現在位置: carview! > ニュース > ニューモデル > 回顧録(6) BMW 2002ターボに試乗 「マルニ」は今でも刺激的

ここから本文です

回顧録(6) BMW 2002ターボに試乗 「マルニ」は今でも刺激的

掲載 更新
回顧録(6) BMW 2002ターボに試乗 「マルニ」は今でも刺激的

もくじ

ーたたずむだけで、滲む「戦意」
ー「TURBO」の文字は悪の象徴?
ー当時のAUTOCARの評価
ー「2速まででほとんどの用は足ります」
ー2002、刺激的な中にも安心感

回顧録(5) ポルシェ911ターボ(930) 当時の評価、いまの感触は?

たたずむだけで、滲む「戦意」

BMW 2002ターボに正面から向き合うと、なにやら落ち着かない気持ちになる。

相手チームの選手を骨折させることを目論み、プロテクターで全身を固めたアイスホッケーの選手を連想させるからだ。

ヘッドライトの冷酷な眼差しが見る者を射抜き、挑発的な空気とともに睨んでくる。オーナーのスチュワート・ローソン氏が自分の1974年型の愛称を「フーリガン」にしているのもうなずける。

BMW 2002は、ディーター・クエスターが1969年のヨーロッパツーリングカー選手権のグループ5で優勝した時の284psの2002TIK(「K」はコンプレッサーを意味する)にその源流がある。

ターボが自動車産業において比較的新しい技術であったにもかかわらず、このドイツ人ドライバーは、2ℓクラスのタイトルを獲得する役に立つと考え、エバスペッヒャー製ターボチャージャーを装備した2002tiで1968年のタイトルを獲得したのである。

1970年代のヨーロッパツーリングカー選手権の新しい規則では、非ホモロゲーション・モデルのターボ車を除外すると定められていたため、294psの2002TIKは、あまり競争力を発揮できないグループ7に参加せざるを得なかったものの、クエスターのクルマに触発され、BMWのアレックス・フォン・ファルケンハウゼンがロードモデルを開発する契機になった。

3年に及ぶ開発期間を経て、2002ターボが1973年にフランクフルト国際モーターショーで発表された。

このクルマは、最先端技術の実用化に長けた高性能車メーカーとしてのBMWのイメージを高めただけでなく、その量産は、2002のターボエンジンのホモロゲーションにも役立ったのだった。

だが、残念ながら、計画通りにはいかない面もあった。

「TURBO」の文字は悪の象徴?

プレスカー(それぞれが、エアスポイラーに逆さ文字で「TURBO」と書かれた有名なステッカーを貼っていた)が公道に持ち出されるや否や、西ドイツ当局が介入したのであった。

ステッカーが、スピードの出し過ぎと乱暴な運転を誘発するというのが理由だった。

BMWは当局の言い分をある程度尊重することにし、ステッカーをディーラーに提供したものの、ディーラーがそれを貼ることは認めなかった。

モータースポーツ規則が変更され(ターボ車が禁止され)た一方、発売が1973年の石油危機とちょうど重なったという不運もある。

原油価格が4倍に高騰したことは、当然であるがガソリンを食う7.4km/ℓの高価な高性能車の販売にも不利に働き、2002ターボの販売台数が伸び悩んだ。

ミュンヘン工場で生産された2002ターボの台数は計画していた2000台を下回る1672台にとどまった。

当局によるわずらわしい介入やモータースポーツとは別に、ターボを装備したことで、2002はRS2000、2000 GTV、そしてトライアンフ・ドロマイトなどと競合していたそれまでの市場セグメントから抜け出し、重厚なポルシェ911ターボと同じ土俵で競争する結果になった。

5800rpmで172psを発揮する当時の金額で£4,221(59万円)のBMWは、最高速度が209km/hに達し、0-96km/h加速がわずか7.3秒だった。

これはポルシェ911ターボよりも速く、ジャガーE-タイプよりも高額だということを意味していたのだ。

AUTOCARは当時次のように記している。

当時のAUTOCARの評価

当時、AUTOCARは「ハンドリングに関して敢えて付け加えるべき点があるとすれば、それはピーキーな出力特性の及ぼす悪影響だ。これでは、長いカーブの出口に向かって加速していると、トルクもみるみるうちに増えていき、ますますライン取りが難しくなってしまう。ついには最悪の状況に陥る……という結果にさえなりかねない」と記述した。

言い換えるならば、ハイパワーゆえの欠点を伴っていたといっていいのではないだろうか。

しかしながら、スチュワート・ローソン氏がイタリアで購入した個体は、AUTOCARが試乗したクルマにふたつのオプション装備を追加したものである。

ここで、FPS製「ボトルトップ」合金ボディがBMWのハンドリング特性に及ぼす効果について長々と講釈するのも一興だが、とにかくそのユニークな5段マニュアルトランスミッションがハンドリングを思いがけずに上手くまとめている。

