新しい4.0Lユニットで最高出力は436psへ
1969年シーズンの第5戦でポールポジションを掴んだのは、0.7秒差で速かったカルロス・ロイテマン氏。本戦、2台のワイラ・プロネッロ・フォード・クーペが、大きなアドバンテージでレースをリードした。
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ところがロイテマンのマシンは、トラブルでパワーダウン。リタイアに喫してしまう。チームメイトのカルロス・パスカリーニ氏がトップへ交代し、そのまま優勝を勝ち取った。2位は、1周遅れのバウファー・ダッジが掴んでいる。
レース後のインタビューで、パスカリーニは興奮気味に言葉を残した。「マシンは完璧なバランスで、ターンインもブレーキングも素晴らしかった。間違いなく、自分のキャリアで最も重要な勝利になりました」
その後、フォードが複数チームへV8エンジンを提供したという情報を耳にし、ヘリベルト・プロネッロ氏が率いるチームは更にワイラをチューニング。新しい4.0Lユニットに4基のダウンドラフト・ウェーバーキャブレターを載せ、最高出力を436psまで高めた。
それでもライバルは手強く、ワイラが再び勝利することはなかった。ラファエラのオーバルコースでの1勝で、幕引きとなった。
大胆なボディを創出したスポーツ・プロトティポ・アルヘンティーノ・レースではあったが、プロトタイプマシンの開発には大きな予算が求められた。それを捻出できるプライベートチームはほぼ存在せず、参戦車両は20台を越えることはなかった。
加えて、アルゼンチンは社会主義政治へ移行し、貿易も制限された。1973年でレースは終了している。
5年間の丁寧なレストアで見事に復活
とはいえ、アルゼンチンの自動車ファンを大いに湧かせたイベントだったことは間違いない。リカルド・ゼツィオラ氏も、ヘリベルトが生み出したワイラへ魅了された1人だ。
1996年に、彼は別のプロトタイプ、ハルコン・フォード・ツーリスモ・カレテラのレストアへ着手。3年後に完成し、1999年にアルゼンチン最大のクラシックカー・イベント、アウトクラシカで最優秀レストア賞を受賞。ワイラへの想いを一層深めたという。
その5年後、コルドバで1台が放置されているという情報を入手。彼はワイラの開発へ携わり、同じく残存車両を探していたヘリベルトへ連絡。2人は、5年間に及ぶ丁寧なレストアへ着手した。
シャシー番号002には細部まで入念な仕事が施され、2010年に完成。その年のアウトクラシカで、最優秀レストア賞に選ばれた。さらに、サンタフェ州の知事も務めたレーシングドライバーのカルロス・ロイテマン氏へ、ワイラは贈呈されている。
ロイテマンは、436psを発揮するV8エンジンのサウンドへ久しぶりに包まれた。その時、満面の笑みを浮かべたそうだ。
2021年に彼は亡くなり、追悼を兼ねて翌年のアウトクラシカへ出展。その場にいた技術者のセルジオ・リンランド氏とリカルドが話し合い、グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードへのエントリーが決まったそうだ。
グッドウッドで注目の的になったワイラ
果たして、オーシャン・ブルーのワイラは、グッドウッド・フェスティバルで注目の的になった。リカルドにとっては、濡れた路面で走ること自体が新鮮だったという。
その数日前、ワイラはグレートブリテン島の中部にある、ケイツビー・イノベーション・センターへ運ばれた。空力特性を検証するために。
ここは、50年間も放置されていたグレート・セントラル鉄道のトンネルで、幅は8mと広く、長さが2740mもある。ブラバムやザウバーでF1の開発に関わったセルジオの発案により、現在は風洞実験施設へ改修されている。
セルジオも、ワイラが風洞実験を経ていたことを知っており、マシンの地面効果に以前から関心を抱いてきたという。ボディには気圧センサーが取り付けられ、狭いコクピット内にテスト機材が詰め込まれた。
ワイラは、外部からの風の影響を受けないトンネルを全開で疾走。カムテール状のエクステンションを取り付けた状態もテストされた。
「クラシックカーの空力特性を安価に確認できる、素晴らしい場所だと思います。しかも楽しい」。とセルジオが感想を述べる。
「ラジエーターやギアボックス、エンジンを正しい温度で動かせ、外部からの影響もなく、路面は滑らか。驚くほどの再現性で、興味深いデータを収集できましたね」
ヘリベルトの大胆なデザインは有効だった
テストへ同席した、フェラーリで空気力学を専門としてきたウィレム・トエット氏も、感銘を受けた様子。「素晴らしいクルマです。アッパーボディの形状は滑らかで、ディフューザーを備えたフラットなフロアが、最大限のダウンフォースを生んでいます」
ヘリベルトの大胆なデザインは有効だったことが、現代の技術で改めて確認された。
ワイラは英国のアルゼンチン大使館にも招かれ、レッドカーペットの上に飾られた。デモ走行では、凄まじいV8エンジンのサウンドが放たれ、外交官だけでなく大使館周辺の人も驚かせたようだ。
スポーツ・プロトティポ・アルヘンティーノの終了後、技術者のヘリベルは、軍事産業やロボット工学へ携わるようになった。だが、2010年のダカール・アルゼンチン・チリ・ラリーへ出場するマシンの開発にも関わっている。
惜しくも資金不足で活躍には至らなかったが、そこで生み出された3.0Lエンジンのオフロードマシンにもまた、ワイラへ通じる特徴的なプロポーションが与えられていた。
撮影:エマヌエル・ゼベレカキス
協力:リカルド・ゼツィオラ氏、ガブリエル・ド・ムルヴィル氏、ケイツビー・イノベーション・センター
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