローマのコンセプトは新ドルチェ・ヴィータ(LA NUOVA DOLCE VITA)であり、イブニングガウンをまとったF1マシンとも表現されている。
スタイリングはエレガントで美しい。資料には1962年のフェラーリ250GTベルリネッタ・ルッソの写真が掲載されていたが、あの頃のクラシックで洗練されたフェラーリのグランドツアラーにインスピレーションされてデザインしたのだという。スポーティネスを優先したモデルではエアベントやSダクトといったモーターレーシング由来のディテールが目をひくが、ローマはその対極で装飾的要素をそぎ落としたミニマリズムが追求されている。とくに惹かれるのがサイドのサーフェイス。キャラクターラインを使わずに滑らかで抑揚に富んだ面構成は、光の陰影でエレガンスを表現。ボディ上部からドアノブあたりまでは膨らんでいくが、前方下部ではネガティブ面、つまり凹んでいくように絞り込まれている。ここは光をあまり反射せずに陰影となり、ポジティブ面の輝きを強調。後方から見ると、フロントタイヤが直進状態にあってもトレッドが見え隠れしているのがユニークだ。
シルエットは伝統的なロングノーズ・ショートデッキ。フロントエンドはシャークノーズとして長さがより強調されている。フロントグリルは、パネルに穿孔を施したようなシンプルなもので、これまたミニマルだが、新鮮なディテールなので目をひく。
長いノーズの中に収まっているのは3.9L V型8気筒ツインターボ。ポルトフィーノと基本は同じユニットだが、ユーロ6dに合わせてGPF(ガソリン・パティキュレート・フィルター)を新採用した。一般的にはパワー&トルクは下がる傾向になってしまうが、最高出力は対ポルトフィーノで20ps増の620ps、最大トルクは760Nmと変わりないが、発生回転数を高回転側に500rpm拡大してパフォーマンスアップを実現している。
その要因のひとつがターボチャージャー速度センサーを用いて緻密な制御としたことで、タービンの回転限界まできっちりと使い切り、ふたつのタービンの等速化を図った。もうひとつが新吸排気バルブリフト特性で、新しいスプリングと軽量な中空バルブの採用でバフリフト量を増大させ、燃焼速度の向上やポンピングロスの低減などを実現している。
エキゾースト・フラップも目新しいアイテムだ。従来型のサイレンサーを廃し、フラップが排気背圧を制御することでサウンドの質を向上させるのが狙い。また、FRフェラーリとしては初の8速DCTが採用されている。
ポルトフィーノと基本構成は近似しているが、ボディシェルとシャシーは完全な新設計で約70%が新しいコンポーネントだという。サイズを比較すると全長は70mm長く、全幅は36mm広がり、全高は17mm下がった。トレッドはフロントが+19mm、リアが+44mm、車両重量は94kg軽い。ダイナミクス性能が大いに向上していることはスペックからも判断できる。
だが、街中を走り始めてみると、スーパーなパフォーマンスを内に秘めていることなんておくびにも出さず、びっくりするほどフレンドリーでジェントルだった。発進では、なめらかにクラッチが繋がり、交通の流れにあわせて速度をあげていくと矢継ぎ早にシフトアップ。驚くことに60km/h台で8速に到達している。1000rpm以下で巡航し、そこから加速させても緩やかならばシフトダウンせずにこなしてしまう。空恐ろしいほどの低回転トルクとレスポンス。ターボラグなんてものは微塵も感じさせない。
一層官能的になったサウンドが心地いい
乗り心地も超が付くほど良好だ。タイヤの硬さを意識させず、路面の凹凸をサスペンションがしなやかに吸収。ゴツゴツ、ガタガタ、ザラザラなど濁音をつけて表現されるような不快な要素はきっちりと排除されていて、しっとりとした潤いを感じる乗り味だ。上質、洗練といった言葉が頭に浮かび、これなら美しいベルリネッタを生活のなかに入れたいという、コテコテのエンスージァスト以外のユーザーにも歓迎されるだろう。快適だからといってフワフワとしているわけではもちろんない。路面からの入力をソフトにいなしながらも車両の姿勢は見事に安定していて、路面が荒れていてタイヤが上下動してもボディは揺るがないフラット感が得られている。
公道でフェラーリのポテンシャルをすべて引き出すことは不可能だが、少しだけアクセルペダルを踏み込んでみる。ゼロ発進で強く加速させるとFRだけにリアタイヤが軋んでパワーのすべてが路面に伝わりきらないが、それでもトラクションコントロールが働く寸前を維持しながら前へ前へと突進。0km/hから完全にクラッチミートするのは2000rpm程度で、そこから猛烈な回転上昇をみせて一気に7500rpmまで。2速上限ですでに日本の公道では試せない領域になってしまうが、そこからシフトアップすると3速6000rpm。8速化でギアレシオが4%ショートになっているので加速が小気味いい。シフトアップ&ダウンともにスピードは23%短縮されているというが、まさに電光石火でシフトそのものがめちゃめちゃに楽しい。
さらに興奮させられたのがサウンドだ。フェラーリがカリフォルニアで初めて直噴化したとき、サウンドはそれまでよりも低く、やや濁った感じになったが、ローマのそれは全域で澄み渡っていて官能的だ。シフトダウン時のファンッ! というブリッピングがこれまでにも増して気持ちいい。
コーナーでの動きはもちろんシャープだ。ステアリングの操舵力は適度に軽いが、インフォメーションはしっかり伝わってくる理想的なもの。FRだから公道のワインディングで、それほど荷重移動を意識しなくても素直な感覚でノーズをいきたい方向に向けるのがたやすく、アクセルを踏み込めばしなやかなサスペンションがリアタイヤを路面に押しつけてくれる安心感がある。E-DiffにSCC(サイドスリップアンドコントロール)、フェラーリ・ダイナミック・エンハンサー(ブレーキ・トルクベクタリング)など統合的な電子制御システムは、あまり制御感をもたらさないままドライビングプレジャーとパフォーマンス、安全性をバランスさせる。今回はそれを存分に試すまでいかなかったが、狙ったコーナリングラインを正確に、速く楽しく、安心感をもって走れたのは確かだった。
マネッティーノは5ポジション。コンフォートやウェットならばちょっと無茶してみても安定しきっている。スポーツなら誰もが楽しめて、スキルがあればレースが最高。さらに、ESC OFFなら完全にイブニングガウンを脱ぎ去ることもできる。
エレガントで美しく、乗り味もフレンドリーな新種のローマだが、真の部分はやはりフェラーリ。マネッティーノを右方向にひねっていってアクセルペダルを踏み込めば、F1を彷彿とさせるスーパースポーツの血が流れていることを思い知ることになるのだ。
【Specification】FERRARI ROMA/フェラーリ・ローマ
■車両本体価格=26,760,000円(税込)
■全長×全幅×全高=4656×1971×1301mm
■ホイールベース=2670mm
■トレッド=前1652、後1679mm
■車両重量=1472kg
■エンジン種類=V8DOHC32V+ターボ
■内径×行程=86.5×82.0mm
■総排気量=3855cc
■圧縮比=9.5
■最高出力=620ps(456kW)/5750~7500rpm
■最大トルク=760Nm(35.7kg-m)/3000-5750rpm
■燃料タンク容量=80L(プレミアム)
■トランスミッション形式=8速DCT
■サスペンション形式=前Wウイッシュボーン/コイル、後マルチリンク/コイル
■ブレーキ=前後Vディスク
■タイヤ(ホイール)=前245/35ZR208(8J)、後285/35ZR20(10J)
お問い合わせ
フェラーリ・ジャパン 03-6890-6200
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