ギアを多段クロスレシオ化し、出力の段差を緩和したことが、このターボ車のアクセルを全開にした際の荒々しい挙動をなだめるのに役立っていることは間違いない。

ただし、シフトレバーのドッグレッグパターンの操作とゴツゴツした手応えには右手を慣らす必要がある。

「2速までシフトアップすれば変速は簡単ですよ」と親切なローソン氏。

「運転しづらいクルマだとわたしは思いません。このクルマに関する初期の試乗レポートを読むと、悪夢のようなことが書かれていますが、実際はそんなことはありませんよ。確かに、濡れた路面だと、手強いかもしれませんけれど……」。

氏は、空をチラっと見上げ、青空を確認して少し安心したような表情を浮かべていた。

室内を見てみよう。

「2速まででほとんどの用は足ります」

キャビンは、ダッシュボードの上にブースト計とVDO製のメーター類が埋まった真っ赤なフロントパネル、そしてターボ車の左ハンドル仕様だということを除けば、(右ハンドル車のプロトタイプが2台しか生産されなかったのは、KKK製ターボを搭載した結果ステアリングギヤレシオが低くなり、切れ角の大きなZF-Gemmer製のステアリングボックスがオーバーヒートしたことが原因)いかにも1973年型2002ターボらしいルックスとなっている。

「2速まででほとんどの用は足ります。1000rpmから8000rpmの範囲であれば、特に心配事もありませんからね」とアドバイスを受けたものの、6500rpmからレッドゾーンが始まり、アクセルのストロークは短いことにわたし自身、少し不安を覚えた。

 3000rpmでブーストがかかり始め、4000rpmに差しかかった頃には、紛れもないタービン音とともに怒涛の加速に転じる。

タコメーターの針がレッドゾーンを目指すにつれて、回転数、加速、心臓の鼓動が高まり、何もかもがハイになる。燃料噴射式M10エンジンの荒々しい音、豊かなエグゾーストノート、そしてターボの喧噪全てが、ラジオなど、聴くのが申し訳ないという気持ちになる。

ローソン氏の2002が装備しているウォームアンドローラーステアリングも素晴らしい。

遊びはなく、直進性の曖昧さも最小限なため、フィーリングは、ノンパワステのラックアンドピニオン方式に極めて近い。

ハンドルの重さも絶妙。気持ちよく、隅々まで一貫性があり、路面の状況を的確に伝えてくれることは言うまでもない。そのうえBMWの機敏な旋回能力とも見事にマッチしていると感じる。

乗り心地はどうだろう?

2002、刺激的な中にも安心感

改良されているサスペンションは、旋回方向が変わる際にロールし、セミトレーリングアームを架装した素晴らしく気まぐれなリアが楽しさ、いや、ウェットならば恐怖を倍加する。

乗り心地は快適であり、ダンパーの効きも良いものの、185/70VR13タイヤのグリップに妥協は一切見られない。

このおかげで、今回走った、コーナーや高低差の多いソールズベリーの道でも安定感を見せ、扱いやすいと感じた。VDO製のブースト計が躍動した時の加速感は、現代の基準をもってしても刺激的だ。

思わず笑いが込み上げてくる。エンジンの回転数が上がるにつれ、ターボチャージャー搭載シングルオーバーヘッドカムの4気筒エンジンは、レッドゾーンに入っても余裕を失ったり、息切れしたりする感じはない。

しなやかで単純な2002の運転は、冷や汗をもたらし、安全性の限界に挑むといった感じは全くなく、刺激的な中にも安心感がある。

2002をドライブするのは、とても楽しい。刺激に慣れてしまい、感覚が麻痺してしまったドライバーでさえ、気持ちが若返るに違いない。

それはまるで、住宅ローンの金利や、コレステロール値など、人生が『思考の流れを絶えず中断する雑事』になってしまう前の17才の頃の自分をタイムカプセルに詰め、2002がそのままの状態で目の前に突きつけてくれたような体験だった。

