毎年、さまざまな新車が華々しくデビューを飾るその影で、ひっそりと姿を消す車もある。
時代の先を行き過ぎた車、当初は好調だったものの、市場の変化でユーザーの支持を失った車など、消えゆく車の事情はさまざま。
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しかし、こうした生産終了車の果敢なチャレンジのうえに、現在の成功したモデルの数々があるといっても過言ではありません。
訳あって生産終了したモデルの数々を振り返る本企画、今回はトヨタ スプリンターマリノ(1992-1998)をご紹介します。
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文:伊達軍曹/写真:TOYOTA
■7代目スプリンターから生まれた4ドア・ハードトップのスポーティセダン
1985年発売の初代トヨタ カリーナEDをきっかけに生まれた、「背の低い4ドアハードトップ」ブーム。そのブームの比較的終盤に近い1992年に同門のトヨタから登場したものの、時代の移り変わり=RVブームの勃興により販売は低迷。
そして一度もフルモデルチェンジされることなく消えていった、今にして思うとなかなかスタイリッシュな4ドア車。
それが、トヨタ スプリンターマリノです。
カリーナED(1985-1998)に続くトヨタの4ドアハードトップ車として、1992年、カローラセレスとともに送り出されたスプリンターマリノ
ピラーレス4ドアハードトップ車のブームを作り上げたカリーナEDは、セリカの車台を使って作られた派生モデルでした。
それに対してこちらスプリンターマリノおよびカローラセレスの兄弟車は、それよりひと回り小さなカローラ系の車台が使われています。
ちなみにスプリンターマリノはトヨタオート店扱いで、カローラセレスはカローラ店扱いのモデル。
両者の違いはフロントまわりとテールレンズのデザインだけでしたが、「スプリンター」のほうが若々しいブランドイメージがあったからでしょうか、当時の若い世代にはスプリンターマリノのほうが人気だったと記憶しています。
カリーナEDがセリカのシャシーを使用したのに対し、セレス・マリノはカローラのそれを使用。セレスとの違いはフロントとリアの若干のデザインに留まる
搭載エンジンは1.5Lおよび1.6Lのハイメカツインカムと、スポーティな1.6L 20バルブエンジンである「4A-GE型」の3種類。
トランスミッションはすべてのグレードに4速ATと5MTが用意され、1997年6月以降の4A-GE搭載グレードのみMTが6速タイプに進化しました。
スプリンターマリノはスポーティなフォルムの車でしたが、決して「スポーツカー」または「スポーティカー」ではありません。
そのため、その走行性能やフィールに特筆すべき部分はないのですが、だからと言って「走りがイマイチだった」というわけでもありません。
当時のスプリンタートレノに近いニュアンスの軽快な走りを普通に堪能できる、普通にまあまあ優秀な4ドアハードトップ車だったのです。
しかし勃興し始めたRVブームに押されたスプリンターマリノの販売は低迷が続き、1995年に本家のスプリンター/カローラはフルモデルチェンジされたのですが、マリノ/セレスのほうはモデルチェンジをさせてもらえませんでした。
そのため1995年以降のマリノ/セレスは「エンジンとトランスミッション、サスペンションなどを新型のそれに置き換える」というやり方でお茶を濁しながら販売を続けたのですが、4ドアハードトップというジャンルの凋落は如何ともし難く、1998年10月には販売終了となってしまいました。
■2代目パジェロの出現によって変わった「カッコよさ」の定義
トヨタ スプリンターマリノが1代限りで生産終了となった理由。
それは、カリーナEDが絶版となった理由を考察した回でも申し上げましたが、自動車における「カッコいいの基準」が1990年代前半頃、大きく変わったからです。
トヨタにとって初のコンパクトクラスでのハードトップモデルとなったマリノ・セレス。その低い全高を活かし、当時人気だったレース全日本ツーリングカー選手権(JTCC)にも参戦
初代カリーナEDが登場した1980年代半ばや、カリーナEDの亜流が各社から続々登場した1990年頃(つまりバブル崩壊の頃)までは、一般的な男衆にとってカッコいいと思える車は「背が低くて速そうなやつ」でした。
流線型の車でビュンビュン走ること。そしてそれを可能にするドラテクを有していることが、「カッコいい男の条件」だったのです。
しかし1991年に2代目の三菱パジェロが登場したあたりから世の中の風向きは変わりました。
背が低い車で華麗なドラテクを披露するのはどこかオタクくさくてカッコ悪い。それよりも、日焼けした身体でパジェロとかに乗って、家族や恋人とキャンプ場などまでゆったり走る。
そして薪で上手に火を起こし、肉をおいしく焼ける男のほうがカッコいいよね――的な変化が生じたのです。
そして1990年代も半ばになると世の中のRV志向はより強まっていきましたので、そうなると「背が低くて、なおかつカローラ系の車台ゆえ小さいから、多人数は乗りづらい」というスプリンターマリノやカローラセレスの出る幕はありませんでした。
4ドアハードトップがウケた理由が、居住性を犠牲にしてでも全高を抑えたことで得たスタリッシュさであったなら、勃興したRVのウケた理由の一つとして、その居住性の良さが上げられるだろう。ユーザーが「使い勝手」に目を向けた時点で、4ドアハードトップの終焉は必然だったのかもしれない
このような流れでスプリンターマリノの販売は生産終了となったわけですが、当時ボロクソに言われていたほどには、スプリンターマリノは悪い車ではなかったと考えます。
前述のとおり、2ドアクーペであった当時のスプリンタートレノに近いニュアンスでまあまあ気持ちよく走れましたし、「それでいてドアはいちおう4枚付いてる」というのは、ある種の人にとってはドンピシャだったでしょう。
また当時の評論家から居住性の悪さについて酷評されましたが、居住性に関する感じ方なんてのは「人それぞれ」です。
正統派セダンと比べるなら、確かにマリノ/セレスの背の低さは致命的です。しかし4ドア車を選ぶ人間のすべてが「常に後席に人を乗せている」というわけではありません。
「後席はたまにしか使わない。でもやっぱり2ドアより4ドアを買いたいな」という人だっていたはずです。
そういった人々にとっては、当時の評論家の意見はひたすらナンセンスに聴こえたことでしょう。
とはいえ自動車メーカーは趣味ではなくビジネスとして車を作っていますので、売れなかった車=会社に利益をもたらすことができなかった車種について今さら何を言ったところで、寝言か言い訳にしかなりません。
スプリンターマリノが不人気のため生産終了となってから十数年後、ご承知のとおりヨーロッパでは皮肉にも「背が低めな4ドアクーペ」の大ブームが起こりました。しかし「それはそれ、これはこれ」ということで、スプリンターマリノとはあまり(ほとんど)関係ないのでしょう。
■トヨタ スプリンターマリノ 主要諸元
・全長×全幅×全高:4385mm×1695mm×1310mm
・ホイールベース:2465mm
・車重:1100kg
・エンジン:直列4気筒DOHC、1587cc
・最高出力:160ps/7400rpm
・最大トルク:16.5kg-m/5200rpm
・燃費:12.2km/L(10・15 モード)
・価格:176万円(1992年式Gタイプ 5MT)
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