こんな記事も読まれています

【初試乗!】さらにスポーティになった「メルセデスAMG GT 63 PRO」はポルシェとのGT対決に終止符を打てるか!?
【初試乗!】さらにスポーティになった「メルセデスAMG GT 63 PRO」はポルシェとのGT対決に終止符を打てるか!?
AutoBild Japan
レクサス新型「FF最大・最上級セダン」世界初公開に大反響! めちゃ“斬新グリル”&一文字ライト採用! “6年ぶり”に内外装刷新の「ES」中国に登場!
レクサス新型「FF最大・最上級セダン」世界初公開に大反響! めちゃ“斬新グリル”&一文字ライト採用! “6年ぶり”に内外装刷新の「ES」中国に登場!
くるまのニュース
20年前の個体なのに走行距離301キロ!? 555台の限定車 BMWアルピナ「ロードスターV8」がオークションに登場 極上車の気になる予想価格とは
20年前の個体なのに走行距離301キロ!? 555台の限定車 BMWアルピナ「ロードスターV8」がオークションに登場 極上車の気になる予想価格とは
VAGUE
完璧なシーズンでも届かない、王者の背中。ノリス「たとえミスがなかったとしてもタイトルを手にできたかどうか……」
完璧なシーズンでも届かない、王者の背中。ノリス「たとえミスがなかったとしてもタイトルを手にできたかどうか……」
motorsport.com 日本版
苦手な「前向き駐車」なぜコンビニで推奨されるのか? 「もちろんやってる」「出る時が怖い…」賛否あり!? バック駐車じゃない理由への反響は?
苦手な「前向き駐車」なぜコンビニで推奨されるのか? 「もちろんやってる」「出る時が怖い…」賛否あり!? バック駐車じゃない理由への反響は?
くるまのニュース
今でも現役! いろんなバイクに採用されています。「SOHC」とは?【バイク用語辞典】
今でも現役! いろんなバイクに採用されています。「SOHC」とは?【バイク用語辞典】
バイクのニュース
ダイハツ『タフト』安全性能向上で仕様変更、138万6000円から
ダイハツ『タフト』安全性能向上で仕様変更、138万6000円から
レスポンス
BMW 2シリーズクーペ【1分で読める輸入車解説/2024年最新版】
BMW 2シリーズクーペ【1分で読める輸入車解説/2024年最新版】
Webモーターマガジン
レクサスの末っ子LBXに、次世代モダンインテリア空間を表現したElegantが新登場
レクサスの末っ子LBXに、次世代モダンインテリア空間を表現したElegantが新登場
カー・アンド・ドライバー
荷台が“伸びる”ダイハツ「斬新軽トラ」登場! “画期的”発想の「超ロングボディ仕様」がスゴい! まさかの「実車化」果たした衝撃のモデルでWRCをサポート
荷台が“伸びる”ダイハツ「斬新軽トラ」登場! “画期的”発想の「超ロングボディ仕様」がスゴい! まさかの「実車化」果たした衝撃のモデルでWRCをサポート
くるまのニュース
新車で買える!? トヨタ「シエンタ“SUV”」がスゴイ! 5人乗り仕様もある「小型SUVミニバン」が台湾で人気すぎるワケとは
新車で買える!? トヨタ「シエンタ“SUV”」がスゴイ! 5人乗り仕様もある「小型SUVミニバン」が台湾で人気すぎるワケとは
くるまのニュース
「トイレに行きたいのですが…駐めちゃダメ?」 高速にある「謎のバス停」 SNSでは「一般車が進入していた」の声も どんなルールなの?
「トイレに行きたいのですが…駐めちゃダメ?」 高速にある「謎のバス停」 SNSでは「一般車が進入していた」の声も どんなルールなの?
くるまのニュース
運賃交渉すれば“村八分”にされる? 荷主を過剰に気遣う中小運送の社長たち、本当に守るべきは誰なのか?
運賃交渉すれば“村八分”にされる? 荷主を過剰に気遣う中小運送の社長たち、本当に守るべきは誰なのか?
Merkmal
ホンダ「ADV160」【いま新車で買える! 冒険バイク図鑑】
ホンダ「ADV160」【いま新車で買える! 冒険バイク図鑑】
webオートバイ
いやこれは凄いわ……[EV]の歴史に残る一台が韓国から出ている件
いやこれは凄いわ……[EV]の歴史に残る一台が韓国から出ている件
ベストカーWeb
軽自動車ってのが凄すぎる…! 世界に誇れる自動車と言えば[スズキ ジムニー]でしょ! 
軽自動車ってのが凄すぎる…! 世界に誇れる自動車と言えば[スズキ ジムニー]でしょ! 
ベストカーWeb
レッドブル&HRC密着:突貫工事でリヤウイングを修正。マシン性能を出し切っての予選5番手にフェルスタッペンも満足
レッドブル&HRC密着:突貫工事でリヤウイングを修正。マシン性能を出し切っての予選5番手にフェルスタッペンも満足
AUTOSPORT web
ポールのラッセル「壁に接触、望みが消えたかと思った」マシンの速さについては「理由が分からない」/F1第22戦
ポールのラッセル「壁に接触、望みが消えたかと思った」マシンの速さについては「理由が分からない」/F1第22戦
AUTOSPORT web

みんなのコメント

この記事にはまだコメントがありません。
この記事に対するあなたの意見や感想を投稿しませんか?

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村